数々の話題作で独自の存在感を放つ俳優の小手伸也が、舞台初主演を果たす。俺もそろそろシェイクスピア・シリーズ「コテンペスト」は、ウィリアム・シェイクスピア「テンペスト」を大胆に翻案・脚色した新作コメディで、小手とは長い付き合いとなる村上大樹が脚本・演出を担う。共演には、鈴木保奈美をはじめ片桐仁、崎山つばさ、松田凌、AOI(WHITE SCORPION)、井澤勇貴、佐藤真弓、土本燈子、津村知与支、久ヶ沢徹ら、個性的な面々が名を連ねた。果たしてどのような作品になるのか、小手に話を聞いた。
――本作は、小手さんにとって舞台初主演作にして“俺もそろそろシェイクスピア”とも冠しています。どのような経緯があったのでしょうか。
私も50歳を超えまして、俳優歴としては30年近くになります。ずっと舞台を中心に活動してきたにもかかわらず、演劇人として必須ともいえるシェイクスピアに真正面からぶち当たったことがなかったんです。少しシェイクスピアのエッセンスがある、くらいのところまでだったんですね。このまま俳優人生を続けていくためには、シェイクスピアはやらなきゃいけない。そういう気持ちがありました。それに、50歳を過ぎた今の自分なら、シェイクスピア作品に必要とされるようなある種の重厚感、存在感をそろそろ出せるようになってきているのではないか。私もやれるんですよ、というところを見ていただきたい。そういう、非常に過分な自意識が発端ではあります。
――数あるシェイクスピア作品の中でも『テンペスト』を選んだのはなぜでしょうか。
『テンペスト』は、シェイクスピアが単独執筆した最後の作品で、演劇史においても非常に重要な作品ではあるんですが、ほかの作品と比べると一般認知度はそこまで高くないほうの作品じゃないかと思っていて、そういう作品から手を付けていくのが良いのではないか、とも考えました。もともとシェイクスピア全集の中でも一番手に掲載されていますし、認知度が高くないからこそ現代的なアレンジの余地を残しています。今回の脚本・演出は学生時代から長年の付き合いがある村上大樹というゴリゴリのコメディ畑の人間。僕は彼と一緒に下北沢に進出した間柄で、縁も深いんですけども…なんか違うぞ、と(笑)
――(笑)。当初のイメージでは、こんなはずじゃなかった、と…。
正直に申し上げると、先ほどいろいろとお伝えした意義に富んだ言葉の数々は、やや後付けなところもありまして。上層部が思いついちゃったんですね、『コテンペスト』というタイトルを。僕としては、いまだに懐疑的というか、このタイトルを背負うことに気恥ずかしさが拭えないでいるんですけども。まだ、受け入れられていないです(笑)
――とはいえ、後付けでいろいろ思索を巡らせるほどにはシェイクスピアをやることへの期待はあったんですね。
当初は本当に真面目にシェイクスピアをやろうと考えていたし、じゃあやればよかったんですけども(笑)。初期のアイデアの中に「3人だけでシェイクスピア作品の全登場人物を演じる」みたいなのもあって、何かアーティスティックなことができるかも、すごくワクワクしていたんですよ。そうやっていろんな企画の可能性を探る中で、鈴木保奈美さんにもご相談してみたら、すごく前向きに参加を表明してくださったんです。そうなると、上層部がざわつきますよね(笑)。保奈美さんが参加してくれるならアーティスティックとかじゃなくて、多彩なキャストを集めに集めて、お祭りにするしかないと。それで『コテンペスト』になりました。…こうなってくると、僕はシェイクスピア様とは真正面に向き合えるご縁が無いのかもしれません。そんな一抹の寂しさを覚えつつも、この企画を通していろんなご縁を感じています。
――小手さんだけでなく、いろいろな人の“ワクワク”で企画が思わぬ方向に大きく走り出したような感じですね。
もう、本人は置き去りです(笑)。僕としてはシェイクスピアをやるなら、ちょっと髭なんかたくわえて、『リア王』とか、『リチャード三世』とか、『マクベス』とか、王様みたいな役をやるつもりでした。それが『テンペスト』で、しかもエアリアル。妖精の役ですから、もうびっくりですよ。
――まさかの主人公が妖精エアリアルなんですね!
