“デキる”のみをものさしに、今後の舞台界を担っていくであろう、注目株の若手俳優をピックアップ。彼らが「デキメン(=デキる男優)」である理由、そして、隠れた本音をロング・インタビューで探る!
【第3回】 陳内 将 SHO JINNAI
プレッシャーはあまり感じない人間です。
感じてる方が失礼だから
Writer’s view
“悪の華”とでも呼びたい、この人のダークな雰囲気がずっと気になっていました。カワイイ系や健全なヒーロー型が隆盛(と思える)の昨今の若手男優シーンでは得がたい個性を放つ陳内将さん。「あの憂いある表情の奥には何が?」と興味津々で臨んだ初取材でしたが、素顔の彼は、実はかわいらしい目を細めてよく笑う、知的で芝居好きの熱い青年! 自身の魅力にまるで無自覚だった彼が“俳優”という仕事に目覚めるまで、そしてその後のヒストリーをたっぷり聞きました。
取材・文/武田吏都
――2月8日まで舞台「悪」に出演されていて、2週間ほどで次の舞台「パスファインダー」に立ちます(大阪公演終了。3月から東京公演)。ヒトのクローン誕生をきっかけに人間の善悪をあぶり出した「悪」と、キャラメルボックス本公演であるハートフルなSF「パスファインダー」では作品のテイストがガラッと違いますね。2作品の稽古・本番を並行して行っていたそうですが、どんな経験でしたか?
陳内 自分の中でゴチャゴチャするかなと思っていたんですけど、テイストも周りの人たちも違うから、視覚とか聴覚とかそういうところから勝手に切り替われていたなと。トータルで1作品と考えるというか、「悪」が一幕で「パスファインダー」の稽古が二幕みたいな。そういう思考回路じゃないと、逆に切り替えるってなるとゴチャゴチャしちゃっただろうなと思います。
――確かに「悪」は結構ヘビーなお話でしたし、どっぷり浸かった状態から意図的に切り替えるのは大変そうだなと想像します。
陳内 「悪」は終わったばかりですけど(取材時)、疲れました(笑)。身も心もって感じでしたね。でも僕がやった週刊誌の記者の役は序盤はライトにやれるんで本番前は緊張しなくて、そういう意味ではすごく楽な気持ちで入れました。
舞台「悪」(15年)
――昨年は3本の舞台「怪談・にせ皿屋敷」「ロボ・ロボ」「駆けぬける風のように」に出演されましたが、どの陳内さんも印象的でした。そして改めてハッとさせられたのが、陳内さんの美しさで。
陳内 ハハハ!! あら(照)。
――非常に目を引くので、パッとスカウトされたりして華々しいスタートを切った方なのかなと思いきや……。
陳内 違うんですよ(笑)。養成所(ワタナベエンターテイメントカレッジ)に通ってたんです。俳優という仕事に興味も全くなくて。僕、高校のとき進学校の寮生活でずーっとガリ勉だったんです。それが大学に入った途端、ハッピーで楽しすぎて毎日が日曜日みたいで(笑)、ここにいたら俺は腐っちゃうなと思ったんですよね。で、読んでた雑誌に養成所のオーディションが載ってて、写真だけでエントリーできると書いてあったので、友達と一緒に「エントリー完了!」って(笑)。大学1年の夏でした。そしたらその友達がオーディションの前日に「行かない」と言い始めて、じゃあ俺もやめようと思ってキャンセルの電話をしたら、怒られちゃって。「アンタの覚悟はそんなもんなの?」みたいなことを、電話の向こうの女の人に言われ(笑)。養成所の先生の一人だったんですけど。
――でもそこで事務的に処理されていたら今の陳内さんは……。
陳内 たぶん、違うことになってたのかなと思いますよね。で、養成所に入ったものの、役者志望でもなかったんです。「雑誌に載るような仕事しーよう」みたいな超軽いノリで(笑)、モデルコースにしようと思っていて。そしたら別の先生に「お芝居やってみない?」と言われ、断ったんですけど「向いてると思うよ」って言われて、「あ、そーすか?」って(笑)。だから今の僕の道を作ったのは、その養成所の先生2人なんですよね。
――実はすごく映画好きだったとか、そういうことは?
陳内 全然です。舞台も観たことなかったですし、映画館で観た映画も「ハリ-ポッター」と「クレヨンしんちゃん」しか(笑)。あ、学生のときにデートで「海猿」は観たかな。ほんとその程度です。寮ではテレビが1週間に1時間しか見られなかったから、ドラマも全然見ていないですし。
――じゃあ本当に言われるがまま。俳優を目指すことに、すぐ本気になれたんですか?
