デキメン列伝【第13回】安西慎太郎

“デキる”のみをものさしに、今後の舞台界を担っていくであろう、注目株の若手俳優をピックアップ。彼らが「デキメン(=デキる男優)」である理由、そして、隠れた本音をロング・インタビューで探る!

【第13回】安西慎太郎 SHINTARO ANZAI

誰かの人生に影響を与えるような演技ができる役者になりたい


Writer’s view

上手いなと思う俳優ほど謙虚という法則がある気がします。ただそれは、その人がもともと特別に謙虚なわけではなく、環境がそうさせる面もあるのだと気づきました。自分より優れた人たちに囲まれていれば当然そうなるし、常に上を見ているから、目標値もおのずと高くなる。だから若い俳優こそ栄養価の高い超一流の現場を経験するのが望ましいけれど、チャンスをつかむのはなかなか難しいこと。「アルカディア」でその最高の機会を得たのが、22歳の安西慎太郎さんです。

取材・文/武田吏都

 

――現在、「アルカディア」(Bunkamuraシアターコクーンにて4/30まで。5/4から森ノ宮ピロティホールで大阪公演あり)の本番中ですね。優れた舞台をたくさん手掛けてきたシス・カンパニーの製作で、世界的劇作家トム・ストッパードの最高傑作を、日本を代表する演出家・栗山民也さんが演出。共演者も堤真一さん、寺島しのぶさんはじめ、井上芳雄さん、浦井健治さん……と豪華な顔ぶれで、開幕前から大きな話題を集めていた作品です。安西さんにとっては何にも代えがたい経験の真っ只中ではないかと思いますが、この舞台に立っている現在の心境は?

安西 毎日が大冒険というか、自分が知らないことや出会いが稽古中からとてもいろいろあって、本番に入っても毎日ワクワクしながら舞台に立っています。今回、“相手のためにお芝居をする”ということをすごく学びまして。「アルカディア」で特にたくさん絡むのが、堤さん、しのぶさん、浦井さんといった方々なんですけど、皆さん本番前や終わった後に、「あそこやりにくくない?」とか「あのシーンをこうしたいんだけど、対応できる?」とか声を掛けてくれて、相手役の僕のこともちゃんと観てくださっているんですよね。同じ目線で相手のことも考えて自分の役を演じるっていうのがすごく大切なことだなと、改めて気づきました。それに、ベテランの方たちが早い時間に劇場入りをして、たくさん練習をされてるんです。本番前に台詞の確認をお互いにしたり、今日はこういう感じでいこう、ここを目指そうっていうのが毎日あって、そういうのがすごいなと間近で見て感じています。役者として、当たり前なことなのかもしれないんですけど。

「アルカディア」(2016年) 撮影/加藤孝

 

――この作品に出演することになったときの率直な感想は?

安西 やっぱり一番は「ビックリ」でした。もちろん知っている方たちばかりで、この方たちと芝居を作り上げるということが、頭の中で考えただけでもすごくうれしかったです。選んでいただいた限りは自分の持っている全てのもの以上を出さないといけないなって、最初にお聞きしたときに思いました。

 

――栗山さんの演出を受けることができるという点については?

安西 栗山さん演出の「アドルフに告ぐ」(2015年)を観て、いつかご一緒してみたいと思っていました。あれからちょうど1年ぐらい経って、今実際にやれているっていう……。毎日、栗山さんからいろんな言葉をもらっていることが幸せでしかないというか。いろんなことを含めて「アルカディア」という作品に携われていることが本当にうれしいですし、楽しいですし、幸せだなと思っています。

 

――表情からも、その気持ちは伝わってきます。役についてなど、「アルカディア」のことはまた後ほどお聞きするとして。現在22歳の安西さんが、俳優という職業に就いた経緯を教えてください。

安西 まず中学まで野球をやっていたんですけど、ケガをして辞めてしまって。

 

