菜月チョビ、丸尾丸一郎、椎名鯛造 インタビュー|劇団鹿殺し「傷だらけのカバディ」

左から 椎名鯛造、菜月チョビ、丸尾丸一郎


新作公演「傷だらけのカバディ」を、11月・12月に東京・大阪にて上演する劇団鹿殺し。実に3年ぶりとなる今回の舞台では、五輪正式競技となって話題を席巻するも、あるミスにより日本中を落胆させてしまった男子カバディ日本代表たちの10年後の姿を描いていくという。劇団外での活躍も目覚ましい菜月チョビ、丸尾丸一郎、オレノグラフティら劇団員に加え、小澤亮太、伊藤今人(梅棒/ゲキバカ)、椎名鯛造といった面々が客演として参加。聞いたことがあるようで詳しくは知らないスポーツ「カバディ」をめぐる人々の傷と再生の物語を紡ぎあげる。今回は菜月チョビ、丸尾丸一郎に加え、鹿殺しの本公演には初参加となる椎名鯛造の3人に、その意気込みを聞いた。

 

――3年ぶりの新作となりますが、どのような経緯で新作公演をやろうと決まったのでしょうか?

丸尾「しばらく外の仕事が多くて、劇団としても今後どこを目指していいのか?というのが見えない時期があったんです。でも、いろいろな仕事をさせていただく中で、どんどん劇団のことが愛おしく感じてきて。劇団って同じ夢を共有しているんですよね。こういう言い方はアレかもしれないですが、劇団員ってちょっと才能のない人の集まりなんですよ。めっちゃ才能があったら劇団員になんかなりませんから(笑)。ピンで行くと思うんですよね。スクラム組んで、頑張ろうぜ!ってやっているのが劇団員。そこが好きでお芝居を始めたんだな、ということに最近また気付いてきたんです。仲間と夢と想いを共有すること、そこが自分の一番好きな瞬間なんだな、と。だからもう一度、旗揚げの気持ちで作品作りをしてみたい、と思いました。そこが、売れる売れないよりも大切な気持ちなんじゃないかな、って」

菜月「私も同じく、メンバーそれぞれが3年間でいろいろな外の仕事をしてきて、再確認したんです。でも、今やる前にそれが分かっているわけでもなくて。本公演って、その時に来てくれるゲストさんも交えて、その作品のための劇団みたいな作り直すようなところがあって、お互いに好きなだけ、遠慮なく要求し合えるような環境なんです。プロデュース公演とかは、カンパニーとしてバランスを取ることも仕事のひとつで、みんながやりやすい環境を作っていかなきゃいけないんですけど、鹿殺しの本公演は「良いものを作るためには、何でもやるよね」っていう約束だけがある状態。良いものを作るためなら、もっと要求してもいいし、もっとやれって言ってもいい。もっと上を目指すという人が居たらついていくし、休みたいってヤツがいたら次の公演で上がってこい、って言える。理想について遠慮しなくていい。そこが劇団公演のしんどいところではあるんですけど(笑)、そんな場所は劇団でしかあり得ないな、って思います。ゲストも含めて、劇団を自分のものにしていい。外の作品は、やっぱりプロデューサーのものだったり、主宰する誰かのものだったりしますから。自分の劇団だし、自分の作品だから、自分のいきたいところまでいきたいですね。そういう嬉しさを、味わい尽くしたくなった。やっぱしんどいな、ってなるかもですけど(笑)、かけがえのないものではあるはずだから。やっぱり本公演って楽しかったね、って終わるかどうか分からないけど…全力を注いで、確かめたいんです」――椎名さんはそんな鹿殺し本公演には初参加となります。出演のオファーを貰った時はいかがでしたか?

椎名「単純に嬉しくて、絶対に出たいと思いました。僕は岐阜で育ったんですが、演劇を観るという習慣があまりなかったんです。劇場すらない街で、少し大きなホールがあるだけ。東京に出てきて、初めてお芝居を劇場で観て…劇団というものすら知らなかったんです。そういう状況からこの仕事を始めて、最初に出演したのが、劇団ではなくプロデューサーがいる形の舞台でした。その後に、劇団の作品に出演したんですけど、劇団ってすごくあったかいんですよ。劇団の主宰や演出に憧れて入ってきた若い人たちが居て、どうにかして役をとるために自分をアピールして…。外での仕事もしてまた「ただいま」集まって、イチから作品を作っていく。それがすごく幸せそうで、家族に見えたんです。鹿殺しの劇団員に何人か知り合いがいて、みんな劇団をすごく大切にしているのが伝わってきていたので、そこに入れるのがとてもうれしいんです。ゲストという形ではありますけど、僕もほぼ家族と言ってもらえるくらい、馴染みたいですね。なんていうか、ホームステイができたらな、と思います」

丸尾「ナントカ滞在記かな(笑)。言葉の通じない民族に、椎名鯛造が出会った~みたいな(笑)」

椎名「そこまでじゃないですけど(笑)、お前も家族なんだから、これ手伝えよ!っていう関係になりたい。鹿殺しって、熱量が凄いんですよね。で、結構攻めるな、って思ってて。そういう部分って劇団ならではだし、観ていても面白いけど、演じる方も絶対に面白いんだろうなと感じています。稽古も絶対に楽しいはず」


――鹿殺しの稽古場ってどんな感じなんですか?

