ザジ・ズー『ザジ・ズー現代贋作劇場』|木村友哉、今井桃子、徐永行、西﨑達磨、渡邉結衣 インタビュー

12 月13日(土)より横浜のザ・シティイで開幕、その後、12月20日(土)〜25日(木)には東京・中野の水性にてザジ・ズーの新作『ザジ・ズー現代贋作劇場』が上演される。2022年、多摩美生数名によるシェアハウスで発生。その後、俳優、劇作家、演出家、ダンサー、バンドはもちろん、高校生から教員、ラッパーに至るまで様々な肩書きを持つメンバーが続々と増え、現在の総人数は測定不能。「あなたも、 わたしも、 みんなザジ・ズー」という指針のもと、類を見ぬ表現と創作の拡大を見せ 、東京と横浜を拠点とする謎に包まれしカンパニー、ザジ・ズー。その規格外のネットワークは、メンバーが横浜・中村町に立ち上げた多角的スペース「ザ・シティイ」とも連動しながら、 さらに革新へと向かう。斬新かつ綿密な作戦、曖昧かつ変幻自在な創作。ローチケ演劇宣言!初登場、“文化的海水浴場”と自らを謳うザジ・ズーが新たに挑む「全体芸術」なる試みの可能性、その演劇の形とは? メンバーの今井桃子、木村友哉、徐永行、西﨑達磨、渡邉 結衣に話を聞いた。

部活かけ持ち上等、ドアは半開きのまま、ザジ・ズーって一体何者?

―早速ですが、まずは自己紹介からお願いします。ザジ・ズーは共同主宰という特徴もありますので、それぞれがザジ・ズーでどんな役割やセクションで活躍されているのかも含めて教えて下さい。

木村 僕はザジ・ズーの中では主に制作者として活動をしているのですが、そもそも色々なことをやっている団体なので俳優として出ることもあるし、ボーダレスに活動をしています。アーカイブやプロセスをどう可視化するか、ということに関心があって「仮設社」というソロプロジェクトを立ち上げ、取材・執筆活動も行っています。最近は、横浜のSTスポットが運営している「ST通信」というメディアにレギュラーライターとして携わったりも。あとは、板金工場だったスペースを改装し、新作『ザジ・ズー現代贋作劇場』の上演会場でもある「ザ・シティイ」という場を作りました。様々なことが混じる空間、場づくりをしていきたいです。

木村友哉

渡邉  私は基本的には照明をメインでやっているのですが、アマチュアとして活動している中で一番好き勝手にやらせてもらえる場所がザジ・ズーなんです。ザジ・ズーは「自分のセクションで己のベストを尽くせばそれでいい」みたいなところがあるので、挑戦の場にもなっています。別現場でも照明をやったりはするんですけど、ザジ・ズーでは比じゃないくらい稽古にも参加しています。でも、それは照明家として稽古に参加している感じではなく、もっと広い意味で参加しているような気も…。

今井 今回は結構ガッツリ書いてもいるよね?

渡邉  そうなんですよ。というのも、今回の公演は音響部、照明部、作家部など部活動がたくさんあって、それぞれ分かれたり、時に混ざったりしながら創作しているんです。兼部OKでみんな自分の興味があるところにどんどん入るみたいな…。私は作家部にも所属して、複数人でテキストを書いたりもしています。

―新設されたホームページにも部活紹介がありましたね。「舞台かっこよくする部」など、ユニークな部活もたくさんありました。

今井 私も舞台かっこよくする部に入っているんですけど、他にも衣裳 部、俳優部、ダンス部、肉体部、ご飯部、ドライ部…わあ、掛け持ちしすぎて何部に入っているのかわからなくなってきた!(笑)。

木村 わかる! ドラマトゥルク部とご飯・お菓子部を兼部したりね…。桃子は今回も衣裳 部だし、これまでも 衣裳 手がけていて…。

今井 衣裳 をちゃんと学んできたわけじゃないけど、やっぱりみんなには素敵な衣裳 を着てもらいたいんですよね。同時に、衣裳 作りはザジ・ズーでしかできない気がします。「この人たちに作りたい!」という気概で作っているから、外部ではここまでできないなって…。衣裳 は作品の1発目のビジュアルみたいに思っていて、衣裳 を掌握できるとよりよい舞台になると思うし、「これがこの人の衣裳 」って決めずに、みんなで着回したりするのもいいなって思う。

