
劇団おぼんろの第26回本公演『ラルスコット・ギグの動物園』が9月11日(木)より東京・池袋のMixalive TOKYO Theater Mixaにて上演される。
果てなき荒地ラガキナで生まれ育った青年・ギグは金色のヘビにそそのかされ、生まれ育った故郷とは正反対の大都市チノイを目指す。厳然とした秩序で守られた管理社会で、ギグがのし上がっていく方法は一つ。一緒に連れてきた動物たちの“命”を見世物にすることだった。
近年、命をテーマとした作品を発表し続けているおぼんろ。そこにはどんな思いがあるのか。主宰の末原拓馬、劇団員のさひがしジュンペイ、わかばやしめぐみ、高橋倫平の4人に語ってもらった。
別れさえも何が何でもハッピーな要因の一つになればいい
――ここ数年、おぼんろは作品を通して生と死について語り続けています。なので、今日は命についての話を伺っていけたらと思います
末原 うちのパパ(2021年逝去)もそうだし、大切な人がね、順番にいなくなっていって。ここ数ヶ月もすごく愛してる人の闘病に寄り添うということを経験し(おぼんろの衣装を担当した衣装家・永田光枝が2025年6月に逝去)、自分でも死との付き合い方がうまくなったなって思うの。昔は大切な人に何かあるたびに壊れそうになっていたけど、だんだんうまく付き合わないとダメだなって思うようになって。これを俺は進化と呼んでいたんだけど、でも鈍磨させることが果たして正しいのかなということに今ちょっと目を向けている。悲しむって、本当はすげえ大事な感情なんじゃないかって。
倫平 死に関して言うとね、僕は葬式とかに行きたくない人間なんです。お別れを言うことで本当に最後のお別れになっちゃう気がして。亡くなったと思うより、常に自分の中で残り続けていると思いたい。その人の笑顔とか思い出をたまに振り返って。そうすることが、いなくなった人たちが生きてきた存在証明なんじゃないかなと思っているんですよね。
さひがし 俺も同じですね。今回、永田さんの遺志で葬儀は執り行わなかったのですが俺はその方が元気な永田さんが心に生き続けてくれる。直接会えなくなっただけ その感覚を持っていたいですね
わかばやし 忘れることが二度目の死になるんですよね。逆に言えば、忘れない限りずっとそばにいると思っています。私の母はコロナ禍で亡くなってしまったんですけど、不思議と亡くなったあとのほうがそばにいる感覚があるんですよね。今も母が大切にしていたものは肌身離さず持っています。なんだかそばにいてくれる気がして。
末原 俺らが描きたいのは死ではなくて、「生きる」なんだよね。生きるを描くには、天敵である死をどう倒すかの話になる。それで、必然的に物語の中に死が入ってきちゃうんだけど。それでも、最後には何が何でも絶対笑うっていうのは決めてる。別れを描く以上、悲しい結末で終わりたくないんだよね
倫平 たぶんおぼんろの物語は、別れさえも何が何でもハッピーな要因の一つになればいいと思っているんじゃないかな。
わかばやし ああ、それ、とってもいいね。
倫平 誰が死のうと、どんなに辛いことがあろうと、最後はハッピーであり続けるという強い意志がおぼんろの物語の根底にある。人から見たらすっげえ悲しくなっちゃうことも、そこにはハッピーが存在するんだよって、ほんの少しでもいいから物語りに触れてくれた人が感じてくれたらいいなと思うよね。
おぼんろの板の上で死ぬのが理想なんで(笑)
――そういう意味では、皆さんはどう生きることが理想だと思っていますか?
末原 俺はもうこんな感じって感じかも。今やってることの力の及ぶ範囲がもっと大きくなればいいな、ぐらいで。
わかばやし 私もずっと芝居をやっていたいです。この話をすると、みんなに迷惑だって言われるんですけど、おぼんろの板の上で死ぬのが理想なんで(笑)。
倫平 板の上はやめてください。終演後にお願いします(笑)。
さひがし 倫平くんも昔はそんな感じだったじゃない? でも家庭持って子どもができて、ガラッと変わった。
倫平 めちゃくちゃ変わりましたね。
さひがし 俺もそうだもん。昔は芝居一筋で、芝居がうまくいかなかったら、海外で放浪生活でもしようかなって普通に40(歳)くらいまで思ってた。でも、子どもができた瞬間、生活が第一になる。で、子どもが大きくなると、その成長が一番の喜びになる。俺なんてガチガチに親バカって言われていますから。下の子が小学3年生なんだけど、いまだに小学校の前までついていく。そんな親、俺ぐらいですよ。旗振りの方にも顔知られてるから(笑)。
わかばやし あのお父さん、何をしている人だろうって絶対言われてるよ(笑)。
末原 普通行けないからね、その時間に(笑)。
さひがし それぐらい家族が大事。だからいつか子どもたちが大きくなったときに、一緒に仕事をするのが今の俺の夢なんですよ。
末原 倫ちゃん家も遠からずだからね。来年の公演の予定を立てるとき、倫ちゃんのNGは子どもの運動会と保護者参観日だけ(笑)。
倫平 長男ボーイの中学生活、初めての文化祭に「公演期間がどんかぶりで行けない!」と思っていたのに、千秋楽が土曜日なので、行ける様になったのです〜!
