
退屈な日常も面白くすることができると気づいてもらえたら
2022年に公開され、ロングランヒットを記録した映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』が舞台化。ウォーリー木下の上演台本・演出、ポップユニット□□□(クチロロ)の三浦康嗣による音楽、薮宏太の主演でオリジナルストーリーを加えた音楽劇として上演される。
物語の舞台は、小さな広告代理店のオフィス。社員全員が一週間を繰り返していく中で、タイムループに巻き込まれていることを自覚していく姿や、そこから一致団結して脱出しようとする姿を描く。
主人公で映画オタクな広告プランナー兼営業の村田賢を演じる薮に本作の魅力や公演への意気込みなどを聞いた。
――すでに本読みも行われたそうですが、本読みをされた感想、そして音楽を聴かれた感想を教えてください。
会話劇がメインの作品なので、テンポや間(ま)が大切になってくるのかなと感じました。音楽劇というと「たくさん歌う」という印象を抱く方が多いと思います。確かに歌もあるのですが、今回は、それよりも音楽の効果を使った演出がある「音楽劇」になると思います。音楽との間合い、セリフのテンポ感といったものが大事な作品なので、面白い脚本だからこそ、演者たちがしっかりと演じなければいけないと考えています。
――原作の映画もご覧になられているそうですね。
話題になっている面白い映画があると友達から聞いて、このお話をいただく前に観ました。ワンシチュエーションで、きっと限られた予算の中で作られた作品だと思いますが、小さな気づきからどんどん物語が大きくなっていくという脚本がとても面白かったです。この舞台化の情報解禁があったとき、メンバーの有岡(大貴)が「『MONDAYS』(の舞台を)やるの? (映画が)好きなんだよね。舞台にも『味噌汁炭酸タブレット』は出てくるの?」って聞いてきたんですよ(笑)。映画はそんな知る人ぞ知る、映画やエンタメ好きな人こそ観ているすてきな作品なので、そうした作品に自分が出演できるというのは嬉しいです。
――薮さんが演じる村田賢にはどのような印象を持っていますか?
生真面目に仕事をしている人という印象です。いわゆるブラックな労働環境なのですが、その中でもやるべきことをきちんとやっているタイプなんだろうなと。だからこそ、ブラックになってしまうんでしょうね。怠慢な人だったり、要領よく適度にできる人ならきっとそうはならない。なんでも頑張ってやってしまうからブラックになってしまうのかなと思いました。
――これからの稽古に向けて、役作りをどのようにしていきたいと考えていますか?
ミュージカル作品では、海外を舞台にした作品が多いので、久々に日本人を演じるんですよ(笑)。しかも現代に生きる人です。村田を演じるためには、いかに社会に溶け込めるかが大事だと思うので、いい意味で浮世離れせずに、いかに普通でいられるかを意識したいと思っています。
――会社勤めの生活というのは、今の薮さんの生活とは全く違うものですよね。
そうですね。でも、会社員の友達も多いですし、家族にもサラリーマンはいるので。それに、僕は、意外とどこにでも溶け込めるんですよ(笑)。電車にも乗りますし、いかに普通でいるかを感覚的に感じるようにしています。どうしてもこの仕事をしているとその感覚が鈍ってしまう時があるので、そうならないように気をつけています。
――ストーリー的には、この作品の面白さはどんなところにあると感じていますか?
映画でも舞台でも観ている方は、すぐにタイムループしていると気づきますが、登場する人物たちは最初は気づいていない。俯瞰で観ているお客さまと気づかない人たちのギャップという面白さはあると思います。タイムループしていると、毎回、必ず話すセリフがあるんですよ。台本を読んで僕も驚きましたが、本当に何度も同じ芝居をするんですよ(笑)。何度もタイムループするうちに、お客さまも「このシーンがきた!」と思ってもらえると思いますし、思わず口に出したくなるワードもたくさん出てくるので、それもこの作品の魅力なのではないかと思います。
――村田は映画オタクで『卒業』や『大脱走』といった映画が好きだという設定です。薮さんはその2作はご覧になりましたか?