今井桃子

 僕は俳優部がメインなのですが、舞台かっこよくする部にも入っているし、アーカイ部にも入っています。あと、稽古のことを考える稽古部にも入っています。外部のカンパニーに出演する時は俳優しかやらないんですけど、ザジ・ズーではいろんなことやれるのが刺激的だし、楽しい。それが俳優としての表現にも還元されている気もします。

西﨑 僕は今回のセクションでは作家部と音楽部と演奏部に入っています。普段のザジ・ズーでも劇作に関わることが多いですね。ザジ・ズー以外の活動では、ギザドドっていうバンドでバンド活動もやっています。ザジ・ズーって生演奏がすごく多いんですけど、僕は親がバンドマンで音楽に関わって生きてきたこともあり、音楽をバックグラウンドに置きたくない気持ちがあるんです。なので、演奏者を取り囲むようにお芝居したり、俳優たちと平等な場所で演奏するみたいなことをやっていきたいと思っています。

木村 今回はそんな風に各々部活に入る形態で進めていることもあって、クレジットも逆にしたんですよ。演劇のクレジットって、演出:名前じゃないですか。でも、僕はあの順番って不思議だなって思うんですよね。「なぜ演出という外枠が先に来て、その中に収まるのか」「まず木村があり、木村の中に制作 があるんじゃないのか」と。そう思って、今回は全員名前を先に書いて、その後に所属の部活を書く形にしました。

―個人ありきでその後に役割や担当がくるということですね。その表記はたしかに新しい! ちなみに、ザジ・ズーのメンバーは全員で何人いるんですか? 

木村 何人だろう。自認した人はその瞬間に全員ザジ・ズーなんですよね。観客も、まだ見ぬ人も、あなたも、わたしも、みんなザジ・ズー。ふざけているように見えるかもしれないけど、すごく真面目にそう思っているんです。

渡邉  自分たちが知らないところで知らない人が勝手にザジ・ズーって名乗って、公演とかやってくれたら面白いよね。

木村 ゆくゆくはそうなってほしい! 「なんかザジ・ズーが公演やってるらしいよ」って言われて、「知らなかった!」って慌てて観に行ったりしたいですね(笑)。僕らはやりたいことというより、見たいものを作っているんです。でも、僕らがやっている限りそれは見られない。じゃあ、誰かがやってくれたらいいなって。そういう発想を踏まえての「あなたも、わたしも、みんなザジ・ズー」です。あとなんか普通に面白い。「あなたもザジ・ズーなんですよ」って言われたら、勝手に何かが始まる感じがして…。

西﨑 交流みたいなのはすごく大事にしているよね。メンバーを固定して風通し悪い感じになっちゃうよりは、どんどんいろんな人を巻き込んでいった方がいいというか…。カンパニーやコミュニティというよりも、ネットワークっていう方が近い気がする。

西﨑達磨

 ディスコードとか、まさにそうですよね。100人越えたもんね。

渡邉  最初は身内で始めたんですけど、みんながどんどん興味ある人を引き込んで…。それぞれ舞台の宣伝をしたり、最近観た演劇について喋るチャンネルもあるし、ひとりごと のチャンネルもあります。

木村 僕は今年滞在制作で和歌山に行ったり、韓国に海外派遣させてもらったりしたんですけど、そこで仲良くなった人とかも誘いました。あと、YPAMで知り合った友達とか。
ザジ・ズーのディスコードは地域や国を越えつつありますね。

渡邉  それこそ、今回の公演に関するやりとりもディスコードで半分オープンにしているんですよ。

今井 そうだね。本気で知ろうと思ったら、普通に戯曲を全部読んで観にくるとかもできる。

―なるほど。つまり、オンラインで過程が見えるワークインプログレスみたいなものを展開していると。こうしてお話を聞いていると、ザジ・ズーは場にしても、ネットワークにしても“開かれていること”を大事にしているのかなと思いました。

西﨑 そうですね。ただ、全開じゃなくて半開きなんですよ。

木村 そうだね! すごく適切な表現だと思う。 

西﨑 実際、ディスコードも顔が見える人、直接会った人たちなんですよ。だから、半開き。

今井 最初はSNSでディスコードのリンクを投げようとしていたんですけど、本当に危ない人が来る可能性もあるからと思ってやめたんですよ。

木村 Xは顔が見えないことが多く、現実化しないし、想像上の戦いになっちゃうから、顔が見える人にしたんだよね。一見やりたい放題やっているように見えるけれど、実は結構考えています(笑)。

渡邉  あと、みんな実はシャイだからね。心根が。

 それはあるかも!(笑)

場を作り、人が集まり、何かが始まる?

