
三島由紀夫の長編小説『三島由紀夫レター教室』は、5人の登場人物が交わす手紙で展開する、ユニークで風刺の効いた恋愛小説です。1960年代の空気感とともに、三島由紀夫のユーモアと知性が光る異色作として、今なお根強い人気を誇ります。
このたび、三島由紀夫生誕100周年を記念し、同作が朗読劇として上演されることに。総勢48名にのぼる豪華な声優・俳優陣が出演する注目の舞台です。今回はその中から、太田夢莉と田中雅功によるスペシャル対談・第二弾をお届け。取材時が「ほぼ初対面」だったお二人が、互いに気遣いながらも時に大胆に踏み込み、演じるキャラクターや劇中の「言葉の魅力」について、じっくり語り合います。
――上演台本を読み、どう思いました?
田中 登場人物全員が自分の一方的な思いを語っている面白さというか、その構図がすごいと感じました。朗読なのに、会話劇ではない。
太田 会話のラリーじゃないですもんね。
田中 そうなんです。勿論内容も面白かったけれど、まずその構図に惹かれました。
太田 お話をいただいた時に「手紙がテーマ」と聞いたので、例えば「あの頃言えなかった想いを、いま手紙に込めて」みたいな感動的な題材かな? と思ったのですが……。
田中 分かる分かる。僕もそうでした。
太田 まるで違っていてびっくりしました。
田中 あははは。
太田 お話の冒頭から際どいワードを連発するし、ここまで踏み込んだ作品に出演させていただくことが初めてなので、とにかく新鮮です。
田中 ちょっとダークな笑い多めで……。
太田 ちょっとね(笑)。文字で見ると「おっ!」と思う。
田中 「これ(台詞として)言ってもいいの!?」。
太田 そうそう。そんな感じ。
――田中雅功演じる「炎タケル(ほのお たける)」のこと
田中 僕らは(劇中において)割とまともな二人というか。
太田 うん、周りがおかしな人ばかり。
田中 まともな二人……ですよね?
太田 そう思います。(自身と演じる役が)似ていると思います?
田中 似ていると思うのですが。
太田 うんうん。
田中 ただ、すごく真面目で良い奴なので、自分に似てると言いづらい(笑)。
太田 あ〜、私も似てるとは言いづらいです(笑)。
田中 二人ともどこか通ずる部分がある、と思いながら台本を読みました。
太田 分かります。
田中 タケルのことで言うと、舞台演出や脚本に興味のある人で、僕も脚本に興味があり、趣味でお話を書いたりしています。
太田 えっ!? すごい!!
田中 そういう部分は似ているかな。
太田 「演出家として絶対成功するんだ!」みたいな、結構熱い人ですよね?
田中 熱いです。
太田 今の時代、これ位の熱量を持って「絶対叶える!」と言える男性は少ないですよ。こういう宣言ができる男性は素敵だな〜と、台本を読みながら思いました。
――太田夢莉演じる「空ミツ子(から みつこ)」のこと
太田 トビ夫さんからのラブレターをめっちゃ気持ち悪がっていた。
田中 (笑)。
太田 その印象が強く残っています。トビ夫さんが表現するワードセンスもすごいし、それに返信するミツ子のワードセンスもすごい。物事を例える言葉が抽象的なラリーになっていて「私はこのワードセンスを持ち合わせていないなぁ」と思っちゃった。正直羨ましいです。
田中 羨ましい?
太田 私もこれをできるようになりたいし、この時代だからこその関係性なのかな? 私、令和を生きていて、どこか物足りなさも感じているんです。
田中 なるほど。
太田 馴れ合いの関係性というか。だから……、なんか羨ましい。
田中 台本を読んでいると、タケルよりミツ子の方が一枚上手で、余裕のある印象があります。「女性の方が余裕のある関係性は、どの時代にもあるのだなぁ」なんて考えたり。だからタケルからミツ子にプロポーズするとは思わなかった。
太田 うんうんうん。
田中 タケルの一方的な片想いで終わりそうと思っていたら、意外と……。
太田 そうなの。意外とね。
田中 ミツ子はそれらを全部見透かした上でタケルに接していると想像できるから、やっぱりミツ子が一枚上手なんですよ。
太田 上手だと思う、すみません上手で(笑)。
――お互いのこと、聞いてみます?
田中 そうですねぇ……。すごく真面目な方だと思いますし、あの、恋はいっぱいしています?
太田 あははは。いやいや全然ですよ〜! そう見えますか?
田中 はい、偏見かもしれませんが。
太田 そう思ってもらえて嬉しいです(笑)。逆にどういう女性に惹かれますか?
田中 僕が? それともタケルが?
