2020年秋、小瀧望をタイトルロールに迎え、
不朽の名作『エレファント・マン』を
森新太郎の新演出で立ち上げる。
1880年代の産業革命後のロンドン。膨張した頭部、著しく変形した身体、その外見から「エレファント・マン」と呼ばれる青年ジョン・メリックは、解剖外科医のトリーヴズとの出会いによって初めて人間らしい生活を手に入れることになります。今まで好奇の目に晒されてきたメリックでしたが、人々は彼が知的で、純粋な心の持ち主であることに気づき、彼に不思議なまでに引き寄せられていくのです。
今回、このタイトルロール『エレファント・マン』に挑むのが小瀧望(ジャニーズWESTです。東西の文字通りのビッグスターが舞台で演じてきたこの役は、異形の特殊メイクをあえて施さず、鍛錬された身体を湾曲させるというスタイルをとることで表現し、かつ穢れの無い精神世界を打ち出して、各時代の演劇史を飾ってきた役どころです。180㎝を超える身長と端正な顔立ちの小瀧が、気鋭の演出家・森新太郎と組み、いかに異形の美しき青年を演じるのか。今秋、必見の舞台となるに違いありません。
また、メリックと対峙することで己の醜い部分にも向き合うことになっていく複雑な心理をたどる医師トリーヴズに近藤公園、彼の勤める病院の理事長に木場勝己、またメリックに初めて女性の愛らしさを伝える女優ケンダル夫人に高岡早紀、そして貴族から使用人まであらゆる階層の人々を、花王おさむ、久保田磨希、駒木根隆介、前田一世、山﨑薫が演じます。
総勢9名の人気実力を兼ね備えたキャストの競演と、演出の森新太郎をはじめとした日本演劇界を牽引する充実のスタッフ陣が生み出すハーモニー。そして新型コロナウイルスという未曽有の相手と向き合う今、人知を超えたものに出会ったとき我々はいかに反応し行動を起こしていくのか?常識が塗り替えられていく混迷の現在に、実在した人物“エレファント・マン”を通して、この世に命を授かって生きることの普遍的な意義を、改めて自分自身に問う作品になりそうです。舞台『エレファント・マン』に是非ご期待ください。
【コメント】
演出 森新太郎コメント作品全体を貫いているのは、劇作家バーナード・ポメランスによる極めて冷徹な文明批評だ。
1880年代、世界経済の覇者として繁栄を誇っていたヴィクトリア時代のイギリス。身体が著しく変形、膨張した《エレファント・マン》ことメリック青年は、解剖外科医のトリーヴズと運命的な出会いを果たす。そして、“科学”や“モラル”という輝かしい旗印のもと、思いもよらぬ特別待遇を受ける。半永久的に病院で保護される身となったのだ。「規律を守るのは自分のため、規律を守れば幸せになれる」と叩き込まれて。救済はすなわち制限と管理と罰をも意味し、作者はその光景を帝国主義国家の植民地支配と重ねてみせる。
「与えているつもりが、実は奪い取っているだけではないのか?」
メリックとの交流を通し、己の欺瞞と向き合わざるを得なくなったトリーヴズの葛藤は、最後の最後まで解消されないままである。しかしそれ故に、この作品は今なお世界中で上演される意義がある。私はそう思う。
それにしても、メリックを演じる俳優の苦労はいかばかりだろうか。彼は特殊メイクなど一切用いずに、身体のねじれだけで、観客にメリックを想像させなくてはならない。これは戯曲の要請である。歪んだ外面と歪みのない内面、その両方を同時に表現しなくてはならないのだ。小瀧望は私にとってまだまだ未知の俳優であるが、彼の全身から発せられる知性と感性に期待は膨らむばかりだ。誰よりも気高く、そして無邪気なメリックを生み出してくれるに違いない。
メリックを取り巻く人々の存在も重要である。医師、女優、興行師、警官、聖職者、投資家、皇太子妃……etc. 階層も価値観もまるで異なる人々が、ある者は善意に酔い、ある者はカネの匂いを嗅ぎつけ、ある者は孤独を分かち合おうと、メリックのもとへ引き寄せられ、《エレファント・マン》という曇りひとつない鏡に、社会のいびつが映し出される。木場勝己さんを始め、高岡早紀さんや近藤公園さんら力量ある俳優陣と共に、研ぎ澄まされた舞台を作り上げたい。