陳内 養成所での最初のお芝居のテストが、たしか2位だったんですよ。「なんで1位じゃないんだろ」と思って悔しくて。そこからです、お芝居にちゃんと興味を持ったのは。負けたくなくて頑張って。でも結局1回も1位は取れなかったけど。ただ“服装”はいつも満点でした(笑)。お芝居のテストなのに、私服を審査される“服装”って項目があったんですよ。
――陳内さんといえばオシャレなことでも知られていますよね。陳内さんの場合、単に好きなだけではなくて、自己表現のひとつなのかなと感じたのですが。
陳内 あー、そうかもしれないですね。例えば、毎年流行りのスタイルとかあるじゃないですか。僕、そういう流行りにあえて流されず、自己流で表現したいという気持ちになるんです。
――それはファッションに限らない話?
陳内 そうかもしれないです。流行に乗っかるのが苦手っていうか、自分自身の中だけですが、恥ずかしくなります。
――話は戻りますが。受身のスタートではありましたが、本気になるスピードは速くて、やっぱり俳優に向いていたんですね。
陳内 スッと、「あ、これ面白いな」と思うようになりました。で、常に成績上位にはいたんですけど、1位は取れない。養成所はワタナベと名がついていても、もちろんみんなが事務所(ワタナベエンターテインメント)に入れるわけじゃないんです。ここで1位になれないのに、卒業してどこか事務所に入ってやっていけるのかなって焦りはずっと持ってました。周りには遊び感覚の人もいたけど、ここからちゃんと作っていこうって結構考えて、ビジョンをしっかり持っていたと思います。
――結果、ワタナベエンターテインメントに所属して、俳優として8年ほど経ちました。振り返ってみていかがですか?
陳内 もう8年経ったんだって思います。早いなあ。当時思い描いていたこととしては、23、4歳ぐらいでもっと売れてるって勝手に思ってました(笑)。でも地道にというか、ひとつひとつ作品を重ねてっていう今の生活にはすごく満足してますね。いろんな作品に出たいとか、いろんな人と出会いたいって欲はありますけど、現状に不満もないし過去を否定もしないですし。全部いい経験になってるなって思います。
――今おっしゃった23、4歳ぐらいって、「特命戦隊ゴーバスターズ」(12~13年)の頃ですよね。敵側のエンター役を演じて人気も知名度もグンと上がりましたが、最初はヒーロー側でオーディションを受けたそうですね? スタッフは陳内さんに“魔力”のようなものを感じて敵側にキャスティングしたとか。
陳内 これも自分ではよくわからないんですけど、21、2ぐらいのときから周りの方に「色気がある」と。東京に出てきてからずっと言われてるなぁと思ってはいたんですけど(笑)。
戦隊モノのオーディションってみんな、なりたい色の服を着てくるんですって。レッド狙いなら赤、ブルー狙いなら青みたいな。そうなんだーと思って、僕が着ていったのは赤の豹柄っていうよくわかんないヤツで、めっちゃ浮いてました(笑)。人見知りでオーディションとかすごい苦手だったし、周りがみんなキラキラしてる中でたぶんカンジ悪かったんですよ。「つまんねえな」みたいに見えていたと思うんですけど、監督に「好きなものはなんですか?」って聞かれて、「……甥っ子っす」って(笑)。「甥っ子がすごいかわいいんです」って言ったら、「キミ、そんな笑顔するんだね」って言われて、監督はそこですごく興味を持ったとおっしゃってましたけど(笑)。
――陰や悪の雰囲気を持っている(でも完全にワルになりきれない)というのが、陳内さんの大きな持ち味ではないかと思うのですが、そういう要素っていうのは、自分の素の部分にもあるもの?
陳内 上京したてぐらいのときは、自分の中から引き出しを開けて、つまり自分の中からじゃないと役は作れないみたいに思っていたんですけど、意外とイマジネーションで全部できるなって最近思うようになって。じゃあ無理して自分の引き出しを増やすという形だけにとらわれないで、目の前の現象に素直にリアクションしていけば、それがたぶん一番リアルなんだろうなという風に最近考えがシフトチェンジしてきました。
――そんな陳内さんの今までの役の中で意外だったのが、Dステ「十二夜」(13年)の道化フェステ役でした。いわゆる“道化”イメージがあまりなかったからだと思うんですが。
Dステ14th「十二夜」(13年) ※右から3番目
陳内 でも僕自身、最初にホンを読んだときにこの役をやりたいって思いました。なぜか道化を主人公に、道化目線で読んじゃっていたんですよね。シェイクスピアって大事なことは道化にしゃべらせてるよなと思ったし、たぶんそれ以外の人物よりも魅力を感じたんだと思います。誰よりもよっぽど深い闇を抱えているんだけど、そこが言葉では描かれていなくて、お客さんにイメージを投げてるっていうか。喜劇だから周りは楽しくやっていましたけど、僕はその部分をすごく落とし込んでしまって、稽古自体も道化の目線で見ちゃってました。これも全部ただの虚像だ、ぐらいな(笑)。だから稽古も本番もまるで楽しくなかったですね。でも「楽しかったー!」って思えちゃうとフェステの目線と外れるんじゃないかと思うから、それが正解かなって思うんです。そういう意味では「悪」も、役的にキツいから楽しくなかった。終わった今も、まだちょっと苦さが残っている気がしますもん。終演後の飲み会は楽しかったですけど(笑)。
――そこまで入り込んだということですよね。逆に、「これは楽しかった!」という作品は?
