劇団アンパサンド「歩かなくても棒に当たる」|安藤奎 インタビュー

最新の岸田戯曲賞受賞作品はここで観られる!
初演時チケット即完の話題作が待望の再演

野田秀樹や岡田利規ら審査員を唸らせ、2025年に第69回岸田國士戯曲賞を受賞した『歩かなくても棒に当たる』が、2月に東京で再演される。作・演出を手がけるのは〈劇団アンパサンド〉主宰の安藤奎だ。最近では脚本を担当したTBSドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』もSNSや口コミで大きな話題に。

「連続ドラマの脚本を全話担当したのは初めてで、普段の舞台脚本との違いは強く意識しました。個人的にテンポのいいドラマが好きで、場面や時間をどんどん飛ばしていけることにドラマ脚本を書く楽しさがありましたね。一方で、飛ばしたくても飛ばせない歯痒さみたいなものが舞台の魅力でもあり、出演者の疲労と観ている人の疲労が一緒に蓄積されていくところにまた別の面白さがあると思っています」

たしかに、安藤が書く舞台の戯曲は細やかな台詞や展開の積み重ねによって成り立っていると言ってもいい。職場の同僚や道端ですれ違った他人同士の雑談や交流が徐々におかしさと違和感を漂わせていき、勢いがついたころにはパニック映画の様相を呈している。荒唐無稽に感じながら、観ていると不意に現代社会の本質に辿り着きそうになるから不思議だ。

「具体的な怒りや、これを世界に問うてやるぞ、という意気込みで脚本を書くこともあるのですが、『歩かなくても棒に当たる』の場合は事前にテーマは考えず、“こっちに進んだほうが面白そう”みたいな感覚で書いていきました。それがたまたま、共感しやすい題材だったのかなと」

本作の舞台はマンションのゴミ置き場。ゴミ収集の時間を過ぎたあとに続々とやってくる住民は「収集車はもう行ってしまったか、まだ9時だし来ていないのではないか」と各々に言い聞かせる。こうした多くの人が経験したことがあるだろう日常生活上の小さな不正から、物語は予測不能な展開を見せていく。

「友情や恋人関係といった仲良しな関係性より、職場の同僚などある程度距離のある人たちのほうが描きやすくて。今回は出演者の方たちを見て、いつもよりもっと距離のある、ほとんど“はじめまして”に近い関係性を描きたくてゴミ置き場というシチュエーションが出てきました」

本作は〈はえぎわ〉や〈ほりぶん〉で知られる川上友里をはじめ個性的な役者で構成されているが、彼女たちからどんなものを受け取り、遠い距離感の関係性にたどり着いたのだろう。

「これは実際にあった話ではないんですけど、例えば『コンビニに行くけど何かほしいものある?』と聞いたら、みんな『大丈夫』と言いつつ別のコンビニに行きそうな方たちで。お願いするでもなく、私も行くっていうわけでもなく。自分の世界を持っていて、一人が慣れていそうなみなさんの距離感が反映されています」

本作の戯曲で晴れて岸田賞を受賞したことについては控えめに「嬉しいです」と一言だけ。

「脚本を書いていて面白いのは、書き終わったあとに自分が無意識下で何を考えていたのかわかるときで。2024年は本作を含めて4本書きましたが、すべてホラー要素があった。ホラーはその作り手が何を一番怖いと思っているかが出るものですが、私の場合は『この世に神様がいなかったら怖いな』ってことをたぶん考えていたんです。私自身、特定の宗教があるわけではないですが、見えない善の方向に導いてくれる力があると信じたい気持ちはあって。でも、世界ではほんとにひどいことが起こっている。そこに恐怖を感じていたのだと思います。そんな作品が最新の岸田賞受賞作なので、これが岸田賞か、という気持ちをぜひ味わってください」

インタビュー&文/原航平
Photo/明田川志保

【プチ質問】Q:手土産を選ぶポイントは?
A:自分が持っていく時は持ち運びがラクなようにお煎餅などの軽い物。もらって嬉しいのはオロナミンCとか飲み物で重い物です。

※構成/月刊ローチケ編集部 1月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布

【プロフィール】

安藤奎
■アンドウ ケイ
劇作家、演出家、俳優。2024年に『地上の骨』、2025年に『歩かなくても棒に当たる』で岸田國士戯曲賞を受賞した。