―新作『ザジ・ズー現代贋作劇場』横浜公演は、ザジ・ズーのメンバー有志が横浜・中村町に立ち上げ、ザジ・ズーの活動とも交差する「ザ・シティイ」でのこけら落とし公演でもあります。アトリエとしても使われつつ、さまざまな人や企画が行き交うプラットフォーム的なこの場については、どんな思いがあるのでしょう?

木村 去年YPAMで出会った方から紹介してもらった物件で、ちょうどいい場所にあったので思い切って借りました。

今井 元々、多摩美から10秒くらいのところに私が家を借りていたんですよ。というのも、私が元々渋家っていうシェアハウスに住んでいた経験もあって「場所がめっちゃ大事」って思っていたんです。場所があったら人は集まるし、人が集まったら何かが始まる。だから、場所さえあればなんとかなると思って、大学の近くに借りたんです。そこで木村・西﨑 ・私の3人でシェアするようになったのが始まりでした。大家さんに怒られたりもしつつ、身内でちょっとした上演や実験をやってみたり…。

木村 たしか、上演中にピンポンって聞こえてきたんだよね。あんなの見たことない!

西﨑  終わる5分前とかだった。

 鳴ってもおかしくないシーンだった。

今井 あまりにいいタイミングで演出だと思った。

木村 そしたら 違った。全然大家さんが普通に立って た。

西﨑  でも、「あと5分で終わるのですみません!」って言ったら納得してくれた。

渡邉  そうだ、結局最後まで続けたんだ!

 それ言えたの、すごいよな。

今井 そんなこんなの経験から「場所があるといいな」っていうのは、多分みんな共通で思っていたことなんですよね。だけど、都内のシェアハウスだと予算も広さも含め、なかなか厳しい。だったら、そうじゃない場所でもっと自由にできるスペースを借りてしまえばいいのか、と。

渡邉結衣

木村 ザ・シティイは、ザジ・ズーの本拠地というよりも、東京と横浜を行き来しながら続けている活動の中にある“プラットフォーム=場”という感じですね。公演や制作はこれまで通り東京でもたくさんやっていきたいし、その途中で様々な人が立ち寄れる場所が横浜にもできた、くらいの感覚です。 そして、そうするならば、「ザジ・ズーハウス」とかじゃない方がいいなと思ったんですよ。そうじゃない名前の方がもっと違うリーチの仕方がありそうだし、横浜の地域の人とかにも使ってほしい。東京で続けてきた活動ともつなげながら、より外に向けていきたいという気持ちがあったんです。

渡邉  それこそ、演劇だけの場じゃない、そういう場所にしたいですよね。

今井 すでに町内会の運動会とかに参加してるんでしょ?

木村 そうそう。ゴミ捨て場問題に悩んだりとかね。もはや演劇の悩みじゃないんですけど、なんかそれもまたいいのかなって(笑)。飲食があってもいいし、演劇があってもいい。内外ともにちょっとずつ改装して、よりよい形にしていきたいですね。

“全体芸術”なる新たな演劇を目指して…

―『ザジ・ズー現代贋作劇場』の内容についてもお聞きしたいと思います。まず、台本を複数人で書いているわけですけど、執筆や稽古はどうやって進めているのでしょう?

西﨑 今はGoogle ドキュメントにタブを作って、各々が好き勝手に書いていったものを1本の作品として見られるように順番を変えたり、色々な調整を加え、体裁として1つの戯曲になるように作っているところです。作家部でまとめることもあるし、稽古場にいる人たちで実験しながら組み替えたりもしています。

今井 日々更新されていくみたいな感なんですよね。

渡邉  元となる素材を作家部が出して、「これをどう料理していこうか」みたいなことを稽古場で考える感じです。

 現在の進捗としては、素材となる初稿の台本ができたところ。稽古場ではそれをやってみたりもしているのですが、「これってどう思う?」「何が足りない?」とみんなで話す時間の方が今はまだ多いかな。1度通してやってみたら2時間半あったんですよ(笑)。タイムスケジュール的にそれは無理だから、どう削るかを稽古場にいる人たちで考えたりもしています。

