おぼんろ 幕間の物語「かげつみのツミ」ゲネプロレポート

2019.05.26

おぼんろ幕間の物語「かげつみのツミ」が5/22(水)に東京・王子BASEMENT MONSTARで開幕した。初日公演に先駆けて行われたゲネプロの模様をレポートする。

劇団本公演と趣向を変える意味を込めて幕間の物語とした本作。大きな空間で壮大な物語をダイナミックな演出で魅せる本公演に比べ、小さな空間で短編的な物語を繊細さを重視した演出と実験的な構成で上演する。

今回は舞台と客席の境界なく全方位で物語を体感する彼らならではの上演スタイルに加えて、観客が劇場内を移動し空間ごとに展開される物語を選びながら物語を完成させるという手法を取り入れる。また、前作「ビョードロ」で採用したムーヴメントアクターにリズムアクターを新たに起用することも注目するところだ。

場内に一歩足を踏み入れると、暗闇にキラキラと輝く空間が眼前に広がる。シロクマのぬいぐるみのキュルタムに誘われて桟敷席に座るのだが、そこには「つみき」のカードホルダーが。場内の中心に置かれた3つのドア枠の周囲を囲むかたちで配置された席位置から、それぞれの場所によって異なるものが置かれているようだ。後述するが、これは本作の観客が移動して空間ごとに展開される物語を観るということに深く関係している。

物語のイメージが持つ世界観を余すことなく具現化した空間に浸っていると、末原拓馬の語りかけによって物語が始まる。目を閉じて語られる言葉の一つ一つに想像を膨らませて合図とともに目を開いた途端、もう物語世界に没入する準備が出来ていることを自覚する。いつものことながら見事だ。

物語の舞台は地上から階段を下って地下奥深くにある「ドルグーミン」と呼ばれる地下空間。ここでは様々な事情で居場所を失った人形たちが集まっている。人形と一言にいってもクマのぬいぐるみからてるてる坊主、ブタの貯金箱に人形焼きまで姿かたちもいろいろだ。

「ドルグーミン」を治めるのは盲目の人形師ツミ。彼女の深い愛情に包まれて人形たちは残された生命をこの場所で全うする。

ある日「ドルグーミン」に新入りとしてクマのぬいぐるみがやって来た。自己紹介と合わせてこの場所での生活を教える人形たち。とある少女の人形の話題になった途端、それまで快活だった会話に不穏な空気が漂う。それは「ドルグーミン」で起きた悲しい出来事によるものだった。

ちなみに「ドルグーミン」では観客である参加者のあなたも新入りの人形だ。引っ越し先の環境を把握するのと同じように、迷路のように入り組んだ地下空間をキュルタムに先導されて探索しよう。

辿り着いた先々では、そこでしか体験できない物語が展開される。探索ルートは初めに着席したエリアによって決まる。全部で3パターンあるため、是非2度3度とリピートされることをオススメしたい。

この魅力的な物語体験を可能にしているのは、言わずもがな個性的で技量に秀でた語り部たちだ。舞台と客席の境界無く演じることに加え、観客を物語の世界に引き込み、一緒になって物語を紡いでいく。それが実に違和感なく行われるものだから、これを体験してしまうとやみつきになってしまう方も多いことだろう。

そしてムーヴメントアクターとリズムアクターの存在も欠かせない。劇中の場面場面で繰り広げられる国内トップレベルのパフォーマンスの数々は、技巧のレベルの高さ、確かさは無論のこと、時にコミカルだったりして作品の世界観にぴたりとはまっている。

何より手を伸ばせば届いてしまうような至近距離で観る迫力と興奮を是非体験していただきたい。

劇中の人形たちが発するメッセージは、今を生きる人間の私たちにも置き換えられる。本当に大切なことは何なのか。おぼんろと一緒に物語を紡ぎながら身体と心で感じて欲しい。

「ドルグーミンの地下室」を出た後にあなたの心に残るものが何なのか、それはあなたがこの場所で紡ぐ物語次第。是非この極上の体験型エンターテイメントにご参加を。

公演は6月2日(日)まで東京・王子BASEMENT MONSTARにて上演。

取材・文/ローチケ演劇部
写真/MASA