小沢道成が主宰を務めるEPOCH MANの新作舞台『The Closet Revue』が、阿部顕嵐を主演に迎え、4・5月に東京ザ・スズナリで上演される。EPOCH MAN初の同劇場進出・一カ月のロングラン公演だ。
阿部顕嵐が演じるのは、男性として男性が好きなことをカミングアウトできないまま生きてきた会社員・瀬戸皓斗。脚本・演出・美術・出演を務める小沢道成、さらに山崎一と、オーディションで選ばれた4人のキャストが名を連ねる。
小沢は劇場そのものを“The Closet Revue”という空間にしたいと意気込む。今回はそんな小沢と、小沢が主演を託した阿部の対談インタビューをお届けする。
――お二人は以前、東洋空想世界「blue egoist」でプロデューサー兼出演者・脚本家として初タッグを組まれました。それ以来のタッグとなりますが、どういった経緯で本作は生まれたのでしょうか?
小沢 まさに『blue egoist』がきっかけでした。僕は脚本のみを担当していたので、物語や書いた言葉がどういった風に調理されるのか、楽しみに本番を観にいったんです。キャスト6人とも素晴らしかったんです。物語のなかでは、顕嵐さんの役が喋る言葉に、僕にとって大事なテーマを多めに込めていたんです。言葉を大切にしたい人間なので、顕嵐さんがその言葉をどう発するんだろうと思っていたら、見事に言葉の持つ力を届けてくれていた。顕嵐さんが持つ本能なのか、魂なのか。そういったものが言葉に乗っかっていて、それを観た瞬間、僕自身が感動したんです。次の作品で書きたい題材は決まっていて、それを表現するには魂みたいなものが欲しいと思っていた。それを託せるとしたら顕嵐さんだろうなと思って、お声がけさせてもらったという経緯です。
阿部 そうだったんですね。初耳で、本当に嬉しい以上の言葉が出ないです。
小沢 劇場も小さいし、断られてしまうかなと思っていたら、すぐ「やります」と言ってくれて。そういう規模感とかは気にしないんですか?
阿部 そうですね。どういう人と、どういう作品をやるのか、どれだけワクワクするか、というのを大事にしています。お話をいただいた時点でやってみたいなと思ったので、すぐにお返事させていただきました。
――実際に脚本を読んでみて、どんなことを思いましたか?
阿部 1回読んだだけじゃ、とても全部は拾いきれないというのが率直な感想でした。これをお客さんに伝えるとなると、ハードルが高い。だからこそ、挑戦しがいがあるなと思いました。内容に関しては、性のあり方や、それぞれが抱えているコンプレックスにも触れていますが、だからといって暗いという言葉で表すような感じでもなくって。あまり暗い印象は持たなかったですね。明日、頑張ろうと思えました。
小沢 嬉しい。僕の脚本は自分で書いておきながら、読むだけではわからないだろうなということが多くて(苦笑)。稽古をしながら「ここってどういう意味ですか?」と聞かれても、僕の中にもいろんな解釈があって、答えを渡せない。それくらい解釈の可能性のある作品で、みんなで実験しながら一番いいと思えるものを選んでいくしかないなと思っているところです。
――稽古が始まって約2週間。手応えはいかがですか?
阿部 想像していた以上に立体的なものが出来上がりつつあって。すごいものが生まれそうな予感がしています。
小沢 今回、時間軸があらゆるところに動くんですよ。登場人物7人全員が出ているけれど、5年前の話や、例えば1時間前の話を次々と描いていく。今回はその時間軸の移動を身体的に表現するというのを試みたいなと思っています。それを担うのが、クローゼリムと呼んでいるオーディションで選ばせてもらった4人です。4人が身体を使って歪みを表現することで、お客さんにちょっとした違和感を感じてもらえたら、演劇としては成立するのかなと。顕嵐さんや(山崎)一さんの視線一つでも空気感や時間軸が変わるし、僕も稽古の中で初めての感覚をたくさん味わっています。観たことないものを生み出そうとしていますね。
――まさに実験的な稽古になっているんですね。阿部さんは瀬戸皓斗という役を演じます。苦悩を抱える瀬戸に対し、共感できる部分はありますか?
阿部 誰もがすべてをさらけ出して生きているわけではないですし、とくに僕の場合は普通の環境ではない中で生きてきた人生なので、共感できるところもすごくあります。僕自身の思いの乗るセリフも多いからこそ、どう伝えるべきなのか。稽古の中で、まだまだ悩んでいこうと思います。

