大空ゆうひと鈴木浩介が演じる夫婦の記憶とは?劇団た組。第19回目『今日もわからないうちに』稽古場レポート

2019.08.16

8月某日、都内スタジオで行われた劇団た組。最新公演『今日もわからないうちに』の稽古場を取材した。

 

本作は加藤拓也が主宰を務めるた組。第19回目の劇団公演で、8/28(水)から9/1(日)まで、シアタートラムにて上演となる。夫婦の軋轢を描いた『在庫に限りはありますが』やバスケットボール部員の繊細で残酷な日々を活写した『貴方なら生き残れるわ』など、作品ごとにテーマこそ異なるが、加藤はモラルと本能の間で揺れる現代人を描いてきたように思う。そんな加藤が今作で選んだテーマは「記憶」であった。『今日もわからないうちに』では、“家”だけを忘れる記憶障害の妻・恵と、彼女を取り囲む家族の物語が展開する。

 

出演には、大空ゆうひ、鈴木浩介、串田和美など名実ともに超一流の顔ぶれが並ぶほか、池田朱那や山谷花純など若手注目俳優の名も連ねている。音楽・演奏にはUNCHAINの谷川正憲が本作でも参加。これまで以上に話題性のある座組で行われる記憶の物語とはいかに?稽古場の模様をレポート。

 

稽古場では独特な緊張感と静けさが漂っていた。元宝塚歌劇団宙組トップスターで退団後もさまざまな舞台で活躍する大空ゆうひや、映画やドラマ、舞台と引っ張りだこの鈴木浩介、コクーン歌舞伎や『K.テンペスト2019』など既成概念を覆す演出で常に舞台の最前線にいる串田和美など、これまでにない超豪華な出演者の顔ぶれが並ぶ本作。若干26歳である加藤は出演者にどんな振る舞いをするのだろうかと思っていたが、加藤の演出は普段通りささやかな声のトーンで行われ、稽古は粛々と、そして着実に進んでいった。加藤の演出に、静かに頷き体現する大空や鈴木、串田の様子を見ていて、出演者と加藤の間には無言の信頼関係があるのだと感じた。

 

この日行われたのは冒頭から15分程度の部分の稽古であった。物語は、ある家族の朝の日常からはじまる。妻の恵(大空)は朝の支度をしながら、ソファでダラダラとスマホのニュースサイトを見ている一志(鈴木)と、なんでもない会話をする。“今日着る服どこ?”、“あの芸能人結婚したらしい”。そんな2人の会話に、何か特別なことがあるわけでない。

 

娘の雛(池田)は中学2年生でソフトボール部に所属している。バッグに、泥まみれのスポーツ用品と学校の大切なプリントを一緒にいれるから汚れてしまったと嘆く恵。特に関心のない一志。勝手にバッグ見ないでよと怒る雛。3人のやりとりにもなんでもない家族の日常がある。まもなくおじいちゃんが訪れると聞き雛は家を後にした。

 

井岡(串田)という恵の父が家に訪れる。女の子に野球なんて怪我でもしたら、と文句を言う井岡と、そんな井岡に絡まれないように台所に避難してスマホをいじる一志。生活費が入った封筒を井岡に渡す恵。ここでも、3人の生活が活写される。

 

いたって日常的な風景が当たり前のように蓄積され、気づかぬうちに歪んでいく。妻のなんでもなさ、夫のなんでもなさを、おじいちゃんのなんでもなさ、娘のなんでもなさ。それぞれの等身大な演技は、これまで見たことあるようでなかった俳優の表情を見せていた。圧倒的な日常のイメージを大空、鈴木、串田、池田をはじめとした出演陣は、それぞれの社会性をもって、大きなエネルギーをなんでもないように体現しているように感じる。

 

物語は「記憶」を巡って、さらになんでもない様相を見せながらイビツに展開していくのだろうか。この続きに好奇心が止まらない。いたって現実的な悲劇性と喜劇性をはらんだ家族の物語をぜひ楽しみにしてほしい。劇団た組。でしか感じられない、カタストロフィーを体験できるだろう。

 

取材・文/大宮ガスト

 

 

※本レポートは、劇団主催の加藤拓也の希望により稽古場写真は掲載しておりません。