――プロフィールに“シニアリーグ 関東大会ベスト8”とあるので、趣味というよりは本格的にやっていたんですね。

安西 野球への夢は絶たれてしまい、高校はパフォーマンスコースのある学校に入りました。そこで演技や歌やダンスや殺陣をやっていたんですけど、このコースでプロを目指す人は全体の3、4割で、僕も入ったときは全く目指していませんでした。学校に入ったきっかけは、そのコースの先輩たちのパフォーマンスを見たときにすごく輝いていて、自分もこういう人間になりたいなって単純に思ったから。で、学校に入ると、幼稚園や養護学校に交流をしに行く機会が多かったんですよね。そうして子供と接するうちに子供がすごく好きなことに気づいて、保育士になろうと思いました。でもあるとき「ギルバート・グレイプ」という映画と出会って、レオナルド・ディカプリオの演技にものすごい衝撃を受けたんです。そこで初めて、自分も本格的に演技がしてみたいと思いました。

――補足しますと、「ギルバート・グレイプ」は1993年の映画で、ディカプリオは当時まだ10代でしたね。ジョニー・デップと兄弟役で、知的障害を持つ弟を演じて、アカデミー賞にもノミネートされました。世界中の多くの人が彼を知るきっかけになった映画です。感動したというだけじゃなくて、「俳優になりたい」とまで思わせた強い衝撃は、どういったものだったんでしょう?

安西 「ギルバート・グレイプ」を観るまで、映画とかほとんど観ていなかったんです。というのもあって、最初にあの映画を観たとき、内容とかをすごく理解していたかっていうとたぶんそうでもなくて。だから物語以外のところで感銘を受けたんだと思います。言葉の向こう側、じゃないですけど。一番大きな衝撃を受けたのは、やっぱりディカプリオ。僕何も知らないので、役ではなく、本当に障害のある方なのかななんて思っていたんです。で、調べてみたら今でいうイケメン俳優というか、そっち路線の人だって知って「え!?」ってなって。「何それ、ズルいわ!」と思ったんですよね(笑)。同時に、「これって面白い。人を演じるってこんなにも素敵なことなんだ」って思いました。僕は昔から、「負けたくない」って気持ちが人一倍強くて。それまでは保育士になることしか考えていなかったんですけど、俳優と保育士を比べたとき、保育士は勝ち負けとかは関係ないけど、俳優は本当に実力がなければ勝ち残れない世界だなと思って。当時の自分にはそっちの方が魅力的だなと感じたんです。デンジャーな道だけど、人生は1回しかないし、そこに踏み出してみた方がいいんじゃないかって。

 

――俳優の仕事に興味を持ち始めた頃、現在の事務所にタイミング良くスカウトされた?

安西 学校の舞台を観て声を掛けていただいたんですけど、最初は確か2年生のときだったんです。当時は保育士になりたかったから、「うーん……」という感じで。でも3年の終わり頃にご挨拶したときはもう役者になりたいという気持ちになっていたので、運の巡り合わせというか。

 

――「ギルバート・グレイプ」を観たのはいつですか?

安西 3年生の夏ぐらいです。

――ではそれがもうちょっと遅かったら、安西さんは首を縦に振らず、保育士になっていたかもしれないと。事務所さんにとっては、ディカプリオ様様ですね(笑)。

安西 ほんと、いい意味で自分はディカプリオに人生を変えられたみたいなところがあります。それにちょっと運命を感じているのは、僕「ギルバート・グレイプ」が作られたのと同じ1993年生まれなんです(笑)。

 

――そして俳優としてのデビューは青山円形劇場での「コーパス・クリスティ 聖骸」(2012年)。“キリストが現代のアメリカでゲイの若者として育ったら”という設定の翻訳劇で、安西さんが初めて出会った演出家は青井陽治さんでした。

