第2弾はワークショップを重視
「市民の方に演じてほしい」
「多摩ニュータウン×演劇プロジェクト」は、ワークショップを通して市民が町を歩き、人々に話を聞くなどして、多摩ニュータウンを題材にした演劇作品をつくり上げるというプロジェクト。2017年の第1弾『たまたま』は800人以上の観客を動員し、新聞・雑誌にも採り上げられるなど大きな成功を収めた。
瀬戸山「うれしかったのは、『自分の町の見え方が変わった』『行きと帰りで、駅までの道のりが違って見えた』といった見た方の声。ワークショップの参加者にも、『またこういう機会があったら参加したい』とすごく言われました」
2月に発表された第26回読売演劇大賞で優秀演出家賞に輝き、注目を集めた劇作家・演出家の瀬戸山美咲さん。『たまたま』に続き、今年開催の第2弾でもワークショップ進行役や上演作品の演出を務める。
瀬戸山「前回は市民ワークショップを5回やって、バトンを受け継いだプロの俳優がメインで演じるという形でした。今回はワークショップを15回に増やして、市民の方と劇をつくる過程を重視したいと思っています。まずは、みなさんが多摩のどこに興味を持っていて、何を面白いと思っているのか。それを聞いてから、どこを歩くか、誰に話を聞くかを決めていきたい。そうして調べたことの結果発表が、演劇作品になる——という感じで、今回はプロではなく、みなさんに演じてもらえたらと思っています」
町々の声を拾ってつくる『まちまち』
参加者もまた「まちまち」でOK!
第1弾の『たまたま』では、70年代に入居した第一世代から、ニュータウンで生まれ育った人まで幅広く取材。人が集まることで偶発的に起こっていった町の誕生の裏側をノスタルジックに描いた。第2弾のタイトルは『まちまち』。瀬戸山さんの頭の中にあるイメージとは。
瀬戸山「『たまたま』は、多摩ニュータウンのことを何も知らない人が見てもわかるように、町の成り立ちから紹介しながら、総論的に作ったんです。『まちまち』は、もうちょっと細かいところに入っていきたいなと。前回、多摩ニュータウンを歩いて、地域によって町や住民の雰囲気が違うんだな、と思ったんです。例えば、鶴牧は大きな公園が多く、落合には親しみやすい商店街がある。開発時期や駅からの距離などでも、雰囲気がかなり違うんですよね。だから今回のワークショップでは、ひとつひとつの町ごとにグループに分かれて行って、それぞれが拾ってきた素材を芝居にしていきたい。そのぶん作品自体がまとまりのないものになる可能性がありますけど(笑)、でも、あえてそれを1個の色で塗らずに見てもらう、というのが今回の目標です」
その裏には、メディアで紹介される際には消えがちな、小さな町ごとの人の声を残したいという思いがある。
瀬戸山「プロのキャストではないので、本番では、とんでもないアクシデントがたくさん起こると思います。セリフを忘れたり、段取りを忘れたりすることあるかもしれません(笑)。でも客席の延長線上に舞台があって、観客のみなさんには『自分たちと似た人が舞台上にいる』と感じてもらえる、そんな上演になればいいなと思います」
取材・文:泊貴洋
【プロフィール】
瀬戸山美咲
■セトヤマ ミサキ 劇作家・演出家・ミナモザ主宰。1977年、東京都生まれ。2001年、ミナモザを旗揚げ。16年の『彼らの敵』で読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。さらに18年の『夜、ナク、鳥』で同賞を再度獲得、優秀演出家賞も受賞した。『アズミ・ハルコは行方不明』(16年)、『リバーズ・エッジ』(18年)などの映画脚本も手掛けた。