つかこうへい十七回忌特別公演 『熱海殺人事件』ラストメッセージ│チームライオン ゲネプロレポート

2026.02.16

つかこうへい十七回忌特別公演 『熱海殺人事件』ラストメッセージが、東京・紀伊國屋ホールにて2026年2月14日(土)に初日を迎えた。これまで何度もキャストを変え、演出を変え、様々な形で上演されて続けてきた『熱海殺人事件』。つかこうへい十七回忌を迎える今年は、荒井敦史が6度目の木村伝兵衛役、高橋龍輝が3度目の熊田留吉刑事役を務める。ベテランタッグの2人に対し、水野朋子婦人警官は大原優乃と村山彩希、犯人大山金太郎役は横田大雅(CLASS SEVEN)と百名ヒロキのWキャストとなる。

今回は先に初日を迎える荒井、村山、百名、高橋によるチームライオンのゲネプロの様子をレポートする。

「白鳥の湖」の緞帳が上がり、客席にあふれだすスモークと真っ赤な照明が木村伝兵衛(荒井敦史)を照らし出す。2024年の夏に上演された紀伊國屋ホール開場60周年記念公演『熱海連続殺人事件』Standardぶりとなる、荒井による唯一無二の木村伝兵衛が帰ってきた。

『熱海殺人事件』は警視庁にその人ありと名を馳せる木村伝兵衛と、その愛人であり部下の水野朋子(村山彩希)のもとに、富山県警の刑事・熊田留吉(高橋龍輝)がやってくるところから始まる。出会った瞬間から止まらぬ伝兵衛の傲慢っぷりと、その愛人として惚気る水野の姿に、熊田のツッコミは止まらない。そんな中、彼らが捜査する事件の全貌が明らかに。大山金太郎(百名ヒロキ)という職工が、熱海の海岸で山口アイ子という幼馴染の女性の首を締めて殺したのだという。事件のあらましを聞いて「つまらない」と切り捨てた伝兵衛は、あの手この手を使って、この事件を自分好みの大事件に仕立てあげ、大山を立派な犯人に育て上げようとする――。

作品発表から50年以上経ってもなお、進化し続ける『熱海殺人事件』。それを支えるのは、進化し続ける役者なのだと痛感させられる約2時間となった。

「損をしてもいいから全部を拾う伝兵衛」こそが、荒井の目指す伝兵衛像だと、稽古前のインタビューで彼は語っていた。荒井はその言葉を体現するがごとく、パワフルかつ、2時間の物語を掌握する抜群の存在感で、作品の柱となる。彼が20代のときに演じてきた伝兵衛に、さらに円熟味と色気が加わった。

序盤から伝兵衛と見事に張り合って見せるのは高橋。前回、同役を演じた際は坊主頭が強烈な印象を放っていたが、今回は都会的な印象に。プライドの高さや出世欲を見せる前半から、次第に本音が見え始める後半まで、圧倒的な馬力のエンジンで走り切る。高橋は「Standard」で犯人・大山金太郎役を演じた。大山としての景色を知った高橋が演じる熊田は、より説得力を持つ。彼自身が持つ負けん気とスピード感を持つ熊田が、荒井の伝兵衛と絡まり、冒頭から一気に作品の世界へと引き込んでくれた。

チームライオンの新キャストは村山と百名。2人は昨年夏、ミュージカル『新・幕末純情伝』で初めてつか作品を体験したばかり。同作で2人は沖田総司と坂本龍馬として恋模様を繰り広げた。そんな2人が演じる、終盤での海辺でのやりとりは、作中でも屈指の切ないシーン。かつて、つか作品で共演した2人だからこそ生まれる息の合った掛け合いが、観る者の胸を打つ。

村山はAKB48卒業後、最初の舞台出演がミュージカル『新・幕末純情伝』での主演という大役だったが、「シアターの女神」たる真髄を見せた。あの熱演の記憶も新しい村山は、水野役でさらに役者としての可能性を提示してくれた。荒井と並ぶと身長差が際立つ小柄な村山だが、ステージの中央に立つ彼女はそれ以上に大きく見える。それだけ彼女の演じる水野には存在感があり、同時に初めての『熱海殺人事件』とは思えないほどの安定感が感じられた。

ゲネプロ時点で高い完成度を誇っているだけに、初日の幕が開けてからの進化にも期待したい。本作のもうひとつの楽しみは、合間に挟まるアドリブや歌謡曲の選曲だ。AKB48絡みの小ネタや、爽やかな歌唱シーンにもぜひ注目を。

そして最後は、犯人・大山を演じる百名。歌とダンスを武器にミュージカル作品でも活躍する百名は、その器用さを役者としても発揮。ひょうひょうとした軽さで田舎の純朴な青年を演じたかと思えば、ラストにはその裏に渦巻くコンプレックスや願望をエネルギーとして発露させる。その柔軟性が、ただの人を殺した青年から事件の犯人へと染まっていく大山に見事にマッチしていたように思う。

荒井は伝兵衛を「愛にあふれた部長刑事」と表現する。チームライオンが全力でぶつけた、人間の持つ愛。その“ラストメッセージ”を受け取った今、チームユニコーン(大原・横田)がどんな愛の形を見せてくれるのか、期待が高まる。

舞台写真

取材・文/双海しお
撮影/神ノ川智早