プレミア音楽朗読劇『VOICARION(ヴォイサリオン)IV ~Mr.Prisoner~』林原めぐみ×山寺宏一 対談

藤沢文翁が原作・脚本・演出を手がけ、声優界・演劇界に身を置くキャストが読む音楽朗読劇「VOICARION(ヴォイサリオン)」シリーズ。その第四弾は、2016年の第一弾にて3日間限定で披露され絶賛を浴びた『Mr.Prisoner』の待望の再演。初演キャストの上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一が再び集結する。林原と山寺に話を聞いた。

 

――おふたりは声優として共演作も多いですね。

山寺「僕らは付き合いが長いもんですから、三十数年」

林原「もうそんなになっちゃうのか」

山寺「ほとんどデビューが一緒なんですよ。年齢は僕のほうが上ですけど…って言っとかないとね!」

林原「(笑)。ありがとう」

山寺「よく飲みにも行く仲です。『ヴォイサリオン』チームもすごく仲がいいですよ。藤沢(文翁)くん含め、今でもよくご飯に行きます。仕事関係なく」


――そんな仲のいいチームで3年ごしの再演ですが。

山寺「初演から『当然やるでしょ!』みたいな感じはあったよね」

林原「千秋楽がすごいスタンディングオベーションになって。それも『こういうのって立つものなんでしょ?』というのではなく、本当に皆さんがワッと一斉に立たれて、拍手が鳴りやまなかった。4公演しかできなかったので、ぜひもっとたくさんの人に観てもらいたいよねっていう話はそのときからあがっていました。でもこういうのっていくら『やりたいね』と言ってもキャスト変更があったりするものですが。奇跡に近い再演ですね」


――初演のとき、声をメインにお仕事されているお二人から見て、上川隆也さんと一緒にお芝居を作っていくことはどうお感じになられましたか?

山寺「とても新鮮でした。僕は上川さんとは以前ドラマでも共演させていただいたこともあるのですが、本当に素晴らしい俳優だし、人間性も“いい人ナンバーワン”なんじゃないかなっていうくらいの方で。繊細で聡明で、すごく気遣いもされるし、人間的にも大尊敬しているんです。そんな上川さんと朗読の舞台でご一緒できるとは思っていなかったのですが、やってみるとやはり役に対するアプローチも真摯でいらっしゃるし、我々のこともすごく認めてくださっていて。楽しかったです」

林原「私は、共演は初めてだったのですが、稽古で私たちがやっていることに対して感動してくださっていたのが印象的でした。ドラマや舞台の現場では、例えば自分のデスクならデスクが物としてあるけれども、私たちは“声で”何もないところにデスクを生み出すと言ってくださって。確かに私たちは、その扉がどんな扉かとか、距離がどれくらいかとか、台詞のみで見えるようにするんです。当たり前にやってきたことなのですが、上川さんはとても驚かれていて。それが私にとっては逆に新鮮でした。ただ上川さんはそれに戸惑いながら、すぐに吸収して、加味して、アウトプットなさったので、使う感覚が違う事への気付きとコントロールに感銘を受けました」――藤沢さんのつくる世界観にどういう印象を持たれましたか?

山寺「僕は10年以上前に彼の作品を読んだときに、なんだこれは!と思ったんですよ。ト書きもないし、説明をする狂言回しの役も、ナレーションもなにもない。登場人物たちの会話だけでなんでこんなに素敵なものが書けるんだろうって。正直、僕はそれまでは声優が朗読劇をやるって当たり前だからやりたくなかったんです。しかも声優同士の朗読劇なんて『普段やってることの延長じゃない』と思っていた。だから最初にオファーがきたときは迷ったのですが、そのときは女優さんと落語家さんと一緒にやるということだったので、異種格闘技をしてみたいという思いから、やることになった。それで本を読んだら『あれ?』と思って。こんな物語を読んだことがなかったし、『これは自分がやりたいものだ』とパッとひらめきました。藤沢さんはどの作品も『なんでこの短い期間にこんな作品を生み出せるんだろう』っていうのが不思議でならないですよ。プライベートでもしょっちゅう飲むんですけど、本当に不思議でならない(笑)」

