
劇作・長田育恵×演出・白井晃×音楽・三宅純が臨むヘルマン・ヘッセの最高傑作
舞台『シッダールタ』の出演者が決定
「人にとって最大の謎は自分が自分自身であるということ」
作品創造・発信型の公共劇場として始動した世田谷パブリックシアターは、活動 25 余年を経過し、演劇・舞踊・教育普及の分野において日本文化の財産となる作品の創造を行い、先鋭的なかつ実験的な質の高い作品創作を行ってきた。本作は、芸術監督・白井晃による 2025 年のメインプログラムとして、ノーベル文学賞受賞作家であるドイツの作家ヘルマン・ヘッセの最高傑作「シッダールタ」を舞台化する。
ヘルマン・ヘッセは、20 世紀前半の激動のヨーロッパを生きた作家であり 2 つの世界大戦に衝撃を受け、インドを訪れたことをきっかけに東洋思想と出会い、自我を探求し思索を深め、古代インドを舞台に宗教家が悟りに至るまでの姿を「シッダールタ」に描いた。
本作では、連続テレビ小説「らんまん」にて令和 5 年度文化庁芸術選奨新人賞を受賞した劇作家・長田育恵が、「シッダールタ」の壮大な世界観をベースに、作家自身の思索も補助線として、現代を映す舞台へと昇華。白井晃と長田育恵の初タッグに加え、音楽は世界の名だたるアーティストと創作を共にし活躍を続ける作曲家・三宅純により、極めて不安定な世界情勢の中、情報の氾濫、価値観の変容、哲学の喪失によって混沌とした世界の中で、宗教とは何か、他者とは何か、そして、個のアイデンティティとは何かを、この作品を通して映し出し、平和主義を唱えたヘッセが「シッダールタ」で何を伝えようとしたかを考えていく。
主演は圧倒的な演技力を持って数多くの賞を受賞し、昨年公開された映画『碁盤斬り』でも第 48 回日本アカデミー賞 優秀主演男優賞を受賞。近年は舞台『ヴェニスの商人』、『シラの恋文』や Netflix オリジナル映画『新幹線大爆破』でも主演を務める草彅剛。白井晃とは 2018 年の『バリーターク』、2020年・2021 年(再演)の『アルトゥロ・ウイの興隆』に続いて 3 作目のタッグとなり、
実在する宗教家で仏陀(釈迦と言われる仏教の始祖ブッダ)と同じ名を持つ青年シッダールタと、「現代を生きるヘッセ」に重なるひとりの男を演じる。
シッダールタの生涯の友となるゴーヴィンダ役は、ドラマ「永遠についての証明」や「マウンテンドクター」にて主演を務め、現在放送中の「しあわせな結婚」にも物語のキーパーソンである謎の男として出演し、映画『ストロベリームーン』の公開も控える杉野遥亮。シッダールタと深い関係で結ばれるカマラーには、主演映画『由宇子の天秤』にて国内外で多くの賞を受賞し、今年は、NHK 連続テレビ小説『あんぱん』や、主演作『奇麗な、悪』をはじめ『国宝』、『レイブンズ』、『敵』、9 月に公開を控える『ふつうの子ども』、『宝島』と多数の映画に出演の瀧内公美。確かな実力で引っ張りだこの 2 人が、シッダールタの旅に寄り添う。
男の友人デーミアンに、ドラマ「ダメマネ! -ダメなタレント、マネジメントします-」に出演中で、来年には映画『時には懺悔を』の公開を控える鈴木仁。シッダールタの息子に現在、連続テレビ小説「あんぱん」やドラマ「最後の鑑定人」で注目を集める中沢元紀。
シッダールタの父に、昨年の世田谷パブリックシアター主催公演『セツアンの善人』にも出演の松澤一之。シッダールタに商売を教える商人のカーマスワーミに有川マコト。古代インドの大河の渡し守ヴァズデーヴァに、劇団「はえぎわ」主宰で作・演出・出演を務めながらも、舞台『そよ風と魔女たちとマクベスと』など外部公演にも数多く出演するノゾエ征爾。
そして池岡亮介、山本直寛、斉藤悠、ワタナベケイスケ、中山義紘ら実力派俳優たちが集結。更に唯一無二の振付を体現していくダンサーたちが加わり、壮大な『シッダールタ』の世界を白井晃が立ち上げる。

演出・出演者コメント
・白井晃(演出)
思春期に読んだヘルマン・ヘッセの小説は、常に心の中で息づき自分の創作の原点となってきた作品です。今、この作品を具現化できることに大きな喜びを感じるとともに、その重責に大変緊張もしています。世界を取り巻く現状を見ると、改めて何故この小説に心を掴まれてきたのか、今になってわかるような気がします。彼は、第一次世界大戦期に戦争への反対を表明したことで世間から大きな非難を浴び、結果、東洋思想に惹かれていきました。今、紛争にまみれた混沌としたこの世界の中で、どう自分を生かしていけば良いのか。その問いに対する応えが「シッダールタ」の中に潜んでいると思います。国家とは、宗教とは、他者とは?そして、人にとって最大の謎である、自分自身という存在とは。この模索の道を、劇作家の長田さんと共に思考し、道を切り拓こうと思います。そして、今回参加してくれた素晴らしいキャストのみなさんとの創作の時間は、私にとって珠玉のものとなるでしょう。シッダールタを演じていただく草彅剛さんとは、これまでも一緒に難作に取り組んできました。それだけに、この旅の労苦を共にできるものと信じています。演劇の可能性は、同世代を生きる人と共に考えることができることだと思います。この作品が、今を生きる私たちにとって、少しでも希望の光を見つける指針であることを心から願っています。
