フランスが最も愛した歌手エディット・ピアフを大竹しのぶさんが演じ、2011年に演劇界で一大センセーションを巻き起こした、舞台『ピアフ』が「上演15周年記念公演」と銘打ち、2026年1月10日から6度目の公演を開催。翌日の1月11日昼の部に記念すべき上演200回を達成する。愛と歌で彩られたドラマチックなピアフの人生を、大竹さんが16曲のシャンソンを歌いながら演じる本作は、観劇した誰もが「ピアフが大竹しのぶに舞い降りた」と口にする程の、唯一無二の大竹さんの代表作。今回は、パム・ジェイムス作の傑作舞台『ピアフ』を、最晩年のジェイムス自身がロンドンのドンマーウェアハウスでの2008年の上演のために書き下ろした決定版の日本初演となる。演出は2011年の初演から手掛ける栗山民也氏。主演の大竹さんに『ピアフ』への熱い思いを伺いました。
――上演15周年を迎える『ピアフ』という作品、演じられてきたエディット・ピアフ役は、大竹さんにとってどのような存在なのでしょうか?
出来上がったものが面白いと思われる作品に巡り合えるというのは、すごいチャンスだと思いますし、さらにそれを再演してくださいって言われるのは、役者としてとても幸せなことだと思うんです。今回で6度目の上演になるんですけど、ピアフに出会えたことが私にとって女優としても、すごく大きなものをたくさん教えてもらいました。『ピアフ』をやっていて思うのは、歌がやっぱり素晴らしいということ。歌の持つ力を感じます。それから歌うことが祈りに近いというか、観客に向かって歌っているのではなく、天と地を結ぶ役目が歌にはあるんだなと。あと、必死に生きる、必死に愛するっていうことも、なんて素敵なんだろうと思いますし。演じていていつも思うのは、いろんな男性を愛しながらも、いつも孤独で寂しくて。ただそれは、最愛の人マルセルに対する大きな愛っていうのがいつもどこかにあって、女としてすごく寂しいけれども、人としての喜びを持っている人だなと感じます。
――歌は祈りだと感じられた瞬間の雰囲気は覚えていらっしゃいますか?
『愛の讃歌』を歌っているときに、お客様に歌っているというよりも、天国に向かって、神に向かって歌っているというか。実際に祈りのような『私の神様』という歌もありますし、戦争を終わらせてくれっていう歌もありますし。もともと歌の発祥というのは、豊作を祈る歌とかそういうところから始まっているので。だから、祈りに近いなっていうのは思いました。
――劇中、16曲も歌われて大変かと思いますが、中でも一番難しいナンバーというのは?
その日によっても違うのですが、やっぱり『愛の讃歌』は「あ~来た来た来た!」っていうお客様の前のめりな姿勢を感じるので、「そんなに期待しないでください」という気持ちはあります(笑)。でも、見なかったふりをして、心穏やかにならなくちゃと思いながら(笑)。自分自身もそこはやっぱり一番祈りとしては核のところなので、あまり余計なことを考えないで歌えたらいいなと、いつも思っています。
――初演のときに、ご自身とピアフの共通点は、後悔しないように気をつけていることだとおっしゃっていたのですが、15年経つ中で他にも見つけられた共通点はありますか?
ピアフの生涯最後の恋人のテオ・サラボに、「愛ってすごく素敵なものなのよ。だって愛は辛くない別れがあるでしょ。大丈夫、愛はあなたの心に残っているのよ」って歌う歌が、年を重ねれば重ねるほど、すごく自信を持って言えるようになりました。「愛は本当に素敵なのって」前よりももっともっとわかるようになりました。
――それは、激しい恋愛的な意味だけはなくて広い意味での愛?
そうですね。体に残るってものが、すごくわかるというか。映画監督の新藤兼人さんが、「愛っていうのは微粒子となって、愛された記憶として体に入って行くものだ」とおっしゃったことがあって。すごく素敵だなと思って。心に絶対に消えないものとして残るんだなっていうのが、すごくわかるようになりました。
――ピアフの年齢と共に変わっていった愛も、大竹さんの中で一緒に変わっていったと?
そうですね。ピアフは最後にテオという人に出会えて、それをわかることが出来て、本当に幸せだなって思います。
――今作における栗谷民也さんの演出の素敵さはどこにありますか?
栗山さんは、今の現代に通じる『ピアフ』を作っていこうと、初演のときからおっしゃっています。戦争の場面も描かれていますが、ロシアのウクライナ侵攻など、今起こっている世界の情勢というものを、私たちがきちんとわかった上で、歌わなければいけないと。ですから、戦争が終わったというところで歌う『ミロール』という曲は、もしウクライナの人たちが歌ったら、どうなるんだろうっていうのを想像して、「どうか戦争が終わって欲しい」という気持ちで歌おうってことは、梅ちゃん(ピアフの親友トワーヌ役の梅沢昌代さん)とも話したりしました。
――今回の公演で、改めてここが少し変化したいなと思うところがあれば教えてください?
変化してほしい、変化しなくてはいけないと思うのは、やっぱり歌。もっと上手になりたいというのはあります。今回の目標もそこにおいて、歌をきちんと全公演歌いたいと思っています。もっと技術を身につけて、精進します!
――公演を楽しみにされている方へ、メッセージをお願いいたします!
栗山さんを中心に私たち役者みんなで作る『ピアフ』という芝居は、観た人が心臓をえぐり取られるような、本当に衝撃的な強いエネルギーと強い強い愛を渡している作品です。
今回も一回一回全力で演じていきます。それがちゃんとお届けできるように、一生懸命に頑張っていきますので、どうぞ劇場にいらして客席に座って、受け止めていただけたらと思います。
取材・文:井ノ口裕子