主人公をエアリアルにしようと村上から口説き落とされたとき、『テンペスト』を題材にした作品がたくさんある中で「機動戦士ガンダム水星の魔女にもガンダム・エアリアルがいて、ガンダムでもできるんだから小手くんもやれるでしょ」って言われたんですよね(笑)。それで、ガンダムができるなら、僕は俳優だしできるかな、と。アニメ界における重大なアイコン「ガンダム」と小手伸也が、エアリアルという共通点で結ばれましたが、負けないように演じます。

――楽しみです(笑)。そもそも、小手さんは『テンペスト』という作品をどのように解釈していらっしゃいますか。
基本的には「復讐劇」です。ミラノ大公だったプロスペローという男が、弟に国を追われ、娘のミランダと一緒に絶海の孤島に流されます。そこで魔法を習得したプロスペローが、復讐のために嵐(テンペスト)を起こして、自分を陥れた連中を島に漂着させる、というところから物語は始まります。島には、プロスペローが使役している妖精エアリアルや怪物キャリバンがいて、彼らを動かして復讐を遂げようとするのですが、最終的には復讐を捨てて「許し」に至る。非常に哲学的で、演劇的な仕掛けに満ちた作品です。ただ、割とシンプルな話でもあるんですよね。だからこそ再解釈のしがいがあるんだろうなとは思っていましたが、まさか妖精のほうを主人公に置くとは思いませんでした。でも。復讐を手伝わされているエアリアルは、何を考えているのかと考えてみると、自分は何をやらされているんだろうか、客観的にみると復讐する側もされる側もどっちもどっちだぞ、なんて思っていたんじゃないかと。そんな、愚かな人間たちの復讐劇に対する“妖精なりの復讐”という今回の二段構えの捉え方は、数ある解釈の中でも希少なんじゃないかと感じています。それに、小手伸也が“妖精おじさん”というのも、パワーワードですよね(笑)。タイトルに“不具合”はありますけど、世間のみなさんも楽しんでもらえそうですし、構造もちゃんと考えられていて、自分も楽しめそうな気がします。
――今回の舞台は、絶海の孤島ではなく「地方の老舗百貨店」になるそうですね。
そうなんです。ともすると、すごく社会派の話になっていくかもしれません。世の中には、空気感が限りなく透明に近い中間管理職のおじさんっていらっしゃると思うんですよ。それを“妖精おじさん”と呼んでしまうのはいかがなものかとは思いますけど…。大きい声を出したらパワハラと言われ、褒めてみたらセクハラ扱いされ、部下に強く言えない、本音を言えないおじさん。そういう人が、自分が外野に置かれている争いごとを見たときに、どっちもどっちだよ、と思うような感覚ってきっとある。社会全体や、自分の環境、外部の環境に対して悪態をついたり、批判したりっていうネガティブな感情と、「争いはよくない」っていう性善説的な正しい心、どちらもあると思うんですよね。そんな対立構造が激化しがちな今の世の中で、「赦し」の大きさや大切さは、今考えるべきことなんじゃないかな。もちろん、ちゃんとコメディに立脚するつもりですし、大いに笑っていただくつもりなんですけど。そういう社会性の部分って、きっとドリフとかの時代以前からずっと大事にされていることですよね。もう50歳も越えたいい大人ですから、そういう社会性も持ちながら、お客さんを沸かせたいです。
――小劇場で切磋琢磨してきた村上大樹さんとのタッグの面白さをどのようなところに感じていますか。
一緒に舞台を作ったのは、もう18年くらい前になるのかな。『悪い冗談のよし子』(2008年、本多劇場)が最後かも。捻ったうえでのポップな世界観っていうのは、当時からありましたね。そこが人気だった部分でもあるし、今でもそのポップさをキープしながら、ちゃんと社会のトレンドにアジャストするセンスをいろんな舞台で磨いてきたように感じます。ここ何年かはラジオドラマも一緒にやったりして、そこでも感じるところがあって。僕からこういう言い方をするのもアレですけど、いい歳の取り方をしているなぁ、と思います。昔は本当に乱暴なエチュードから芝居を作っていましたし、脚本の真ん中が空欄になっている穴埋め問題みたいな台本が出されて(笑)。でもコメディセンスは抜群。僕が自分で考えて生み出そうとするコメディには限界があるけれど、村上の面白がり方で僕もどこまでも行けるような気がしてくるというか、予想もしなかったところに行けることがあるんですよね。そういう人の面白さを引き出してくれるところは、すごく信用しています。このキャストたちの、何を引き出してくれるんだろうか、と。
