舞台 『アクタージュ act-age ~銀河鉄道の夜~』演出・松井周 インタビュー

週刊少年ジャンプで連載中、話題の役者漫画『アクタージュ act-age』。その中で描かれた人気エピソード「銀河鉄道の夜」を中心に実績豊かな劇作家・演出家である松井周の手によって、2022年に現実の舞台として上演される。
しかも主人公・夜凪景(ヨナギケイ)役を選出するオーディションを開催。グランプリ選出者は、舞台公演へ主演として出演するだけでなく、(株)ホリプロインターナショナル専属の女優として、国内外で活動していくという。一大プロジェクトの応募締め切りを2020年7月10日にひかえ、新しい才能との出会いを心待ちにしている松井 に話を聞いた。


――松井さんにとって、原作漫画『アクタージュ act-age』の魅力とは何ですか。

松井「俳優を天才的に、まるで魔法使いのように描くのではなく、何に気をつけ、何を武器にして、どんなことをしているのか、逆にしていないのかを描いていますよね。僕も『ああ、こんな人いるなあ!』と感じるような、具体的、実践的な演劇のストーリーで、とても面白いです。あとは、登場する俳優たちの“山の登り方”の違いが面白いです」


――山の登り方、ですか?

松井「役の仕上げ方、体の動かし方がそれぞれ違う。僕はジャンプ漫画に『いろんなキャラクターがそれぞれの強さや必殺技を持っている』というイメージを抱いているのですが、演劇はそうした人物たちが力を合わせて、幕から幕へとバトンをつないで、ひとつの舞台をつくっていく。ジャンプ的な面白さと、演劇が、こんなに上手くかみ合うのかと驚きました」


――新たな人々との出会いで変化しつづける主人公・夜凪景は、そうした世界観を象徴するような人物ですね。

松井「役づくりって、自分以外の誰か=他者になっていくことだと思われがちですが、実は自分の中の、今まで知らなかった他者を引っ張り出す部分もあって、自分が成長していくことにつながります。夜凪は原作で『自分の定義を増やせ』と言われるのですが、まさにそういうことなんです」

 

――松井さん自身もこれまで、劇中でガラッと人格が変わってしまう人や、他の誰かとの境界があいまいな人物を描いてきましたね。

松井「明神阿良也(みょうじんあらや)という登場人物は、周りの物事を自分の役に取り入れることを“喰う”と表現しますよね。それは僕としてもしっくりくる表現で、“腑に落ちる”という言い方が近いと思います。つまり、頭で理解したり理屈を学習したりするのではなくて、喰って臓腑に落とすという感覚です」


――どこかゾクッとするような感覚ですね。

松井「ちょっとおどろおどろしいかもしれないですけど。他者ってそれぐらいでないと理解できないということを、原作では丁寧に描こうとしています。そうした漫画を舞台化することが、僕にとっての挑戦です」


――原作者のマツキタツヤさんは「夜凪自身は人に見られたいと思っていないけど、電車の中や道ですれ違ったら、つい振り返ってしまうような存在」と言っていますが、そうした主人公をオーディションで選ぶのもまた挑戦ですね。

松井「マツキさんと意気投合したことなのですが、『こういう人が夜凪景だ!』という現実的なイメージは、僕たちの中にないんですよね。ですからオーディションに参加される方も、あらかじめ想定した夜凪景の輪郭や形を演じても、あまり意味はないかもしれません」

主人公・夜凪景(ヨナギケイ)

――と言いますと?

松井「僕としては“魅せられたい”んですね。どうしてだか惹きつけられるという人が、オーディションを重ねて、時間を経て、だんだんと夜凪景に見えてくればいい。声がとても綺麗だったり、体がすごく動いたり、お喋りが面白かったり……いろんな夜凪景の形があると思います。
それこそ原作のように、黒髪ロングである必要もまったくないということも、お伝えしておきたいですね」


――原作のイメージに捉われないでほしいとも、マツキさんは言っています。

松井「オーディションの一部はリモートで行われ、映像による審査がありますが、みんなどんな環境や部屋なのか、あるいはどこで撮るのかもそれぞれ違うでしょう。与えられた課題に対して、自分なりにどういうアプローチをするのかも見てみたいです」


――まずは気軽に、ありのままで臨んでほしい、と。演技経験は応募条件にはなっていませんね。

松井「演技経験があってもなくても、『柔軟であってほしい』と思います。僕は皆さんの“隙”も楽しみにしていて、それは何かの癖であったり、思わずテンションが上がってしまう、ふとした瞬間だったりします。
その一部分だけでも惹きつけられれば、『この人はどんな挨拶の仕方をするのだろう』『どういうふうにご飯を食べるのだろう』『こんなセリフを言ってみたらどうだろう』と、気になっていきます」


――なるほど。夜凪景を演じようとしないことが、むしろ夜凪景をみんなで一緒に探していくことにつながるのですね。

松井「オーディションでも実際に、『じゃあこんなふうに喋って見たらどうだろう?』と一緒に楽しみながら演技をすることになるでしょう。ぜひ、オーディションの環境を利用して、のびのびと遊んでみてもらいたいな、と考えています。
僕としては、そうやってみんなで一緒に遊んで、作品をつくる――もうひとつの現実を楽しむ力が、演劇の力だと思っています」

 

――もうひとつの現実を楽しむ力、ですか?

松井「たとえ現実の日常では不器用な人でも、演劇に向いている人って多いんです。たとえば普段、自分で妄想を語って、その妄想に自らとらわれてしまう人がいるとします。そうやってもうひとつの現実に生きてしまうことはちょっと変だと感じられるかもしれませんが、演劇では強い武器になります。
『アクタージュ act-age ~銀河鉄道の夜~』という舞台は、そうしたもうひとつの現実を生きる場所であってもいいんじゃないかな、と僕は思っているし、だからこそオーディションでは、いろんな方に応募してみてほしいです」


――原作の夜凪景も、演劇に出会ったことで変わっていきますね。

松井「原作は、ひとりの人間はここまでいろんな振る舞い方ができるんだ、ということを肯定しています。時に冷たかったり、時に落ち着かなかったり、感情的になったり……。
それは演技として描かれていると同時に、人間の日常の生き方にもつながっている気がします。人ってこれくらい振れ幅があるんだよ、という励ましにもなっているように」


――ますますオーディションが楽しみになってきました。

松井「とは言っても、ここまでの話は僕の想定の中でのことですから、実際にどんな方がいらっしゃるかはわかりませんから……(笑)」


――松井さんの想定さえをも“喰う”、乗り越えてくるような方もいるかもしれませんね。そしてマツキさんは、「俳優として末長く活躍したいと考えている方の一つの入り口のような作品になること」を願うとおっしゃっていますね。

松井「そうなんです。選ばれた方も、これからずっと夜凪景として生きていくわけではなく、ここからまた人生はつづいていく。『応募しようかな』と考えている方に知ってもらいたいのは、気軽に応募してもらっても大丈夫なように、2022年まで時間をたっぷりとっているということなんです。
自分が見えている世界にみんなを巻き込んでいくために、演技をきちんと観客に届ける力――そうした “筋力”をつけていく時間もきちんととっていますし、長年の実績があるホリプロインターナショナルさんも、全面的にバックアップしてくれます。どうか安心して、オーディションに参加してみてください!」

 

取材・文:宮田文久