おぼんろ最新作 幕間の物語『かげつみのツミ』末原拓馬インタビュー

2019年5月22日(水)から、王子BASEMENT MONSTARにて劇団おぼんろ最新公演 幕間(まくあい)の物語『かげつみのツミ』が上演となる。

2月に上演された第17回公演『ビョードロ~月色の森で抱きよせて』でムーブメントアクターを起用し、よりダイナミックに進化したおぼんろが次に挑むのは、参加者(観客)と共に物語を紡ぐ、旅する演劇!?

ローチケ演劇宣言では、幕間の物語『かげつみのツミ』の詳しい情報を探るためおぼんろの主宰 末原拓馬にインタビューを試みた。

 

――新作『かげつみのツミ』では「幕間の物語」と称されていますが、それはどのような意味なのでしょうか?

末原拓馬(以下、末原)「一言でいうと、本公演とは違う趣向の作品ということです。前回公演『ビョードロ』でおぼんろはムービングアクターを迎え、かつてないダイナミックな劇世界をお見せすることができたのですが、本公演のような派手な演劇とは別に、繊細さにこだわった作品も作りたいという願望があって。
なので、「幕間の物語」というのは本公演と本公演の間に行われる、リスク承知で僕らのやりたいことを詰め込んでみる自由度の高い舞台シリーズです。以前、「暗がりの朗読会」という、真っ暗な空間で参加者のイメージだけを頼りに物語を展開する番外公演や、夜の図書館の中を歩き回りながら物語を紡ぐ公演を主催したことがあるのですが、そういった“いわゆる演劇”のイメージとは少し離れた作品も、実はおぼんろのひとつの完成形で、上質な演劇体験をお渡しできると思っています。なので、本公演とは別の繊細で過剰な劇世界をお楽しみにしていただけたら嬉しいです」


――具体的には、どのような作品になるのでしょうか?

末原「企画当初は短編オムニバス的な作品にしようかと考えていました。短編作品って、絵画のようにイメージをリリカルに伝えることができるので、個人的に大好きなんですよ。ただ、公演会場の王子BASEMENT MONSTARが空間としてとても面白くて、だんだんとその空間の性質を活かせる作品にしたいなあって考えるようになって。王子BASEMENT MONSTARは地下2Fにあるのですが、地下2Fに行く途中にはバリエーション豊かな妙な空間がたくさんあって、非現実的なラビリンス感のある場所なんです(笑)。なので、参加者が会場を移動しながら、空間ごとに同時多発的に起こる物語を選択しながら見る劇にしようかなって考えたんです。現段階の構想としては、最初は参加者全員がひとつの空間に集まって、前提となるような物語の内容や劇のルールをシェアしたら、それぞれ好きな空間に移動して空間ごとに展開される物語を選びながら、ひとつの物語を完成させていく内容となっています」


――見る順番によって、同じ物語でも受け取り方の質が変わりそうですね。

末原「そうなんですよ。例えばAという空間ではある人物が真実を語っていて、Bという空間では別の人物が嘘をついていたとしたら、最終的には同じ内容でも、見る順番によって感じ方が全く違うものになりますよね」


――なるほど。

末原「極端な話、世界も選択によってそれぞれの世界が形成されていると思うんです。今回は参加者の選択が鍵を握る作品となるので、物語世界における自分の存在というのがより際立つ舞台になるんじゃないかな」


――たしかにそうですね。

末原「物語って、要素と要素の余白に鑑賞者独自の解釈が補われるから面白いんですよね。今回は、その余白を最大限活用した内容になっています。例えるなら、星空に広がる物語の断片を参加者一人一人が紡いでいきながら、それぞれの星座を完成させていく、そんな作品になると思います。ただ、あんまり、コンセプチュアルな方向に傾きすぎると、難解な“芸術風”の作品になってしまうので、あくまでエンターテイメントという枠の中で創作したいと考えています」


――今作ではどのような物語世界が描かれるのでしょうか?

