
梅津瑞樹と橋本祥平による演劇ユニット「言式(げんしき)」の第3作目『んもれ』が、10月16日(木)に東京・品川プリンスホテル クラブeXにて開幕。ユニット初となる愛知公演を終え、梅津いわく「第2の公演初日」を迎えた本作の東京公演ゲネプロの様子をお届けする。
※本記事には公演の内容が一部含まれています。
東京公演のゲネプロでは、愛知公演を経て進化した舞台が披露された。圧巻のラストを目の当たりにして、夢から醒めたのか、はたまた未だ夢の中にいるのか。帰宅後も余韻が続くような作品に仕上がっていた。この意欲作がたった2人の役者によって生み出された事実に、“試す場所”として生み出された言式の可能性を感じずにはいられない。
客席に入った瞬間、これまでにないセットが目に飛び込んでくる。シンプルなボックスや布で構成されてきた過去2作品と比べると、大きく印象の異なるセットが並ぶ。360度ぐるっと客席に囲まれた円形舞台の中央にそびえるのは小高い丘のように盛り上がったステージで、これは言式初の盆となっている。その頭上や四方に伸びる通路には無数の缶詰が置かれ、アイテム自体は現実的だが、その配置からはリアリティが意図的に排されているようにも見えた。
物語はつねに2人の男の対話として描かれていく。役名のない男たちが会話している場所や状況については多くは語られない。語られたとしてもそれが真実なのかはわからない。ユニット初の長編作品となった本作は、その難易度も格段に跳ね上がり、同時に脚本・演出を手掛ける梅津の脳内のいったんを覗き見しているような感覚を覚えた。
本作は一見すると、夢を追う人と夢を追わない人の対立関係を描くが、梅津の描き出す世界観はそう単純明快ではない。2人の男の間で繰り広げられているように見える会話は、そもそも本当に対話なのか、それとも1人の男の自問自答なのか。滅亡した世界で出会った2人の男や、医者風の男と何も思い出せずその場にいる男、同居中の夢を追いかける男と夢を諦めた男。これらの男たちの会話に、さらには男たちによる劇中劇も加わり、それらが入れ子構造となって物語はいっそう複雑となっていく。どれが夢で現実かは、判然としないし、その境目を探すこと自体、意味のないことなのかもしれない。受け取り方は観客それぞれに委ねられているが、それでも、悲痛なまでの“何者かになりたい”という渇望は伝わってきた。同時に、舞台上で表現できるのであれば、何者であるかなんて関係ないと叫ぶような2人の熱演にも胸を打たれた。
以前、本作の取材をした際、梅津は『解なし』『或いは、ほら』『んもれ』で、1つのテーマが完結するのではないかと話してくれたが、オムニバスではなく長編で描ききったとあって、本作はこれまで以上にテーマ性が色濃く表現されていたように思う。彼の作品を観ていて感じるのは、夢と現実、才能と凡人、持つ者と持たざる者……そういったものは紙一重であり、表裏一体。それに輪郭を与える者が、どんな名前を与えるか次第なのかもしれない、ということだ。観劇した人の数だけ解が生まれるような、ある種、作り手である彼らにとってだけでなく、受け取り手であるこちら側も“試”される場なのかもしれない。
これだけ複雑な構成の脚本を作品へと昇華する役者・梅津瑞樹と橋本祥平の芝居も見事。前作「或いは、ほら」のときのような、2人で3世代の家族を演じ分けるのとはまた違った形の演じ分けで、男の生き様を痛烈に描き出す。2人の芝居の相性の良さも存分に感じられた。
円形舞台であることを活かした演出とあって、観劇するブロックによって見える景色も表情もまるで違う。それぞれの場所で受け取れる景色の違いや、れもんや風船といった小道具が示唆するもの、そして、そもそもの物語が観客に投げかけるものとは何なのか。3年目を迎える言式が生み出す、1つのテーマの完結を劇場で受け取ってみてはどうだろうか。上演時間は約1時間45分、東京公演は10月16日から10月26日まで上演。







取材・文・撮影/双海しお