丸尾「前は稽古に効率性を求めてしまう部分がありましたね。「もっと効率よくやろうぜ!」っていつも言ってた。でも今帰って来てみて、ひとつくらいは回り道してもいいのかな、と思えていますね。回り道の多くは無駄になるかもしれないけど、何かヒントになるものが見つかるかもしれない。だから、鯛造にはいろいろな回り道につきあってもらえたら。イライラしてたら、そっと手を握りに行くから(笑)、そしたら「これ敢えて回り道してるんだな」って察してくれたら(笑)。やっぱり劇団って1ヶ月だけ集められてやる舞台じゃなくて、ずっと共有してきているものがある。それをもっと溜めていきたいですね」

菜月「劇団の本公演を作るってことは、どれだけアイデアをぶつかり合えるか、ということ。どれだけ要求し合えるか、ということなので、人間関係というか、どこまで付き合うかなんですよね。劇団って個々が持っている想いを形にして作品にしていく場所だと思っています」


――昔に比べると演出していくうえで変わってきた部分もある?

菜月「劇団の中での人間関係の作り方ってあるんですよね、上下もあるし。そういうのも昔に比べるとどんどん変わりましたね。個人的にも、若い頃から比べると人との付き合い方が変わっていくじゃないですか? ルールというか。うまく付き合うってこういうこと、本音を言えているってこういうこと、って言うのが今の年齢になって「そうじゃなかったな」って思うことや、「これが出来ているのは良いことだ」っていう判断の部分が急にひっくり返ったりして…一度、“無”になったような感じなんです(笑)。セオリーを一度無くしてしまったような。若い頃には、今の自分位の大人になると、自分なりの人との付き合い方とかルールとか、出来上がってるんだろうって思っていたんですけど、ぜんぜん決まってない。だから、本公演という一番自分をさらけ出すべき場所で、自分の本音をしっかり伝えるということ自体を、新鮮な気持ちでぶつかっていきたいんです。演出って、自分の想いをみんなに伝えていくことですから」


――もしかしたら、新しいアプローチになるかもしれない?

菜月「うーん。結局、一緒じゃん!ってなるかも知れないけど(笑)。自分の中では新鮮にやりたいんです。再来年に20周年になるんですが、アレが一番良かった!みたいなものが結局一個もないな、って。繰り返してやったらうまくいく、みたいなものが今、何もなくなったな、と思って。ちょっと心許なくてフワフワしているんですけど、だからこそセオリーに囚われずに。旗揚げの時のような、私が作りたくて作った、っていう場所、自分の場所を新しくやってみたい。もちろん、私だけの場所じゃなくて、みんなの場所でもあるんですけど。楽しみですね」


――椎名さんは稽古で期待していることなどはある?

椎名「最近、出演させていただいている作品って、アニメや漫画などの原作があって、それに沿っていくような形のものが多かったんですね。お客さんの中に正解があって、その理想に近づけていく。それもすごく面白いし、どれだけ近づけるかの勝負だと思うんですけど、今回は原作も無く、オリジナルの作品で、どういう役なのか、お客さんも僕自身もわからない。稽古の中で、0だったものが1になっていくんです。そこがすごく楽しいんですよ。それを久しぶりに感じることができると思うので、皆さんと一緒に、楽しくできたらいいな、と思います」

 

――今回の舞台では、カバディが取り上げられていますが、なぜカバディだったんでしょう?

丸尾「東京オリンピックが近かったので、何か取り上げたくて。オリンピックって、必ずヒーローが現れるじゃないですか? そういう活躍した人たちのその後を描けたらいいな、と思ったんです。それで、実際には選ばれていない架空の五輪競技にしよう、というところから、カバディってなんか面白そうと思ったんですよ」――カバディ自体は、それまでも知ってました?

