
2023年に旗揚げ公演を行い、それ以降も精力的に新作舞台を発表し続けている串田和美(以下、串田)が主宰する劇団、フライングシアター自由劇場。その7作目の最新作は“バーレスク音楽劇”と冠がついた『豪華客船タイクツニック号沈没』で、今回は主に三本の戯曲をオムニバス形式で繋ぎ合わせて構成するスタイルとなる。まず『怪盗ジゴマ』は串田がオンシアター自由劇場時代にBunkamuraシアターコクーンで年末の恒例行事のように上演していた『ティンゲルタンゲル』のステージにも登場していたキャラクターで、今作に合わせて書き直したもの。もう一本は出演者でもあるノゾエ征爾が今回は串田と共に作・演出にも加わることになっており、これもまた過去作にも登場していたというカモメたちに今作のために新たな息吹を吹き込んだ『シリーズ・カモメかもね』。さらに串田が今年に入ってゼロから書き下ろした新作戯曲である『混沌の部屋』。この三本柱に登場してくる人たち(またはカモメたち)は互いに繋がりがありそうでいて、まったく無関係のようでもあり。ファンタジー世界の住人のようでもありつつ、妙に現実味のあるシニカルな言動をしたりもする。そんな物語が、役者たちの本格的な楽器演奏を交えた音楽で繋ぎ合わされていく、ちょっと不可思議でかなり賑やかな音楽劇だ。
稽古場を訪れたのは、稽古期間も序盤から中盤にかかってきたあたり。とはいえ、確定しているポイントは、まだ少なめだとのこと。場面場面は、稽古が進むにつれて芝居の濃さ、深さは目の前でみるみる増していっているのだが、オムニバス形式での上演となるゆえ、その順番、構成はおそらく本番前ギリギリまでベストポジションを狙ってパズルのように入れ替えが試されていく模様だ。キャストはフライングシアター自由劇場にはお馴染みのメンバーであるこれが4度目の出演となる大空ゆうひと、今のところ毎公演皆勤の串田十二夜(以下、十二夜)、元オンシアター自由劇場の大森博史と真那胡敬二、内田紳一郎に加え、初参加組は他に宮下今日子、織詠、まりあ、石川湖太朗と今回は多めで、劇団の若手公演以来の参加となる新垣亘平、さらにはミュージシャンとして大村おおじ、小林創も参加する。


最初に目撃した稽古はノゾエが担当したパートで、カモメたちが登場する『憂鬱カモメ』の一場面だった。9羽のカモメたちは横並びになって「番号!」と号令がかかると「1!」「2!」と順番に数字を叫んでいき、そこから少し不条理めいた会話劇が始まる。カモメを演じる役者は各自、長い金属の棒を持っており、その棒を上下させることで先っぽに付いた白いシンプルなカモメが羽ばたくという仕掛けになっているようだ。カモメをふわふわと操りながら、ウクレレの奏でる音楽に合わせて集団で移動するキャスト陣。「♪飛び魚にはなりたくない、飛べる鳥でいたい♪」などと歌いながら、ここでは“進化”について語り合うカモメたち。すると串田が「中学生の頃、友達の家に泊まりに行った時とかに朝までみんなでこういう話をよくしていたんだ。“人間はこの先、どう進化するんだろう?”と、いろいろと想像してね」と思い出話を始めたりして、中学時代の串田少年はそんな話で盛り上がっていたのかと思うとなんだかほっこりした気持ちになった。「つまりここの会話はそういうイメージでしょ?」と、串田が声をかけるとこのパートを執筆したノゾエも「そうですねえ、僕は最初の頃はもっとたんたんとした感じでと思っていたんですが、今みたいに会話をしながら疑問を抱いたり、それはイヤだなーと素直に表明してみたりしてもいいかもしれないです」とニッコリ。そんなやりとりの合間に、女性陣がカモメの羽の具合を調整しながら「なんだか日に日にカモメに愛着が湧いてきたね」と言い合っていたのも微笑ましかった。

休憩を挟んで、続いて行われたのは楽器の生演奏の練習。曲は『Over the Waves』。串田と十二夜はクラリネット、大森はサックス、真那胡はトロンボーン、内田はトランペット、織詠はアルトサックス、宮下はソプラノサックスを担当。中でもチューバに初挑戦している新垣は、音楽担当の小林からハッパをかけられつつ、一曲演奏するたびに息があがってしまうほどの熱演状態。また今回は楽器を得意とする役者でもある片岡正二郎が演出助手として参加していて、立ち上がって手拍子でリズムをとって全体をコントロールしながら各楽器の音のバランスを調整するなど、大活躍。そして、この時点では誰が演奏担当になるのか未定だったのがシンバルと大太鼓。「じゃあ、試しにちょっとやってみる?」と言われ、まりあがシンバルに初挑戦することに。小林が「パンパーン」と口で指示したり、片岡が大きなアクションで鳴らすタイミングを教えたりして、曲に合わせて加減をしながらシンバルを鳴らすまりあは、なんだかとても楽しそうだ。演奏を何回か繰り返すうちに全員の音がまとまってきて、小林も「調子が出て来ましたね!」と満足げな様子で確かに早くも聴き応えがあった。本番ではさらに大人数での演奏になるはずなので、非常に楽しみだ。


次は『怪盗ジゴマ』のパートの稽古へと移り、いよいよ舞台はタイクツニック号の船内となる。真那胡演じるタイクツニック号の船長のもとに、パン空池役の十二夜が「待った、待ったーァ!」と派手な効果音と共に登場するところで、串田は、微妙な表情やニュアンスを真那胡と十二夜にそれぞれ細かく注文。二人を取り囲む乗船客たちのリアクションや笑い方なども含め、串田は自ら演じてみせたりもしながら丁寧に演出をつけていく。コミカルなシーンでもあるため、確かにデフォルメの加減は難しそうだ。真那胡には「その表情だとお客さんにすぐにバレてしまうから、もっと威厳を持って」、十二夜も最初は元気よく走り回っている印象だったが「パン空池は刑事とかじゃなく名探偵なんだから、もっとゆっくり余裕を持って演じてみて」などと串田から言われ、回を重ねるごとに徐々に当初とは違った空気を纏い始める二人。


ちなみに怪盗ジゴマは“変装の達人”というキャラクターだけに、誰がどのタイミングで演じることになるのか、もしくはならないのか、そこは本番までのお楽しみとなる。楽しく愉快な物語の行方はもちろん、どんな構成の仕方になるのか、役者たちによる楽器演奏はどんなハーモニーを奏でてくれるのか……まさに見どころ、聴きどころは今回も盛りだくさん! この劇団でしか味わえない陽のパワーに満ちた、祝祭的でマジカルな劇空間をこの機会にどうぞご堪能あれ。
取材・文:田中里津子
撮影:串田明緒
