□字ック10周年前夜祭企画 第13回本公演『掬う』山田佳奈 インタビュー

□字ック、10周年を目前に満を持して挑む家族の話『掬う』


2010年の旗揚げ以来、女性視点で紡がれる物語に定評のある劇団、□字ック。昨年は本多劇場進出を果たし、主宰の山田佳奈は映画監督、ドラマ脚本など、その活動の場を広げている。

山田「最近はありがたいことに□字ック以外の活動をたくさんさせていただいていて、今は比率でいうと演劇と映像の仕事が半々くらいになっているんです。本当に何でも屋さんという状態。すると□字ックだから、それ以外だからという区別はなくなってきています。とはいえ、ここが唯一舞台のオリジナルを作れるホームであることは間違いない。その時勢によって、自分が何を思っているかを表現できる貴重な場です」


劇団としても、個人としても盛り上がっているこのタイミングで、10周年前夜祭と銘打った本公演『掬う』が上演される。佐津川愛美や山下リオ、馬渕英里何、千葉雅子らを客演に迎え、これまで□字ックでは扱ったことのなかった〝家族〟を題材にした物語になるという。

山田「実は2年前、サンボンというユニットで家族の話を手掛けたことがあります。あのときは、30歳を超えてようやく家族の話に向き合ってもいいかなと思って書きました。けれどまだ、□字ックでは難しいなと思っていたんです。自分の劇団ではありますが、□字ック=山田佳奈ではないし、この劇団に期待されていることを常に意識して創作していて、それが家族とは相容れなかった。ようやくいま、□字ックでもやれる家族の話があるのかなと、年齢と考え方が追いついてきた感覚があって、やることにしました」その変化に至ったのはやはり、自主制作から始まり、映画の現場を経験したことが大きい。

山田「演劇だけだと、すべてをそこに費やそうとするけれど、演劇と映画、それぞれでしかやれないこと、それぞれだからこそやりたいことがうすらぼんやりとですがわかるようになってきた感覚があります。人物を描くという大前提はどちらも同じだけれど、映画は登場人物の誰かの感情をクローズアップできる。演劇は舞台上から迫ってくる臨場感、五感に訴えることができる。その特性をわかったうえで、何をやりたいかがいちばん重要だと思っています。『やりたいことが8割伝わればいい』と言う方もいるけど、私はできることなら10割伝えたい。もっといえば、私の思う10割とお客さんの思う10割を合わせて20割にしたいくらい」


家族という題材に挑戦する今作で、演出やセリフについても新しい試みをしようとしている。

山田「□字ックって、わりとエンターテインメントな劇団だと思っています。いろんな要素を掛け算していく演劇。そのわりに会話劇(笑)。今回もその体は崩さないけれど、必要なものだけを残す引き算の演劇にできたら。言葉も、エッジが効いたものではなく、家族の、生活の中でいかにも言ってしまいそうな言葉の面白さを追求したい」


山田がさまざまな経験と、そこから得られる理解、感覚を携えて描く新作『掬う』は、10周年に向けて、大きな一歩となりそうだ。

山田「いま、映画やドラマという新しい発見がある場に恋をしていて、演劇に対して猛烈な恋愛という状態ではない。けれど帰ってくる場所は舞台なので、『これだけのものを修得して帰ってきたよ』と表現できる場になればと思っています」

インタビュー・文/釣木文恵
Photo/植田真紗美

 

※構成/月刊ローチケ編集部 8月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります

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【プロフィール】
山田佳奈
■ヤマダ カナ ’85年、神奈川県生まれ。レコード会社社員を経て、’10年□字ックを旗揚げ。脚本家、俳優のほか、映画監督として商業映画の公開が控えている。