Nana Produce『青春、絶望を笑う』|田崎那奈・深井邦彦・依田啓嗣・関口アナン インタビュー

俳優として活躍する田崎那奈が自ら舞台プロデューサーを務め、2006年に発足したNana Produce。第25弾となる今回は、作・演出に演劇ユニット「HIGH colors」の深井邦彦による『青春、絶望を笑う』を上演する。本作は、絶望の淵に立たされた青年と彼と再会した人々が、残像のような青春の記憶とともに“今”の生を駆け抜けていく、濃厚な生き様の物語。依田啓嗣、関口アナンらキャスト陣は、この物語をどのように演じていくのか。田崎、深井、依田、関口の4人に話を聞いた。

――今回のNana Produceはどのような着想から始まったものなのでしょうか。

田崎 去年の秋ごろ、役者に復帰したいと思いました。このNana Produceではもともと、自分が主演を務めてきましたが、近年は子育てなどもあり、出演せずプロデュースを担当していました。久しぶりに自分が出演する舞台をやりたいと思ったとき、深井さんの名前が浮かんで声をかけさせて頂きました。今回は私も出演しますが、自分より若い役者達と一緒に作品をつくりたかったんです。内容も青春ドラマを描きたくて、今回の物語になりました。また、大阪公演については、関西在住のファンの方々からご希望いただいていたため、8年ぶりに大阪公演も行うことにしました。

――深井さんは今回のお話を聞いたとき、どんな印象を持ちましたか?

深井 ナナプロさんの作品はよく見ていて、これまで多種多様な作家が選ばれている中で光栄でした。青春というテーマとキャスティングを聞いたとき、近い年齢の方と仕事をする経験が少なかったため、自分の血肉になっている青春というテーマを扱えることが面白いと思いました。僕自身、地元意識が強い人間です。同年代と青春をテーマに作品を作れるのは楽しみでした。

――実際に書いていく中で、自分の想像と違った部分や、書き始めたからこそ見えてきたことはありましたか?

深井 人生で初めて、2か月ほどかけて書きました。普段はそこまでかからないのですが、同年代すぎて「まるで自分自身の言葉みたいだ」と思って恥ずかしい気持ちもありました(笑)。でも書いちゃっているんです。自分の人生経験が出てしまったからかもしれませんが、難産でした。それは初めての経験でした。

――台本が上がってきて読んだときの印象は?

関口 第一印象は…高カロリー(笑)。

深井 それ、稽古場入りして開口一番に言ってましたね(笑)

関口 そうなんです(笑)。深井さんの作品は何本も見ていて一筋縄ではいかないと思っていましたが、予想の10倍くらいの内容でした。チャレンジングな作品になりそうです。

依田 最初に新幹線で読んで、ずっと泣いてしまいました。役の気持ちに入り込みすぎて…。その後も電車に乗っていて、ふと涙が出てしまうこともありました。出会いと別れ、成長があって、みんなでバトンを渡しながら挑む、ロードムービーのような作品だと思います。死や病気について考えさせられました。

田崎 私も涙が止まらなくて、読むのに時間がかかりました。次のページをめくるのが怖いほどでした。家族愛がテーマで、私のプロデュース作品でやらせていただく脚本ですが、どこの舞台で上演しても素晴らしいものになるはずです。プロデューサー目線としても、そのクオリティの高さに自信を持てる作品です。

――現在は本読みが始まったところと聞いていますが、読み込む中で捉え方が変化した部分はありますか?

関口 今はみんなで登場人物の関係性の整理をしているところです。特に僕が演じる山口陽太と依田くんが演じる土居隆之介の関係性は、青春の部分は描かれていても、描かれていない時間の方が彼らの人生では長いんですね。その部分は台本には書かれていないので、自分たちで作り上げていくことが全体のクオリティに影響すると感じています。陽太は、一周回って素直な人という印象です。僕の中では愛すべきキャラクターですが、売れない芸人として笑いという正解 にたどり着けないし、さまざまな負荷がかかっています。物語の始まりと終わり で見え方が大きく変わる役なので、挑戦的な役だと感じています。

依田 最初は隆之介のことを「かわいそうな人生だな」「幸せなのかな」と思いましたが、人の幸せはそれぞれ価値観が違います。自分の尺度で見過ぎていたことに気付き、役の幸せや見ている景色を探さなければならないと思いました。隆之介は素直になりたいけれど、耐えきれないこともあります。それでも周りのために強く在れる人です。この役から役者として大切なことを学べた気がしています。

田崎 役のキャラクターについて大まかには理解していますが、まだ細かく肉付けしているところです。演じる土居祥子は自分と役が近いので演じやすい役だと思います。深井さんとは初めての仕事なので、どのようなアピールを好むか考えながら稽古しています。稽古はまだ3日目で、演出家のOKをもらうためにいろいろ試している段階です。

――深井さんは演出する上で意識していることはありますか?