――鈴木保奈美さんをはじめ、キャストも興味深い面々が勢ぞろいしています。
お芝居に1人いればいい、っていう個性の人がトゥーマッチなくらい並んでいます。もう、強めに突っ込まないといけない人ばかりですね。片桐仁さんと僕がやや突っ込み気質ではあるんですけど…鈴木保奈美さんに強めにツッコミ入れたらどうなるんだろう(笑)
――仁さんも保奈美さんも、なんだかんだでボケようとしてくる気もします(笑)
でも保奈美さんは、ベースの人間性としてはツッコミなんですよ。ドラマでご一緒したとき、小声で織田裕二さんにツッコミを入れていることもありましたから。保奈美さんはカラッとしていて、自分から境界線を引かないタイプという印象です。自分にはここまで、これ以上の表現はできない、鈴木保奈美はこういうことはしない、そういう線引きを軽やかに飛び越えることができる方です。ドラマの共演でよくお話をするようになったんですが、だんだん舞台演劇に興味が強くなってきている気がしていて、ご出演もされていますし、今や僕よりも舞台をご覧になっている気がします。僕はトレンディドラマとかには出てこないジャンルの“生き物”ですが(笑)、舞台出身ならではの奇抜な感性とか、現場での瞬発力とかを、保奈美さんはすごく好意的に評価してくださったんですよ。舞台への興味が強くなったきっかけの一つが、小手だったらいいな、とも思っていますけど…本人には確認できていません(笑)そんな保奈美さんと村上のコラボで、どんなことが起こるのか。どちらも独特なお芝居が好きな2人なので、きっと保奈美さんのファンの方も想像を絶する世界に連れていけると思いますよ。
――小手さんの考える舞台の魅力はどのようなものでしょうか。
一言で言えば、「リミットを外した“全領域全開放”の表現ができること」、そして「お客様とその熱量を共有できること」ですね。誤解を招くかもしれませんが、テレビなどの映像のお仕事では、自分のテンションをあえて「7割」に設定しているんです。全力を出してしまうと、音は割れるし画角からはみ出すしで、現場のスタッフさんに迷惑をかけてしまうんですね。何より、お茶の間の皆さんが僕の熱量に当てられて、きっとご飯が進まなくなってしまう(笑)。手を抜くという話では決してなく、それが僕なりの「テレビサイズ」という配慮であり、バイプレイヤーとしてのバランス感覚です。でも、舞台は違います。演劇にはカメラのカット割りがありません。お客様が自分の見たい瞬間を、自分の目でフォーカスして受け取ってくださる。だからこそ、お客様の「見たい」と僕の「やりたい」が合致した瞬間、僕は一切の制限を突破して、レッドゾーンに突入するまで自分を解き放つことができるんです。よく「食材は取れたてが一番美味しい」と言いますが、舞台も同じです。電波には乗せられない、もぎたて、取れたての「プリプリとした食感」の小手伸也をそのままお届けできる。その場、その瞬間にしか生まれない鮮度抜群のエネルギーを、お客様と一緒に作り上げていく。このライブならではの「生」の感覚こそが、僕にとっての舞台の醍醐味であり、最大の魅力だと思っています。
――最後に、公演を楽しみにしている人にメッセージをお願いします!
今回の作品は、シェイクスピアの壮大な復讐劇を「地方の老舗百貨店」という、非常に地に足のついた日常的な空間で表現するという、これまでにない斬新な切り口になっています。原作を知っている方も、そうでない方も、驚きと笑いの中で楽しんでいただけるコメディ復讐劇に仕上がっています。キャストにも、アイドル、2.5次元、小劇場、そして芸人さんなど、あらゆるジャンルで結果を出してきた非常にパワフルなメンバーが集まりました。僕はこの座長として、頭から尻尾まで旨味がぎっしり詰まった、これまでにない「味」の舞台を作り上げたいと思っています。そして何より、劇場にお越しいただければ、リミットを外した、全力全開の小手伸也を体感していただけます!まさに取れたてピチピチ、電波では決して届けられない、鮮度抜群でプリプリ食感の芝居をライブでお届けする自信があります。もぎたて新鮮でフレッシュな「生の小手伸也」をぜひ丸かじりにしに来てください。ご期待を裏切らない内容でお待ちしております!
インタビュー・文/宮崎新之
