11月1日(土)からの3連休を皮切りに、高円寺K’sスタジオ本館にて優しい劇団『光、一歩手前』が開幕する。本作は作・演出の尾崎優人が主宰し、名古屋を拠点に活動する優しい劇団の新作であり、7周年を記念した初のロングラン公演。東京と名古屋(シアターココ)の二都市で上演され、尾﨑をはじめ、千賀百子、石丸承暖、宮崎奨英、橘朱里、池田豊、下野はな、小野寺マリーの8名の劇団員に加え、日替わりで個性豊かな13名のゲストが出演する。
この1年、稽古と上演を同日に行う「大恋愛シリーズ」の上演や浅草九劇で開催された「優しい劇団の浅草演劇祭」などで話題を集めてきた優しい劇団だが、本作は『歌っておくれよ、マウンテン』から約2年ぶりとなる新作かつ待望の本公演である。
―舞台はとある未来の地方都市。空を見上げても星が見えなくなってしまった時代の天文部に焦点を当て、“光”に想いを馳せ、青春を生きる高校生たちの姿を追う。
平均年齢25歳、名古屋から演劇の新たなスタイルを発信する優しい劇団の目指す演劇、新作の展望とは? ローチケ演劇宣言!初登場となる尾崎優人に話を聞いた。
18歳で旗揚げ、きっかけは唐十郎
――7周年ということは、18歳の頃に旗揚げされたのですね。この数年は名古屋のみならず東京での活躍も目覚ましいですが、初インタビューなので、まずはこれまでの歩みからお聞かせいただけたらと思います。
高校を卒業してから「唐十郎の『少女仮面』をやってみたら?」と東京の知人にすすめられて、有志で集まったのがそもそもの始まりでした。高校演劇を通じて知り合った名古屋のメンバーでやってみようという話になって…。かつては他地区のライバルだった人もいたのですが、卒業後に一緒に演劇を作れたのは楽しかったですね。その取り組みを一回で終わらせずに続けてみよう、ということで始まったのが優しい劇団でした。
――作品主導で劇団が旗揚げされるって珍しいことですよね。
正直なところ、『少女仮面』を読むまでは唐さんのお名前しか知らなかったし、劇団唐組を観たこともなかったんです。でも、読んだ瞬間にバチバチっときて、なんといっても「文字が、言葉がかっこいい」と衝撃を受けたんですよね。その後、コロナ直前に『ジャガーの眼』で念願の紅テント初観劇が叶って、すごく嬉しかったです。それまでは高校演劇しかやってこなかったので、「どうやったらこの文字に、唐さんの言葉に立ち向かえるのか」というところからのスタートでした。
――その後、尾崎さんは俳優業のみならず、劇作家としても多くの作品の執筆に取り組まれています。このあたりの転機は何かきっかけがあったのでしょうか?
戯曲を書いたのはコロナ禍が初めてだったんですよ。コロナ禍では演劇がネガティブな意味合いで話題になることが多くて、その中でも作り手側から「とにかく観に来て下さい!」といった旨の宣伝文句が多用されてきたことについても向き合わざるを得ないと感じました。演劇はお客様がいて下さって初めて成立するので、その気持ちは分かるのですが、コロナ禍でのダメージをど真ん中で経験している僕らの世代はそれじゃダメだと思ったんですよね。「来て下さい」と言って来てくれる人はもういないかもしれない。「だったら僕たちから行こう!」っていうことで、人の目に触れる野外劇を始めました。
――なるほど。コロナ禍での経験を経て、劇団のカラーを築かれたのですね。
実は、現在のメンバーの大半ともコロナ禍をきっかけに出会っているんですよ。旗揚げ当時のメンバーは僕と制作の大岩右季しかいなくて、それ以外のメンバーは大学由来の劇団活動が停止しちゃった時期に加入してくれた人たちなんです。そうした状況でそれでも演劇をやるとなった時に、「唐十郎さん、つかこうへいさん、野田秀樹さんといった憧れの人たちの言葉を借りて戦うのは違うな、今を生きる自分の言葉で書かなきゃ」と思って戯曲を書き始めたんですよね。当時は僕以外の劇団員が学生だったので時間もあったし、台本を書きさえすればやってくれる人がいて…。集まる理由になるというのが大きかった。書けば新作が作れるし、演劇をコンスタントかつインスタントにやっていくには僕が書くのが手っ取り早い。なので、多作になったから公演をやったというよりは、公演をやりたいと思ったら多作になっていたという感じでした。

1日限りの演劇「大恋愛シリーズ」の開発と反響
