左から 上西星来・糸井幸之介・土屋神葉
2018年春に初演し、好評を博したFUKAIPRODUCE羽衣の公演が、GBCKシブゲキ!!からのラブコールにより再演が決定。ある中学生カップルとそれぞれの母親による様々な年代の情景が交錯していく舞台『春母夏母秋母冬母』が2020年2月より上演される。初演オリジナルキャストの深井順子、森下亮の2人に加え、土屋神葉、上西星来(東京パフォーマンスドール)が出演することになった。この二人芝居に挑む新キャストの2人の胸中はどのようなものだろうか。脚本・演出・音楽を手掛ける糸井幸之介とともに、話を聞いた。
――2018年に上演されたときは、どのような手ごたえがありましたか?
糸井「周囲からの評判の声も聞こえてきていましたし、私自身、大変気に入っていた作品でした。評判が良かったからってワケじゃなく、しっくり作れたというか、楽しく作れたので、大切な作品です。なので具体的に何かを考えていたわけでは無いですが、当時からまた再演できるといいな、とは思っていました。それは、この作品に限らずどんな作品でも思うことではありますけど」
――約2年ほどと早いタイミングで再演できることになりましたね。
糸井「シブゲキさんから言っていただいて。これほど早く再演するとは思っていなかったので、せっかく作った舞台セットも壊してしまっていて(笑)。作り直す予定です。と言っても、大きくコンセプトを変えたりはしないつもりではあります。あのセットは金井勇一郎さんに作っていただいたんですが、まるで子供のようにのびのび作ってくれたので。この間、お会いしてきたんですが「インスピレーションで作ったから、再現できるかなぁ」なんて言ってましたけど(笑)」――再演にあたり、新キャストとして参加することになったお気持ちは?
上西「2人芝居に挑戦したことは無くて、今でもどんなふうになるのか想像がつかないくらいなんです。初演の映像を拝見させていただいたんですが…私、けっこう恥ずかしがりやなので、演ずることに恥ずかしさを感じたら出来ない作品だと思いました。自分への挑戦になるし、その姿をいろいろな方に観て頂きたいな、と思います。正直、今のままの私だとダメだと思うので、いろいろなことに挑戦して殻を破っていかなきゃ、って心に決めました!」
土屋「糸井さんとは11月の舞台でもご一緒していたんですが、その時は原作がある作品を糸井さんが演出されていて、とても演出が面白くて新鮮だったんです。その後も羽衣さんの舞台を観たりして、脚本も演出も糸井さん100%ってスゴイな、って思っていたんです。やっぱり、もし自分がキャストに入ったとしたら…という憧れはありました。だからお話が来て、マジか!って。こんなに早く出来るんだ!って思いました。今の段階だとまだ自分にとっては新しいことばかりでよくわかっていないんですけど、先輩方が土壌を作ってくださっているので、そこからヒントを得つつ、自分なりに面白い作品にできたら。ワクワクしています」
――新キャストの2人の印象はいかがでしょうか。
糸井「神葉くんとは一緒のお芝居をやっていて、もう大好きなんですよ。甘いマスクで身体能力もすごく高い。それでいて、変なことを言ったりして…こう、変態的な面白みが常にあるんですよ(笑)。もちろん、スマートなんですけど、どこか(笑)。好きなんです。上西さんは、今日はじめてお会いしましたが、もう美しさにびっくりしています。恥ずかしがり屋で心配、と先ほどおっしゃっていましたが、恥ずかしい思いはさせないつもりです。本当に楽しみにしています。さっき2人が並んでいるのを見ても、本当に美しい画なんですよね。なんて素敵なんだと思いました」
――土屋さんと上西さんはお互いの第一印象はいかがでしょうか?