陳内 「NOW LOADING」(10年)と「ロボ・ロボ」(14年)。「ロボ・ロボ」の僕の役・アナライザー(=ロボット)も、すごい切なかったんですよね。でも自分は機能停止しても、大事な相方のレコーダー(矢崎広)は無事に帰って行けたから、僕としてはハッピーエンドなんですよ。あ、その次の「駆けぬける風のように」(14年)もすごい楽しかったです。
「ロボ・ロボ」(14年)
――「駆けぬける風のように」では沖田総司役でした。誰もが知る“薄幸の美剣士”ですが、沖田役と聞いたときはどう思われましたか?
陳内 なんで俺なんだろうって。年も年だし、もっと若いキラキラした子もいるだろうにと思って。でもその疑問は3秒ぐらいで消えて、来たらやるしかないと思いました。沖田は刀ができないとダメということで、ちゃんと殺陣のオーディションがあったんですよ。そこで評価していただいたみたいなので、じゃあ見た目や年で沖田じゃないよって思われても、刀では絶対見せられるなと思って。
Dステ15th「駆けぬける風のように」(14年)
――いやいや、見た目も本当に美しい沖田でした! 「駆けぬける風のように」は成井豊(キャラメルボックス)さんを作・演出としてDステに迎える形でしたが、今度の「パスファインダー」では、陳内さんお一人がD-BOYSからキャラメルボックスに客演という形になりますね。
陳内 ほんとに優しい方ばっかりで皆さんアットホームな迎え方をしてくださるので、すんなり溶け込ませてもらってます。「駆けぬける風のように」でコラボする前から僕キャラメルボックスさん大好きで、よく観に行ってて。キャラメルボックスさんの作品はほんとハッピーで悪い人間が一人もいないから、すごくいい気分で終われるんですよね。
――「パスファインダー」は成井さんによる書き下ろしですが、演じる秋路(しゅうじ)は陳内さんへのあてがきですか?
陳内 舞台俳優の役です。タイムトラベルものなんですが、僕は1992年の人で、秋路が立つハコ(=劇場)は、1992年にキャラメルボックスさんが実際に使ったハコだったり。だから僕自身にあて書いたというより、キャラメルボックスさんの歴史とか成井さんの感情が僕の役に乗せられているという感じです。「わ、陳内のためのホンだ」って思われるお客さんも絶対いると思いますけど、必ずしもそうではないっていう。
――ただ、そういうものが劇団員じゃなく客演の陳内さんの役に込められているという重みはありますよね。
陳内 うーん……僕たぶんあまりプレッシャー感じない人間なんですよね、最近は。「歴史ある作品で」とか口では言いますけど(笑)、意外と感じていない。感じてる方が失礼だから。この役をいただいたってことは、僕しかたぶんできないし。プレッシャーというより、“妥当”って考えます。傲慢な意味じゃなくて、「僕だからこの役なんだ。なるほど!」っていう。その方が素直に芝居に取り組めるんですよね。
――「駆けぬける風のように」を観たとき、成井演出のリズムがD-BOYSにもしっかり浸透していることに感心したんです。全員がキャラメルボックスの劇団員に見えたというか。2度目の成井演出になりますが、いかがですか?
陳内 大好きです。成井さんとはウマが合う(笑)。だから何を求められているかがわかるし、僕も成井さんに対して100分の100空けてますから、すぐそれを体現できる。ムダな人間関係がないっていうのかな、すごい楽しいです。
――この作品には時空を飛ぶ“クロノス・ジョウンター”という機械が登場しますが、陳内さんは未来と過去、どっちに行きたいですか?