丸尾「いや、名前を知っている程度で、詳しいルールとかは知りませんでした。でも、意外とカバディを知っている人や詳しい人っているんですよ。観てみると面白いんですよね」

菜月「とはいえ、最初は「なぜ?」としかならない(笑)。でも調べていくと、思ったより奥が深いんですよ。体一つでやるシンプルさもあって、選手の身体は本当にかっこいい。カバディに特化していったらこんな屈強な男になるのか!みたいな。けど足をチョンって着いて逃げたら点数になる、とか子どもの遊びのようなルールもあって、いろいろな競技を観てきた人も、なんだかクスっともなる。そういう可愛げがあるというか、二枚目じゃないところがどんどん愛着がわいてくるんですよ。確かに、鹿殺しにぴったり(笑)」


――どんなところがぴったりだと思いました?

菜月「鹿殺しも、名前は知ってる!ってよく言われるんですよ(笑)。上京してすぐから、メチャクチャ遠い業界の人からも「聞いたことある」って言われて。でも中は良く知らない(笑)。その存在感も似てるかな? 名前は知られてるけどよく知らない、でも聞いてくとすごく好きだと言ってくれる人がいる感じ。家族のような気持ちが、どんどん湧いてきています。私たちこそ、カバディを取り上げるべきだ!って(笑)」

椎名「僕は、最初にカバディと聞いて、なんだか思い出せなかったです。カバディさんの話なのかな?って(笑)。でも、なんか聞いたことあるな…あ、スポーツだ!って思い出しました。多分、お客さんもこれくらいの知識量で来ると思うんです、カバディについて。これからいろいろ勉強して、僕は知識をつけていくと思うんですが、その新鮮さもわすれないようにしたいですね。きっとお客さんは、そういう感じなので(笑)」


――菜月さんと丸尾さんは、実際にカバディの練習に行かれたそうですね。

菜月「本当にハードだな、と思いました。めっちゃケガしそうやん!って。身体をガードするものもそんなに無くて、本意気で走ろうとしている人の足首を捕まえて押さえたりするんで…それもう腱切るやつ!って思いました。でも、競技人口が少ないからか、いろいろなところから集まっている感じもあって、いわゆるチームっていう結束力でもないんですよね。ひとりずつ敵陣に行きますから、個人個人も立っていて、そこが不思議な感じなんですよね」


――聞いていると、そこもなんだか劇団っぽいですね(笑)

菜月「確かに! でも、見れば見るほど、ハマるんですよ。ちょうど、私たちが行った時も、半年前にハマったっていう女性が見学に来ていて、地方の大会も観に行ったりしているそうなんです。選手の個性も際立つから、応援のしがいがあるんですよね」

丸尾「童心に還って楽しかったですね。でも、アップで3歩だけダッシュするやつがあったんですけど、それで下半身がやられました(笑)」


――今回のストーリーについてもお聞かせください。

丸尾「閉鎖された田舎町でカバディで一世を風靡したメンバーが幼馴染で再会するという感じなんですけど。20代の頃って、目標が明確で凄く走れた。でも30代、40代になってくると、いろいろ複雑になってきて、どこに向かっていけばいいのかあやふやなことになっていってしまう。人間って、生きていると何かしら傷ってあるじゃないですか。でも、どんなに傷ついても、立ち上がれるっていうのを描きたい。特別な奴らじゃなくて、誰しもあるような、象徴的な人々の物語にしたいですね」


――何か答えを探していくような感じ?

丸尾「答えはそれぞれだとは思うんですよ。完全に答えはコレって出せるものではない。でも、自分にとってはコレだ、っていうものをお客さんに持ち帰ってもらえたらな、と思いますね。僕も最近、40代にして晩年、って言葉を使いがちなんですよ。丘を登り切ったあとの下り坂というか。でも、まだ雲の上には高いところがあったんじゃないかと思えるような作品になればいいな」


――タイトルに“傷だらけ”とあるように、傷もキーワードになるのではと思っていますが、皆さんにとってはどんなことが“傷”ですか?

丸尾「人間のことが嫌いになることが傷ですね…。年を取ってから遺産のことで揉めている人たちとか、諍いがあって口もきかなくなっている家族がいるとか。虚しいですよね。そういうのに触れたときに、悲しさというか傷つくんですよ。それよりも、人間の良いところを見よう、感謝をしよう、という気持ちを自分は強くもって生きていこうと思っています。感謝を忘れないことが、自分が満たされていることに気付くというか、それが自分にとって一番楽なんですよね。傷を癒すために自分だけで精一杯頑張っても独りよがりになりそうだし、みんなで一緒に立ち上がるほうが、自分にはしっくりきますね」

