ゴジゲン第20回公演『きみがすきな日と』|松居大悟&多田香織&大関れいか インタビュー

映画監督としても精力的に活躍中の松居大悟が率いる劇団、ゴジゲン。その最新作『きみがすきな日と』が、11/26(水)に東京は下北沢のザ・スズナリで幕を上げる。今回はとある商店街のお祭りで人形劇を上演するために奔走する人々を巡る“キュートなコメディ”になるとか。準備が着々と進みつつある稽古場を訪ね、作・演出の松居と、今回ゴジゲンに初参加する多田香織大関れいかにも加わってもらい、ゴジゲンのことや作品への想いを語ってもらった。

――今回はゴジゲンの第20回公演という、キリのいい節目の公演になりますが。商店街を舞台に、人形劇を絡めた物語にしようと思われたのは何かきっかけがあったんでしょうか?

松居 ここ数年の間、僕と劇団員の目次(立樹)くんとでNHKの番組『おかあさんといっしょ』の『ファンターネ!』という人形劇の原案と脚本を担当しているのですが、それをきっかけに他の人形劇や文楽、浄瑠璃なども観るようになってどんどん“人形”にハマっていったんです。そもそも僕は子供の頃からぬいぐるみが好きだったし。だけど振り返ればゴジゲンでも毎回、人形とか着ぐるみとか使っていたので、それはきっと自分の中の深層心理では人形好きだったからだと気づいて。

――それで、人形劇をテーマとして取り上げてみた。

松居 そうです。終わっていく商店街の、ちょっと苦くて切ない話の傍らに人形たちがいてくれたら、きっとチャーミングになるだろうなとも思いましたしね。

――使う人形を、片手遣いの可愛いパペット人形にしたのは。

松居 人形劇のプロ集団もさまざまなスタイルがある中で、この物語に出て来るのは小さな商店街で年に一度の出し物として町の人たちがやっている人形劇なので。技術的には、そこまで厳密じゃないものにしたかったんです。

――本格的なものではない、ということが見た目ですぐわかるように。

松居 という感じですね。

――そして今回は、多田さんと大関さんが初めてゴジゲンに参加されます。

松居 僕から、お声掛けしました。多田さんは今年の春に(福岡と大阪と東京で上演した)『見上げんな!』という舞台でご一緒したんですが、同郷だったからその前からちょっと付き合いがあったし、ウチの劇団員の善雄の舞台に出演されているのを観たりもしていましたし。『見上げんな!』では僕が演出だったので、俳優と演出家として一緒に作品づくりをやってみて、なんだかとても面白かったんです。それで、もうちょっとこの人とやってみたい、自分が書いた脚本を演じてもらったらどうなるだろうと思って、今回お誘いしてみました。

――多田さんは、お声がかかってどう思われたんでしょうか。

多田 めちゃくちゃ嬉しかったです。私は2022年に善雄さんが主宰・作・演出する作品でご一緒させてもらっていたり、ゴジゲンの舞台もずっと拝見していたりしたこともあって、『見上げんな!』で松居さんに演出していただけるというのが自分としてはすごく大きいことでした。こうして、さらにご縁が繋がってゴジゲンに出演させてもらえるというのは、とても光栄に思いました。

――大関さんとは、どういう繋がりがあったんですか。

松居 僕は大関さんとは、彼女が高校生の時にスマホの向こうで出会っているんです。彼女の6秒動画を見て、それがすごく面白くて。その時点で絶対にお芝居ができる人だと思って、女子高校生が福岡から東京に行くロードムービーの映画(『私たちのハァハァ』(2015))を僕が監督する時にお誘いして出ていただいて。そこで初めて本格的にお芝居をやってもらったら予想通り面白かったので、その後も映画を撮るたびに毎回のように声をかけていたんです。そのうち、大関さんからも「お芝居をやりたい」という言葉が出るようになってきて、だったら絶対やったほうがいいと思うし、そのきっかけに自分は深く関わっているわけでもあるんで、これはもうれいかが芝居を辞めると言い出すまでは、ご一緒したいと思っていました。自分の中では、小津安二郎の映画に出てくる杉村春子のような存在だというか。