小瀧望 コメント僕にとっては5年ぶりの舞台となります。舞台のオファーを受けた時「やっと舞台をやれる!嬉しい」という気持ちがこみあげて、そして演出が森新太郎さんと聞いて、さらにこれはもうやらないという選択肢は絶対にないなって、本当に飛びついたという感じでした。『エレファント・マン』はタイトルだけは知っていて、昔映画版を見たことがあるという両親からは「すごく悲しい物語だ」という話を聞きました。今、戯曲を読んでみると、僕が演じるエレファント・マンの人生はすごく衝撃的なんですが、彼の心の汚れない綺麗さ、あふれ出る知性という、そうした内面の美しさが、長年にわたってこの作品が多くの人々に愛されてきた理由なんだなと思っています。初めてお会いした森さんは優しくて、作品について色んなお話をしてくださったのですが、菊池(風磨)と、(中山)優馬からは「稽古は覚悟したほうがいいかもな」とは言われています(笑)。ファンの方々には僕の奮闘する姿をぜひ間近で見て欲しいなと思いますし、僕とキャストの皆さま全員、そして森さんでつくるこの『エレファント・マン』を多くのお客様に届けられるように、全力で、全身全霊で頑張りますので、ぜひ劇場へ足を運んでもらえたらと思います。
近藤公園 コメント
今回、それぞれの時間の中で色んな思いが生まれたかと思います。自分も未体験の、ぽっかりと空いた時間の中で『生きる』ということについて、ぼんやりと考えざるを得ませんでした。「エレファント・マン」は『人間』として『生きる』ことについての話です。劇場という場所に『生きる』ことそのものを感じる、我々作り手と、お客さんとがまた出会えることに、ワクワクしています。
劇場でお待ちしております。
高岡早紀 コメント
演出家の森さんとは昨年に引き続いて2作目となります。
森さんと芝居を作るのは、私にとって楽しみでしかありません。
稽古場では、森さんの活気あふれる演出で緊迫感が漂います。しかし毎日が充実していて、時折見せてくれる森さんの笑顔に救われます。
今回私が演じる「舞台女優ケンダル夫人」は森さん曰く、私への「あてがき」だそうです。(本当は違いますが…)
その言葉を信じて、私らしく演じられたらと思っております。
ほとんどの役者と、今回が初共演です。
素敵なカンパニーになることを祈りながら、これからはじまる稽古を楽しみにしています。
悲しい物語ではありますが、「エレファント・マン」と呼ばれて生き抜いた彼の生き様を見て、自分にとっての『幸せ』とは何か見つけられるのではないでしょうか。ぜひ、多くの皆様にご来場頂きたいと思います。
木場勝己 コメント
コロナの収束の目処も立たない中、私たちは、この公演を立ち上げることが出来るでしょうか?いいえ、是非とも成し遂げなければなりません。この戯曲を読み進めるうちに、その気持ちが増していきました。近代科学をもってしても、崇高な人道主義をもってしても、決して救えない不幸があることを、この戯曲は私たちに教えてくれました。今、私たちが遭遇しているコロナのように。
しかし私たちは、前に進まなければなりません。科学至上主義に疑いを持ちながらも科学的に、心に絶望を抱えながらも快活に行動する、もう一人の主人公・トリーヴズのように。
【物語】
19世紀のロンドン。その外見により「エレファント・マン」として、見世物小屋に立たされていた青年ジョン・メリック。肥大した頭蓋骨は額から突き出し、体の至るところに腫瘍があり、歩行も困難という状態だった。ある日、見世物小屋で彼を見かけた外科医フレデリック・トリーヴズは、研究対象として彼を引き取り、自身が務める病院の屋根裏部屋に住まわせることにした。メリックにとっては、その空間が人生で初めて手にした憩いの「家」となった。
はじめは白痴だと思われていたメリックだったが、やがてトリーヴズはメリックが聖書を熱心に読み、芸術を愛する美しい心の持ち主だということに気付く。当初は他人に対し怯えたような素振りを見せていたメリックも、トリーヴズと接するうちに徐々に心を開きはじめ、トリーヴズもまたメリックに関わることで、己の内心を顧みるようになっていく。
穏やかな気質のメリックには上流社会の人々の慰問が続いた。その中に、舞台女優のケンダル夫人もいた。メリックはケンダル夫人に異性を感じ、ときめく。そして普通の人間のように振る舞いたいという思いに駆られていく・・・・。
★『エレファント・マン』は、19世紀イギリスに実在した人物を題材とした戯曲で1977年ロンドン初演。日本では劇団四季、文学座、ホリプロ制作等で上演され、世界的には、1980年にデビット・ボウイが演じて話題となり、(同年、ジョン・ハートで映画化もされている)最近では2014年から2015年にかけてブラッドリー・クーパーが、ブロードウェイとウエストエンドで公演を成功させています。