菜月「若い頃は傷ついたりしても、こうなりたい!っていう直近の目標があるので、関係ないと思える力があったんですね。裏切られたり、仲間が去っていったりしたとしても。仲直りしたい相手だったら、お互いに傷ついても、なんとか傷を治そうとその場で話し合いをしたりもする。それが正しいことだと思ってたんだけど、年を重ねてきてもっと深い傷ってあるって知ってしまったんですね。関係ないとも思えない、今すぐ治るものでもない。最近になるまで、傷を消せるタイプだったので(笑)、悲しいことがあっても記憶を消せるタイプだったんですが、傷を消さないまま、傷を抱えたことで得られる出会いに身を任せる時期なのかな、と思っています。めちゃくちゃ健康だったときには友達になれなかったけど、こっちが傷んでいるからこそ距離が近くなる人もいるんですよね。傷を負っているから、何気ないことでしゃべりやすくなったり。そういうのを含めて“傷を負って生きていく”んだな、って。若い頃とは、とらえ方が変わりました。今回の話は若さだけの話じゃないから、そういう変化の部分が出てきそうな気がします。私も丸さんも、若い頃の夢を追いかけて傷つくくらいの傷じゃなく、もう十分に生傷だらけですから(笑)」

丸尾「昔は、劇団員が辞めてしまったら、2人で自転車にのって暴れながら走ったりしてたね(笑)」

菜月「そう(笑)、昔はそういうことで速やかに解決してた。それくらいじゃ済まない深手も負ってくるよね。だからこそ気付けたこともある。傷ついている私と一緒に居てくれる人たちの魅力を、私も余計にわかるようになりました」

丸尾「鯛造の傷も聞いてみたい。なんかめっちゃブワーって出てきたり(笑)」

椎名「いやいや(笑)。でも体の傷って目に見えるから、痛そうとかわかるけど、心の傷って見えないじゃないかですか。僕自身、心の傷を負ったことはもちろんあるんですけど、負わせてしまったこともあるんです。2~3年前のことなんですけど、その時は自分では気づかなかった。僕は、けっこう口が悪いんですけど、その言葉を誰に言われても傷つかないと思っていたんだけど、そうじゃなかった。自分の物差しでしか計ってなかったんです。傷つけてしまった相手は、共演者の方だったんですけど、「前にこういうことを言われたので、私はあなたが嫌いでした。でも、この作品をやるうえで、それを伝えたうえで、あなたと仲良くしたいです」って告白してくれたんですよ。その時に、僕のその言葉で傷ついてしまう人がいることを実感しました。もしかしたら、僕はこれまでの人生でたくさんの人を傷つけてしまったんだなと反省しました。傷つけるつもりじゃなかったけど、自分だけの物差しじゃダメなんだな、と」――その後、その共演者の方とはうまくやれた?

椎名「普通に過ごせました。そうやって言ってくれたことで、僕も心から謝れたし、そういうつもりじゃなかったと誤解も解くことができた。今は普通に仲がいいです。その人の言葉のおかげで、成長できましたね」

丸尾「でも、恐れすぎると人の懐に飛び込んでいけないし、難しいところだよね」

菜月「傷ついたときは、言った方がいいよね」

椎名「言ってくれないと、分からない時もあるので、その方がいいと思います」

丸尾「(何か傷ついたら)言ってね(笑)」

菜月「口が悪いからなー(笑)。やっぱ生まれが関西なので、その子の面白いところをイジって笑いが取れたら、その子のためになるとか思っちゃうんですよね。無個性よりは…って思うけど、傷ついてたりするんですよね」


――イジリも関係性が出来上がっているからこそ、ですしね。

丸尾「個人的に、尊敬するキャラメルボックスの休止があって、劇団というものが永遠に、単純にただ続いていくものでは無いということを感じています。僕らは1回1回、情熱がほとばしる舞台を作り上げていきたいと思っているので、僕らは休止とかがあるわけじゃないけれど、その1回をぜひ観て頂きたいと思います!」

椎名「初めて鹿殺しさんに参加するので、本当に観て頂きたい。勢いのある作品になるだろうし、“傷だらけ”という部分で観て頂く方にもいろいろ考えることがあるんじゃないかと思います。ご覧いただいて、何度でも立ち上がっていく勇気を見届けて頂きたいです」

菜月「3年ぶりということで、劇団という場所でしか…お互いを高め合える、要求し合える唯一無二の場所でしか生まれない作品を、ゲストのみんなも含めて作っていきたい。この場所の貴重さ、愛おしさを味わい尽くして作品をつくりたいと思っています。人生にゴールがあったら楽だけど、オリンピックが終わった後も東京という街も人生も続いていくし、ゴールは無い。そういう漠然とした不安や同じ気持ちを多くの人と共有できるものになると思うので、ぜひカバディストの皆さんも、そうじゃない方も、芝居に触れて頂けたらと思います」

 

 

取材・文/宮崎新之