林原「(笑)。ほんとね」

山寺「でもこの作品はそのなかでも、集大成なんじゃないかって気はしています。この作品を書いてくれてありがとうって心から思います。その分プレッシャーも大きいですけど」

林原「“決して声を聞いてはいけない囚人”って山寺宏一にしかできないような役ですよね。ただ確かに山さんはモノマネとかにも出てるし、声色を変えるのはすごく上手だし、そういう意味だけでも“声色を使い分ける”っていうことは十分な名刺になるんですけど、この本はそういこうことではなくて。その奥にある『なぜそうしているか』とか『どうしてそれができるか』とか、そこにある迷いや愛情や…すごくいろんなものが詰まっている。本当に山さんのための作品なんだろうなと思いました、この本を読んだときに」

山寺「上っ面のテクニックで『いろんな声を出せる人、おもしろいね』で終わったら、この本は成立しないと思うんです。だって共演するのも“いたこ声優”と呼ばれている……」

林原「あはは!」

山寺「この人はスピリチュアルの世界のような表現ができる人ですから。本当に心から演じる。もちろんテクニックや表現力もあるんですけどね。そして上川さんも本当になりきる方じゃないですか。目線ひとつの動かし方からすごくストイックにやってきた俳優で。この2人とやるのは嬉しくもあり怖くもあるんですよ。なんとなく雰囲気で器用にやってる人で終わってしまったらいけないので」

林原「終わるわけがないんですけどね」

山寺「自分の根っこにあるものを信じたいですけどね。でもそのくらいやりがいがある本というか。メッセージがたくさん詰まっていますし、メモしていろんなところで言いたくなるような言葉も散りばめられていますし。だから難しいけど楽しいです」


――役を演じていて特に難しかったところは?

林原「私はレスの年齢感でした。稽古で3歳年齢を上げましょうとなったときに、技術的には声の高さを変えるってことになるけど、まず3年分の経験値を自分の中につくらないといけないんですね。その間で堅いパンをいっぱい食べたとか、カビてるパンでもへっちゃらになっているとか、お母さんがいたときもあるとか……本に書かれていない3年間を考える。山さんは冗談で『クルクルってチャンネル3個回せば3歳年とるんだろ』とか言うんだけど(笑)、レスに関してはその加減が難しくて、ポンとはやれなかったですね」


――山寺さんの囚人役はいかがですか?

山寺「僕の役は、いろんな声を使い分ける部分もですが、実は人間性が素晴らしいんです。そんな彼がレスと出会って最初はどう感じて、いろんなことが起きて、その間にどうなっていって、どんな感情を持って、どう接するのかっていう。レスの変化を受けて囚人も変わっていくなかで、ふたりの関係性はどうなっていくのか、ふたりの心の距離感をどう出すのかっていうのは、この作品で一番難しいところかなと思います」――最後に一言お願いします。

林原「上川さんと前回一緒にやらせていただいたとき、本当に離れがたくて。でも畑が違うから『また会おうね』と言ってもそうそう会えるものじゃないと思っていたのですが、ことあるごとに一緒に飲んだりしていて、すごくいいメンバーだったなって改めて思っています。3年の時を経て、私たちの中で変わったこともあるでしょうし、それがどう影響するかわからないですが、初演での4公演の中でも少しずつ違ったように、今回もまた発見のあるステージになるんじゃないかなと、私も期待しています」

山寺「その通りです」

林原「それぞれから一言じゃないですか?」

山寺「(笑)。長年一緒にやってきた藤沢朗読の集大成じゃないかと僕は思います。自分がこんなにいい役をもらってそんなこと言うのもアレですけどね(笑)。皆さんの頭のなかにどんな物語が浮かび上がるか、ぜひ体験しに来ていただきたいと思います。いつかハリウッド映画化…いやイギリス映画かな?そうなるくらいの作品なんじゃないかと思いますよ。そうなったら我々は出ないけどね」

林原「そのときは吹き替えしよ!」

 

写真提供:東宝演劇部
取材・文:中川實穗