深井 特にメソッド的なものは自覚しておらず、意識していることもありません。キャスティングが決まってから脚本を書き、見えている部分と見えていない部分を同時にキャラクターに載せるつもりで書きました。解像度を高くして、“人間”の分かりにくさを表現したいと思っています。キャラクターの性格や歴史を強めに書くタイプですが、俳優から出てくるものも大事にしたいです。

――今回のカンパニーの印象はどうですか?

関口 ナナプロには何回も出演しているので、初めましての人より知っている人の方が多いですね。いつも温かい座組で、今回は同世代と一緒にやれるのも楽しいです。男4人で男子校のような雰囲気があります。

依田 本当に現場が楽しく、信頼できる方がたくさんいて、新しい方も優しいです。役どころもさまざまな環境にいる役なので、皆さんの力を借りて最後までやりたいです。

深井 初めましての人も多いですが、男子校のような雰囲気には同感です。よく飲みに行くのですが、びっくりするほど飲みます(笑)。スタッフも含めて男子校の生徒のような印象です。演出家として、あまり男子校のノリになりすぎないよう気をつけています。

田崎 私は人が笑ったり、仲良くしている姿を見るのが大好きです。舞台上の人たちが一つになり、苦しみながらも楽しそうに作品を作る姿を見るのが好きです。今回は自分発信ではなく、人から受け取ることが多く、たくさん探して見つ けていきたいです。

――今回の作品で乗り越えなければならない課題は?

関口 芸人役なので何でもやらされやすいですが、その“何でも”が多いんです(笑)。物理的なチャレンジもあり、毎日やりながら一番いいものを出したいです。「お互いを鼓舞するように踊り、飲む」など無茶振りのト書きをどう表現するかが課題です。

依田 体験したことがないことも多いので、皆さんの話を聞いたり調べたりして探すしかありません。メンタル面での調整も必要なので、毎日少しずつ進めたいと思います。

田崎 作品を超えたいです。本当にいい台本なので、キャストとスタッフでさらに良いものにしたい。「本を超えられた」と言えるところまで持っていきたいです。

深井 演出家として、力のある俳優と向き合うため、今まで以上に演劇と向き合わなければなりません。そのため、朝早く起きて台本を読み直すなど、自分を律しています(笑)。

――Nana Produceとして、ずっと大切にしてきた部分は?

田崎 演劇を通じて元気になったり、愛を感じたりできる作品を提供したいと思っています。今回は年代によって異なる苦しみに共感し、背中を押す作品にしたいです。生の声を聞き、何かを持ち帰ってもらいたいです。

――ナナプロの魅力は?

深井 那奈さん率いる人たちの魅力です。とても人間的な劇団・プロデュースで、人間らしさにあふれています。また、皆さんが本当によくお酒を飲むのも特徴で好きです(笑)。

関口 なぜか那奈さんの力になりたいと思わせる魅力があります。子育てをしながら創作活動を同時進行で行うのは並大抵ではありません。そのエネルギーに応えるように頑張りたいです。

依田 那奈さんとの出会いが自分の下積み時代の大きなターニングポイントで、芝居も楽しくなりました。Nana Produceのマネージメント部に所属していますが、初めて自分を「売りたい」と言ってくれたんです。たくさん活躍して、恩返ししたいです。

――最後に、観客へのメッセージをお願いします。

依田 誰かを思い浮かべるようなお話になっています。ロードムービーのような空間を一緒に楽しんでいただければ嬉しいです。

関口 「青春、絶望を笑う」というタイトル通りの作品です。タイトルがそのまま表現されている作品なので、ぜひ楽しみにしてください。

深井 恥ずかしげもなくやっている青春と、青春の残滓で揺れている男子校ノリ。そのノリを楽しむみんなの姿をぜひ観てください。

田崎 当たり前に生きているからこそある素晴らしいことや、懐かしく涙したり笑ったりできる作品です。心を揺さぶられること間違いなしです。東京と大阪でお待ちしています。

取材・文/宮崎新之