――そのくらい推している、ということですね。

松居 もう、松居組と言えば大関れいかにいてもらわないと、と勝手に思っていて。

――ミューズのような存在なんですか。

松居 そうですね。今年、リーディングの公演に大関さんが出演されていてそれを観た時「これはヤバイかも」と思ったんです。これはいよいよ本格的な舞台作品に出ちゃいそうだぞ、と思って。初舞台は俺がやりたい、誰かにとられたら嫌だと思って慌てて声をかけました。

――その関係性で初舞台をとられたら、確かに相当ショックでしょうね(笑)。

松居 そうなんですよ。「初舞台でお世話になった演出家さん、サイコーだった!」とか言われたらちょっと立ち直れないかもしれないと思って(笑)。
大関 アハハ! 本当にありがたいことです(笑)。

――松居さんからお声がかかった時、大関さんはどのように思われたんですか?

大関 「ついに来た!」って感じでした。ゴジゲンの舞台は何度も観に行っていてすっごい面白くて大好きだったので、ついに呼んでもらえたという嬉しさが大きかったですね。松居さんの映画作品に今までたくさん呼んでいただいていましたが、ゴジゲンとなるとたぶん別で。熱とか大切さみたいな思い入れがちょっと違うのかもしれないな、というのはなんとなく外から見て思っていました。そこにやっと呼んでもらえたということと、いつも舞台で拝見していた劇団員の皆さんとご一緒できるというのがとにかく嬉しかったです。
松居 オファーする前に、大関さんに聞いたんですよ。「舞台をやるとしたらプロデュース公演とゴジゲンの本公演、どっちがやりたい?」って。そうしたら「ゴジゲンやりたい!」って即答だったから。
大関 私の俳優の仲間たちにゴジゲンに出ることを報告すると「えーっ、いいなあ!」って羨ましがりますからね。みんなにとってもゴジゲンの舞台は「いつか出てみたい!」という憧れでもありますから!
多田 うんうん! そうだよね。
松居 本当に? そんな話、俺は聞いたことないけど(笑)。
大関 本当ですよ。仲間入りできることが、今はとにかく嬉しいです。

――今回の舞台において、みなさんが演じる役どころについて教えていただけますか。

多田 私が演じる靖香は、商店街のお茶屋さんの娘。夫婦で一緒に“ことり組合”として仲間たちとパペット人形劇をやっているんですけど、別に靖香がリーダーというわけではないのに結構みんなを仕切って、ちゃきちゃきと回しているところがありますね。2歳の娘がいて、その子に今年は人形劇を見せたくてすごく張り切っているという役どころです。でも今回の役、特に役づくりをしようという意識が全然ないんですよ。物語上で何か事件というか、ちょっとした出来事があると、それに対してどうやって対処しようとか、何を思ってどう行動しようかと考えたりする時間はあるんですけど。でも特段、役づくり的なことは発生しないので。これがゴジゲンのお芝居なのか~と思ったりしています。

――そうなんですね。素のまま、演じられるという感じなんでしょうか。

多田 あの独特の“素っぽさ”は、観客としてゴジゲンの作品を観ている時から思っていましたが、この間、劇団ゴジゲンでインスタライブをされていた時に最強さん(本折最強さとし)が言っていたことにすごく納得したことがあったんです。特に復活以降のここ10年くらいの作品で、自分の役を他の人が演じているイメージが湧かない、きっと他の人にはできないだろうなというような話をされていて。確かにゴジゲンのここ最近の作品は、いい意味で“素っぽさ”があって、その空気感がこの劇団ならではの特長になっているように思うんですよ。ある意味、役づくりをして演じるキャラクターであれば、同じ役を別の人が演じているのを観てみたいなとか思うかもしれないんですけど、松居さんが演じる役は松居さんの、善雄さんが演じる役は善雄さんの個性がめちゃくちゃ発揮されているものだから。

――それは、役者にそれぞれあて書きをしているから、なんでしょうか。

松居 僕の作り方としては、役づくりで人が役に近づいてもらうというより、役を人に近づけるという感覚ですね。セリフに説得力を持たせるために背景を埋めるのも大切ですが、劇団では役に息を吹きこむ作業に重きを置いていて。それもあって、まず台本を完成させる前に2週間くらい時間をかけてエチュードをするんですよ。ここでこういう風に話をして、ここはこの話題で揉めて、こういう流れで仲直りするみたいな。段取りとか軽めのセリフだけ先に書いて、それぞれ自分の言葉で喋ってもらう。あて書きにも近いやり方ではありますが、稽古場で台本ごと芝居を作っていくのは劇団でしかできないことだからかもしれません。