さひがし 知らねえよ(笑)。
末原 だから、倫ちゃんの理想の生き方はそういう感じってことでしょ。孫の顔を見るまでは生きていたい、みたいな。
倫平 それもあるけど、理想の生き方という意味では、自分の目に映る人たちを楽しませて幸せにすることが一番かな。正直、おぼんろで大きい劇場でやることに興味はないの。前回のシアターモリエールみたいなサイズ感で、我々の物語によって目の前にいる人が本当にハッピーになっていることを実感できるくらいが俺的には幸せだなって。それは舞台だけじゃなくて、私生活に関してもそう。目の前の人を幸せにしたい。
おぼんろに集まる大人はみんな子どもの顔をしてる
――今回客演として出演する佐藤拓也さんが、前回の公演をご覧になった感想を「知らない子どもたちの“ごっこ遊び”に混ぜられたみたいだった」とおっしゃっていました
末原 劇団としてどうありたいかみたいなことをずっと考え続けてきたけど、結局は“場”でありたいんだよね。たぶん俺たちのやってることって、10億人に見せるジャンルではない。でも、本当に必要な人がここに来れば、それが見られるという唯一無二の場でありたい。拓也くんが“ごっこ遊び”と言うのはよくわかるの。俺らのやってることって、想像力を駆使した遊びの場だから。実際、見てて思うよ、いろんな大人が集まってくれるけど、みんな子どもの顔してるなって。みんな自分と同じ顔してるなって気持ちになる。
さひがし 本当にそうね。集まれる場所でありたい。ちょっと話が脱線するんだけど、 昔の俺の部屋って鍵が開きっぱなしだったんですよ。
末原 あの誰でも入っていいハウスね(笑)。
さひがし ケータイもない時代だったから、なかなか待ち合わせとかできないじゃないですか。それで、鍵を開けっぱなしにしておくんで、誰でも入っていいですよと。だから、家に帰ると、知らない人がコタツで温まっているとかしょっちゅうあった(笑)。
わかばやし すごいですよね。今の時代だと考えられない(笑)。
さひがし で、集まった何人かで飲み屋に行って。コタツの上に飲み屋の名前を書いたメモを残して、「×時までここで飲んでいるから、読んだ人は来い」と。そうやって知らない人と飲んでいた人間なんで、参加者(観客)に対しても、客演さんに対しても楽しんで帰ってもらいたいという気持ちはすごくある。
末原 俺は参加者のことを、声かけたら集まってくれた宅飲み仲間みたいなものだと思っているから。ただ材料代がこれだけかかったんで、その分だけ割り勘してもらえるかなっていう。便宜上、それをチケット代と呼ぶけど、マジでそのイメージ。
さひがし この感覚はおぼんろならではだなと思う。
末原 そう言い切れるようになったのも、目的を手放したからってのはデカいかもしれない。昔は劇団が大きくなるためにとか、目的ありきでやってたけど、今はもうおぼんろで演劇をやること自体が目的になってる。イメージはね、乗組員の数が無限のノアの方舟。そうなれたら最高だよね。
――そこで言うと、今回の公演はおぼんろにとってどういう位置づけだと考えていますか?
倫平 Mixaが最後というのは大きいですね。この何年かずっとMixaでやらせてもらって。Mixaでやったことで、劇団として広がったものがたくさんある。そこに対する感謝の気持ちはすごくあります。
末原 ずっと360°演劇をやってきたから、(プロセニアム・アーチ型の劇場である)Mixaでやることに対して、アレルギーがあった参加者もいたと思うの。俺らも最初は正直ちょっと戸惑ってて。でもきっと運命がそうさせているんだから、これが正解なんだろうと思ってやってきたし、実際、今となってはMixaという劇場自体が大事な友達だと思っている。自分にとってはすごい大事な場所なんだよね。パパが最後に外出した都会がMixaだし。そんな愛する場所とどういう別れを迎えるか。俺らここでやってきてよかったわってハッピーな気持ちで終わりたいね。
PROFILE
末原拓馬
■スエハラ タクマ
おぼんろ主宰、脚本、演出俳優。主な外部作品に、剣劇『三國志演技~孫呉』(脚本・演出)、『氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-』(脚本)など。
さびがしジュンペイ
■サヒガシ ジュンペイ
2009年からおぼんろでの活動をスタートする一方で、自ら立ち上げたoubaitori企画/イエロー・ドロップスでも、多くの演出を手掛ける。
高橋倫平
■タカハシ リンペイ
劇団おぼんろ作品の他、映画などの映像作品へも出演。
わかばやしめぐみ
■ワカバヤシ メグミ
第7回公演より劇団おぼんろ全作品に出演。外部出演作品『青のミブロ』他。演出家&演技講師としても活動。