根本宗子&清 竜人インタビュー 月刊「根本宗子」第17号『今、出来る、精一杯。』


根本宗子が作・演出を手掛け、今年旗揚げ10周年を迎えた劇団・月刊「根本宗子」。そのアニヴァーサリー・イヤーのフィナーレを飾るのは、『今、出来る、精一杯。』のリメイク再演だ。同作は2013年、2015年にも上演された根本の代表作だが、今回はミュージシャンの清 竜人が劇中曲を担当し、音楽劇としての側面を強く打ち出した公演になりそうだ。さらには、清が俳優としても舞台に立ち、同棲する恋人・神谷はな(坂井真紀)に依存している男を演じる。ともにエンタテインメントを指向し、セルフ・プロデュース力に長け、普段音楽や演劇と接点のないファン層を巻き込んできた両者の共演は、ある意味必然だったとも言える。そんな両者の対談を以下にお届けする。

 

――おふたりの共通項として、基本的にエンタテインメントを指向している、というところがあると思います。清さんだったら、一夫多妻制アイドルというコンセプトを掲げた清 竜人25での活動、根本さんだったら、音楽劇に積極的に取り組んだ作品作りにそれが顕著なように思うのですが。

「そうですね。でも、僕がエンタテインメント指向になったのは清 竜人25の頃から少しづつなんです。作品を作って世に提示し始めた時期っていうのは、ただただいいものを作りたかった。もちろん、それは今でも変わってないんですけど、その意識が強くなりすぎて、ターゲットがマスから遠ざかってしまうおそれがあった。業界人や耳の肥えたリスナーに評価してもらって一人前だ、みたいな価値観にとらわれていた時期もあったんです。それが少しづつ視野が広がってきたんですよね。よりたくさんの人に届けるっていうはもちろんですけど、普段音楽を聴かない層に興味を持ってもらうような創作をしようって心がけていて。年齢を重ねたからというのもあるんでしょうけど、そこは変わってきたところですね。」

根本「そこは竜人さんと私の共通するところですよね。私は常に演劇を観ない人に向けて、間口を広げようと演劇をやっています。今度の公演は新国立劇場でやるから、ザ・演劇みたいに思う人もまだ多いと思うんですよ。チケット代も安くはないから手を出しづらいですし。だけど、生で人が演技していて、さらに生で演奏が入ってくることで、テレビや映画とは違うものが味わえると思うんです。だからこそ、普段劇場に来ない人たちが何を感じて帰っていくのかががすごく気になっていて。今、ツイッターとかで感想が見やすくなっているので、初めて見た人がどう思ったのかがより分かりやすくなっているじゃないですか。その人たちがどう思ったからと言って、作品の内容ややりたいことが変わるわけではないですけど、そういう人の言葉は結構大事にしているかもしれないですね。」

「そこは考え方が一緒です。音楽というカルチャーに無関心な層が増えているのは統計的にも明らかなことで、エンタテインメントのメインストリームだった音楽が少しづつはしっこに追いやられている。そういう現状がある中で、狭まったシーンの中でどう食いつないでいくかっていう発想ではなく、ある種の使命感を持って音楽というカルチャーを外に広げていくか。大げさに言うならそういうことをやらなきゃいけないと思ってます。内にこもるのではなく、外へ外へとエネルギーを広げていく。それが音楽のプロとして持つべき感覚なのかなって。なので、自分のファンだけに向けてもの作りはしていないです。ファン以外の人間に向けてどう届かせるかが大事かなと考えていますね。」


――ほかにおふたりの共通項として、ファンとリスナーの垣根をなるべく低くしておきたい、というのがあるのかなと思います。根本さんだったらトーク・イベントやチケットお渡し会やラジオ・パーソナリティーをやっているし、清さんは演者(清 竜人)と観客(リスナー)の境界線をなくし、同じ目線でライヴを楽しむ清 竜人TOWNというプロジェクトをされていましたね。

「プロジェクトにもよりますけど、ファンとの距離感の測り方って本当に難しくて。格闘技みたいなもので、適切な距離じゃないといいストレートを打ち込めない(笑)。その辺は常にいい距離や間合いを探っていますね。離れすぎちゃうとパンチ届かなくなっちゃうんで難しいというか。」

根本「探り探り、というのは私もありますね。仕事に関して言葉にしていく力を信じてはいるので、やりたいことは言ったほうがいいと思ってるんですけど、言うタイミングを探っています。今言ったら無理だろうとか、ここで言うしかない、みたいなことを探るのが好きなんですよ。」


――それから、おふたりともセルフ・プロデュースに長けていると思うんです。

根本「私、セルフ・プロデュース力が高い人としか仲良くならないかもしれないです(笑)。そういう人は共通して思ってることがたくさんあるというか。でも、演劇界の同世代であまりそういう人がいないんですよね。松尾スズキさんとかKERAさん、野田秀樹さんぐらいの年齢になると、ひとつ確立されたものがあると思うんですけど。」


――清さんはフロントで歌ったり踊ってきたわけで、比喩的に言うなら自分がいちばんきれいに映るアングルを知り尽くしているという気がします。

根本「それ、すっごくでかいです。竜人さん、そこ最強ですよね。清竜人25の時は踊っていたりもしたし、どんな時もその場に対応していくのはすごいなと思いますね。私それ持ってないですから。舞台って自分の角度とか関係なく、舞台上の俳優との関係性が重要になってくるので、見え方のほうまで意識がいかないんですよ。」


――これまで、お客さんの反応で嬉しかったものはありますか?

根本「たくさんありますね。私はお客さんの感想を追いやすいほうがいいなって思っていて、それもあってファンに向けたトーク・イベント=面談室をやっているんです。面談室ではお客さんにアンケートを書いてもらって、それを読んで話すこともあるんですけど、過去の公演についてそんな届き方をしてたんだって驚かされることがあって。例えば、パルコプロデュース公演の『プレイハウス』だったら、女性10名のGANG PARADEが集団で闘う、みたいなことを書いたんですけど、女の人が言えないことや言ってはいけないんじゃないかと思っていることを舞台上で言ってくれていて、すごく勇気が出たっていう女性の方からの声が多くて。それは伝える力をGANG PRADEが持っていたというのも大きいし、そういう台本になっていたんだなって。当たり前に女性が闘うような脚本を書いていたので、あえてそこに立ち返って考えたことがなくて。そういうことをあらためて気づかされることはありますね。それは演劇を普段見ない層に届いたからだと思っていて。あと、これは作者の意図と違うかもしれないからって感想が言えない人もいるじゃないですか。でも、別に違ったっていいわけで、劇作家の知らないところで巡り巡ってお客さんを救っていた、みたいなことが意外とあったりするんです。」


――旗揚げ10周年のフィナーレを飾る公演に『今、出来る、精一杯。』を選んだのは何故でしょう?

根本「自分の過去の話を書いているからですかね。私、足を怪我して中高6年間車椅子だったんですけど、なぜ自分の足が悪くなったかを書いていて、当時のプライヴェートな体験も含まれているんです。すごく私的なことで成り立っている芝居だったんですけど、それを今の私が演出したらどうなるんだろうな?っていうのもあるし、リメイクするならこれだろうって。」


――根本さんは人と人とが対立する瞬間を描くのが不変のテーマと以前おっしゃっていましね。それはこの公演の脚本にも如実ですね。

根本「そうですね。対立したり、人と人とが分かり合えない話を割と書いてきてるんですけど、分かり合えないって分かってるんだけど、それでもなんとか頑張る、みたいな気持ちを書いていると思います。」

 

取材・文/土佐有明