小関裕太&鴻上尚史インタビュー KOKAMI@network vol.21『サヨナラソング ―帰ってきた鶴―』

【左】小関裕太 【右】鴻上尚史


2つの世界が絡み合い「生きる」ことを描く

鴻上尚史のプロデュースユニット「KOKAMI@network」(コーカミネットワーク)の第21回公演となる『サヨナラソング ―帰ってきた鶴―』が8月31日から上演される。「生きのびること」をテーマにした本作は、日本の民話「鶴女房」のその後の世界と、ある家族を中心とした現実の世界が交錯しながら展開されていくオリジナル新作だ。物語は売れない作家が残した遺書のような小説「帰ってきた鶴」から始まり、残された者と「生きのびること」を描く。作・演出の鴻上と、現代では宮瀬陽一、物語世界で与吉を演じる小関裕太に本作への意気込みを聞いた。

 

――小関さんは今回の出演が決まったときどんな心境でしたか?

小関 一番は、鴻上さんとご一緒できることが嬉しかったです。鴻上さんの作品は、これまでにも拝見していますが、鴻上さんとご一緒したら、どんな景色が見られるのだろうというのが最初に感じた正直な思いでした。


――日本の民話「鶴女房」のその後を描いた物語という本作は、どのような発想から生まれたのですか?

鴻上 「鶴女房」のその後というのは、実は精神科医のきたやまおさむさんと話していたときに出てきた話題です。きたやまさんは親友を自死で亡くしているんですが、その話をしているときに『鶴女房』の話題が出てきたんですよ。「去っていく鶴は美しいけれど、残された男は悲しい」という会話でしたが、その一言で僕の中でイメージが広がり、発想の一つとなりました。それから、もう1つは、そうした物語を書いてこの世から消えた作家がいたらどうなるのか。その2つの物語が同時に浮かんだことから始まりました。


――きたやまさんとのお話はいつ頃のことなのですか?

鴻上 もう4年くらい前になります。「芝居にしてもいい?」と聞いたら「どうぞどうぞ」とおっしゃっていただいたので書き始めて。今回、メールで「いよいよお芝居になります」と伝えたら、喜んでくれて「協力できることは何でもします」という返信がありました。


――小関さんはプロットを読まれてどのように感じましたか?

小関 人それぞれいろいろな経験をされていると思いますが、身近な知人を亡くしている経験がありまして、痛感するところがたくさんある作品でした。ビジュアル撮影の前に鴻上さんとお話しする機会があり、とても時間をかけて聞いてくださり、僕もつい色々話させていただいたんです。今、あらすじが出来上がってきましたが、自分が経験した痛みに意味が伴う作品になるのかなと思いましたし、それが自分が演じる意味にも繋がるのかもしれないと考えました。


――小関さんが演じる役柄についても教えてください。

鴻上 1つは、『鶴女房』の鶴が去っていってしまい、残された男・与吉です。去ってしまった鶴女房ですが、あるとき、帰ってきます。そして再び二人の生活が始まりますが、そこではいろいろなことが起こるというてんやわんやのお話です。

小関 帰ってきたけれども、そこには生きにくい社会が待っているんですよね。理想的な生活や理想的な社会にはなっていなくて、どんなに愛を貫いても、どんなに鶴が好きでもうまくいかない世界が広がっている。

鴻上 そうですね。そうした役がまず一つ。それから、芥川賞にノミネートまでされた作家の男・宮瀬です。24歳の若さで、しかもデビュー作がノミネートされたけれども、それ以降はどんどん読者がいなくなっていて、33歳の今、全く売れない作家になっている。一方、妻は夫の勧めでエンタメ系の小説を書き始めたらどんどん売れてしまいます。それで、宮瀬は『鶴女房』の鶴が帰ってきたという作品を書きますが、それを残して亡くなってしまう。そこで、宮瀬の編集者だった男が、妻に続きを書いてくれませんかと持ちかけるところから始まる物語です。面白そうでしょう?


――面白そうです! そうすると、『鶴女房』のパートは、劇中劇になっているということですか?

鴻上 『鶴女房』の世界と現代を行き来しながら、半分半分で物語が進んでいきます。今、台本を書きながら、早替えの時間をどう確保するかをずっと考えているんですよ。自分でセリフを言ってみて、「42秒じゃ足りないな」と。小関さんが与吉から宮瀬に替わる時間より、どうしても臼田(あさ美)さんがおつうと呼ばれる鶴から(宮瀬陽一の妻の)篠川に替わる時間の方がかかるはずなので、その時間を確保しないといけない…と、スマホをストップウォッチにして計算しながら書いています。

小関 きっと観客の皆さんは、これは誰の目線なのかを考えながら物語を観るのだと思います。『鶴女房』のその後の物語を現代の人間が書いているので、これは妻の目線なのか、亡くなった夫の目線なのか。それとも実はそこで描かれているのは小説の中の世界ではなく、彼らの世界線の話なのか。今、プロットを読んでいて僕はそこが見どころの一つになるだろうなと感じました。きっと観ている間に混乱してくると思いますが、そのさまざまな目線で描かれるというのがこの作品の面白さで、楽しいところだと思います。

鴻上 プロットの段階でそこまで分かっているなんて(小関は)賢いですね!


