松尾スズキプロデュース 東京成人演劇部vol.1『命、ギガ長ス』松尾スズキ×安藤玉恵 対談

 2018年の年末、松尾スズキが新たに劇団を作るという情報が流れ、演劇ファンを驚かせた。2019年7月に「東京成人演劇部」を立ち上げ、第1弾では、女優の安藤玉恵を迎えて、二人芝居『命、ギガ長ス』を上演するという。松尾が主宰する大人計画は昨年30周年を迎え、華々しく「30祭」のイベントを開催したばかり。いったい何が起きようとしているのか?

 

——新しく劇団を始めるのですか?

 

松尾「劇団ではなく、演劇部です(笑)。部員は僕1人だけ。大人の演劇部です」

 

——なぜ、演劇部を作ろうと?

 

松尾「大人計画も大きな劇場で上演することが増えて、ビジネスとして成功させなければというプレッシャーと闘ってきたところがありました。一度そういうかせをはずして、もっと小さなハコで、ビジネス感の薄いものをやってみたいなと思ったんです。学生時代にやっていた演劇や、大人計画を立ち上げたころのような、自由で楽しかった感覚を思い出したい。劇団でやるのかプロデュース公演なのか、模索した結果、自分で責任がとれるように、企画プロデュースする形に落ち着きました」

 

——安藤さんはいつごろオファーを受けたのですか?

 

安藤「6年くらい前に、ドラマの打ち上げで松尾さんと同じテーブルになって、『何か一緒にやらない?』と言われたのが最初だったと思います。嬉しいより先に、びっくりしました(笑)。それから、ことあるごとにお会いしてお話を伺いました。劇団名も最初のころは『ベニヤボードシアター』とおっしゃっていたような記憶があります(笑)」

 

松尾「『東京成人演劇部』では、美術もセットも自分たちで用意できるくらいの簡単なものにして、小道具もほとんど使わず、役者の肉体だけで、自由に表現できるようなことを試してみたいと考えているんですよね」

 

——落語みたいですね。

 

松尾「いま大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』で、古今亭志ん生の師匠の橘家円喬役を演じていますが、ここで落語を学んだ経験は影響しているかもしれません。出演者も少なく、気軽に旅公演ができる、ポータブルな舞台を作りたいというのはずっと考えていたことでした」

 

——『命、ギガ長ス』は、東京の下北沢ザ・スズナリを皮切りに、富山、大阪、北九州、宮城、札幌と6都市での上演されることが決まっています。どんな物語になりそうですか?

 

松尾「現段階では、ニートでアルコール依存症の50代の息子と、年金を切り崩して生活している認知症の母親。その親子をドキュメンタリーで追う、映像学科の女子大生と、彼女の指導にあたる大学教授の4人の物語が交差する予定です」

 

安藤「面白そう! 私は、母親と女子大生の二役なんですね。おばあちゃん役は一度やってみたかったんです」

 

——安藤さんは、松尾さんの演出を受けるのは初めてですか? 

 

安藤「はい。私が演劇を始めたのは1996年、大学1年生のときで、そのころから松尾さんの舞台はほとんど観続けています。周りの人たちは、『(安藤は)何をやらされるんだろう?』と心配しているみたいですけど、私は全く気にていません。これまでもいろいろやってきましたから(笑)。ただ、松尾さんのお芝居の文学的なところがすごく好きなので、それをちゃんと理解して体現できるか、そっちのほうにドキドキしています」

 

松尾「二人芝居だから、そこは心配ないと思いますよ。安藤さんの芝居を受けて、僕が返すこと自体も演出の一部になる。演出と共演の両方でカバーできるから、僕の思いは、一番安藤さんに伝わると思います」

 

——濃厚なお芝居になりそうですね。

 

松尾「『命、ギガ長ス』は、汎用性のある戯曲にしたいと思っています。将来的には、安藤さんが別の俳優とやっていってもいい。つかこうへいさんの『熱海殺人事件』のように、いろんな人が繰り返し演じることで磨き上げられるような作品になったらいいなと……」

 

安藤「せっかく新しい『演劇部』を立ち上げられたのだから、松尾さんのやりたいことをすべて詰め込んでいただけたらと思います。今年はこれにかけて燃え尽きてもいい! と思うくらい、私自身がとても楽しみにしているんです」

 

写真:大橋仁

ヘアメイク:大和田一美

スタイリング:髙木阿友子

インタビュー・文:黒瀬朋子

 

プロフィール

松尾スズキ マツオ スズキ

1962年、福岡県出身。88年大人計画を旗揚げ。監督・脚本・主演の映画『108〜海馬五郎の復讐と冒険〜』が秋に公開予定。

 

安藤玉恵 アンドウ タマエ

1976年、東京都出身。舞台、映画、テレビと幅広く活躍中。5/17(金)・18(土)に札幌・新善光寺にて、朗読公演がある。