安西 霊にとりつかれる役とか、ずっと「ファッ●ユー!」って言ってるような役とか(笑)複数の役をやりました。高校で芝居を少しやっていたとはいえ全然環境が違って、いろんなことが一切わからなくて「どうしよう」ってなっていたとき、青井さんや共演者の方が、すごくよくしてくださって。特に青井さんは今でも舞台とか観に来てくださるんですけど、当時からすごく、役者が演じることに対して真剣に見て、いろいろなものを与えてくれる方でした。そういう風に見てくれる人たちがいるならば、どれだけヘタであってもダメと言われようと、自分が思ったこと感じたことをやってみようっていう気持ちは、そこから始まっています。だから初めてが「コーパス・クリスティ~」じゃなかったとしたら、今の自分はたぶんないなってすごく思うんですよね。

 

――言わば素人同然の18歳の少年に対して、青井さんは頭ごなしに否定したりせず、一俳優としてちゃんと向き合ってくださったんですね。

安西 そうなんです。褒められたというわけじゃないんですけど、僕が持っているものや演じることへの考え方とかアプローチを大切にしてくれて。僕の「こう思ったんですけど」ということに対して、「甘いよ」みたいに返すのではなく、ちゃんと一緒になって考えてくださった。その光景は頭に残っていますし、あのときの経験が今でも生きてるなと思います。

 

――演出家というところでいえば、舞台4本目の「エドワード二世」(2013年)で、早くも森新太郎さんの演出も経験しています。その「エドワード二世」でも読売演劇大賞の最優秀作品賞と最優秀演出家賞を受賞している気鋭の演出家さんですが。ちなみに、あの作品で演じた皇太子役を「アルカディア」のプロデューサーさんがご覧になっていたという縁も、今回の出演のきっかけとしてあるようですね。

安西 「エドワード二世」では森さんにとても引き出してもらったなっていう感覚がありますね。「エネルギーをどんどん輝かして飛ばして」って言われたことを、すごく覚えています。最後、モーティマーの首を刺して持ち上げるシーンがあるんですけど、「表情や気持ちは好きにやっていい。今の自分が持っている感性を、作らないで素直に表現して」って。森さんマジックというか(笑)、そういう言葉があったからこそ、当時ああいう風にできたのかなと思います。

 

――俳優として最初に飛び込んだフィールドが舞台だったことは、ご自身としてどうでしたか? 「ギルバート・グレイプ」がきっかけであれば、例えば映画への憧れが強かったりは?

安西 そういうことは特になかったですね。ジャンルは関係なく、とにかく何か演じたい。ほんとにその一心でした。もちろん、映画には憧れます(笑)。でも当時も今も、自分の実力でディカプリオみたいに観る人に何かを与えられるかっていったらそうではないし、まだまだ足元にも及ばない。だから今は焦らず長い期間をかけて実力をつけて、いつか彼のように何かを与えられる人になれればという風に思っているんですけど。

――ディカプリオは安西さんの中で本当に大きな存在なんですね。彼みたいな俳優を目指しているという受け止め方でいいんでしょうか?

安西 ディカプリオに対して一番思うのは、やっぱり“自分を変えてくれた人”ということ。それは演技が素晴らしいからというのはもちろんあるんですけど、でも目標としているかというとちょっと違うのかも。いろんな映画を観たりすると、「あー、この人もいいな」とか、ちょっと浮気みたいな感情が(笑)。それでいうと、ケビン・スペイシーとクリスチャン・ベールの演技はやっぱり圧巻だなって思います。ディカプリオに対しては演技以外の感覚も含まれちゃうんですけど、単純に演技だけでいうと、僕はこの2人ですね。ケビン・スペイシーは「ユージュアル・サスペクツ」、クリスチャン・ベールは「ザ・ファイター」「マシニスト」あたりがすごく印象に残っていて。特にベールの役作りの仕方は、その役ごとに体重を減らしたり増やしたり、髪の毛を抜いたり歯を抜いたりっていう。演じる以前の、役に対する気持ちや責任感をすごく感じます。それが実際の演技を見たときに感じる、「この人はほんとにお芝居が好きなんだな」っていうところにつながるんだと思いますね。

 

――体全体を改造していくような非常に徹底した役作りを“デ・ニーロ・アプローチ”と呼んだりしますが、そういう、いわゆる“カメレオン俳優”たちにやはり憧れる?

