「混頓vol.6」|若月佑美インタビュー

AOI Pro.コント公演「混頓vol.6」が6月20日(金)から22日(日)までTOKYO FMホールにて上演される。本作は2本立ての新作オムニバスコント形式でお届けする公演で、今回の脚本・演出はかもめんたるの岩崎う大、そして金川慎一郎の2人が手掛ける。キャストには、若月佑美、富田望生、高橋健介、ラランドのニシダと個性的な4人が名を連ねた。コント初挑戦となる若月は、どのような想いで本作に臨むのか。話を聞いた。

――コントに挑戦されることになりましたが、出演が決まった時はどのようなお気持ちでしたか?

不安でしたね。アイドルをやっていた時にコントに挑戦させていただいたことはあったんですが、ファンの方ならわかってもらえる、みたいな内輪ネタが多かったので、今回のような1からオリジナルコントをやるのは初めてなんです。コントって、センスですよね。コメディの舞台をさせていただいた時、台本では面白かったのに、音になった途端につまらなく感じたことが結構あったんです。監督や脚本家さんが書いたものが面白いのに、自分がやってしまうと、お客さんは笑えずに受け取ってしまう。笑いにはそういうことがあって、計算されてできているんだと気付かされました。果たして自分にコントができるのか、というのが正直な気持ちでした。

でも、普段の自分ならできないことを100%でやれるのは、すごく楽しいですね。コントではキャラクターをわかりやすく立ててお客さんに観ていただく部分がとても大きいので、普段のお芝居ではやりすぎになってしまうことも、100%の感情でオーバーにやれるんです。そこが面白さや役のキャラクターになっていくので、そこはすごくいい経験をさせていただいています。以前、福田雄一さんのコメディ作品に出させていただいた時に、100%で振り切った方がいいと言っていただいたんです。笑ってもらおうとして、おバカさんになろうとして演じてもダメなんですよ。100%の全力でやりきると、それが滑稽に見えて面白いんだよ、と教えていただいた時に、自分の中でのコメディへの不安が溶けたような気がします。

――チャレンジしてみて、コントやコメディの面白さで気付いたことなどはありますか。

単純なことって意外と面白いんだな、ということに気付きました。変なキャラクターを作ろうとかしなくても、声がバカでかいとか、動きが大きいとか、すごい早口とか、そういう単純な面白さが、もしかしたら一番面白いのかも?ということは、この現場で教えてもらったことのような気がします。高橋健介くんが大きい声のキャラクターになってきているんですけど、本読みの時は別にそういうキャラじゃなかったんですよ。それが”大きい声”っていう演出がついて、そしたら途端に普通の言葉でも面白く聞こえだすんです。まさにマジックがかかって、スゴイなって思っています。

――今回は2本立てで、岩崎う大さんと金川慎一郎さんの脚本ですが、台本を読まれた印象は?

まずキャスト4人は同じメンツなんですけど、2本の色が全然違うんですよ。そこに驚きがありましたし、ちゃんと”混沌”としているな、って思いました(笑)。でもどちらもちゃんと時代を反映しているし、笑いもできるんだけど、考えさせられるところもあるのが、すごくいいんですよね。世間では触れないほうがいいんじゃないかとされているセンシティブな部分を、あえて笑いに振っていくところがカッコいいし、演劇だからこそできる面白さですよね。フィクションとしての言葉として発することで、お客さんも笑っていいんだな、と思えるようなところがあるので、そこを自分たちが体現できるようにしていかないといけないなと思っています。

――岩崎う大さんの脚本「ホームパーティーは裁きのテラス」は、ルッキズムがテーマのひとつになっています。アイドルグループで活動されていた時は、どうしても他の子と比べてしまうとか、本来感じなくていいようなコンプレックスを抱くようなこともあったのではないかと思いますがいかがですか。

めちゃくちゃコンプレックスだらけになりましたね(笑)。自分自身で気付かなかったところを、良くも悪くも気付かせてくれるというか。私、こういうクセがあるのか、これってこう映るんだ、みたいな。そういうことを教えてもらう機会にはなっていたと思います。私が居たアイドルという世界では、やっぱり若くあろうとする自分がいて…それは、世間的に若い子のほうがいいって言う部分もあるかもしれないけど、どちらかというと「若い子と一緒に活動するから」でしたね。12~3歳と25歳が一緒のステージで同じ衣装を着て踊るので、いい意味で馴染めないといけないと思っていたんです。 

――ルッキズムや比べてしまうことで生まれたネガティブな気持ちに、どのように折り合いをつけていらっしゃいましたか?