末原「人形たちが主人公の物語になります。大きなテーマでいうと、自分たちはいったい何者なんだろうという、存在の根拠を人形たちが探すような内容です。僕は、人形とかぬいぐるみが大好きなんですけど、彼らは語る言葉を持たないので、不意に、彼らは今何を感じて、何を考えているんだろうって想像することがあるんです。もしかしたら人形はもっと愛されたいと思っているかもしれないし、なんで自分が作られたのか考えているかもしれない。そんな人形たちの声なき声を抽出したいと思っています。舞台設定はお焚き上げのような人形を供養する場所を想定しています。そこには、持ち主が転々と変わっていった人形もあるだろうし、誰にも愛されないままだった人形、大好きな持ち主と様々な理由で離れ離れになってしまった人形など、様々な人形が登場します。それぞれの過去を背負った人形たちの物語に触れていただいて、声なき大切なものに想いを馳せてもらえたらいいなって思っています。人形たちの物語を通して、僕は全ての人間の存在を強く肯定したいと思っています。この世界に存在したということ自体が、どれだけ素晴らしいことなのか、そんなことを、僕らは僕ら自身のためにも形にしたいのです。」

 

――今作の出演者にはおぼんろの俳優のほか、福圓美里さんや井俣太良さんが客演として参加されますよね。キャスティングはどのような意図で決まったのでしょうか?

末原「おぼんろを愛してくださる方に集まっていただきました。感性の合うことが一番重要だと思っていて。おぼんろにとっても未知な内容になるからこそ、僕とかおぼんろの世界をある程度知っていて、かつ企画の枠組みを使って大いに遊んでくれるだろう、物を創る時にそばにいたいと思うおふたりにオファーしました。劇団員含めユニークな発想のメンバーが揃っているので、面白いアイデアがどんどん具体化されるクリエイティビティの高い稽古場になるんじゃないかと思っています」

 

――それでは最後に作品を楽しみにされている方へ向けて、意気込みを聞かせてください。

末原「昔話とかファンタジー小説によく、街中に見知らぬ不思議な小道具屋を見つけて、そこで素敵なヘンテコ体験をするんだけど、別の日にそこにいったらもうなかった、なんて話がありますよね。この作品では、そんな体験ができるんじゃないかなと思います。上演期間中にだけ王子の地下に不思議な世界が広がっている。そこには、人形たちのささやきが繰り広げられているんだけど、上演が終わればその場所は跡形もなくなってしまう。夢のように儚い一瞬の世界ですよね。何年も経った後で、「そういえば昔、不思議な場所に行った気がする。」とふと思い出してもらいたいんです。その頃にはもう、演劇だったことも忘れて、現実だったのか、夢だったのか曖昧になっていたら素敵です。参加者が自分の感性と想像力で体験する物語たちだからこそ、そういうことも起きるような気がしていて。演出家というのは劇世界をディレクションすると同時に、舞台に触れた人に対して気づきの種を植えることだと思っていて。本当に大切なのは、作品を体験した後に会場を出たその人が、それからどんな人生を送るか、世界をどう感じて、どう向き合っていくか、それこそが、僕らの本当の作品のような気もしています。この物語をいつか不意に思い出して、何かに気づかされる、そんな記憶の深層に残る場所をお届けしたいと思っています。また、今回の作品は見る順番で感じ方が変わる内容となっているので、リピートしていただき、いろんなプロセスを楽しんでいただけたら嬉しいです。会場に入って決まることも多い作品だと思うので、もしかしたら上演期間中に変わることもあるかもしれません(笑)。ぜひ、5月22日から6月2日まで現れる王子の不思議な世界を何度でもお楽しみください」

 

取材・文/大宮ガスト


【プロフィール】

末原拓馬
■すえはらたくま 劇団おぼんろ主宰。俳優・劇作家・演出家。
音楽家の両親を持ち、幼少期から音楽の手ほどきを受ける。早稲田大学第一文学部に入学すると同時に演劇研究会に入会。2006年におぼんろ旗揚げ。おぼんろでは全ての作品の脚本・演出をつとめている。路上での独り芝居を繰り返した事が評判となり、現在、劇団おぼんろのメンバーは4名で4000人近くの動員力を持つ劇団となる。