安西 僕の感覚ですけど……他者にはなれないと思っているんですよね。ただ、“寄る”ことはできる。お芝居って、それまで生きてきた環境とか経験が本当に物を言うもので、やっぱりどこかで自分というか、自分の中に眠る感情がすごく出ちゃうと思うんですよ。もちろん、それがいい方向に働かなきゃいけないんですけど。だから完全に役になりきってしまうカメレオン俳優っているのかなっていうか、やっぱり自分自身が出ると思っているから……。

 

――意志的に、自分を消そうとするタイプではない?

安西 ではないと思います。自分を消すってイコール、僕の中では自分にフィルターをかけて嘘をつくって感覚があるんですよね。演技のことをまだ全然わかっていない者の意見ではあるんですけど……。ただ僕はフィルターをかけるよりは外して、もちろん自分としてやるわけではないけれど、経験とかを全て出した方が、自分の場合は役が魅力的に見えるのかなと思います。

 

――知名度を上げた「テニミュ」(=ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン)など2.5次元作品にもいくつか出演していますが、その場合も同じ感覚ですか?

安西 2.5次元のキャラクターの場合は、逆になるべく自分を出さないようにします。とにかくキャラクターを尊重するタイプだと思いますね。最初の2.5次元は「テニミュ」だったんですけど、原作のイメージはもちろん、僕の前に同じ役(白石蔵ノ介)をやった先輩がお二方いらして。かつ、当時は僕のことなんて誰も知らない状態だったから、そんな中で自分の良さを生かす、とかいうのはちょっと違うなと思っていて。お客さんはあくまでその作品の中で生きているキャラクターを観に来ている。コピーというと言い過ぎですけど、そのくらいキャラクターをとらえた上でやろうと思っていました。そう思ってもたぶん自然と、自分って出ちゃうんですよね。キャラクターにかなり寄せた部分と、そのちょっと醸し出ちゃうぐらいの自分が、ちょうどいいバランスじゃないかなって。

 

――今は2.5次元作品からキャリアを出発する若手男優が多いですが、安西さんは逆パターンというか、青井さんや森さんの演出を経てからの2.5次元だったんですね。安西さんの演技は他の同世代の男優に比べてちょっとタイプが違う印象が私にはあるんですが、そういうルートの違いみたいなものも影響しているのかも、とちょっと思いました。

安西 2.5次元のキャラクターはもともとは絵で、この世に存在しないものなんですけど、僕はそれを人間化したいというか、ほんとに生きているものとしてとらえたいなと思っているんです。大好きな漫画やアニメのキャラクターが本当にそっくりだったり、それ以上のものが出てきたときにいろんな感動を与えられるのが2.5次元だなという風に思っていて。「アルカディア」のような演劇と2.5次元作品は異なるフィールドではあるかもしれないけど、いろんな感動を与えられるという面では一緒だと思っています。だから、それぞれの場所で輝きたいんですよね。演劇はできるけど2.5次元はできないとか、逆に2.5次元はできるけど演劇はできないとかいうのではなく。

――最近の作品だと鈴木勝秀さんが演出した主演作「僕のリヴァ・る」(2016年)が印象的でした。キャストは4人だけの3話オムニバス。かつ、あのようにセットはほぼ何もないシンプルなステージは、あまり経験がなかったのでは?

