寄ってらっしゃい、観てらっしゃい。ベベン。愉快痛快、落語でお馴染みの“八っつぁん”が、お江戸を舞台に大暴れ。ベベン。戸塚祥太主演の時代活劇『阿呆浪士』は、馬鹿馬鹿しくもホロリとさせる一席だよ。ベベン、ベンベン。浪曲師の三味線を合いの手に、赤穂義士伝をもじった芝居のはじまり、はじまり。人気劇団ラッパ屋の初期の名作が、キャストも新たに復活。観客参加型の趣向で、20数年ぶりに劇場を沸かせている。
時は元禄。お江戸は仇討ちを期待する、赤穂浪士ブームの真っ只中。ある日、お調子者の魚屋の八(はち)が、赤穂浪士の「血判状」を偶然手にしたことから、成りすましのドタバタ喜劇が展開する。元ネタとなる「忠臣蔵」を知らなくても? 大丈夫! そこは浪曲師が作品の解説から、ペンライトを振るタイミングまで、その都度知らせてくれる。ロビーではうちわの無料貸し出しもあるから、お祭り騒ぎにゃ乗らなきゃ損だよ。
主演の戸塚祥太は、きっと自分史上最大にとぼけてる。バカだアホだと言われる度にフルスロットルで阿呆に徹し、清々しいほど。それゆえ、後半で魅せる男気が勇ましくて。粋でいなせな花形役者の面目躍如だ。片や、真顔で爆笑をさらうのが福田悠太。真の赤穂浪士役として、真面目さゆえの葛藤が可笑しくも切ない。最後の決断にみる、迫真の演技にも胸打たれる。他にも、南沢奈央、乃木坂46伊藤純奈、宮崎秋人ら若手の活躍が華々しい。が、ベテラン勢も黙っていない。ここぞの見せ場もたっぷりと、冴える芝居心に引き込まれる。
佐藤誓は、赤穂浪士のひとり。大石内蔵助の娘を演じる伊藤純奈相手に、愚直に笑いを仕掛ける構図が新鮮。おかやまはじめは、ラッパ屋で八を演じた本家本元。本作では冴えない太鼓持ち役で観客を魅了する。時の報道屋、瓦版売りには松村武。特ダネ欲しさに八をけしかけ、時に狂言回しとなり物語を息づかせる。小劇場仕込みの熱量とスピード感はホンモノ。そして真の立役者、大石内蔵助役の小倉久寛だ。あるべき姿に思い悩む、人間味溢れる内蔵助を好演。飄々と笑いを誘い、さらりと役の真意を届ける手腕も光った。やがて訪れる、討ち入りの時。八や仲間たちは、本懐を遂げることができるのか。
ぱっと咲いて、ぱっと散る。夢だロマンだ大義だと、死ぬにも理由が必要なんて。「男は本当にバカだね」と嘆きつつ、そんなバカに惚れた女もバカよと、気持ちの上では大団円。季節外れの桜吹雪が目に染みる。カーテンコールはうちわ片手に寄ってたかっての阿呆踊り。人生ノリ良く踊るに限る、観なきゃ損する面白だよ。ベベン、ベンッ!
取材・文/石橋法子