舞台「惰性クラブ」|川島如恵留 インタビュー

ワールドワイドに活躍するTravis Japanの川島如恵留が主演を務める舞台『惰性クラブ』が6月から7月にかけて、東京・大阪にて上演される。作・演出を務めるのは、全編宮崎弁による会話劇で話題を呼んでいる劇団「小松台東」の主宰・松本哲也。志半ばで地元に戻ってきた青年を中心に、「惰性」のような若者たちの何気ない日常と揺らぎを描いていく。川島はこの物語の世界に、どのように飛び込んでいくのか。話を聞いた。

――主演として再び東京グローブ座の舞台に立つことが決まった際、率直にどのようなお気持ちでしたか?

もう本当に「幸せだな」の一言に尽きます。去年の12月に『すべての幸運を手にした男』で立たせていただいた時に、グローブ座っていう劇場の空気感が本当に素敵だったんです。お客様に喜んでいただけたっていう確かな実感もありました。
今回『惰性クラブ』という作品を通して、もう一度あのステージに立たせていただける。さらに、大阪の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにも行けるっていうことで、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。もちろん作品もカンパニーも違うので、色はまったく別モノになると思うんですけど、あの劇場でお客様と共有できる「舞台ならではのワクワク」を再び味わえるのが、今からすごく楽しみです。

――川島さんはコメントで「これまで惰性とは程遠い人生だった」と仰っていますが、作品の世界観やご自身の生き方との距離をどう感じられましたか?

実は僕、このお話をいただいてから「惰性」っていう言葉についてすごく調べたんですよ(笑)。僕のこれまでの31年間の歴史の中では、たまたま触れてこなかった要素だったので。どちらかというと変化とか挑戦が好きで、アグレッシブに「どんどん変わっていこう、成長しよう」っていう生き方を選んできたつもりです。
だから最初、自分にとって「惰性」っていうのはすごく遠いところにあるものだと思っていました。でも、調べていくうちに、決して悪い意味だけじゃないんじゃないかと思うようになりました。無理に力を加えない、力まない生き方っていうか……。僕自身、力みすぎて疲れちゃう部分があるのも分かっているので、この作品を通して「頑張った力に乗っかって、しばらくは惰性で滑っていく」みたいな感覚を知ることは、僕のこれからの人生にとっても、すごくポジティブな捉え方ができるんじゃないかなって思っています。

――台本から受け取った物語の印象はいかがでしたか?

すごく好きな物語です。読ませていただいて「すごく面白いな!」って素直に思っちゃいました。この面白さを早く、ちゃんとした形でお届けしたいと、強く思っています。すごい大きい事件が起きてそれをみんなで解決して、という派手な展開ではないです。でも、だからこそ「あ、自分にもこういう人生があったかも」って思えるような、日常の延長線上にあるリアルさが詰まっていますね。

僕が演じる直哉のセリフは「……」がとても多くて(笑)。松本さんがわざわざこんなに入れているっていうことは、絶対に伝えたい何かがあるはずなんです。「ここではどういう表情をするんだろう?」、「どういう感じ方をするんだろう?」って読み解いていく作業が、今すごく楽しいです。そういう、もどかしいお芝居を見るのが大好きなんですよ。本音を言えばいいのに、なんで言わないの!っていう。そのもどかしさを深掘りしていくのが、今の僕にとっての大きな課題ですね。

――直哉は、かつて挫折した経験を持つ人物ですが、今の時点で彼をどのような人間だと捉えていますか?

直哉自身、その「惰性」の中にいながらも、実はどこかで抗って生きてきたところがあって、実はちょっとした「強さ」も持ち合わせているんじゃないかな。いろいろなことに挑戦してきた中で、挫折したり諦めたりしたことが一種のコンプレックスとして残っちゃっているんですね。だから「惰性で生きる」っていう選択肢を取らざるを得なかった。そういう生き方を自分で選んでいるわけだから、ある意味で“惰性じゃない”のかもしれない。でも周りから見ると、やっぱり「なあなあに生きてる」ように見えてしまう。そんな一枚の薄いモヤというか、カーテンがかかったような人生を歩んでいる人のように感じています。
すごく愛おしいですよ、直哉って。それに世の中にも、頑張ってきたはずなのにタイミングが合わなくて報われなかったり、うまく波に乗れなかったりした経験がある方ってたくさんいらっしゃると思うんです。もちろん、僕自身もそうです。
それでも、僕は周りの人の力を借りて前を向いてこれたけど、直哉は周りと自分を切り離して考えちゃってるところがあって、今の僕からすると「もうちょっと背中を押してあげたい!」って思ってしまいます。可愛い強さと弱さを持ったやつなんですよね。その「もどかしさ」をちゃんとお芝居で表現できるようになりたいです。

――作・演出の松本哲也さんと初めてお会いした際の印象は?