安西 そうですね。初舞台の円形のときもそうだったんですけど、周りをお客さんに囲まれているステージはやっぱり緊張はします。でも隙なく演じられるというか、逆にどこかで隙を見せるとやられるなっていうところで、すごくいい経験になりました。やっぱり、シンプルだからこその楽しさがありましたね。初期段階からスズカツさんが「考えることをやめるな」と言ってくださって、「どんなものでもいいから持ってこい」と。特にACT1は作品のプロローグでもあると思うから、ここでお客さんの空気をつかまないとっていうところで、ギャグというわけではないんですけどネタみたいなものを、(小林)且弥さんと毎日喫茶店で考えました。それをスズカツさんに披露して笑わせてやろう、みたいな(笑)。スズカツさんはそれに対して、ほんとにはっきり○×を言ってくれるんです。あと「リヴァ・る」は、初共演だった鈴木拡樹くんのこともすごく印象に残っていて。

「僕のリヴァ・る」(2016年) 撮影/阿部章仁

 

――鈴木拡樹さんとは6月に控えるDisGOONie「Sin of Sleeping Snow」で、今度は時代劇での再共演が決まっていますね。

安西 いろんな方から「彼の演技はすごいよ」って聞いていたんですけど、想像を遥かに超えるものがありました。何がすごいかって、さっき僕が言っていたフィルターをかけないというところなのかなと思います。2.5次元を多くやられていますけど、拡樹くんとしゃべっているときに一番印象的だったのは、「僕は役の根っこに生えているものをつかまえる作業をしてる」と。それは2.5次元でも普通の演劇でも変わらないという風におっしゃってて。考え方は僕と一緒なんですけど、なんか改めて新鮮に感じました。

 

――ではまた「アルカディア」について。安西さんは現代の登場人物のガスと、19世紀の登場人物のオーガスタスの2役。この2つの役を同じ俳優が演じることは、戯曲で指定されています。実際に演じる安西さんも、作者がそこに託した意味を探るところから始まったのでは?

安西 そうなんです。栗山さんと話している中でも、「正直、ガスとオーガスタスを別の役者にやらせても特に問題はなさそうなのに、そこを一人の役者にやらせる意味ってなんだろうね?」と。じゃあ、同じ場所での現代と200年前を描いているこの物語の中で、体や形は変わっても魂だけ残っているとしたら、一人の人間が演じる意味があるんじゃないかと。それがお客さんに伝わるかどうかは別として、そういう風にはとらえてやっています。

 

――ただ、やんちゃな感じのオーガスタスと、一言も言葉を発しない繊細なガスとではキャラクターが真逆なくらい違いますよね。

安西 全体の5分の4くらいはガスとして出ていて全くしゃべらなかったのに、オーガスタスとして出てきたら急にしゃべるから、たぶんお客さんはびっくりしますよね。「しゃべった!」って(笑)。

「アルカディア」(2016年) 撮影/加藤孝

 

――ガスは言葉で表現できない部分が非常に難しいだろうと、観ていて感じました。

安西 稽古に入ったぐらいのとき、栗山さんや堤さんが「自己表現を強くしすぎない」ということを伝えてくださって。ガスはしゃべらないからには何か表現をしなきゃいけないんですけど、でも表現しすぎちゃってそっち(ガス)に目が行ってしまうと、情報量がすごく多いこの舞台においては、大事な情報を見逃しちゃう場合があるので。どこまでガスという人間を表現して、でもここは抑えるというそのバランス感が今回すごく難しいです。

 

――しゃべらないからこそ、別の方法で表現したくなるのが普通でしょうし。

安西 そうなんです。だから稽古のときには、まず広げてからちっちゃくしていこうと思っていました。いろいろ表現して、そこまでやったら違うだろうというぐらいのところから徐々にこう、狭くしていく。で、栗山さんがそこだとおっしゃるところに収めて、その範囲内からアプローチしていくという、そういう形で作り上げていきました。

 

――広げてからちっちゃく、というのは栗山さんのアドバイスですか?