――各自の個性が役に反映されているから、その人のイメージにぴったりの役が生まれるのかもしれませんね。大関さんが演じる琴美さんは、どんな役なんですか。

大関 琴美は商店街のみんなよりかなり年下で、人形劇には初めて参加することになるんですが。性格としては明るく元気。だけど、その裏にはいろいろ過去があったりもして。その過去によって周りの目を気にしたり、周りにすごく気を遣ったりする子でもあるんです。明るく振る舞うことで、ちょっと取り繕ってるみたいな部分もあるのかもしれません。だから、その明るさの中にはいろんなものを秘めているところもある子で。それで“ことり組合”の人形劇の皆さんの仲間に入れてもらってはいるけど、日々バイトもあって忙しくしているから稽古があっても毎回は参加できなかったりもして。それなのに、“ことり組合”のみんなが私の存在をすごく大切に思ってくれていることを実感しているので、琴美にとっても大切な場所になっていく、という感じでしょうか。私の中で、役づくりについては考えていますが、うまく言葉にはできないですね。素のまま、とも言えそうだし。松居さんが書いてくださった琴美らしい言葉を頼りにしながらも、素でできているように思います。言いにくいこともないし、ポンポン自然と自分から出てくる言葉がイコール琴美になっている気がします。でもこの感覚は、松居さんの映画に出演させてもらった時も毎回思っていたことでもあるので。
松居 へえ、そうだったんだ。
大関 映画の時も、私の役はたぶん私にしかできないなと思うし、他の子もその子にしか言えないセリフだと思っています。

――松居さんの書くものが、そういう傾向にあるってことなんですかね。

大関 そんな気がします。

――松居さんは出演もされますが、今回はどんな役ですか。

松居 僕は人形劇を仕切っている人で、商店街の電気屋さんですね。人形劇のことに関して一番こだわりを持っているので、やたらごちゃごちゃ言ってくるヤツです。だから今、僕自身が人形劇についていろいろ調べてきたという部分をそこに重ねているというか。

――せっかくですのでゴジゲンの劇団員さんについても、松居さんから紹介していただけますか。

松居 今回の舞台の出演者としてですか。うーん、難しいですね(笑)。まず最強さんは劇団の最年長で、頼りがいのある兄貴です。善雄さんは演劇界のカリスマですね。あとは先日改名したばかりの、うぇるとん東。劇団員は、あと二人いるんですが今回の公演には出ていないんですよ。この数年間は結構ギリギリの状態ではあるのですが、東が心臓となっていろいろやってくれている感があります。東の芝居に関しては……、ちょっとよくわかんないですけど(笑)、劇団にとっては大事な心臓ですね。以上です!

――そうやってギリギリの状態になっていても、劇団を復活させて公演を続けられているのは、松居さんとしてはゴジゲンに対してどんな想いがあるからなんですか。

松居 それが僕にも正直わからなくて。経済的なことも含め、もはや辞めたほうがいい理由しか思い浮かばないというのに、なぜそれでもやっているんだろうというのは自分でも謎です。

――でも、お客さんは待ってますよね。

松居 そうですね、だけど待ってくれている人もだんだん減ってきているのではないか、と。

――今回やることで、謎が解明されるかもしれない。

松居 そうだといいなあと思いながら、台本を書いています。

――劇場はザ・スズナリですし、物語に出て来る商店街の存在は下北沢の昔ながらの商店街をイメージしているのかな、とも想像したのですが。

松居 そうですね。下北沢に限らず、ではあるのですが。道幅が狭い路地とか小さな商店街みたいなものがもともと好きなんです。だけど結局、海外からのお客さんを意識したり、どんどん大きなビルやチェーン店が増えて、効率性が優先されていく傾向にあるじゃないですか。AIをやたら多用することとも近いのかもしれないけど、そうやってどんどん人間の体温や匂いなどが少しずつ置いてけぼりになっていってるのが寂しくて。もしかしたら、自分が劇団を続けている理由もそこに繋がっているのかもしれないけど。まさに、効率的じゃないものをやっていますが、でもそんな細部に神が宿るような気がして。

――ちなみに、作中に出て来るのでみなさんの“好きな日”も聞いておこうかと思ったのですが。どんな日が好きですか?