徐永行

木村 今回、西﨑がステートメントを書いたんですけど、そこに本作とザジ・ズーの現在地としても指針が込められているような気がしています。まだそこを越えられていないので、どうにか越えていきたいと思っているんですけど…。

―本作、そして団体の指針。ぜひ、詳しくお聞かせ下さい。

西﨑 僕が勝手に言い出した造語で「全体芸術」っていう言葉が今回のキーワードになっています。元々「全体小説」という概念があって、哲学者のサルトルが最初に主張をした、人間を取り巻く環境や社会を全部ひっくるめて総合的に表現しようとする試みなんですけど、僕は小説だけじゃなく、全ての芸術がそうであってほしいし、本来演劇こそそういうことができるはずなんじゃないかって思っていて…。そんな願いを託して、作品に寄せたステートメントを書きました。だから、「現代」や「劇場」って言うとすごく広い言葉だし、ともすれば「もうちょっと絞った方がいいんじゃない」なんて思われるかもしれないけど、「いや、全部やるんだ」と。ただし「贋作」で。そして、ザジ・ズーのやり方で。

木村 そういう意味で、作品名は『ザジ・ズー現代贋作劇場』なんです。ザジ・ズー『現代贋作劇場』ではなく、ザジ・ズー『ザジ・ズー現代贋作劇場』。ここは結構大きい!

西﨑 ただ、そうなると、難しいのがテーマの言語化なんですよね。全体芸術だから、テーマがいっぱいあるんですよ。

木村 僕はもはやテーマは「あなたでしかない」みたいな感じで思っています。作品のターゲットなんて話が出ますが、それも個人でいいんじゃないかなって…。それがたくさんあるだけだから、「つまり、あなたに来てほしいんだ」と。そんな風に言っています。だから、今回はフライヤーを作らずに、代わりにポケットティッシュにしたんですよ。みんなに一斉にばら撒くというよりは、“あなたに配れるプレゼント”として。

今井 例えば、私は見た目がかっこいいものって大好きなんです。自分が作った演劇以外の作品でもビジュアルに惹かれるって自然に起きることだし、目に入ってくる情報としてすごく大事だと思っているんですよね。そういう意味で「ザ・シティイ」も「水性」もすごくかっこいいスペースだと思う。かつ、その中で本当にどこを見てもらっても良くて…。「衣裳 かわいいな」とか「天井変でかっこいいな」とか「装置いいな」とか「通りに人がいるな」とか、何かを見るっていう行為は全体を見る1個目の窓になると思うから。

木村 あなたと私は違うから、90分ずっとあなたが好きな作品ではないかもしれないけど、90分の中で少しでも「好き」がある気がする。それが多分「全体芸術」なのではないか、という気もしています。その一瞬のために来てほしいのかもしれない。90分過ごさせちゃってごめんなさい。でも、あなたが5秒でも最高だったなら嬉しい、みたいな…。

今井 そのそれぞれの5秒を輝かせるための89分55秒をやりたい気持ちですよね。

 「全部をやる」っていうのは、本当はできないじゃないですか。今回の座組が20~ 30人ぐらいだとして、20~ 30人でも全部をやるってことはできないんです。でも、僕らは一人ひとりが「全部だ」って思うことを徹底的にやる。それでも、「最高だった」と思える5秒が見つからない人もいると思うんです。僕はそういう人にこそ観てほしい。だって、世界全部がザジ・ズーだったら全部はできるけど、できないから世界なんだと思うし、全部はその積み重ねで作っていくものだと思うから。そういう意味では途上というか途中というか、なんならこれはスタートなのかもしれない。全体芸術の。

渡邉  うんうん。「これが全部だ」って言われた時に、「でも私はこの全部にいない」って思う人もいるもんね、きっと。それでも「全部を出す」っていうことに意味があるのかもしれない。

木村 そうだね。そういう意味では、「全体芸術」が本当に叶った時がザジ・ズーの解散なのかもしれない。その時には何人になっているんだろうね。

 未知数!

渡邉  今でも未知数だけど!

西﨑 風呂敷を広げすぎちゃうとあれだけど、お客さんが観終わって帰って行く時に全部をわからなくとも、「全部をやろうとしているんだ」っていう気概は感じられるんじゃないかな。『ザジ・ズー現代贋作劇場』という作品は少なくともそういう作品になる気がしています。

木村 横浜のザ・シティイ、もしくは中野の水性で最高の5秒を見届けてください。あなたも、わたしも!

取材・文:丘田ミイ子