安西 いえ、栗山さんはガスのイメージをよく「この世のものとは思えない妖精のように」とか、「空を飛ぶ小鳥のように」っておっしゃていたんですけど、それが僕にはちょっと範囲が広すぎる感じがしてしまって(笑)。なので、せっかくこの素晴らしい環境でやらせていただくんだから、失敗というかチャレンジをたくさんしていこうと思って、いろいろ試すことから始めました。そうするうちに、こうだなっていうのがどんどん見えてきた感じです。ただ正直な話、ガスって謎だらけで、観る人によって全然解釈が違うなと感じていて。しのぶさん演じるハンナのことが好きっていうのはあるけど、じゃあなぜ好きなんだろうっていう根本の部分であるとか。それを伝えるには、言葉を使えないガスは何かアクションをしなきゃいけないんですけど、でもそれをしすぎてしまうとお客さんの中で単純な「なるほど」で完結してしまって、ガスという役が魅力的ではなくなってしまう。そうなると、すごくもったいないなと感じるし。だからこちら側で何か完結したものを提示するより、お客さんに謎を解いてもらうみたいな方が、今回の場合は面白いんじゃないかと。「なぜあのときリンゴを渡したの?」とか「なぜずっと葉っぱを見てるの?」とか、わからないことにお客さんがモヤモヤッとするんじゃなく、ワクワクしてもらえるといいなと思っているんですけど。

「アルカディア」(2016年) 撮影/加藤孝

 

――ガスの何気ないアクションでの印象的なシーンはいくつもありますよね。例えば、手をパーンと叩くところとか。あそこは戯曲のト書きにはなかったような?

安西 ないです。あそこはヴァレンティン(浦井)とクロエ(初音映莉子)が連続してハケていくというシーンで、最後にハケる僕は完全にオチだなと思ったんです(笑)。だから稽古場でも何かしたいと思いつつ、いつも何もせずにハケていたんですけど、それを察したのか栗山さんが、「何かしたいならしていいよ」と言ってくれて。でも思いつかずにいたら、栗山さんが「ガスが苦手な“音”をあえて出してみて」と。足でドンッてするのも考えたんですけど、これはいろんな人がやっているし、ちょっと違うなと思ったんですよね。もっと耳に近いところで音を立てたいなと思って、手をパーン!と叩いたら、「それにしようか」と。ギャグでしかないような感じもありますけど(笑)。

 

――でもあの笑いと緩和があるから、観客とガスの距離が少し縮まる感覚があります。

安西 そうなんですよね。なんかお客さんを味方につけないと、「彼はなんだったんだろう?」っていう謎のままで終わっちゃうような気もして。表現しすぎないというのがありつつ、お客さんの心を引く瞬間をいくつか提示しておかないと、最後のシーンもきっと美しくならないんじゃないかと思ったし。だからガスの場合は一瞬一瞬がわりと勝負で、タイミングを外さず「そこだ!」ってところでアクションを入れないとならないし、ああいう一見ギャグのようなシーンも真剣に大切にやっています。

 

――そして非常に印象的なのが、今ちょっと触れていたラストシーンです。これから観劇の方のために多少ぼやかしますが、寺島しのぶさん演じるハンナとの、本当に美しい場面ですね。

安西 稽古中もずっと“混沌”というワードが飛び交っていたんですけど、始まりからどんどん加速していって、あの作品に出てくる具体的なモノとか気持ちであるとか、いろんなことが全部混沌となった末に、あのシーンで現在と過去が完全に一緒になるんです。その最後の瞬間を客観的に観てみたいっていうのは、観られないけど思いますね(笑)。でもしのぶさんとああいうことができるっていうのは、まずない経験じゃないですか。最初は手を握るのも緊張しちゃって。手汗がすごかったです(笑)。しのぶさんも「練習したいときはいつでも付き合うから」って声を掛けてくださったり、とてもよくしてくれて。お互いの意見交換もしっかりできていますし、本当に夢のようです。ガスとしても安西慎太郎としても、いつも夢のように気持ちよく終われています(笑)。

 

――来月に千秋楽を迎えたとき、「アルカディア」は安西さんにとってどんな作品になっていると思いますか?