土屋「上西さんは…美しいです。まだちゃんとお話できていないので、人柄までは分かっていないですけど、ぱっと見て…この格好で来ちゃダメだったな、って。第一印象って大事じゃないですか。俺、インナーが見えちゃっててダメだなって思いました(笑)」
上西「ぜんぜん、そんなこと思ってないですよ(笑)。笑顔が素敵な方だな、って。怖い方だったらどうしようとか思っていたので、そういう印象が全然なくて、これからどうぞよろしくお願いします!」
――今回、深井順子さんと森下亮さんの初演キャスト2人と、土屋さんと上西さんの新キャストとで、上演回によって組み合わせが入れ替わりますね
糸井「そもそも初演のキャストは当時40歳で、僕も含めて同い年なんです。今回、加わっていただく2人も同世代で23歳同士なんですね。そういう年齢が半分くらいのフレッシュな2人と、僕らの世代とを掛け合わせたら、何か面白いことになるんじゃないかと思ったんです。オリジナルの2人はもちろん面白い2人なんですけど、そろそろお互いのことに飽きていると思うんで(笑)。新鮮な風をいただきながらやっていきたいですね。せっかく4バージョンできるので。ただ、内容をものすごく大きく変えるということはしないつもりです。ジャズミュージシャンが演奏家によって曲の印象が変わるように、俳優さんの持っているもので、それぞれのバージョンが成立すればいいなと考えています」
土屋「今回って、母親役も兼ねて演じたりしますよね。今までは同性のキャラクターを演じてきたので、自分の感覚と役の感覚をすり合わせたり、ここは違うんだな、って考えたりしながらやってきたんです。でも、今回は全く別。お母さんを演じるので、自分の想像力を頑張って叩き起こしてやらなきゃ絶対にできない。初演で素晴らしいものが出来上がっているので、自分で大丈夫なのかという緊張感がありま」
上西「土屋さんと演じている時の私と、森下さんと演じている時の私の心情はたぶん全く違うんだろうな、という想像はしています。そこを楽しんで、感じて、勉強していきたいですね」
糸井「まぁ、この作品では母親のことを扱っていて、そもそも深井さんのお母さまが亡くなられたことや、40歳になって自分も親になっていたことなどがあって、改めて母親のことを作品にしてみようと作った作品ではありますね。でも、子どもから母親、子どもが成長した後など、2人ともいろいろな年代を演じるような役なので、演者の年齢にこだわりがあるわけではありません。いくつの人でも演じられると思っています」――若い2人にとっては、母性について深く考えて行く機会になると思います。自分の母親のことや、母を求める気持ちについて、なにか思うところはありますか?
土屋「むずかしいですよね。小さい頃は、母親が絶対的な存在。母は、今の長女の年齢よりも若い時に一番上の姉を産んでいるんです。僕もそろそろその年齢が近づいていて…あれ、待てよ?って。ちょっと焦る気持ちになっちゃう。僕が小さい頃の母親と、自分が明らかに違うんです。もちろん子どもからの目線ですけど。病院に連れて行ってくれた母、お腹が痛いときにさすってくれた母、そういう頼れる親という側面とは違う、ひとりの人間としての母は本当はすごく悩んでいたんだろうな、と思うようになりました。子どもから見てきた母親と、母親自身が抱いている母性はまた違うのかな、と思うので、そこを考えていきたいです」
上西「私は、常に母を求めていますね。今でも。何か悩み事があれば、母に逐一相談します。母が言っていることが間違っていると思ったら、私はぜんぜん従わないんですけど(笑)。それでも意見を求めるときは必ず母に相談するので、母を求めなくなることはこの先無いんじゃないかな。母に話を聞いておけば、安心するんです。自分の中に答えが出ているかもしれないけど。違うわよ、って言われても、そういう意見もあるんだ、って思って安心した気持ちになるんですよ。昔から、すべて話すタイプですね。学校とかよりも家の方がたくさんしゃべっていたくらい(笑)。芸能界に入る前は、人見知りなところもあって、あまり外でしゃべらなかったんですよね」
糸井「僕自身のことというよりも、作品のことになっちゃうんだけど、母の優しさ、深い愛みたいなものと表裏一体で、寂しさや孤独が張り付いているような感じなんですよね。深くない愛情や簡単な優しさには孤独や寂しさが結び付いていないような感じもする。深くなるほど、その両方が結び付いているような感覚がある。そういう感覚が伝わる作品になればいいな、と思って作りました。だから、僕が母親から受けとるイメージもそういうことなのかな?」
――音楽についてもお聞きしたいんですが、あの楽曲はどのようなイメージで作られていますか?