――東京での認知はこの1年の「大恋愛シリーズ」の連続上演を機にさらに高まって来たように思います。1日で稽古と上演を行うというまさにコンスタントかつインスタント、そしてストロングな形式ですが、似た形式で上演を行うカンパニーも出てきて、一つのムーブメントを越え、新たなスタイルの先駆けともなっている印象です。
元々は4月になり、社会人になった劇団員と芝居を続けるための模索から生まれた演劇の形でしたが、それがどんどん飛躍して広まりつつあることはとても嬉しく思います。最初は劇団のグループラインに「1日で作って上演する演劇をやってみたいんだけど」と送って、それにみんなのリアクションマークがばばばっとついて…。その1週間後には告知してキャスト募集をし、5月中旬にはvol.1を上演しているというスピード感だったんですよ。当初は「とりあえず3ヶ月はやってみよう」という話だったのですが、初回から想像以上の多くの人が来てくださって、ありがたい悲鳴で「この感じだと河川敷では無理!」ということになり、親しい知人を介してK‘sスタジオさんをご紹介してもらい、そこから北池袋新生館シアターや王子小劇場、浅草九劇などの劇場でもやらせてもらうようになりました。K‘sスタジオは『光、一歩手前』の会場でもあるのですが、もはや滞在制作と言っていいくらいお世話になっています(笑)。名古屋拠点の自分たちにとっては、東京でのそうした出会い一つひとつにすごく支えられているんですよね。
――大恋愛シリーズのカーテンコールでは大向こうも飛んでいましたよね。前のめりに観劇を楽しむ方々の姿に、優しい劇団のエネルギーの大きさを実感しました。
大恋愛シリーズの本番は、恋焦がれた人たちにやっと会える日なんです。この人たちと今日会えて、今日別れなきゃいけないっていうことを前提にお芝居作る。それはすごく楽しくて、寂しいことなんですよね。だけど、演劇がなければ出会えなかったと思うと、やはり1回1回が奇跡の連続で…。「1日しか会えないんだし、好きでいたい」っていう気持ちで人が集まるって、それだけで素敵なことだと思うんですよね。その行為って、なんだかすごく人の営みとして愛おしくて、尊いものではないか、と僕は思っていて…。「演劇」が、人と出会い、そして仲良くなれる「理由」になれるってシンプルにいいなって思うんです。しかも、実際みなさん異様に仲良くなるので、僕らは名古屋に帰るのが毎回すごく怖いんですよ。「ああ、今頃僕ら以外で遊んでいたりするのかな」とか思って…(笑)。

――まさに嬉しいような寂しいような、複雑な心境ですね(笑)。この1年の大恋愛シリーズを経て改めて感じたこと、新たな気づきなどはありましたか?
大恋愛シリーズをやる度に、「1日であれだけのことができるなら、本公演は一体どんなすごいものが観られるんだ!」というような感想を観客の方が書いて下さるので、それなりのプレッシャーを感じながら本公演の創作に励んでいます(笑)。稽古をしていても「なんで1日であんなに面白いものが作れるのに、今日は1日稽古してこれだけしか進まなかったんだろう」と思ったりすることもあって…。でも、大恋愛シリーズと本公演ではやはり取り組み自体がまるで違うんですよね。短距離走と長距離走で使う筋肉が違うように、全く別のことをやっている。最近はそう実感するようにもなりました。大恋愛シリーズの台本って、恐ろしいほど早く書けるんですよ。1日しか会えないあなたに向かって愛を書く。そういう意味で最初の当て書きなので筆が進みやすいんですよね。一方で、ずっと愛を伝え続けてきた劇団員に改めて送る台本というのはとても難しい。その分、やりがいもあるなとも思います。
優しい劇団の集大成であり、
新章でもある新作『光、一歩手前』
――1年の積み重ね、そして7年の歩みを経て、いよいよ本公演『光、一歩手前』が東京と名古屋で上演されます。今回はどんな物語になりそうでしょうか?
今回は、高校生を中心にした青春小説みたいな作品をイメージしました。物語の舞台は数十年後のどこかの地方都市。排気ガスなどの環境問題が加速して町が明るくなったせいで空を見上げても星が見えない。そんな時代の天文部の高校生たちのお話です。ゲストはポジションだけ決めていて、内容は13人それぞれへの当て書きで書き下ろしました。実は、青春の話ってこれまであんまりしてこなかったんですよね。そういう意味では新境地でもあります。遠かった光が近くには見えてきたけれど、“あと1歩”の重さや距離を前にもがいている。タイトルはそんな劇団の状況とも重なっていて、今描かないと溢れ落ちてしまうものを掬い上げるように書きました。
――稽古はどんな感じでしょうか?
