
珠玉の名作を独自の解釈で朗読劇として表現するVoice Boxシリーズの第5弾。Voice Box 2025 朗読 「グレート・ギャツビー」 〜恋に落ちることは運命を変えてしまう・・・永遠に〜が、9月27日(土)・28日(日)に東京・日本青年館にて上演される。
幾度となく映画化されてきたF・スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」の世界を、小野大輔、下野紘、羽多野渉、森久保祥太郎、岸尾だいすけの豪華声優陣が描き出す。
今回はシリーズを牽引する小野大輔と、脚本・演出を手掛ける斎藤栄作にインタビュー。作品の魅力や共演者への思いについて語ってもらった。
――シリーズ5作目となります。本作の見どころをお聞かせください。
小野:Voice Boxは今年で5回目となりますが、声優としてのスキルをシンプルに、そして最大限に使って、「声優の朗読はこんなにすごいんだ」ということをお見せできるのが、このVoice Boxシリーズだと思っています。これは声優としての矜持でもありますが、僕らの声で観にきてくださる皆さんの頭の中に景色を広げたい。5人の声優で無限大の景色をお届けしたいです。
斎藤:今回の作品も男性や女性、たくさんの人物が登場しますが、それをたった5人の男性の声優さんたちで演じ分けるというところが、やはり見どころだと思います。
――今作も下野紘さん、羽多野渉さん、森久保祥太郎さん、岸尾だいすけさんと豪華なキャスト陣が揃いました。楽しみなポイントを教えてください。
小野:下野くんは第1回ぶりの2度目の出演、羽多野くんは何度も出演してもらっていて今回が4度目となりますが、2人にはまず「支えてくれてありがとう」という感謝の念があります。彼らと同じ現場に入ると本当に楽しくて、なんというか“戦友感”がある。2人とも年齢としては少し下なんですが、若手時代に一緒に青春を分かち合ったような感覚があるので、「絶対間違いない」という信頼感が大きいです。
森久保さんと岸尾さんはVoice Boxに初めて参加していただくのですが、僕自身もお二人がどんな演じ分けをされるのか想像がつかない。お二人が多彩な役柄を演じられていることは存じ上げていますが、こういった作品でどんな演じ分けをされるのか。僕は後輩の立場ではあるのですが、お二人の新しい可能性に出会えることを、とてもとても楽しみにしています。
斎藤:僕も同じ気持ちですね。初回以来となる下野さん、羽多野さんはすでに準レギュラーのような存在ですので、今回もご一緒できるのが楽しみです。僕の脚本は、僕としてはそんなつもりはないのですが、小野さんには「無茶振り」と言われてしまうところがあって(苦笑)。物語の中でも次々と違う役を演じてもらうので、初参加の方は、最初は驚かれるんです。今回、初めて参加となる森久保さんと岸尾さんがどんなリアクションをされるのか、そして僕の脚本や演出をどう料理されるのか。また新しい料理に出会えるんじゃないかと思うと楽しみです。
小野:いやぁ、本当に楽しみですね。
――タイトルロールのギャツビーという男について、表現する/演出する立場からどう捉えていらっしゃいますか。