糸井「どんなイメージで作ったかな…(笑)。もともと音楽が好きで、演劇が好きと思ったことがあんまりない(笑)。でも、なぜか演劇を作ることが運命のアレで多くなって。どうせなら好きなことを捻じ込んでいこう!っていうことです。あと、俳優さんも歌っている姿を見ているのが好き。演技をしているところよりも(笑)。じゃあ、歌手を見ろよって言われそうですが、何か、歌っているときのノリが伝わる感じがいいんですよね」
土屋「よく言われることですけど、音楽って聴いていたその時の感情になるじゃないですか? 悲しい時に聴いていた音楽は、その曲を思い出すだけでずっと悲しい気持ちを思い出すし。だから、演劇においての歌や音楽の位置づけってすごく有効だと思っていて、台詞にプラスアルファされて音楽が耳に残っていくので、より深いところでお客さんの心とつながることができるパフォーマンスになるんじゃないかなっていう風に思います」
上西「歌を歌うことで、この作品の世界観がグッと広がっているんですよね。それは拝見した時にまず思ったことなので、作品にとって歌はものすごく大事なものだと感じています。台詞の中でも、どこか節をつけているような部分があって、そこから音楽につなげていくようなところもあって、そこがすごく面白いなと思ったので、それを挑戦できるのが楽しみですね。この作品の歌は、グループ活動で歌っている歌とは、本当にまったく違うので…。自分がどういう感情になるのか未知。ちょっと恥ずかしいフレーズもあるので、恥ずかしいな、と思いながら歌っているかもしれません(笑)。でも、舞台に出たら、もう上西星来るという人格ではないので、大丈夫なはずと思っております」
土屋「やっぱり、実生活では出せない側面だと思うんですよ。この作品の歌は。そこを出したいじゃないですか。聴いている人は、ある意味何かが消化されるんじゃないかと思うし。それを表現できる職業を選んで良かったな、と思っています」
土屋「やっぱり、実生活では出せない側面だと思うんですよ。この作品の歌は。そこを出したいじゃないですか。聴いている人の心のどこかで何かが昇華するような、そんな表現ができたらいいなと思っています」――音楽に乗せる言葉はどのように選んでいますか?
糸井「この作品に関しては、上西さんは恥ずかしいとおっしゃってますけど(笑)、割とマイルドな楽曲が多い印象です。自分の作品の中では。常に思っていることですけど、なるべく簡単な言葉で歌詞にしたいというのはありますね。この作品は設定も具体的なので、シンプルにしやすかったかもしれません。例えば、ある曲は子どもがおっぱいを欲しがって、お母さんがあげます、みたいな。ただそれだけなんですけどね(笑)。それを鼻歌みたいな感じでメロディーをつけたら、自分で言うのもなんですがすごくキャッチ―になって。で、現場にもっていったらみんな大盛り上がりでした(笑)。そういうキャッチ―さとシンプルさがうまく交わった曲が多くなったと思います。やっぱり、お芝居の曲なのでお客さんは1回しか聴かないし、あんまり込み入ったことを歌っても…ね。だんだん、年齢とともに言葉数も減ってきたのかもしれませんけど(笑)」
――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!
土屋「年齢層を問わず観られる舞台だと思います。ぜひ観に来てほしいです。自分たちが生まれたということは、母親がいるということ。そういう意味で、誰にでも親しみをもってもらえる作品じゃないかな。舞台を観たことがない人でも、気軽に足を運んでいただければと思います」
上西「お母さんがテーマの作品なので、お母さんから生まれた方…つまり全員に観に来ていただきたいです! 私はこの作品を観たときに、こんなに笑えるんだ、って思ったんですよ。最初はクスクス笑っていたのが、いつのまにか大笑いになっていて、そういう笑いが起こる作品なんですね。ちょっと気分が落ち込んだ方も、笑いたいと思っている方も、何も考えずに劇場に来ていただいて、笑って帰っていただけたらと思います!」
糸井「改めて、再演するからと映像を見返したりしてみて、なんて優しい作品なんだと自分で思いました(笑)。自分でいうのもおかしいですけど。みんなお母さんから生まれてきて、ちょっと母を思い出したり、自分の子どものことを考えたり、そういう想いを優しい気持ちの中で楽しんで頂けると思います。若い世代にも観て頂きたいですが、個人的には同世代や僕より上の方にもたくさん観てもらえると嬉しいです」
インタビュー・文/宮崎新之