舞台『十角館の殺人』│ゲネプロレポート

2026.05.11

綾辻行人による日本ミステリー小説の金字塔『十角館の殺人』を原作とした舞台「十角館の殺人」が、5月10日(日)より開幕。原作の大ファンを公言する梅津瑞樹が島田 潔役として主演を務め、脚本・演出を中屋敷法仁が手がける。

共演には島田の相棒・江南孝明として小西成弥。さらに、十角館を訪れるミステリ研究会のメンバーにはエラリイ役の田村 心をはじめ、皇希、益永拓弥、岡部 麟、永田紗茅、高野渉聖、砂川脩弥、十角館を設計した天才建築家・中村青司役には中村誠治郎が名を連ねた。

キャストはアンサンブルなしの全10人。海の香り漂う横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールにて実施されたゲネプロの様子を劇中写真とともにレポートする。

孤島・角島を思わせる波音が劇場を包むなか、ホール中央には十角形の円形ステージがそそり立つ。その中央にはさらに十角形の台が置かれ、天井にも十角形のセットが吊るされている。それはあらゆるところに十角形の意匠を施した十角館そのもの。原作ファンの梅津は脚本を読んで「なるほど」と唸り、思わずニヤリとしてしまったと語っていたが、劇場に入った瞬間から作品への期待値は上がる一方だ。

波音が大きくなりプロローグが描かれる。エピローグへとつながる重要なキーアイテムとともに、全キャストが十角形のステージの上へ。誰もが被害者にも殺人犯にもなり得る。そんな不穏な空気が、10人での群唱によってうねりとなって空間を支配した。

本作は、十角館が立つ角島と本土、2つの場所で物語が進行していく。角島ではK大学ミステリ研究会の男女7人がサークル合宿を。本土ではミス研元メンバーの江南(小西成弥)と、知人を介して出会ったばかりの島田 潔(梅津瑞樹)が、故人である建築家・中村青司(中村誠治郎)から届いた謎の手紙の真相を追い求める。

一体どんな事件が起き、どんな結末を迎えるのか。ミステリの醍醐味をヒントなしで劇場で味わってもらいたいため、ここではヒントを含め多くは語らない。代わりに、公式サイトが事前に公開している相関図の範囲で、それぞれの見どころを紹介する。

ミステリ研究会のメンバーのリーダー格は、知的であることにこだわり、突然の事件にも嬉々として探偵役を買って出るエラリイ。演じる田村 心は圧巻のセリフ量をこなしながらも、つねにどこか余裕を漂わせる。朗々とした自信に満ちた探偵語りが心地よく、十角館で起きる事件への距離のとり方も絶妙だ。

皇希の演じるポウは人の良さが随所に見え隠れし、事件とともに憔悴していく姿が印象的。益永拓弥は周りへのあたりが強く、ついイラッとしてしまうシニカルなカー像を作り上げ、高野渉聖は素直でかわいがられるムードメーカーなルルウを好演。ヴァン役を演じたのは砂川脩弥。ふと存在感を消したかと思えば、次の瞬間には視線を一身に集める。その緩急の巧みさが印象的だった。

二人の女性メンバーを演じたのは岡部 麟と永田紗茅。岡部は気の強いアガサを、永田は控えめでおとなしいオルツィを対照的に演じ上げ、ミス研内にコントラストを生み出していた。

本土組は梅津と小西の二人芝居で複数の登場人物を演じていく。梅津が組み上げたひょうひょうとした島田像は、一声発するだけで、どこか人と違う感性を持っていることをうかがわせる。無邪気な子どものような笑顔で空想の推理を繰り広げ、それが核心をついていく様が面白くもあり、不気味でもあった。

対する小西が演じる江南は人のよい大学生然としていて、まるで毒気がなく爽やか。それでいて、時折、鋭い洞察力を発揮する瞬間の表情には惹き込まれるものがあった。

二人は行く先々で出会う人々を交互に演じ分けていく。目まぐるしく変わる役柄を自在に操る、その技量も本作の見どころのひとつといえるだろう。

そして、半年前の事件で亡くなった中村青司を、中村誠治郎がベテランならではの存在感とともに表現。観客の想像力を掻き立てる芝居で、少ないセリフに多くの情報を込める。故人である彼がなぜこの舞台に立つのか。その意味を、中村の芝居が静かに語りかけていた。

小道具をほとんど使わず、昇降する十角形のモチーフと照明、音響にて一連の事件を描ききった本作。あえて映像や可動式セットを排し、俳優陣の力量で難解なミステリを成立させようとした中屋敷の演出に、舞台でしか味わえない緊張感と、原作への敬意を感じた。

原作を愛する梅津が主演を務め、中屋敷法仁が演出を手がけた本作。原作への敬意と、舞台でしか表現できない挑戦が詰まった一作となっている。すべての真相は、劇場で明かされる。名作ミステリの舞台化を、ぜひその目で確かめてほしい。

舞台写真

取材・文・撮影/双海しお