斎藤:小野さんと少し話してみたら、僕らは真逆な捉え方をしていて面白いなと思ったのですが、僕はギャツビーを“悲しいほどに一途な愛を持っている男”だなと思っています。そういう生き様って、現代において実はすごく重要なことなんじゃないのかなと。
小野:なかなか現実にはそういう人いないですよね。僕としては、ギャツビーのようには生きられないからこそ、憧れはあります。邦題では「華麗なるギャツビー」とも訳されているじゃないですか。このタイトルもなかなかに意味深ですよね。脚本をもらって改めて読んでみると、ギャツビーという男は“華麗なるギャツビー”でもあるし、“純粋たるギャツビー”でも“泥臭いギャツビー”でもある。自分はこうは生きられないと分かっているからこそ、彼の生き方は好きですね。
斎藤:悪に手を染めてでも自分の純愛を押し通す、そういう男ってなかなかいない。だからこそ、今の時代の観客にも刺さるものがあるんじゃないかなと思ったことが、今回この作品を選ぶきっかけにもなりました。……と、ここまでまるで小野さんがギャツビー役を演じるかのように話していますが、ギャツビーを演じない可能性もありますからね(笑)。タイトルはギャツビーですが、語り部はギャツビーの隣人のニックという男ですし。
小野:そういえばそうでしたね(笑)。
斎藤:もしかしたら、デイジー(ギャツビーの元恋人)かもしれない。
小野:その可能性も大いにあります。今回は3公演あって、毎回役替わりもあるので、配役も含めてぜひ本番を楽しみにしていてください。
――何度も映画化されている作品ではありますが、中には本作で初めて「グレート・ギャツビー」に触れるという方もいらっしゃるかと思います。そんな方に向けて、この物語のどんな魅力をまず味わってほしいですか?
斎藤:近年、昭和レトロといったものも流行っていますが、こういう時代があったんだというのを、まずはこの作品で知ってもらえると嬉しいです。こういう男がかっこいいとされた時代が、過去に間違いなくあったわけですが、でもそれは今の価値観とは大きく違うんですよね。価値観が今とは違ったとしても、こういうかっこいい男たちがいたというのを、お見せできたらいいなと思っています。
小野:僕は原作小説や映画に触れていただくのが一番かなと思っています。
斎藤:僕らの作品がそのきっかけになるといいですよね。
小野:そうなんですよ。朗読劇を観る前でも後でもいいと思うのですが、ぜひ小説や映画にも触れていただけると、それとはまた違った感覚をこの朗読劇から感じてもらえるんじゃないのかなと思っています。朗読劇はやっぱり、今を生きている僕らが演じるので、どうしても僕らの価値観や熱量が乗ると思うんです。それは作品の当時の感覚とは違うかもしれませんが、僕は逆にそれが本作の魅力になるのでは、と思っています。
僕は正直、この作品を読んで「こんな時代があったんだ。みんなギラギラしすぎじゃない?」と思ったんですよ(笑)。今の時代、パーティーなんて行かないですし。でも、その浮世離れしているところが朗読劇に向いているんだろうなと。
斎藤:今の時代の僕らからすると、ファンタジーですよね。
小野:そうですよね。なので、朗読劇で面白いなと思っていただけたら、それをきっかけに映画や原作へと遡ってもらえると、また違った面白さを感じてもらえると思います。
――先ほど、斎藤さんのお話で「無茶振り」という言葉もありましたが、本作の脚本を読んでみて、小野さんにとって挑戦だと感じる部分はありましたか。

小野:今回も「斎藤さんからの挑戦状だな」と思う部分がふんだんに盛り込まれていました。一発ギャグのようなセリフや無茶振りコーナーのようなものも、チラホラありましたね(笑)。役替わりという変化がすでにあって、しっかり稽古もするのですが、脚本の中に想定外の要素を紛れ込ませてくる。そこは斎藤さんの脚本の面白いところですし、それに応えられる声優の皆さんが集まっているので、どういう形に着地するのか、毎回楽しみな部分でもあります。
斎藤:脚本がある以上、もちろんストーリーとしてズレてはいけない予定調和な部分も大事ですが、ライブ感もやっぱり大切にしたいですからね。
小野:僕自身、予定調和ってあまり好きではないので(笑)。毎回起こる想定外な出来事も楽しみにしています。
――ちなみにこれまでの公演で起きた“想定外な出来事”で印象に残っていることはありますか?
斎藤:第1回は朗読劇なのに早着替えがありました(笑)。着替えのタイミングが合わず、舞台上でアドリブでつないでもらったこともありましたね。ほかにも、モノマネをやるコーナーでその場にいない声優さんのモノマネをやり始める方がいたり。でも最後は、小野さんが流れを物語に戻してくれるので、そこは信頼してお任せしています。
小野:流れを戻しますが、「面白いことやってよ」と振っているのも僕なんですけどね。
斎藤・小野:アハハハ!
――最後に、公演を楽しみにしている皆さんに意気込みとともにメッセージをお願いします。
斎藤:劇場に足を運んでくださる方は声優ファンの方々が多いと思うのですが、まずは最初に謝っておこうと思います。毎回、推し声優さんの観たことがないであろう役や、ちょっと変わった役を演じてもらって申し訳ないなと(苦笑)。同時に、新しい発見もあると思うので、ぜひ大好きな声優さんの新たな魅力に出会うつもりで、観にきていただけたら嬉しいです。
小野:皆さんの応援のおかげで、Voice Boxも5作品目となりました。朗読劇はやはり声優のパフォーマンスに特化した、僕らが一番得意とする演目だと思っています。でも、声優が全霊で表現したものを最後に完成させてくれるのはお客さんです。耳から入ってきた僕らの声を、お客さんの想像力でどれだけ頭の中でビジョンにして膨らませていただけるのか、という部分が実は一番重要です。
まだ朗読劇の魅力を知らない方もいらっしゃるかもしれませんが、「朗読劇は唯一無二なんです」と声を大にしてお伝えしたい。今回のVoice Boxでも素敵なビジョンをお見せしますので、これまでの作品を愛してくださった皆さんも、まだVoice Boxを知らないという方をぜひ誘っていただいて、一緒にこの声優が最も得意とするエンターテインメントを味わっていただけたら嬉しく思います。


取材・文・撮影:双海しお