大関 私は必ず月に1回やっている、家族でのもんじゃパーティーの日です。両親がまだ若くて、私が赤ちゃんだった頃からずっとやっています。家族プラス、父の親友も毎月来るんですよ。旅行とかも一緒に行ったりするくらい仲の良い仲間との、月イチのもんじゃパーティー。私たち家族の間では“もんパ”って言ってるんですけどね。家族大好きなので、その時間が自分にとっては宝物なんです。私の友達も呼んだりしますし。
多田 毎月、好きな日があるなんて、いいですねえ。
松居 うん、いい話だ。
多田 好きな日か……。タイトルにあるのに考えたことなかった。
松居 僕も自分で書いてるのに、考えてなかったです(笑)。
多田 私はイベントが苦手なので、何でもない日が好きかもしれない。曜日で言うと、金曜日が好きですね。休みの日というよりその前の日。日曜日は、月曜日のことがもう心に来ちゃっているからあまり好きじゃなくて。そう考えると、土曜日が心の中で始まっている金曜日が好きかもしれないです。
松居 僕は、誕生日の次の日かなあ。
多田 当日ではなくて?
松居 当日は、みんなからいっぱいおめでとうって言われてありがとうって答えて、なんだか恥ずかしかったりもして、心が忙しいし。年齢をひとつ重ねるということは、また死に一歩近づいた、とかどんどん老いていくな、みたいな。そんなことを考えて怖くなったりもするし。おめでとうと祝ってもらうのは嬉しいんだけど、でも次の日になればもうその他の364日と同じ状態になるので気が楽なんで。
大関 変なの~(笑)。
多田 確かに、ちょっと変だよね(笑)。

――では最後に、お客様に向けてお誘いのメッセージをいただけますか。

多田 劇中で、多くの人にとって身近なSNSのこととかも出てくるんですが、そういうみんなが共感しやすいモチーフがストーリーの中に入っていることで、この作品を通して今まで想像したことがなかったようなことにまで思いを巡らせるきっかけになるかもしれないと、そんな気がしています。なので、まさにSNSを使い慣れている若い方々にも観ていただきたいですし、私は今回小さい娘がいるお母さんの役なんですけど、そういう親世代の方も他人事でなくご自分に近い物語としていろいろと感じていただけそうなので、ぜひ劇場でそういう身近な感覚を味わえる演劇体験をしてもらいたいです。

大関 私が演じる琴美は、何かを背負いながらも、明るく元気にギャルマインドでどうにかしよう、その場をなんとか和ませようと頑張っています。きっと琴美以外のみんなも何かを背負っていて、それが日常にもあるように、みんな何かを背負って生きているということを、この劇を通してさらに感じました。本作では、何かを背負っていても、みんなと一緒にいることで和らいだりする瞬間の切り取りや会話の中で起こるコメディ要素が魅力だと思いますので、そんな会話劇を楽しんでいただきたいです。

松居 以前、ゴジゲンの芝居の感想で「心の温泉に入ったような気持ちです」みたいなことを言ってくださる方がいて、それがすごく嬉しかったんです。まさにそういう、心の温泉に入れるような劇にしたいなと今回も思っています。台本を書いている時はとても切ない物語になってしまいそうな気がしていたのですが、この役者陣の力で着々とコメディ色が強くなってきていますので、ぜひとも劇場に足を運んで心をポカポカにしていただけたら、と。ザ・スズナリだと、本当にちょうどいい距離感で観て楽しんでいただけると思うんですよね。また、託児サービスや鑑賞サポート、アンダー22チケットなど、学生さんやお子さんがいる世代で演劇を観ることに抵抗がある方にも対応できるように努めていますので、気軽に来ていただきたいです。それと今回は、気合い入れてグッズもめっちゃ作っています! すぐ売り切れちゃうかもしれませんので、ぜひとも早めの日程でお越しください!!

取材・文 田中里津子