安西 いい意味での緊張感やワクワクする気持ちが、最初の稽古のときから今もずっと継続されていて。その中で聞いたいろんな話とか演技で直で受けたこととか、そういう経験は体にしみ込んだり脳内に刻み込まれると思うので、これから先も演技をやっていく中で、かなり大きな財産になるのは間違いないです。とはいえまだ終わっていないので、最初に“大冒険”って言いましたけど、1回1回の公演でいろんなものを拾って、最後までたどり着きたいですね。実は……「アルカディア」も1993年初演なんですよ。

 

――素敵です! 同じ年生まれの「ギルバート・グレイプ」と「アルカディア」は、安西さんの中にいつまでも残る“運命の作品”にきっとなるでしょうね。

 

デキメン‘s view

Q.「イケメン」というフレーズに感じることは?
人によって解釈はもちろん違うんですが、僕自身は特に内面のイケメンでありたいと思っています。だから内面を磨くには外見も磨かなきゃだし、その逆も。常に、心身ともにイケメンと言われるようにしていきたいです。

Q.「デキメン」が思う「デキメン」
事務所の先輩の成河さん。お芝居のエネルギー、身体能力、自在性……ほかにも数え切れないほどの魅力がありますが、一番感じるのは“演劇を愛している”ということ。「芝居、大好きだよ。とにかくずっと考えてる」とおっしゃってて、僕もそんな役者でありたい。憧れの存在です。
インタビューで話した鈴木拡樹くんも、ちょっと格が違う感じがします。人柄もすごく素敵ですし、欠点がない役者さんだなって思いますね。

Q.「いい俳優」とは?
人に影響を与えられる俳優。
僕がディカプリオに影響を受けて役者を志したように、自分も何かしらの形で人の人生に影響を与えられる俳優でありたい。もちろんその根本には、「芝居が好きだから」という気持ちがあります。

 

マネージャーから見た「安西慎太郎」

素顔はとても天然なキャラで、イマドキな感じはなく、とにかくアナログ……。しかし、お芝居のことに関しては、集中力と瞬発力を発揮します!
これからも人との繋がりを大切に、いろいろな役にチャレンジさせ、感情表現させたいと思っています。

(スペースクラフト・エンタテインメント株式会社 担当マネージャー)

 


Profile
安西慎太郎 あんざい・しんたろう
1993年12月16日生まれ、神奈川県出身。A型。2012年、舞台「コーパス・クリスティ 聖骸」で俳優デビュー。翌年、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンに白石蔵ノ介役で出演し、人気と知名度を高める。キャリア4年ながら多くの舞台に出演し、主演作も多数。
【代表作】舞台/「僕のリヴァ・る」主演(2016年)、「晦日明治座納め・る祭」(2015年)、「武士白虎 もののふ白き虎」主演(2015年)、舞台「K」第二章-AROUSAL OF KING-(2015年)、「滝口炎上」(2015年)、「戦国無双~関ヶ原の章~」主演(2015年)、「ドン・ドラキュラ」(2015年)、舞台版「心霊探偵八雲 祈りの柩」(2015年)、「聖☆明治座・るの祭典~あんまりカブると怒られちゃうよ~」(2014年)、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン(2013~14年)、「エドワード二世」(2013年)、「合唱ブラボー!~ブラボー大作戦~」(2013年)、WBB「川崎ガリバー」(2013年)、「コーパス・クリスティ 聖骸」(2012年) TV/「アリスの棘」(2014年)
【HP】 http://www.spacecraft.co.jp/anzai_shintaro/
【ブログ】 http://ameblo.jp/anzai-shintaro/