・草彅剛
今作は「人間とは何か」「地球とは何か」「宇宙とは何か」というような、未知なる壮大なテーマを持った作品で、ひとりの人間としてこの壮大なテーマに立ち向かっていくことにドキドキした気持ちです。自分自身の全力で取り組まないと薄っぺらいものになってしまうと思うので、筋肉を鍛えて(笑)頑張りたいです。
白井さんはいつも僕の可能性を広げてくれる、とても情熱的で素敵な方。今までご一緒させていただいた作品はどれも自分の人生のターニングポイントになってきたので、今回もそんな作品になると期待に胸を膨らませています。迷いやプレッシャーもありますが、未だかつて観たことのない、壮大な舞台をお届けいたします!
・杉野遥亮
僕は今作が 2 回目の舞台出演になるので、わからないことばかりではありますが、白井さんの指導を受けながら、自分らしくいろいろなものを吸収できたらと思っています。長い時間をかけてじっくりひとつのことに向き合い、追及していくのが楽しみですし、舞台の魅力を見つけていくのも楽しみです。
舞台にまた挑戦したいと思っていたところにお話をいただいて、「シッダールタ」の哲学的な部分に興味もあったので、即決でお返事しました。以前ドラマでご一緒させていただいた草彅さんはスーパーマンのような憧れの先輩。「次は舞台で共演できるといいね」と声をかけてくださったのがこんなに早く叶うとは思っていなかったので、すごく嬉しいです。まだどんな作品になるのかはわかりませんが、その空間を皆さんと一緒に楽しみたいと思います。
・瀧内公美
原作の小説を読んで、迷いながらも自分の在り方を肯定し、背中を押してくれる作品だなと思いました。人生の岐路に悩みはつきものですが、その問いが自己を見つめる何かのきっかけになるのではないかと思います。
演出の白井さんは的確にイメージを伝えてくださるので、お稽古でもそのイメージを大切にしていきたいです。どういう塩梅で何を表現し、見えてくるものや見せないものは何なのか、皆さんと一緒にクリエイションしていきたいなと思っています。
私の演じるカマラーは、煩悩や欲望を削いでいこうとする主人公に対し母性と愛欲を与え、”人間として生きていくこと”の喜びを教える女性で、非常に刺激的で魅力的な存在。人間が誰しも「また欲しい」と思ってしまうような存在をどう体現し、演技で見せていけるのかを白井さんと一緒に作っていきたいです。難しい作品とは思わず、迷いの多い人生の中で一つの光を見つけられる手掛かりになれたらいいなと思います。
ストーリー
ひとりの男(草彅剛)が、世界の混沌の中で自身を見失い佇んでいる。友人のデーミアン(鈴木仁)は行動を促すが、彼は歩き出す道を見出せない。同僚のエヴァ(瀧内公美)の支えを受けながら思索の森に足を踏み入れ、やがて彼はシッダールタとなる。
古代インドに生まれたシッダールタ(草彅剛)は、最高位のバラモン階級の子として生きている。その生活に疑問を抱き、より深い叡智を求めて、家を飛び出す。シッダールタについてきたのは、彼に魅了されている青年ゴーヴィンダ(杉野遥亮)ただひとりだった。
しかしシッダールタは、修行の意味に疑問を抱き、修行の道を突き進むゴーヴィンダとも袂を分かち、俗世に下野する。やがてシッダールタは、美貌と知性と教養で確固たる地位を築いた高級娼婦・カマラー(瀧内公美)と出会い、性愛による快楽を体験する。
さらには商売で富を得ることで、所有欲を満たす経験を覚えるが、それでも本質が満たされることはなく苦悩する。やがて彼は川で渡し守のヴァズデーヴァ(ノゾエ征爾)と出会い、彼の世界観に導かれていく。川の流れの中、シッダールタは別れたカマラー、自らの息子(中沢元紀)、かつて袂を分かったゴーヴィンダらと再会を果たし、自らにさらに深く問いかける。
出会いと別れを繰り返し、この世界に絶望し、人生に迷っていたシッダールタが、悟りの境地にたどり着いた時に見えた景色とは―。
その音とは―。