
写真左から)古谷大和、定本楓馬
昭和の犯罪史に残る「グリコ・森永事件」を題材に、劇作家・野木萌葱が書き下ろしたオリジナル作品である舞台『怪人21面相』が、初演の劇団「パラドックス定数」版、和田憲明氏演出による「ウォーキング・スタッフプロデュース」版を経て、意欲あふれる“令和版”として動き出した。作品に新たな命を吹き込んでくれるであろう演出の古谷大和、そして4人のキャストを代表して定本楓馬が本日顔合わせ。挑みがいのある本作について、今抱く演劇への思いと決意とは──
演劇体験の扉を開き続けていきたい
──古谷さんは近年神戸セーラーボーイズとのコラボレーションで演出を務められていますが、小劇場系のストレートプレイ作品の演出は今回が初。ちょっと意外な取り合わせにワクワクしています
古谷 実は最初の最初はコメディ作品をやろうという話もあったんです。ただプロデューサーさんといろいろお話しするうちに「でも大和だったらコメディはできちゃうだろうな」と。それは僕自身が思っているわけでは全然ないんですけど、でもそう言ったある種の評価をいただいて嬉しい気持ちもあったし、「せっかく演出家としての新しい試みなら大和が難しいと思うもの、やったことないようなテイストに挑戦することに意味があるんじゃない?」とも言ってもらって。それは、常に新しいものを作り出してるネルケプランニングさんとしてもここでまた新しい演劇をやろう、新しいものを見せたいんだという思いがあるんだな、そしてきっと僕に対しても同じ思いなんだろうなと感じ、じゃあそこにも応えたいっていう気持ちで「わかりました、やりましょう、この作品で」となりました。4人芝居で、このキャストさんでやろうと思うんだというところから…楓馬くんの名前ももちろんそこにあって、で、これだけの面々がこの作品をやる場合、何を舞台で生み出していくのかということとかを制作さんともたくさんたくさん話をして今に至る、という感じですね。
──舞台『怪人21面相』。実際に起きた事件を題材にした社会派のセリフ劇です
古谷 最初はやっぱり面食らいましたよ、「なんだ、この脚本は!」って。読売演劇大賞優秀作品賞も受賞している作品ですし、この作品を今この時代にやる意味とか、僕が演出する意味もすごく考えました。事件についても名称くらいしか知らなくて、改めてこんなことが日本でも起きていたのか、と衝撃を受けています。
──定本さんは出演オファーの際、どんな印象を受けましたか?
定本 最初に「こういう作品があるんだけどどう?」ってあらすじをいただいて、まずそのあらすじだけで引き込まれるものがありましたし、実際台本を読んでみて…さらにいい意味で訳がわからなくなってしまった(笑)。
古谷 うん。難しいよね。
定本 はい。でもその中にたぶん観た人たちだけが感じる「何か」があるんだろうなっていうのはすごくわかったので、役者としてその「何か」を見つけていきたいって純粋に思いましたし、これをやるのはすごく楽しみだと思ったんです。また、大和さんが演出だということを聞いて、すごく「受けてみたい」って…ほんとにシンプルに、どんな演出をしてくださるんだろうって興味でいっぱいです。いつもの役者と役者としてではなく、役者と演出家というかたちで一緒に作品作りができる。難しい課題もたくさんあると思いますが、強く「挑戦してみたい」という気持ちになりました。
──登場人物は事件を操っていく男性4人。河合龍之介さん、章平さん、輝馬さん、そして定本さんと、2.5次元作品でも活躍されているメンバーが揃いました
古谷 めちゃめちゃ心強いメンバーです!今回の4人のキャストはとてもチューニングが上手いというか、自分の個性をわかっている上で、4人芝居の中でのバランスというところをちゃんと感じ取って作品を生かしてくれるお芝居をされる人たち。失敗がないというか…実はそれって結構すごいことだと思いますし、本当の意味で一緒に作品作りができる、信頼できる方たちが集まってくださったことがものすごく心強くて、ものすごく嬉しくて。楓馬くんもね、本当にお芝居のセンスや表現力が素敵で、僕、すごい好みなんですよ。だからそこも心強いですし、同時に今回はまだ僕が見たことない楓馬くんが見れるんじゃないかなとも思って、期待しています。
定本 ありがとうございます。これは本当に4人だけの世界。兼ね役とか一切なく、ホントに4人だけの関係性で芝居ができるのは怖いことでもあり、楽しみなことでもあり。章平さんは初めましてです。河合さんと輝馬さんとはこれまでも共演していますけど、ここまで濃密にお芝居を交わすことは今までなかったので…どんなふうになっていくのか想像つかないくらいとても楽しみです。

──演出プランについてもお聞きしたいです
古谷 これ、初演の野木さんは倉庫で上演されたそうなんです。お客さんの入場口から客席までの間にステージがあり、お客さんがステージを通ってから自分の座席に行く。で、演劇が始まる……まさにこの4人がここで計画して、ここから飛び出して事を成す、みたいなことを「場」でも表現されてたんです。僕もそういったことを新宿シアターモリエールでやりたいと思っています。美術セット、小道具、お客さんの席に対してのギミック…役者の出捌けの位置とかのすべてを、モリエールという劇場サイズだからできる『怪人21面相』の世界として作りたいなと、今の段階では思っています。
定本 (頷く)。たぶんこの『怪人21面相』を1,000人とか2,000人のキャパの劇場でやっても、良さが伝わりきらないと思うんです。やっぱりお客さんとの距離が近くて、役者の呼吸が聞こえ、そこにある何気ない小さな細かい仕草までが見えるからこそ伝わるお芝居だと思うので。
古谷 マイクもなくて地声だしね。舞台美術はモリエールの劇場構造を生かしたかたちを考えていて、凄く良い雰囲気になりそうで、この作品をリンクさせたい。楓馬くんもモリエールは初めてでしょ?