松本さんは、初めてお会いした時からすごく心地よくて…今のところ「パパ」みたいです(笑)。あの空気感、柔らかさ、温かさがあってこその現場になりそうだなって予感しています。作品の温度感についても「稽古を見ながら変えていく」っておっしゃっていたので、現場でどんどん作品が育っていくんだろうな、と。演出をされる方が作品自体の生みの親であるっていうのは、僕らにとって一番の理解者がそばにいてくださるということなので、そこに飛び込めるのはとても勉強になるなと思っています。

――松本さんからの言葉で印象に残っているものはありますか

実は、この舞台は勝手になんとなく黒髪で挑むつもりでいたんです。別のお仕事で金髪にしていたので、ビジュアル撮影のタイミングで黒髪に戻そうかなと思っていたら、松本さんとお会いしたときに「その金髪の感じもいいね」って言ってくださって。「如恵留くんの明るさというか、あっけらかんとしてる感じが逆によいかもしれないから、そのままでいて」と言ってくださいました。
松本さんの中の直哉像が僕に合わせて変わったのか、それとも最初からこういう直哉を求めていたのか……そこは今度お会いした時にもう一度聞いてみたいんですけど(笑)。でも、自分自身の今の姿を肯定していただいたことで、現場にゆったりと入っていけそうな気がしています。

――全編「宮崎弁」でのお芝居になります。音声データをすでにいただいているそうですが、聴き込むなかでの発見はありましたか?

最初に音声を聴いた時は、台本を読んでいたので、内容は理解しているはずなのに、「あれ、今なんて言ったんだろう?」って言葉がうまく入ってこなくて……。でも、2回目、3回目と聴いていくうちに、急に「あ、意味がわかる!」ってなる瞬間があったんです。英語をアルファベットから覚えるような、あの変化が自分の中ですごく面白かったです。
ただ、お客様は一回きりの観劇で意味が伝わらないといけないので、そこは僕がしっかり精進しなければならない部分。言葉だけじゃなく、表情や動き、ストーリーでちゃんと伝えられるようにしたいです。日常でも「したっちゃかい」とか、宮崎弁をポロッと出せるくらいまで、自分の中に落とし込んでいきたいですね。

――同世代の「惰性クラブ」メンバーを含め、キャストとのコミュニケーションで印象に残っていることはありますか?

惰性クラブのメンバー同士の撮影があったんですけど、その時は本当に「はじめまして。おいくつですか?」みたいな、他愛もない世間話しかまだしてないんです。でもそれが、今の段階では逆にいいのかな。そういう、まだお互いの核心に触れていない上辺だけの感じが、劇中の彼らの関係性とどこかリンクしている気がしていて。本番が始まった時に、「あの時はまだ初々しい会話をしてたよね」って笑い合えるような関係を、これから現場で作っていけるのが楽しみです。忙しいかとは思うんですけど、稽古などの合間に2回くらいはご飯に行きたいなと目論んでます。

――直哉が「サッカーで挫折した」という設定や「電気工事士の父を手伝っている」という背景が、川島さんご自身の活動や資格とリンクしている感じがしますね

本当に不思議な縁ですよね。今、サッカーをテーマにしたテレビ番組をさせていただいていて、家でも毎日欠かさずリフティングの練習をしているんですけど、なんと直哉もサッカーが上手かったっていう設定。惰性クラブのためにもリフティングを続けるべきだな、って思いました(笑)。あと電気工事士に関しても、僕、第二種電気工事士の資格を持っているので。改めてちょっと復習しようかなと考えています。このために頑張ってきたわけではないものが、作品の中で結びついていく――この不思議なふわふわした感覚が面白くて、何か「振り返る」機会を作品に与えてもらったような、嬉しい気持ちでいます。

――川島さんが今改めて感じる「舞台という場所のワクワク」とは何でしょうか?

やっぱり、劇場の椅子に座って、幕が開くのを楽しみにして、幕が閉じた瞬間にカーテンコールを待ちきれなくてこぼれてしまう拍手がある。あの空間でしか味わえない「熱」や「愛」を肌で感じられるのが、舞台の一番の良さですよね。特に今回は、演出の松本さんが作品の生みの親でもあるので、稽古場で作品がどんどん育っていくプロセスを一緒に歩めるのがとても勉強になるなと。一俳優として、その熱量をしっかり受け止めて、届けていける存在になれたらいいなと思っています。

――最後に、劇場に足を運ぶお客様へメッセージをお願いします

『惰性クラブ』は、もどかしさや切なさが、小さく、でも連続して爆発し続けるような作品です。観終わった後に「あ、なんか心が少し晴れたかも」って思ってもらえるような、そんな感覚をお届けしたい。僕にとって初めての「惰性」をこの作品に捧げて、毎公演「がんばんないよ!」(宮崎弁で“頑張りすぎなくてもよい”の意)と自分に声をかけながら、新鮮にこの世界を楽しみたいと思います。ぜひ劇場で、僕たちの「惰性」を一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです!

インタビュー・文/宮崎新之