太田 えーと、ご本人で。
田中 そうですねぇ。よく笑う人に惹かれるかもしれないです。
太田 じゃあ、朗読劇中はミツ子としてずっと笑っていますね。
田中 それ狂気ですよ!(笑)。
太田 ミツ子をちゃんと好きになってもらえるように。
田中 でも、ミツ子さんのようなタイプは好きかも。
太田 おお〜!
田中 どこか本心が見えない所とか、気になるかもしれない。
太田 引っ張りたい派ですか? 引っ張られたい派ですか?
田中 ん〜〜〜。
太田 女性誌みたいな質問になってきた(笑)。
田中 あはは。割と自由に生きている人間なので、引っ張りたいとか、あまりないかも。
太田 タケルとミツ子の関係に近い?
田中 正にそう。タケルは芝居のことばかり考えていて、おそらくですけど、ミツ子より芝居を優先するタイプだと思う。
太田 あ〜、そうかも。
田中 やたら熱いこと言ってますけど、いざとなったら「……今日は芝居の話をするから」とか言い訳して逃げ出しそう。
太田 でも、あの熱い感じ、私は好きです。めっちゃ良くないですか?
田中 惹かれますよねぇ。
太田 ああいう言われ方なら「会ってくれない!」と怒らないと思う。すごく良い。
――朗読劇の出演経験は?
田中 僕は一度だけ。
太田 一度ですか!?
田中 しかも高校生の頃だから、めっちゃ前。
太田 緊張しません?
田中 今は平気だけど、稽古に参加したら緊張するかもしれない。
太田 私、何度も朗読劇に出演しているけれど、普通の舞台より朗読劇の方が緊張します。
田中 えっ? 本当ですか!?
太田 舞台は台本が頭に入っているし、何度も稽古をしているから「間違える訳がない」というマインドで行けるんです。でも朗読劇は手元に台本があって、一瞬目を離した隙に「……あれ?」みたいなことが待っているから「間違えられない!」という緊張感がすごくて。どんなに心を落ち着かせても手汗が半端ないです。
田中 なるほど〜。
太田 やっぱり「言葉だけ」ですから。視覚でごまかすことができないからこそ、すごく緊張します。間違えられない。取り返しがつかない。一度きり。そういう状況が多いですよね、朗読劇は。
――他キャストの出演回、観たいですか?
田中 僕は観たいです。
太田 観たい派ですか! 自分の出演前でも?
田中 めっちゃ観たいですね。
太田 ここは全然違う。私、出演前なら観たくない。
田中 出演後なら?
太田 後なら観たいです。音として頭の中に入っちゃうから、どうしても真似しちゃうと思う。再演の舞台に出演する時も、映像を観るとなぞってしまうので観ないようにしています。
田中 そっかぁ。
太田 観られる人が羨ましい。「自分は自分」と思えるからこそ、だと思うから。
田中 そう言われると……、そうかもしれません。
太田 私はまんまと流されちゃう。
田中 そこは割とセパレートして観られます。確かに「僕は僕」みたいな感じかも。
太田 (この質問に関しては)二人きっぱり分かれますね〜。
――出演に向けて、意気込みを一言
太田 最初は「終演後に手紙を書きたくなるような感動作かな?」と思っていたけれど、今は「とんでもなく面白い作品だー!」と思っています。なので、手紙を書きたくなるかは分かりませんが、令和の時代は言葉がやや単調で、こういった「言葉の大切さ、言葉づかいの魅力」みたいなことを、皆さまに知っていただけたら嬉しいです。私もこの作品から学びます。
田中 やっぱり、文学だなぁと思いますよね。
太田 はい、とっても。
田中 この作品は、言葉がすごく綺麗で、言葉そのものが秀逸ですし、言葉の魅力溢れる朗読劇だと思うんです。それに加えて、僕は読書がめちゃめちゃ好きなので、終演後には本を読みたくなるような、そんな作品になればいいなと思っています。
太田 そうなんですね!
田中 現代は本が敬遠されがちな時代になってきていると感じるので、三島由紀夫の作品は勿論のこと、本自体、言葉自体に興味を持っていただけるような作品になるのでは? と期待しています。
太田 めっちゃ聞かれると思いますが、一番好きな本は何ですか?
田中 難しいな〜。……ここ最近の一番のお気に入りは、村田沙耶香さんの『地球星人』(2018年/新潮社刊)です。
太田 ぜひ読んでみます!
田中 なので、本や言葉の美しさが伝わってくれたら嬉しいですね。
太田 本が好きっていいですよね〜。素敵です。
田中 僕、森鴎外が好きで、よく読むのですが、(昭和40年代など)この頃の作品はあまり触れてこなかったので、とても新鮮でした。
取材・文/園田喬し