――稽古を通して、役の捉え方に変化は生まれましたか?
阿部 捉え方の変化、というのはないかもしれないです。読んだ時点で、彼の心のありかがわかる脚本を書いてくださっているので。そこが小沢さんの書かれる脚本の魅力だなと感じています。登場人物1人1人の心がどこにあるか見えるので、その流れのまま言葉と心を紡いでいけたらなと。素直に演じた先で、ちょっと何か変化が起きたら、それはそれで面白いと思うんですよね。
小沢 稽古を見ながら、早くも「顕嵐さんってこんな一面あったんだ!」というのがすごく出てきています。一さんとの掛け合いで引き出されているものも多くて、「顕嵐さんからこういう感情が生まれるんだ」と、新たな一面が垣間見えて面白いです。
阿部 それは僕も感じていますね。想像とはまったく違うものが一さんから返ってくるので、自然と僕も違うものが引き出されています。
小沢 それが演劇の面白いところですよね。僕も今はまだ演出として稽古場にいるので、芝居には入っていないのですが、同じ空間に入るのがとても楽しみです。
阿部 本読みで小沢さんに皓斗の台詞を言ってもらったんですが、本当にめっちゃすごいんですよ! 作曲家が自分で演奏している感覚というか。僕は僕なりにそれを超えなきゃいけないなと思っています。
小沢 こう言ってくれていますが、僕の脚本は役者さんに託す部分が多いし、長台詞も多い。それにお客さんが飽きないように伝えることが大事になってくるんですが、こうするといいんじゃないかという話を伝えたら、一発でできちゃうから、逆にちょっと悔しくなっちゃって(笑)。
阿部 いやいやいや。
小沢 そういうやりとりを続けていると、こんな生々しい姿の顕嵐さんは初めて見たなって思う演技をしてくれるので面白いですよ。
――本作はカミングアウトが軸になっていますが、改めてこのテーマで描きたかったことを教えてください。
小沢 顕嵐さんには、性自認としては男性、好きになる相手が男性の役を演じてもらいます。そして舞台は、“The Closet Revue”という性に悩みを抱える者なら誰もが秘密を打ち明けられる場所。そこでは、明るく華やかに登壇者の過去が物語のように彩られます。カミングアウトするということはどういうことなのか。なぜ隠して生活しないといけないのか。言えない理由の背景には何があるのか。内側にどんなものを抱えているのか、それは見た目だけでは分からないことです。目に見えないことだからこそ、内に抱える苦しみや葛藤をし続けてる人がいる。じゃあどうすればいいのか、その方法を僕自身も見つけてみたくて、書こうと思いました。

――阿部さんは作品を観た方に、どんな気持ちを持ち帰ってもらいたいですか?
阿部 言葉にありふれた今だからこそ、言葉の重みと向き合ってほしいなと。僕も読んでみてすごく考えました。言葉を発する、言葉を受け取るという基本的なことを通じて、人間の根底にあるものを考えさせられるというか。そういったものを感じてもらえたら嬉しいですね。
小沢 稽古前にジェンダー・セクシュアリティ考証の若林佑真さんによる勉強会があって、これまで知らなかった知識を得るだけで、意識がちょっと変わったんですよね。言葉一つであっても、発言する前に、この言葉は正しい使い方なのか、誰かを傷つけていないか。脳にフィルターが1枚加わったような感覚で。1枚のフィルターを通す=知識を知るっていうことが、もしかしたら大事になるのかなと思いました。作品を観た方もそういった感覚になってくれたらいいですね。
――今回はEPOCH MAN初のザ・スズナリ進出となりますね。
小沢 人の気配がする場所でこの物語をやりたいと思っていて、それがもともとアパートだったザ・スズナリにぴったりだなと。今回は、イマーシブシアター的な劇場の使い方を構想していて、劇場自体を“物語”に仕立て上げようと思っています。開演前からロビーで出演者が動いていたり、もしかしたら劇場の外装自体が変わっていたりするかも。
阿部 すごく面白そうですね。僕もザ・スズナリの規模感の舞台に立つのは初めてなので、お芝居がどうダイレクトに届くか想像ができていない。きっとお客さんとの一体感があるんだろうなと思うと、ワクワクしますね。
――最後に、公演を楽しみにしているファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします。
小沢 まずは重く深く考えずに、楽しみに来てください。生きていたら、誰しもコンプレックスやトラウマを抱えることもあるじゃないですか。そういった人生を抱えてみなさん劇場に来るわけだから、やっぱり演劇は楽しいものであってほしいというのが大前提です。私が泣いてるのに隣の人は笑っている、これを体験できるのも劇場の良さでもある。なぜ人の価値観はこんなにも違うのか、それを劇場の空間で感じていただけたら嬉しいです。僕が演じる役もですが、登場人物たちは目に見えてはいるけど、本当にその場にいるのかどうかは分からない。「これってこういうこと? それともこう?」と、考察が生まれる作品だと思うので、みなさんがどう感じたのか、観劇後にぜひ教えてほしいです。
阿部 僕が伝えたいのも楽しんでほしいということですね。演劇はエンターテインメントなので、楽しんでもらって、その中で心が揺れる瞬間があったら嬉しいです。揺れなかったら僕の責任だなと(苦笑)。
小沢 いや、そんなことないです!
阿部 では、僕らの責任だなと思うので(笑)。まずは純粋に楽しんでください!
小沢 歌もあるし、踊りもあるし、笑えるし、泣けるかもしれない。エンタメを楽しむことも1つの物語のキーになっているので、存分に楽しんでいただけたらと思います。

取材・撮影:双海しお