陳内 過去に行きたい。そして自分に、「中学を卒業してそのまま上京しろ。そして役者をやりなさい」って言う。事務所に入ったのが20歳だったんですけど、もっと若いときからやっていたら、そのときにしかやれない役がやれたのになって思うんです。ほんっとにこれは、取り返せない後悔ですから。
キャラメルボックス「パスファインダー」に秋路役で出演
――もう1本、6月に新国立劇場での「東海道四谷怪談」が決まっていますね。残念ながらまだ発表できないですが、意外な役に挑戦! 先ほどお聞きして驚きました。
陳内 別の役でオーディションを受けたんですけど、さっきもちょっと話した「色気がある」というのを演出の森(新太郎)さんに言っていただいて、まさかの役をいただきました。自分では一生やることない、ぐらいに思っていたんですけど。だから事務所の人と外部の方でも見方が違うし、僕の印象って今までほんとにいろいろ変わっていきました。
――内野聖陽さん、秋山菜津子さんといった実力派な方々との共演や、“新国立”のブランドというか、そういうプレッシャー……は感じない方なんでしたね(笑)。
陳内 周りはベテランの方ばかりだし、すっごい面白そうだと思っています。僕たぶんこのカンパニーで一番年下なんですね。だから一生懸命やればベテランの方々は絶対にかわいがってくれるだろうし、甘えられると思っちゃいました(笑)。もちろんお芝居の中での甘えの話ではないですよ。一生懸命やろう、としか今は思っていないです。
――D-BOYSという、劇団ではないけれども集団の一員であることについてはどう感じている?
陳内 最近は、全てがプラスに転じていると僕は思います。以前はグループにいることをどこかヘンなレッテルって思う瞬間もありましたね。「卒業して独り立ちできれば一人前ってこと?」みたいな。でも今は帰る場所にもなって、僕が舞台に出たときにグループの誰かが来ると「仲間が来てくれた」って素直に思えますし、他のヤツがやってるときも「観に行こう」ってなるし。みんな1役者としてやっていますけど、集団が自分の枠としてあることに、今は何もマイナスはないかなと思います。
今27歳なんですけど、この年になってやっといろいろ楽しくなってきたなって感覚がありますね。たぶん勝手な焦りとか自己主張欲とかそういうのがどんどん少なくなって、ちょうどいい肩の力の抜け具合なのかな。人間や物事にフラットに向き合おうって、なんか思うんです。
Q.「イケメン」というフレーズに感じることは?
イケメンより「男前」って言ってほしいです! イケメンとは言われたくないな。九州男児だからか、どうも軽い単語に聞こえちゃって。
Q.「デキメン」が思う「デキメン」
先輩では、「悪」で共演した高岡奏輔さん。芝居に対して本当に真摯な人。世間のイメージとはまるで違う性格とか、あんなふてぶてしい顔してるくせに繊細な演技をするとかもう、ギャップがありすぎて大好きです(笑)。
同世代では、「ロボ・ロボ」で共演した矢崎広くん。たまにLINEでやり取りするんですけどほんとに熱いんですよ、アイツ。考え方が僕とすごく似ているところがあるし。また一緒に芝居をやりたいと一番思っている役者さんです。
Q.「いい俳優」とは?
あまり多くを語らない人。姿勢で見える人の方が好きです。口で言っちゃうと簡単ですから。
お芝居が大好きで一直線な人。大変なのはわかっていても休みになると不安になるらしく、基本「仕事入れてください」というスタンスで、お芝居に対してとても貪欲です。
末っ子なので本来甘えていくタイプではあったんですが、3年ほど担当してきた中で、徐々に変化してきました。特に影響が大きかったのは、Dステ以外の外部の舞台に久々に出演した昨年の「怪談・にせ皿屋敷」、そして「ロボ・ロボ」という流れがあってから、気持ちの面でもいろいろ変わった気がします。
この先は、舞台も映像もしっかりやっていろんな経験をさせていただきながら、様々な作品にお声掛けいただけるような俳優に育っていってほしいと思っています。
(株式会社ワタナベエンターテインメント 担当マネージャー)
Profile
陳内 将 じんない・しょう
1988年1月16日生まれ、熊本県出身。O型。ワタナベエンターテイメントカレッジにて演技の勉強を始める。卒業後、所属事務所・ワタナベエンターテインメント内の若手俳優集団・D2のメンバーに(13年よりD-BOYSのメンバー)。08年の「ラストゲーム~最後の早慶戦~」で初舞台。12~13年、「特命戦隊ゴーバスターズ」のエンター役で注目される。主演映画「ガチバン NEW GENERATION2」が公開中。
【代表作】舞台/「悪」(15年)、Dステ「駆けぬける風のように」(14年)、「ロボ・ロボ」(14年)、Dステ「TRUMP」(13年)、ミュージカル「テニスの王子様」2ndシーズン 柳沢慎也役(11年)
ドラマ/「刑事110キロ」(EX)、「スイッチガール!! 1&2」(CS・フジテレビ2)、「特命戦隊ゴーバスターズ」(EX) 映画/「青鬼」ほか
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