知ってはいますが、まだ観れていません。ただ、僕もそういうオタク気質なところがあるので、そこは似ているなと思います。僕も同じ映画を何度も観てしまうんですよ。
――これまでで一番、多く観た映画は?
『もののけ姫』です。気がついたら観ています(笑)。時々、金曜ロードショーで放送していたりするので、それも観ますし、Blu-rayも持っているのでBlu-rayで観ることもあります。子どもの頃に最初に映画館で観たジブリ作品が『もののけ姫』だったんですよ。だからか、定期的に観ています。僕はきっとあまりアップデートができないんだと思います。音楽も仕事上、聴くことも多いですが、自分が好んで聴く音楽は昔からずっと同じ。新しい音楽を自分から聴くことも少ないですね。
――この作品では、遠藤拓人役の平間壮一さんとの絡みも多いと思いますが、平間さんの印象を教えてください。
1年半ほど前に(平間が主演した)『イン・ザ・ハイツ』を観劇させていただき、すごくいい俳優さんだなと思いました。会話から急にラップに入るというすごくテクニカルなことをされているシーンがあり、それもすばらしかったですし、今回ご一緒できることがすごく嬉しいです。実は同い年で、誕生日も1日違いなんですよ。ビジュアル撮影のときに少しだけお話ができたのですが、フィーリングが合いそうだなと感じました。
――本読みの雰囲気はいかがでしたか?
スケジュールの都合でいらっしゃれない方もいましたが、とてもいい雰囲気だったと思います。梶原(善)さんはさすがの名人芸で、すでにキャラクターが出来上がっていました。先日、(梶原が出演している)ドラマ『おい、太宰』を観たのですが、梶原さんはキャラクターに入るのが上手い方だなと改めて感じました。もちろん僕とはキャリアも違いますし、盗めるものがあるのか分かりませんが、たくさん学ばせていただけたらと思います。
――PARCO劇場に立つのは今回が初めてということですが、PARCO劇場にはどのような思いがありますか?
(PARCO劇場のある)渋谷は最先端で、日比谷や有楽町とはまた違う魅力のある街です。グランド系の舞台といえば日比谷、小劇場なら下北という印象がありますが、渋谷はその中間というイメージがあります。それから、渋谷PARCOの中に『ジョジョの奇妙な冒険』のショップができたらしいんですよ。今回は仕事で(渋谷PARCOに)行けるので楽しみにしています。
――ところで、本作にちなんで、もし、薮さんが過去に戻ってやり直せるとしたら、いつに戻りたいですか?
高校生です。友達に恵まれてはいましたが、数は少なかったんです。それに、思春期でツンツンしていました(笑)。なので、今のこの精神年齢で高校生をやり直したいです。今、学生になったら豊かな学生ライフを送ることができそうな気がします。
――具体的に高校生になったらやりたいことはありますか?
体育祭のリレーの選手を決めるために、全員のタイムを測ったことがあったのですが、僕はそのときにハッスルし過ぎて転んで骨折してしまって。リレーにももちろん出られませんでした。それをやり直したいです。しかも、そのとき僕はジュニアでちょうど新橋演舞場で『滝沢歌舞伎』に出演していたので、ギプスをつけたままステージに上がりました。タッキー(滝沢秀明)は優しかったですが、マネージャーさんには「仕事じゃないのになんで骨折しているの?」とすごく怒られたのを覚えています(笑)。
――最後に公演を楽しみにしているお客さまにメッセージをお願いします。
普段、生活しているとタイムループしているような感覚に陥ることがあるかもしれませんが、何か目線が変わるだけでも、退屈な日常も面白くすることができるかもしれないなと本作を通して気づいてもらえたら嬉しいです。原作の映画を好きな方でも、舞台版のオリジナルストーリーをパラレルワールドのように楽しんでいただけると思いますし、舞台版は舞台版としての良さが出た作品になると思いますので、ぜひ公演を楽しみにしていただけたらと思います。
インタビュー・文・撮影/嶋田真己
ヘアメイク/二宮紀代子
スタイリスト/寒河江健(Emina)