ルッキズムに限らず、究極まで悩みすぎたらもう「どうせいつか死ぬしなぁ」です(笑)。これがマックス。そういう究極を持っておくと、チャレンジすることも怖くなくなるし、悩みすぎない。もちろん、その時、その時で向き合って解決策を出していくことはもちろんなんですけど、究極まで考えちゃえばポジティブになれちゃうんですよね。極論だよ、とも言われるんですけど、それで丸め込めちゃうならネガティブになるよりいいですし。アイドルを卒業してから、美容ジャンルやファッション誌のお仕事をさせていただくようになって、年齢を楽しむ感覚にもなれました。美容のお話を聞いていて、下手にシワやシミを直していくんじゃなくて、それが魅力的に映るようなメイクをするべきだと教えていただいて、美容や見た目の考え方も変わったんです。

――もう1本の金川慎一郎さん脚本の「芸能人」では、芸能界に身を置く若月さんにはリアリティを感じるようなコントになっているのでは?

稽古中もなんかメタな感じになっていて、面白いんですよ。今は世の中にもコンプライアンスっていう言葉は知れ渡っているんですけど、なかなか裏側のことを言える機会ってないんですよね。これだけのことになっているのには、実はちゃんと理由があるし、そこをあえて笑いにして伝えることで、もしかしたらお客さんの中でもエンタメの見方が変わったり、理解してもらえたりするかも?という期待もあります。みんなが心に思っているけど、言えないことだと思うので。コンプラを気にしすぎることが逆にコンプラみたいな、追いかけっこをしているような感覚なんです。そういう限られた中でいい作品を作っていくって大変なんだよ、と思いつつ、それを客観的に見たら面白いんですよ。ただ、セリフとかは結構、ツッコまれることがあるだろうなとも思うので(笑)、リアルとフェイクのいい狭間を狙っていけたらいいですね。

――う大さんや金川さんの演出はいかがですか。

う大さんは、演劇としてすごく向き合ってくれている感覚です。1つ1つのセリフに対して、どういう気持ちがあってこのセリフを書いているのか、この後どこにかかってくる言葉なのかをちゃんと教えてくださるんです。感情がちゃんと乗っていないと伝わらないところもたくさんあるので、そのあたりに関してはすごく繊細ですね。「はい」の言い方ひとつでも、ちょっと意思が強そうに聞こえるから、もっと意思がない感じのトーンにした方がいいとか、台本でなぜこの位置に句読点を打っているのかとか、すごく細かく演出してくださるんです。繊細に教えてくださるからこそ、そこに応えたいですね。

金川さんは、まず台本を読んでなんてうまくできているんだろうって思ったんですよ。これがこうなって、ここにつながって…っていう、小説を読んでいるくらいの伏線回収がされているんですね。そういう台本がしっかりお客さんに伝わった方がもう200%面白いはずだから、そこが流れちゃわないようにしたいと思っているんです。その上で、金川さんのコントは、キャラクターを立てたりすることで面白くしていく部分も大きいので、こちらから提案したりすることも多くて、そういう意味では、一緒に作っている感覚が大きいですね。こういう動きはどうでしょう、こんなキャラだとどうですか?ってお話合いをしながら作っている感覚がすごく楽しいです。

――共演の皆さんの印象についてもお聞かせください。

高橋健介さんと富田望生さんは以前にご一緒したことがあって、割とお人柄とかも知っているんです。富田さんからは、お芝居の繊細さみたいな部分をすごく教えてもらっていて、今回の混頓の中でも、ただ面白いというだけでは終わらないようなお芝居の部分での軸をすごく担ってくれていると思っています。高橋くんは本当にキャラクターを振り切ることができるセンスがある人。いい塩梅なんだけどキャラクターが面白いというところまで行けちゃっている感じが、すごく今回のお芝居にぴったりなんですよね。そういう振り切り方や探求心はすごく勉強になっています。ラランドのニシダさんも、私の友達が一緒に番組をやったりしていて、すごくお優しいんですよ。同い年なので、そういうところでも親近感もあるんです。やっぱりお笑いのプロなので、ニシダさんが全部受け止めてくださるんですよ。ニシダさんが言ってお客さんが笑うまでがセットになっているので、そこが本当にさすがですね。本読みのときから、台本にも書いてあるんですけど、それ以外のところでもツッコんでくださったりして、それでまた笑いが増えているので、そういう部分はニシダさんがいないと成り立たなかったところだと思います。まだ稽古は少ない時間ではあるんですけど、結構みんなで話をちゃんとできているので、この4人でしか入り込めない感じをちゃんと本番でも出していきたいですね。

――稽古も忙しい時期かと思いますが、そういう時でも大事にしている時間や気分転換になるような好きな過ごし方は?

