
預言者であり一人の漁師・ヨナを佐々木蔵之介が演じる
知的で詩的な一人芝居
『リチャード三世』(2017年)、『守銭奴』(2022年)に続いて、みたびルーマニアの巨匠演出家であるシルヴィウ・プルカレーテとタッグを組むことになった佐々木蔵之介。今回挑む演目『ヨナ-Jonah』は、旧約聖書の聖人ヨナの逸話(漁師で預言者であるヨナが鯨に飲み込まれるが3日後に生還する)を題材にした、ルーマニアの国民的詩人マリン・ソレスクの代表作を原作に、新たな視点・表現で構成する刺激に満ちた一人芝居となる。
佐々木は今年4月末からルーマニア・シビウに単身で乗り込み、現地で約1カ月にわたり稽古をし、5月にシビウでワールドプレミアの初日を開けたあと、ブダペスト(ハンガリー)、クルージュ・ナポカ(ルーマニア)、ブカレスト(ルーマニア)、キシナウ(モルドバ)、ソフィア(ブルガリア)のヨーロッパ6都市のツアーを敢行。最終地シビウでは国際演劇祭に参加する形で上演し、大喝采を浴びた。その『ヨナ』をひっさげ、佐々木がこの秋、待望の日本公演をおこなう。

ヨナという人物について佐々木に聞いてみたところ、「旧約聖書に出て来る聖人で預言者であるということよりも、今回は大きな魚に飲み込まれた一人の漁師として演じようと思っています」とのこと。
「戯曲を読むと詩的で難解かなと思っていたのですが、知人に『どんな話?』と聞かれ『大きな魚に二回飲み込まれて、なんとか出ようとする話で』と説明していたら『面白そうじゃん!』と笑ってもらえて。そういえば日本でもよく知られている『ピノキオ』に出て来る鯨に飲み込まれるエピソード、あれもヨナの話から来ていると言われていますしね。だったら子どもにも楽しく観てもらえるくらいに面白く作ってみたいと考えました。プルカレーテさんにそう申し上げたところ『それでいい、それで十分だ』と言っていただき、こういう芝居になりました」
詩人のドリアン助川が原作を修辞したことも、その解釈を後押ししてくれた模様だ。
「おかげで光が見えた気がしましたね。ヨナはひょっとしたら孤独や闇と向き合い試練から抜け出そうとするだけではなく、“こんな方法はどう?”とちょっと半笑いで楽しみながらいろいろ試していくチャーミングなキャラクターなのかもしれない、と思えたので。しかも日本公演では字幕ではなく、セリフとして発する言葉がそのまま届けられるわけですからね。このヨナの旅は、たとえ何の予備知識がなくてもさらに楽しめるものになると思います」
また、プルカレーテが「ヨナは自分のおじいちゃんなんだ」と言っていたということも、佐々木は教えてくれた。
「プルカレーテさんのおじいさんは田舎で一人暮らしをしていて、でも亡くなる3日前にタバコを止めたというくらいに生きることをずっと考えていた方だったそうなんです。ヨナも途中で自分の名前を忘れてしまったり、簡単な言葉が出て来なくなってきたりもするのですが、それでもちゃんと生きていく人間で。見えないものが見えたり、聞こえない音が聞こえたり、逆に聞こえるはずの声が聞こえなかったり、まるで走馬灯のように子どもや妻、母のことを思い出したりする中でも、一生懸命に自分の大切な人やものをなんとか思い出そうとする。だからこそ、この舞台は観る側も自分の大切な人や懐かしい思い出とか匂い、そういうものを連想できるところがあるのかもしれません。原作が詩だから言葉がポツンポツンとあるので、余白も多く、きっと皆さんもそれぞれで感じ方が違ってくるはず。その感覚もぜひ楽しんでいただければなと思います」
インタビュー&文/田中里津子
Photo/篠塚ようこ
※構成/月刊ローチケ編集部 8月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

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【プロフィール】
佐々木蔵之介
■ササキ クラノスケ
確かな演技力で数多くの映画、ドラマ、舞台で活躍する実力派俳優。
【佐々木蔵之介ファンサイト】「TRANSIT」
https://sasaki-kuranosuke.com
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