(取材・文/折田侑駿)
2月13日(金)より下北沢駅前劇場にて上演される『惑星Bb◉忘れた凡ての時間たち』。劇団スポーツによるオリジナル最新作であり、“全力除霊ミステリーコメディ”という新ジャンルの作品だ。
主宰である内田倭史と田島実紘が共同で作・演出を務め、劇団メンバーの竹内蓮をはじめ、門田宗大、片桐美穂、ヒロシエリ、武田紗保が出演。個性の光る俳優たちが顔を揃えている。もちろん、内田と田島も出演する。
愛おしさと切実さに満ちた、劇団スポーツらしさ全開の最新作。ここではそんな本作の稽古場の様子をお届けする。

劇団スポーツが志向する“演劇観”に触れる体験
2月5日──。
開幕までもう10日を切っている。演劇の稽古場に足を踏み入れることが非日常的な体験である筆者にとって、少しばかりドキドキするものだ。稽古場には各カンパニーがつくりあげてきた固有の空気に満ちている。そこへひとりで入っていくのだから、いくら仕事とはいえ無理もない。劇団スポーツの稽古場には前作『CONSTELLATIONS』のときにも足を運んでいるが、今回は初日まで10日を切っているというタイミング。新作が生まれつつある環境は、いったいどのようなものなのか。

まず率直な印象として、いつもどおりの劇団スポーツの姿がそこにはあった。ノリノリで、ゴキゲンで、思いやりにあふれていて、アクティブで、アクロバティックで、健康的で、パワフルで、スピーディーで、穏やかで、非常にエモーショナル。これらの印象を、これまでの上演作品たちから受け取ってきた。稽古場をのぞいたのはたった一日だけの話だが、作品から得るイメージと実際の稽古場で受ける印象にはズレがない。本番の“あの感じ”は、こうして醸成されていくのかと腑に落ちる(もちろん、さすがに劇中の登場人物たちのようにハイテンションだというわけではない)。劇団スポーツの作品は、観客を劇空間に引き込むのがバツグンにうまい。一度でも観たことのある方ならば分かるだろう。“あの感じ”が稽古場にもある。笑い声が絶えず、思わずこちらも表情がゆるんでしまう。
さて、今回の新作のジャンルについて“全力除霊ミステリーコメディ”だと冒頭に記したが、まったくなんのことやらである。しかし実際に触れてみると、なるほどそうとしか表現できない作品になっている。これはとある劇団の物語だ。劇作家である主人公・香川が、10年前に書いた『惑星Bb』の台本に触れるところから、すべてがはじまる。彼が人生ではじめて書いたこの台本を開いたとき、公演を前にして亡くなってしまったかつての仲間が“幽霊”として現れる。なぜ、10年の時を経て帰ってきたのか。そもそもなぜ、死んでしまったのか。『惑星Bb』は当時の劇団の日常をそのまま劇にしたものだ。一同はこの作品の上演を試みる。

現在の香川たちの日常と劇中劇とを交差させながら、物語は進行していく。内田と田島は共同で本作を執筆したが、どちらがどの部分を書いたのか、もはや分からないのだという。それくらい長い時間をかけ、互いに手を入れ続けてきたらしい。事前に受け取った台本に目を通していたものの、一読しただけだと理解するのが難しかった。現在と過去、日常と劇中劇とが入り乱れるのを前に、ちょっと混乱してしまったのだ。けれども俳優の肉体と声をともなったキャラクターが実際に目の前に現れると、すぐに彼らと手を取り合うことができた。生者と幽霊が並んだユニークな作品だが、ノリや勢いなどの力技で乗り切ろうとしたり、煙に巻こうとしないところも劇団スポーツらしい。いや、ノリノリで勢いも力も感じるものの、これらで誤魔化したりはしない。ひとつのシーンをどのように立ち上げ、のちのシーンにどうつないでいくか。俳優たちからいろんなアイデアが活発に飛び交う。
演出は内田と田島の協働で、基本的な指揮を執るのは内田。彼らの俯瞰的な視点がこの作品を統べるわけだが、それぞれの役を演じる俳優たちの実感こそが重要になってくる。どうすればより面白く、深く、豊かなシーンができるのか。みんなで試行錯誤しながら、一つひとつのアイデアを膨らませていく。芝居の動線とアクションを確認しながら、一人ひとりが個々の実感を口にし、シーンの精度を上げていく。これらの連なりが、本番では舞台上に乗るわけだ。

劇団スポーツのオリジナル作品は、同じく駅前劇場で上演された『逆VUCAより愛をこめて』からちょうど一年ぶり。この間に、劇団の新たな試みとしてはじまった「NOWHERE」シリーズの第一弾『CONSTELLATIONS』があった。こちらはイギリスの劇作家であるニック・ペインの作品で、一組の男女が出会い、すれ違い、別れ、再び出会うさまを、同じような会話劇を何度も反復させながら描いていく二人芝居だ。これに六名の俳優で挑むという、非常に実験性の高い公演だった。しかも上演ごとに、いや、各シーンごとに、俳優たちは自身の演技を限定することなく、無限の可能性の中から自由に選択していいことになっていた。かなり挑戦的な公演でもあったのだ。
かねてより劇団スポーツは、“物語の中で起こること”と“舞台上で実際に起こること”の両方を楽しめる演劇の創作を志向してきたが、『CONSTELLATIONS』を経てさらに俳優たちが自由に生き生きとしている印象を抱いた。『惑星Bb◉忘れた凡ての時間たち』という作品全体に関してはもちろん、劇中劇においても、その一瞬一瞬に劇団スポーツの“演劇観”が表れていると思う。演劇とは、劇場を訪れた人々が少しだけ日常を忘れられるものであり、ともに過ごすいまこの瞬間をみんなで作品に閉じ込める営みでもある。ぜひとも劇場で、劇団スポーツの“あの感じ”に触れていただきたい。