ジャンクフードですね。

――ジャンクフード! 意外な気がします。

そうですか? 最近はジャンクフードを食べる日を週1回くらい入れようと思っているんですよ。今日も、この後はハンバーガーを食べに行くつもりです(笑)

――昔からお好きだったんですか?

アイドルを辞めるまでは食べてなかったですね。グループに入る前は食べてたと思うんですけど、入ってからはカップ麺やスナック菓子、ハンバーガーやラーメンなどは、ほぼ食べていなかったです。何かの企画でいただくことはありましたけど、プライベートではほぼ無かったですね。でも、1回やりたかったことを全部やろう!と思ったんですよ。アイドルの時は17歳の時に来ていた衣装を24歳でも着なくちゃいけないので、体型が変わってしまわないように気を付けていたんですが、今は俳優業やモデル業でも今の体型に合わせて衣装も用意していただけるので、1回食べたかったものを食べよう!と思って。そこからラーメンとかも食べるようになりました。

食べ物だけじゃなくて、髪型も、髪色とかもですね。俳優業の兼ね合いで制約はあるんですけど、大丈夫な時期ならやってみよう、って感じです。最近も、髪色を赤くしていたりしたんですよ。衣装やファッションも”今の自分”に合った衣装だけじゃなくて、着てみたいものを着るとか。

――ちょうど1年半前にも別の機会でお話を聞かせていただいたんですが、その時はファッションでも黒とかちょっとクールな格好が好きになっているとお話されていましたね。

そうだったかも! でも最近は逆にそういうこだわりがなくなりました。昔は、すべてにおいて”多分、かわいい方がいいのかな?”っていう選択だったんです。そこからカッコいい自分を貫きたくなって、今はそこから、着たいものを着るとか、着てほしいものを着るとか、すごく自由に、臨機応変になりました。その方が楽だし、楽しいんですよね。

――服装も食べ物も、どんどん自分らしいセレクトになっていったんですね。久しぶりに食べたときのジャンクフードはどうでしたか?

もうワクワクでしたし、こんなに美味しかった?って感じでした。あと25歳を超えてからなのか、ジャンクフードを食べても食べなくても、そんなに体型が変わらないことを発見しました。あんまり体重が変わらないので、アイドルの頃も食べてよかったな、と…(笑)

――きっとアイドル時代のストイックなコントロールがあったからこそ、今も自然とジャンクフードを食べても体重の変動をしないようになっているんじゃないかと思います。

確かに、昨日はあれくらい食べたから、今日はこれくらいにしよう、とかは考えるかも。だからか、ある一定の体重になっても、それ以上にはならないですね。

――たまにジャンクで美味しいものを食べつつ、稽古や本番も頑張ってください! 今回はコントへの挑戦でしたが、今後チャレンジしてみたいことは?

人の役に立ちたいです。人の夢を応援するのも好きなので、プロデュース業はやってみたいなと思っています。あとは、最近バイクの免許も取ったので、車やバイク関係のお仕事もやってみたいですね。もともと車やバイクが好きだったんですけど、例えば部品のこととか車の歴史とかを語れるわけでもないので、私の中で好きだと語れるレベルに達していないんじゃないかと思っていたんですよ。やっぱりこの世界って、ピアノをやっている子でも世界レベルの人がいるからピアノが弾けますって言ってないとか、ダンスをやってるけどもっとすごい人がいるから言えてないっていう子がたくさんいるんですよ。でも今は、好きなんだからちゃんと言葉に出して言おうと思っています。好きの形に良いも悪いもないな、って。だから今後は、バイクと車が好きです!ってちゃんと言って、それを共有できるようにしたいです。詳しい方にも教えていただきたいですね。

――最後に、公演をたのしみにしているみなさんにメッセージをお願いします!

不思議な気持ちで帰ってもらえたら嬉しいな。演劇を観たような、でもコントで、お笑いの面白いところを見たような…。音楽もとても凝ってますし、きっといろいろな気持ちがぐるぐるして、不思議な空間に行けたような気持ちになってもらえるはず。もちろん大前提として、ハッピーな気持ちになれます! コントなので、やっぱりお笑いとして気軽な気持ちで来ていただきたいですけど、たぶん持ち帰っていただけるものはたくさんありますよ、とお伝えしたいです。あと幕間には、友近さんが企画・プロデュース・出演している幕間コントドラマ『スナック由紀子』が流れたり、本当に盛りだくさんなので、楽しみにいらしてください!

取材・文:宮崎新之