『大地(Social Distancing Version)』観劇レポート

2020.08.17

三谷幸喜の真骨頂!三谷流「俳優論」

 

いやー、笑った。大いに笑わされた!「こんな時期に観劇なんて……」。そんな少しの不安やギモンも吹き飛ばす、パワーみなぎる舞台『大地』が大阪で絶賛上演中だ。演出や装置はコロナ禍の三密に配慮した“ソーシャルディスタンスバージョン”。作・演出の三谷幸喜が「演劇の炎を消すまい」と先陣を切ってお届けする本領発揮のワンシチュエーションコメディだ。「演じる」行為を禁じられた役者たちの物語には大泉洋、山本耕史ら三谷作品に欠かせない盟友・名優が勢ぞろい。最年少19歳の濱田龍臣から最年長76歳の辻萬長まで、総勢11名が目にも豪華な至福の丁々発止を繰り広げている。

 

とある共産主義国家。反政府主義のレッテルを貼られた8人の俳優が、強制収容所で共同生活を送っていた。明けても暮れても荒地を耕す日々。不満は尽きないが、どうにか演劇好きな指導員の機嫌を取りつつ、日々をやり過ごしていた。そんなある日、問題が勃発する。連帯責任、同調圧力がはびこる中、問題解決のため8人はある決断を迫られることに……。

 

「俳優についての物語を書きたかった」と三谷がパンフレットで明かすように、前半は“役者あるある”のオンパレード。じつに個性豊かな面々が登場する。山本耕史は持ち前の肉体美を駆使し、クセの強い映画スターを嬉々として体現。前半の振りを後半でしっかり回収する手際も見事だ。大泉洋と藤井隆はその多彩さから陰ひなたにと大忙し。押して引いて物語に弾みを付けつつ、時折2人で投げ合う笑いのキャッチボールが贅沢すぎる。同じく爆笑をさらうのが辻萬長。初タッグとは思えぬノリの良さで、三谷が「憧れの大先輩」に書いた見せ場でも惜しみなく持ち味を発揮、会場をここ一番の熱気で沸かせている。

 

信頼の相島一之、マイム芸も見事な浅野和之、敵方を演じる栗原英雄ら芝居功者も適材適所の活躍が光る。とりわけ、栗原演じる「演劇好きな指導員」は皮肉な味付けが笑いを禁じ得ない面白さだ。ピュアな佇まいでストーリーテラーを担う濱田龍臣は、紅一点まりゑとの小さな恋物語がお楽しみ。パリコレ経験もある竜星涼は指先まで美しい女形。化粧に頼らず、立ち居振る舞いでそれと納得させる役作りはお見事。同時に、女形ゆえの葛藤も丁寧に演じる。最後に8人と対峙する政府役人には劇団EXILEから小澤雄太。終始融通の利かない悪役に徹するが、辻との共演では思わぬ化学反応を生み出している。

 

爆笑に次ぐ爆笑。何より演じ手たちが心底楽しそうだ。かと思えば、ふいにホロリと涙を誘い、俳優に課された残酷な一面を垣間見せることも忘れない。そして、最後に突き付けられる理不尽な現実ーー。現状維持が得策とは思えぬ設定は、そのまま地続きで私たちの足元にまで伸びている。だとすれば、大泉洋演じるチャペックが放つ最後の言葉が胸に迫る。「その選択もありだ」と未来を信じたくなる。あなたなら、どんな結末を描くだろうか。やがて“9人目”として選択を迫られるその日まで。凝り固まった思考をほぐし、想像の翼を羽ばたかせたい。

 

取材・文:石橋法子