――お話を伺っていると、現代の現実と昔の御伽噺の中という違いもありますし、奥さんが帰ってきた側と残された側という違いもある。その対比を描いていくのかなと。

鴻上 その通りです。


――そうすると、小関さんは全く反対の役を作っていくことになるので、役作りも2倍になりそうですね?

小関 ただ、この作品に関しては「2役だ、どうしよう」というのがあまりないんです。それぞれの役がはっきりと違いますし、結局、お客さまがどうとでも取れる設定になっているからかもしれません。以前、配役を裏返して上演するという作品に出演したことがありますが、そのときは2つの人生を生きなくてはいけないということがすごく苦しくて。ミュージカルでは1人で複数の役をやることもありますし、早替えも何度もしなければなりませんが、僕はそれに苦手意識があります。1人の人生を背負うだけでも苦しいのに2人はキツいと思っていたのですが、そんな僕でも今回はすごく楽しみで、辛いというよりはしっくりきそうな2役だなと感じました。


――全く違う2役ではあるけれども、繋がっているところがある?

小関 そうですね。共通点が多いわけでもないですし、置かれている立場も、お客さまから見るコントラストも全く違いますが、なぜか自分の中ではしっくりくるものがあったので、今はプレッシャーを感じていません。もしかしたらこれからたくさん出てくるかもしれませんが(笑)。

鴻上 裏表にいる人物だからね。別人を作るということではないと思います。


――臼田さんが妻・篠川小都とおつうを演じますが、小関さんとの夫婦役にはどんな期待がありますか?

鴻上 僕の中で鶴女房は頼り甲斐のある姉さん女房というイメージがあったんです。もちろん、鶴女房は男をすごく愛していて信頼しているけれども、手のひらの上で転がしているような関係性なのかなと。なので、そうしたところが出ればいいなと思いました。実際の臼田さんは何となく呑気なイメージで、小関くんは真面目。そうした真逆なところも面白いかなと思います。


――小関さんは臼田さんとの夫婦役についていかがですか?

小関 すごく楽しみです。お芝居はもちろんですが、いろいろなお仕事やSNSなどを通して見えてくる臼田さんの感性が僕は好きで。いろいろな視点と感性を持っていらっしゃるんだろうなと感じています。今回の役を通して、いろいろと学ばせていただけたら嬉しいです。


――では、鴻上さんから見た小関さんの印象は?

鴻上 飛ぶ鳥を落とす俳優ですよね。すごく誠実に役に向き合ってくれるのではないかと思って、オファーしました。演じることに対して、正面から組んでくれる俳優さんとやりたいと思っているので、彼の真面目さをすごく評価しています。


――小関さんは、ミュージカルにも映像作品にも多数出演していますが、ストレートプレイに対してはどのように考えていますか?

小関 鴻上さんの作品で、紀伊國屋ホールでストレートプレイということが僕の中ではとても大きいです。紀伊國屋ホールは僕も何回も観劇で訪れていますが、ステージに立つのは初めてです。歴史ある場所で、文学を感じる作品を上演していることが多い印象なので、そこに飛び込めることがとても楽しみですし、この作品を完走した後に見える景色もすごく楽しみです。何が待っているんだろうと。


――30歳になって本作が初の舞台となりますが、30歳になりお芝居に対してやお仕事に対しての思いに変化があったり、新たな決意をしたということはありますか?

小関 意識が変わり始めたのは27歳くらいからで、その延長線上に今があるので、30歳を迎えて大きく変わったということはないです。30歳になったタイミングで焦ることがないように過ごしてきたので、いい意味で危機感もないんです。なので、楽しみばかりです。新しい景色を作る用意をずっとしてきたので、ようやく揃ったピースの中で何と出会えるんだろうとワクワクしています。


――今回は、小関さん、臼田さん以外にも魅力的なキャストが集まっています。ぜひ他のキャストの皆さんや今回のカンパニーについてもお聞かせください。

鴻上 太田(基裕)さんは、僕が『スクール・オブ・ロック』というミュージカルを演出したときにご一緒してうまいなと思ったので今回、お願いしました。安西慎太郎さんは『朝日のような夕日をつれて2024』に出てくれて、彼もやっぱりうまかったので出て欲しいとお願いして。


――そうすると、鴻上さんがお芝居がうまいと思う方が集結しているんですね。

鴻上 今回はうまい人を集めました(笑)。そうした俳優同士の丁々発止が見られたら面白いなと思います。子役たちもうまいんですよ。今回、オーディションを行ったのですが、10歳くらいでそんなにうまくてどうするんだというくらいうまくて。

小関 子どもたちが演じる役も物語の要になっているので、一緒にお芝居できるのが楽しみです!

 

インタビュー・文/嶋田真己
ヘアメイク/堀川知佳
スタイリスト/吉本知嗣