11月24日より全国6都市で上演。タクフェス第13弾『くちづけ』稽古場レポート

2025.11.19

タクフェス第13弾『くちづけ』が、11月24日(月・祝)より全国6都市で上演される。本作は、知的障がいのある人たちの自立を支援するグループホームを舞台に、娘を連れて住み込みで働くことになった元漫画家と2人の周囲の人々とのふれあいを通して、親子の愛情や純粋な恋心を描いた物語。2010年の初演から5年おきに再演しており、今回で4回目の上演となる。

初演から続投してきた、愛情いっぽん役の金田明夫と、マコと結婚の約束をするうーやん役で作・演出を担う宅間孝行のタッグは、今回が最後と銘打つ。そのほかキャストには、石田亜佑美、松本幸大、浜谷健司、鈴木紗理奈、小川菜摘ら個性的な面々が名を連ねている。

11月某日、準備が進められている都内某所にて、稽古場公開が行われた。

公開されたのは、グループホームの庭でバーベキュー大会が開かれている場面。稽古ではうーやん役を代役(河内宏大)が務め、宅間は袖でキャストの演技を鋭く優しい視線で見守った。

賑やかな外の様子を、窓から眺めているうーやん。どこか落ち着かない様子だ。そんなうーやんに、少し間延びしたような調子の声で話しかけるマコ(石田亜佑美)。マコは、お腹が空いているうーやんにパンを差し出す。マコが働いているパン工場で作ったパンだ。ぴったりと隣に座ったマコに、うーやんは少し早口で、同じことを繰り返しつつ言葉を返す。マコは、そんなうーやんの言葉をニコニコしながら聞いている――。

今回、知的障がいのある女性を演じることになった石田。現場には、知的障がいのある方を招いたり、その親御さんから話を聞く機会を設けたりして、役作りに挑んでいるという。稽古場で見せた、天真爛漫で素直なマコの姿はその賜物だろう。

そんな2人を物陰から見守っていた、いっぽん(金田明夫)。うーやんが立ち去ったあと、いっぽんは「うーやんが怖くないの?」とマコに話しかける。マコは大人の男の人が苦手なのだ。「分かんない」と答えながら、ぬりえに夢中になるマコ。なおも、うーやんのことについて尋ねるいっぽんだが…。

お互いが居ればそれでいいと話す、いっぽんとマコ。それは幸せでもあり、お互いというたった2人だけしかいない孤独でもある。いっぽんの言葉の端々には、マコへの愛情深さがあふれていて、2人で過ごしてきた長い時間の流れを感じさせられた。

彼らを取り巻く面々も個性豊かだ。いっぽんの担当編集・夏目ちゃん(松本幸大)は、どこか憎めないオーバーリアクションの持ち主。「お肉、用意しなきゃね~」と明るく声を弾ませる袴田さん(小川菜摘)や国村真理子(鈴木紗理奈)は、そのひと声で場を一気に華やがせていた。

稽古場公開後にはキャストらによる挨拶も行われた。あいさつの中では、金田&宅間のタッグが今回で最後となることも改めて明かされた。「この役は疲れる(笑)。毎晩のように飲んでいたお酒も、たまにくらいになってきたし…」と体力の衰えを感じているという宅間。そして「(金田さんは)70過ぎに見えないよね」と話し、金田の若々しい姿を讃えた。金田は「いやいや、そんなこともないですよ。70代はいろいろ安くなっていいですし、バスとか(笑)」とおどけ、現場の笑いを誘っていた。

各人のコメントは以下の通り。

 

コメント

金田明夫:愛情いっぽん役
5年ぶり、初演からはもう15年経っています。ひとつの集大成のようなお芝居になるかと思います。よろしくお願いします。この役を演じるのは今回が最後。それが寂しくもあり、また誰かが演じてくれることが嬉しくもあります。それは、この作品が、いつか古典になるような、語り継がれるべき作品だと思っているから。潔く、今回で退きたいと思います。

石田亜佑美:阿波野マコ役
今回、初めての出演で、すべてが新鮮。すべて宅間さんの世界で、何か1つ提案すると、10個くらい返ってきて、自分の至らなさを感じています。まだまだ学びがあることがありがたいです。本当に素敵な作品と自信をもって言える内容です。私も家族や友達をたくさん呼んでいますが、それくらい自信があるからだと伝わると嬉しい。頑張りますのでよろしくお願いします!。

松本幸大:夏目ちゃん役
2年連続タクフェスに出させていただいています。その意味をしっかりと考えたいですし、自分の自信にもつなげていきたい。時間を大切にして、来てくださる皆さんにとっても素敵な時間となるような劇場空間にしたいと思います。

浜谷健司:国村先生役
個人的なことではありますが、タクフェス連続出演更新中です。出演が決まった段階で、私としてはゴール!…という訳ではないですが…記者の方、手が止まってません?(笑)。とにかく作品の力になれるよう、頑張ります!

鈴木紗理奈:国村真理子役
宅間さんの作品には何度か出させていただいていますが、今回の作品のような知的障害などの話題って、普段は出しにくいものだと思うんです。でも、本当はもっと普通に話していいこと。どこか蚊帳の外にしてしまっていると思います。そこに斬り込んだ作品です。いろいろなマイノリティとの共存とは何か、を皆さんにも考えていただきたいです。

小川菜摘:袴田さん役
タクフェスは初参加。私の役者人生の中で、今回の経験は目からウロコが落ちるようなことばかり。たくさんのギフトをいただいています。本当に愛にあふれた作品で、その受け止め方もみなさんでひとり一人違っているはず。その感想を早く知りたいですし、幕が開くのを楽しみにしています。

宅間孝行:作・演出/うーやん役
この作品は、5年ごとに上演してきました。それは、”知らないこと”が一番よくないことなんだな、と思ったから。定期的に、お芝居という形で伝えていきたいと思っているからです。ただ、役と自分の年齢も離れてきました。実は、前回にも「この役は最後」と言っていたんですが、コロナ禍もあり、開催できない会場や入場制限で、伝えきれていない感覚があったんです。今回、生で観られる機会は本当に最後。お見逃しなく。

 

取材・文/宮崎新之