
TBS赤坂ACTシアターにてロングラン上演4年目を迎える舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。ついに総観客数120万人を突破した東京公演で、2025年7月から新4年目キャストとしてエイモス・ディゴリー/アルバス・ダンブルドア/セブルス・スネイプの3役を演じる市村正親のインタビューが到着した。
――お稽古が始まりましたが、今のご感想は?
自分が稽古に入って1週間ぐらいですが、やるべきことの量が多くて大変です。若いキャストを見ていると既に台本を手放していて、すごいスピードで進んでいるなと実感します。これからしっかり交流して、台詞のキャッチボールを深めていきたい。台詞を相手に投げる、また自分がキャッチする大切さを伝えていきたいなと思います。(稲垣)吾郎ちゃんとやると会話でしっかりキャッチボールができるので、とってもやりやすいんです。相手の台詞をちゃんと聞いてやってくれるからね。
――市村さんがこうして3役をおやりになるのは珍しいのでは?
3役どころか、プロローグではトランクを押していますよ。初演の『イエス・キリスト=スーパースター』でも僕はヘロデだけじゃなくアンサンブルもやっていたから、慣れています。以前、一人芝居『クリスマスキャロル』では54役もやったしね。今回は4役、4本の芝居に出ている感じです。

――ダンブルドアはどんな人物だとお考えですか?
映画「ファンタスティック・ビースト」では若い頃のダンブルドアが出てきますが、愛を持っていながら、自分が誰かを愛すると害を及ぼしてしまうとわかっている人物です。ハリーに対しても、傷つけたくない、守りたいと思っているけれど、彼の運命も知っている。本当に複雑な役ですよね。僕がダンブルドアで一番好きな台詞は「愛情で目が見えなくなってはいけない」。親としてはグッときますよね。
その意味で言うと、ダンブルドアはハリーの全てを知っていて、そっけない態度をとってきた。ハリーは「僕はあいつと三回対決したが、三回ともあなたは居なかった」とダンブルドアに言います。つまりヴォルデモートとの戦いで助けてくれなかったじゃないか、と。でも僕が思うに助けなかったんじゃなくて、入る隙間がなかったのではないかと。だってヴォルデモートとハリーには同じ血が流れていて、ヴォルデモートをやっつける、イコール、ハリーを殺さざるを得ないとなる可能性も?
ダンブルドアは「この感情の渦巻く乱雑な世界には、完璧な答えはない」とも言っています。魔法を使っても手が届かない、方法はないということなのでしょう。

――ではエイモス・ディゴリーはどんな人物ですか?
エイモス・ディゴリーは息子セドリックを三大魔法学校対抗試合でヴォルデモートに殺されています。つまり一見可哀想なお父さん。「スペアを殺せ」と、大切にしていた自分の息子をハリーのスペア、代替え品扱いにされて殺されたことに怒り、どうにか取り戻したいとハリーに掛け合うわけですが。妻も亡くなり、自分も施設に入っているのでしょう。年老いて寂しい身の上で、一縷の望みをタイムターナーにかける。とてもやり甲斐のある役です。
――そしてもう一役のスネイプは?
自分の本心を決して表に出さない人だと思います。原作によるとスネイプの服には25個のボタンがついていて、そのボタンを一つずつ留めることで、自分を封じ込めていたのだとか。映画では名優アラン・リックマンが演じていましたね。僕、『按針と家康』でロンドンに行った時、アントニー・シャーと観に来られたリックマンさんとロビーでお話ししたことがあったんですよ。アラン・リックマンに会ったスネイプ役者は初めてだと、外国人スタッフに言われました。
――それは貴重な体験でしたね
はい。うちの下の子がスネイプが大好きで、ありとあらゆる情報をスマホで検索して教えてくれます(笑)。うちには魔法の杖が、この間数えたら40本近くありました。骨でできているヴォルデモートの杖が2本ありましたから。下の子が自分で作った杖もありました。どれか1本貸して!ってお願いしています(笑)。
――テーマ的なところで、市村さんに刺さる部分は?
子育てにおける親の愛ですね。ハリーの息子アルバスに対する愛、エイモス・ディゴリーから息子セドリックへの愛、ダンブルドアのハリーに対する愛。最後、紆余曲折を経て、ハリーとアルバスは自然な親子にちょっとは戻れたかな?という感じ。愛があっても物事は単純にはいかないもので、「苦しむということは、呼吸するのと同じぐらい人間的なこと。若いうちは苦しむのは当たり前」とダンブルドアも言っています。彼の台詞は深いから、皆さんが生きるヒントになるのではないでしょうか。

――ここ3年くらい、市村さんの出演作はミュージカルが多かったので、ストレートプレイは新鮮なのでは?
うーん。この後に来る音楽劇『エノケン』は芝居が多い作品になる予定です。『呪いの子』は歌はないけれども、ストレートプレイという感覚は僕には薄いかな。ちょっと違う、いわばイリュージョンストレートプレイみたいな?
――今年3月『屋根の上のヴァイオリン弾き』では見事なテヴィエを演じられて、大評判でした
おかげさまでたくさんお褒めの言葉をいただきました。ずいぶん台詞を変えたんですよ。森繁久彌さんの映像をまた観て、少しユダヤ色を足してみたり。巡査に賄賂を渡すみたいなシーンを、今回のために作ったりもしました。肉屋のラザールとのシーンも、作り直して。元の作品がいいからどんどん深みに入っていけるんです。
日本の場合はロングランと違って、再演を繰り返すでしょう?歌舞伎もそうだけど、長い年月をかけて繰り返し上演し、重ねていくことで作品は深まっていくんです。『屋根の上のヴァイオリン弾き』は21年目8演目だから、既に僕の血肉となっていて、肉体どこを押してもテヴィエなんですよ。今の時点で僕の血肉となっているのは、テヴィエ、ザザ、スクルージ、ファントム、スウィーニー・トッド。卒業したエンジニアも。そう思うと、良い作品は、続けることに意味があると思います。『呪いの子』もロングランを重ねて、発展していくといいですね。

――ここで質問です。もし市村さんがホグワーツに入学したら、どの寮に組み分けされると思いますか?
うーん、どこだろうね?スリザリンはお父さんもお母さんも魔法使いという純血が多かったりするのかな?うちは母も父もA型で僕もA、その意味ではスリザリン(笑)。緑色は僕のラッキーカラーだし、合っていると思います。
――最後にお客様へのメッセージをお願いします
まさか僕がハリー・ポッターに出るなんて!と驚いている方が多いみたいですね。娘や息子がハリー・ポッターのファンで、市村さんが出るならこれをきっかけに一緒に観に行きます、という声もたくさんいただいています。この有名な作品で良い役を3役もできるなんて、こんなに光栄なことはありません。それぞれの役、それぞれの生き方を僕の身体を通して表現しますので、ぜひお楽しみに!

取材・文/三浦真紀
撮影/渡部孝弘