た組『景色のよい観光地』│加藤拓也&平原テツ&田村健太郎 インタビュー

加藤拓也が描く、毒を調理する人々の蠱惑的な物語

加藤拓也が脚本・演出を手がける劇団・た組の2年ぶりの書き下ろし新作『景色のよい観光地』が、東京、北海道、大阪で上演される。舞台は温泉街にある茶屋。そこを舞台に、“毒を調理すること”に魅入られていく人々を描く。

加藤 お金に換えなくていいことをお金に換えようとする人を描こうと思ったことが出発点でした。どんなことだったら受け入れがたいかを考えていって、海外で、触っちゃいけない毒のある食べ物が普通に売っていたり、その国独特の食文化に触れる中で、食べちゃいけないものを食べる、ということになりました。あと鍼治療とかカッピングみたいな行為って、つまりは毒を抜くことですよね。そういう“毒を抜くこと”と“毒を取り入れること”は両立できるんじゃないかと思ったんです。毒と毒を掛け合わせると薬になるとか、食べ合わせによっては毒になるとか。そういったことを人間関係に置き換えた話です。

茶屋を経営面で支える隆治を平原テツ、そのパートナーで調理を担う健介を田村健太郎が演じる。安達祐実、宮崎秋人、呉静依と、個性豊かな面々が共演に名を連ねる。

平原 最初は“料理の話かな?”と思ったら、途中から加藤さんならではの“ぶっ壊れ方”にワクワクしました。精密に作ったものを、壊してでも変えていく面白さがあるんですよね。隆治は適当で楽観的、危機管理能力が薄いキャラクター。絶対マズいことも“1回やってみてもいいんじゃ”って考えちゃう人。そういう意味では、無理せず演じられそうです(笑)。変に誰かが引っ張るんじゃなく、みんなで作り上げられる予感がしています。

田村 5人の人間をポンと置いて、実験をしているような感覚になりました。ただ会話していただけなのに、気づいたら“そちら側”に進んでしまっている。その感触が楽しいんですよね。健介は“天才”とか言われて喜んじゃうタイプなんですけど、自分も褒められたときに嬉しさが隠せてないと思います(笑)。結構、自分と似ているタイプです。平原さんとフラットな関係性の役は新鮮なので、そこも楽しみ。馴染みのある方と初めましての方が半々で、そこも台本に近い関係性なので、良い感じで稽古に入っていけそうです。

加藤 2人の役は対極的。経営者と職人みたいな関係で、趣味の部分までビジネスに巻き込もうとして、どんどん深みにハマっていきます。実際の2人も対極的で、テツさんは台本にほぼ書き込まないタイプ、タムケンさんは家でホワイトボードを使ってまで書きまくるタイプ。この“対極の大きさ”みたいなところが似ている気がします。

毒を調理して口にする。人に許されたボーダーライン、侵してはならないタブー。そのギリギリを攻めるような物語は、抗いがたい蠱惑的な魅力が香りたつ。

田村 自分の些細な興味に肯定的な反応があると嬉しくなって、さらに進んでしまうことってありますよね。少人数での共有だからこその特別な楽しさもある。そこに“毒”の魅力がある気がします。きっと料理の匂いも感じられるような、お腹の減る作品になるはず。

平原 “毒”って誰しも惹かれるもの。ダメだとわかっていても、経験としてストックしたい欲望があるんですよね。みんなで紡いでいく会話の中で、ぜひいろんな“毒”を感じ取って。

加藤 この人たち、何やってるんだろう?って感じで、結構笑える話になるんじゃないかと。体に悪いものを食べたくなるような……そんな感覚になってくれたらいいですね。

インタビュー&文/宮崎新之

【プチ質問】Q:手土産を選ぶポイントは?
A
加藤 親しい方の場合はその人が好きなものを用意します。好きなものがわからない場合はすぐに消費できるものですね。劇団とか公演をやっていてもらって嬉しいのはお水とか、コーヒーパックのようなすぐに消費するものなので、そういうものを選ぶようにしています。

田村 僕はデパートで買います。相手が何が好きかわからない時は、デパートという権威を利用させてもらいます(笑)。デパートの包装紙で包まれている、それが大事です。

平原 自分がもらって嬉しいもの、「美味しいよ」とオススメできるものを選びます。合間にちょこっと食べるものとしては甘い物がいいですね。しょっぱいものを食べると甘い物も欲しくなってしまうので(笑)。最初から甘い物で結末を持っていきます。

※構成/月刊ローチケ編集部 12月15日号より転載

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】

加藤拓也
■カトウ タクヤ
劇作家、演出家、映画監督。丁寧な言葉とドラマ運びで、底抜けた暴力性と虚無感が複雑に立ち上がる物語を上演している。第30回読売演劇大賞優秀演出家賞、第67回岸田國士戯曲賞受賞。

平原テツ
■ヒラハラ テツ
テレビドラマ、映画、CMにも幅広く多数出演。劇団た組の舞台に数多く参加。出演する映画の公開待機作にゆりあんレトリィバァ監督「禍禍女」、河瀬直美監督「たしかにあった幻」がある。

田村健太郎
■タムラ ケンタロウ
テレビドラマ、映画、CM、舞台など数多くの作品に出演。劇団た組の参加は2作品目。近年の主な出演作に映画「金髪」、「佐藤さんと佐藤さん」、ドラマ「50分間の恋人」(ABC)がある。

※宮崎秋人の「崎」の字は、(タツサキ)が正式表記
※呉静依の「呉」の字は、中国語(繁体字)が正式表記
※河瀬直美の「瀬」の字は、旧字体が正式表記