定本 はい。ただ僕は専門学校時代のときからお芝居を学ばせてもらってたんですけど、そのときに立つ劇場は本当に100人も入らないみたいなところだったり、友人がそういう舞台に出ているのを観に行ったりもしているので感覚はわかります。お客さんが本当にこの世界に引き込まれるような距離感でお芝居ができると思う。すごく魅力的な空間ですよね。
──4人の男たち、戯曲のイメージではちょっと大人な感じもあり…
古谷 今回のキャスト陣は作中の登場人物の年齢感よりも多少は若かったりするので、「この役者がこの役をやるからにじみ出るものがある」と言うところで作っていければ。野木さんからも「年齢設定とかは役者さんに合わせてもらって構わないですよ」という言葉もいただいています。とはいえ、この物語を描く上ではやはり多少原作にも寄り添ってもらわなきゃいけないだろうな、とも思ってます。一番若いのは楓馬くん。そういう部分を埋める作業が楓馬くんは他の人たちに比べては大きいとは思うんですけど、きっと叶えてくれるだろうとは思ってます。
──様々をかいくぐって来たであろう、クセ者・鳥羽山
定本 鳥羽山基は4人の中でもすごく我が強いというか、頑固というか、いい意味でも悪い意味でも自分の思想・信念がはっきりある。その自分の信念に従って動いてはいるけど、正しいか正しくないかは自分でもわかっていない、みたいな人物なんです。彼に刻まれた芯の強さみたいな部分はしっかり表現していきたいなって思いますし、他のお三方とも対等に見えなきゃいけないと思いますし…自分の見た目的な部分であったり、普段の印象であったり、そういうところがこの役とは似ているとは自分自身も思わないので、やっぱりそこは説得力を持って作っていかなきゃいけない。説得力のある人間になりたいな。うん、きっとできると思います。

──古谷さんはこの先も演出家としての活動が増えていくのでしょうか?
古谷 明確にそう決めているっていうことでもないですし、例えば仮に「じゃ、この空いてる期間で音響やってみない?」って言われたら、もしかしたらオーケーするかもしれないぐらいの感覚もあるんですけど…
──俳優業だけでなく、シンプルに現場側から舞台を創ることが好きなんですね
古谷 はい。その中で演出というのは素敵な役者さんたちのお芝居を一番いい席で見れるっていう、特権がある!役者としてもひとりの人間としても感じられる僕だけの“得ポイント”が(笑)。それに、指揮を取る立場の演出ではありつつ、現場ではみんなから勉強させてもらうこともたくさんあります。今回も僕が感じていることや考えていることを役者さんたちと共有し、みなさんにも有意義な時間だったと思ってもらえるように頑張りたい。そういう時間はのちのち自分の役者活動にも絶対生きるし、その体験全部がさらに新しい演出のアイデアなどを生み出せることにも繋がってくると思うので…「二足のわらじで頑張ります!」と決めているわけではないし、ホントに未来はどうなるかわかんないですけど、今回もまっすぐに演出業をやらせてもらいたいなとは思ってます。
──これから濃密な劇空間に飛び込んでいくおふたり。本番が待ち遠しいです
定本 僕は…自分の中ではこれまでもいろんなジャンルの作品に挑戦してきたつもりでいるので、今回も「どんな面を見せてくれるのかな」って、たぶんお客さまは楽しみにしてくれてると思うんです。なのでその期待をいい意味で裏切れるように、期待以上のものをお見せできたら、と。僕と大和さんが一緒にいるという部分ではやはりMANKAI STAGE『A3!』を思い浮かべる方も多いと思いますし、エーステは観ているけれど他の舞台はまだ観たことがないという方も多いかもしれません。でもそれこそエーステは役者の話、演劇の話なので、そこからの繋がりとして、舞台『怪人21面相』に興味を持っていただき、また新しい演劇の扉を開けていただけたら嬉しいなって思いますし、僕らもみなさんが扉を開けた先を後悔させないようにできることを精いっぱい頑張りたいと思います。
──華やかなエンタメの楽しさと濃密な小演劇の空気、両方を届けられる役者であるのがおふたりの強みでもある
定本 今回はこの『怪人21面相』でしか見られないものを届けたい。ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいなと思います。
古谷 うんうん。楓馬くんをはじめとするキャストの方の普段出ているような作品、例えばすごく笑えるコメディとか、キラキラ輝いて歌って踊ってる姿を見慣れていらっしゃるお客様にとっては、いつもと違う役者の一面が見られるのではないかと思います。そして、小劇場作品をあまり見慣れていないお客様には、小劇場ならでは感覚、初めての体験をしていただけたら素敵だし、たくさん演劇を観てきた方にも「まだこんな演劇があるんだ。こんな世界があるんだ!」という新しい体験をしていただけるような作品を作りたいと思っております。今この時代に『怪人21面相』をモリエールでやることの意義をしっかり持って、お客様に届けたい。来て後悔させない作品を作り上げますので、みなさんもぜひこの4人のアジトに足を踏み入れてくれると嬉しいです。
インタビュー・文/横澤由香
写真/篠塚ようこ
ヘアメイク/齊藤沙織
《アフタートーク開催決定》
■8月5日(火) 17:00公演
■8月7日(木) 17:00公演
上記公演におきまして、終演後に稽古・本番・作品を振り返るアフタートークイベントを開催いたします。
登壇者:河合龍之介 章平 定本楓馬 輝馬/古谷大和
※各対象公演のチケットをお持ちのお客様に限ります。
※約15分ほどを予定しております。
※登壇者は、予告なく変更となる可能性がございます。