いい意味で「試行錯誤」というものを感じながら日々稽古に向かっています。本公演だからこそできることももちろん沢山あって、時間をかけて台本を書くことや、稽古が存分にできる喜びもその一つなんですよね。大恋愛シリーズでは台本に全てを書き込んじゃうんですけど、本公演では日々の稽古でどんどん肉付けをしていける。そして、それらは劇団員とのコミュニケーションだからこそできることでもあるんです。今回はゲストを除いては劇団員のみしか出ないので、勢いはそのままにより濃密な作品をお届けできると思います。
――劇団員の魅力、すなわち劇団の力を堪能できる機会になりそうです。同時に、13名のゲスト陣は1日限りなので、本公演と大恋愛シリーズ双方の醍醐味が色濃く味わえる公演でもありますよね。
そうです! まさに優しい劇団のこれまでの歩み全てを込めた公演になりそうですし、同時に新たなスタートでもある気がしています。東京って、僕たちにとったらまだまだ小旅行先なんですよ。せっかく東京に行くんだったら、観たい作品や劇団を観ておきたいし、会いたい人には会いたいと思って、毎回スケジュールをパンパンに埋めているんです。そうやって距離を越えて知った人たち、出会った人たちと一緒に作品が作れることはすごく嬉しい。今回のゲストは「先輩俳優に絞ろう」と決めてオファーをさせていただきました。「名古屋拠点の25歳の若手劇団が東京で新作を上演する上で、東京の偉大な先輩方の胸とお力を借りたい!」。そんな強い思いと明確な意図があってお願いをしました(笑)。お願いした方の誰にも断られることがなく、皆さんが快諾してくださったこともとても励みになりました。
――ここ2年ほどで尾崎さんご自身も東京の劇団に客演したり、活躍の場を広げています。地域を横断して劇団や俳優が繋がり、双方に影響を与え合うということは演劇全体においてもとても豊かなことですよね。
地方在住の僕を呼ぶ時にコストが頭にチラつくはずなのに、それでも声をかけて下さることはとても嬉しいし、僕たちもそうありたい。そんな思いもあり、今回のゲストの一人である福永マリカさんは東京公演ではなく、名古屋公演での出演をお願いしました。東京での素晴らしい出会いをホームでも還元したいし、こういった相互作用が東京―名古屋間だけじゃなく、どんどん増えていくといいなって思います。自分たちくらいの規模の劇団が、週末とはいえ3週間同じ劇場で公演を打てることってないと思うんですよね。「話題の公演が次の週末もまだやっていて観に行ける」っていう環境や状況を、名古屋の団体が東京で実現することに意味がある。そういう風に思ってロングランの挑戦を決めました。劇団員も東海と近畿と関東に分かれて生活をしているので、それぞれの生活の仕様に合わせて週末に稽古をやったり、Wキャストでスケジュールの融通が効くように工夫をしています。そんな風にサステナブルに作った演劇を東京で上演できるということ、地方に住んでいても東京でロングラン公演ができるということを新たなモデルケースにできたらと思っています。あとは、やっぱり11月の演劇のタイムラインを掻っ攫いたい!
――2年ぶりの本公演、抜群の意気込みです。最後に、優しい劇団の新章となりそうな本公演を通じて今後どうなっていきたいか。展望をお聞かせ下さい。
例えば、劇団☆新感線を観に行く時に食べる大阪のラーメン屋とか、唐組を観に行く時に食べる歌舞伎町のびっくりドンキーとか、僕自身、小旅行として観劇を楽しんできました。そこで食べるものがあって、そこで会える人がいる。それと同じようにお芝居を観ることも営みとして捉えたい。だから、僕たちも優しい劇団を観てあんかけスパ食べるとか、ひつまぶし食べるとか、そういう存在になりたいんです。幸いグルメはたくさんあるので…(笑)。そんな風に名古屋へ行く理由や目的、名古屋の新たな名所や名物の一つになりたいと思っています。なので、今回も東京公演が満席になったら「ラストチャンスに名古屋公演もありますよ」って堂々と言いたいですね。1時間半あれば来れるので、是非シアターココでの名古屋公演への遠征もお待ちしております!

インタビュー・文/丘田ミイ子
