“身近な存在をリアルに演じる面白さと難しさ”
12月4日(木)より舞台「PROPS!」が開幕となる。漫才賞レース準決勝の舞台裏を支える人たちを描いた物語で、高本学が主演を務める。数々の2.5次元舞台で人気キャラクターを演じてきた高本だが、今回は<お笑い芸人のマネージャー>役だ。
今回の舞台は吉本興業とオフィスPSCが「餅は餅屋」を合言葉にそれぞれの得意分野を活かして共に大きな劇場を目指そうと立ち上げた「モチモチプロジェクト」の第1弾だという。
作・演出はPSC所属で演劇プロデュースユニット「ムシラセ」を主宰する保坂萌。保坂萌がこれまで脚本で描いてきたテーマは「リアルな日常の中で積み重なるほんの少しの痛み、のような何か」。保坂の描く物語は、舞台や設定はその都度違えど、登場人物が交わす、たわいもない言葉のやりとりを浴びているうちに、「ほんの少しの痛み、のような何か」を観客の中に積み重ねていく。その「何か」を探る繊細な作劇も見事だが、台詞の中の「ことば」たちが、柔らかく降り積もる雪のように、静かに観客の肌に落ちて、じんわりと、優しく溶けてゆくような感覚がある。これはほかの劇作家にはない保坂独自の作風だ。
芸人も俳優も身近な人に愛されないと、やっていけない
そんな保坂作品に初参加で初主演することになった高本は、「座組の雰囲気にもよりますが、僕は『主人公として生きていく』というのを大切にしていて、主演だからといって特別なことをやろうと思わないようにしています。意気込んでしまうと、変に空回りをして、皆さんにやりづらいと思われてもいけないですし。肩肘張らず、一生懸命演じて、その姿を見てもらって、いい影響を与えられたらと」と、自身の主演作品でのスタンスを語る。
これまでどんな作品に対しても真面目に、誠実に役に向き合ってきた高本だが、今回の役については新たな気付きを得る面白さと同時に、難しさも感じているという。
「僕自身がタレント側、表に立って人に見てもらう仕事をしているからこそ、マネージャーさんやスタッフさんの愛を日々、体感しています。役として裏方のマネージャーとしての感情を作るのは難しいものだなと思いました。脚本を読んでも、稽古していても、新しい発見が常にあります」
普段から接している、身近な人たちの気持ちや感情を知らなかったわけではない。むしろよく知っているからこそ、リアルな感情に近づけば近づくほど、自身の演技の〈今はいらないもの〉が気になってくるという。
「2.5次元舞台では、遠い客席にいるお客様に届ける、というのを大切にしているんですが、今回はそういったものを排除しないといけないんです。今まで大きく、遠くまで伝わるようにやってきたものを、今回は削ぎ落していくような作業をしています。歌やアクションやダンス、劇的なドラマがあるわけじゃないので、今まで培ってきた技術に寄らないようにするのが難しいですね。何かをやらないで、ただそこに〈いる〉ことが一番難しい」
稽古中、高本が演じる浦寺(うらじ)が、担当する芸人・大我(演:北乃颯希)に寄り沿うマネージャーとして、ただそこに〈いる〉時、不思議な感覚に陥ることがあるという。
「大我を見て『この人に全てを捧げよう』と思える瞬間があるんです。それを台詞として言っている瞬間、不思議な気持ちになるんですが、浦寺の感情を知る作業はすごく面白いです。俳優でも芸人でも、タレントを支える人がタレントに対して抱く愛がある。逆にタレントも身近な人に愛されないと、やっていけないんじゃないかな、と思います」

不器用に、まっすぐに仕事する姿を見てもらえたら
担当するお笑いコンビの人生を賭けた賞レースの準決勝。コンビの片割れが会場に現れない、という状況で、浦寺はマネージャーとして今、何ができるのか?を考え続ける。
出番が迫る中、周囲には会社の上司に同僚、ライバルコンビのマネージャー、新人がそれぞれが好き勝手に〈仕事〉をする。浦寺の中に少しずつ名前のない「何か」が積み重なっていく――。
「浦寺は不器用なんですが、自分がこれと決めたことにまっすぐ突き進むことができる人なんです。その姿をお客様に見て頂きたいです。契約社員3年目で、自分の思い入れのあるコンビの一大事に対して、たくさんの想いを抱えているのですが、お客様も日常やお仕事で、浦寺の気持ちや状況にリンクするような想いがきっとあると思うんです。その中で浦寺がまっすぐに突き進む姿を見て、共感してもらったり、勇気づけられたり、頑張ろうと思ってもらえる作品だと思います。今日はいいものを観た、と思って劇場を後にしてもらいたいですね」
「PROPS」は直訳すると「小道具」であるが、「支え」や、「称賛」の意味があるという。年の瀬に、今年を頑張った自分を少しだけ褒めてもいいと思える時間を過ごすのも悪くない。
舞台「PROPS!」は12月4日(木)から12且8日(月)まで東京・吉祥シアターにて、12月12日(金)から12月14日(日)までは大阪・扇町ミュージアムキューブ CUBE01にて上演。
撮影/保坂萌
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本作で共演する北乃颯希とのインタビュー記事も公開中!
詳細はこちら ⇒ https://engekisengen.com/genre/play/122057/
