シス・カンパニー公演「たむらさん」作・演出 加藤拓也 インタビュー

新型コロナウイルスの蔓延により、演劇界も例外なく大きな影響を受けた。公演中止や延期を余儀なくされ、見通しの立たない状況が続いている。徐々に公演が再開されるも、公演期間の短縮などにより、劇場にも空きが出てしまっているのが現状だ。
そこで、こんな状況だからこそ何か面白いことを、と、シス・カンパニーが企画をスタート。とてつもないスピードでこの緊急企画「たむらさん」を成立させた。作・演出を手掛けるのは、気鋭の脚本家として注目を集めている加藤拓也。若き才能は、この短期集中決戦にどのように挑むのか。


――今回の作品は、かなりのスピード感で進められたと聞いています。始まりはどのような感じだったんですか?

ある日、北村(明子プロデューサー)さんから突然電話をいただきまして、かかってきたときには出ることができなかったんです。いきなりの電話だったので、怒られるのかな…と思いまして(笑)。折り返してみたものの繋がらなくて、そしたらショートメッセージで「事務所に来れますか」と届いたんです。これはいよいよ怒られるな、と思って事務所に向かったら、今回のような形で、短い期間で作品を作ることを考えている、もしできるならやりませんか?とお話をいただきまして。ぜひやらせてください、とお返事をして、始まりました。


――スピード感を持って物語を作っていく上で、どのようなところを意識した?

オンラインでいくつか作品を発表していたんですけど、オンラインでの観客って、(演劇的に)安全な状況にいて、それを、安全じゃないようにしたいな、と思いました。


――以前から舞台作品について「観客との秘密」という表現をされていましたが、今回、事前に内容をあまり出していないことにも何か狙いがあるのでしょうか。話せる範囲で、今回の舞台についてどのようなものかお聞かせください。

いくつも答えがあることに気付いているというか。いくつもの正解に気づいている中で選べない人の話です。


――コロナ禍の中での制作でしたが、なにか影響は受けた?

特別、新型コロナウイルスについて作品に絡めているというつもりはありません。とはいえ、僕自身には影響しているところがあると思うのでまったく影響を受けていない訳ではないと思います。


――コロナ禍があって、個人的な影響としてはどのようなことがありましたか?

単純に、自分の潔癖具合が上がってしまったことに対する嫌悪感はあります。例えば、グミとかチョコとか手でつまんで食べるお菓子を食べなくなりました。潔癖症になっちゃいました。ちょっと電車で子供がくしゃみをしたらつい見ちゃうとか、隣の人が咳をしただけでも引いちゃうとか…そういう自分にも嫌悪感があって、小さなストレスがずっと続いている感じがしています。――作品づくりを進めていてこれまでと違うな、と感じたところは?

消毒とかはしょうがないというか慣れたんですけど、マスクとかフェイスガード、マウスガードをしながらの稽古っていうのはやりにくいですね。間に板を張って稽古とか。普通に顔も見えないし、ただただやりにくいです。


――観客はどんな作品になるか、ほとんどわからない状態で観に来ますが、どんな心構えで来るといいでしょうか?

僕自身は、映画とかでもそうなんですけど、あんまり前情報を入れないので、それがベースにあるから、僕自身は情報が無いことがあんまり気にならないです。こういう状況ですし、劇場に来てくださっている時点で、観ようとしてくれている気持ちが強くあると思うので。「観るぞ!」という気持ちだけで来ていただけたら、充分です。


――今回は橋本淳さんと豊田エリーさんの2人でのお芝居になります。それぞれの印象をお聞かせください。

橋本さんは、いろいろなことを含めてぐちゃっとしたまま、舞台の上でやってくれる人です。何度か一緒にやっているので共通言語があるような感じはありますね。
豊田さんはとても素直で、その素直さから毎回無邪気な違う反応が返ってくる。僕はそれが楽しいですね。無邪気、っていうとちょっとヘンかも知れないんですが。裸で飛び込んでみる、みたいなことができてしまう方なので、観ていてすごく楽しいです。


――本作の中で2人に期待していることは?

2人とも一緒にやったことがあって、また一緒にやりたいね、と話していた所だったので、期待というか普通に2人との稽古を楽しんでクリエイションしていきたいですね。僕も作るたびにやりたいことっていうのは変わっていっているし、前回一緒にした時よりも、自分のアウトプットのチャンネルも変わっているので、そこに2人と向かっていけたら。チャレンジング、っていうようなものでもないんですけど、こうしたいああしたい、って作家と演出家のバランスみたいなものも作品によって変わってくる。僕の気持ちの問題ですけど。そういう作家欲なのか、演出欲なのか、そのバランスがどういう具合でとれて、どういう具合で放出できるのか、というのがすごく楽しみです。

左:橋本淳 右:豊田エリー

――コロナ禍を経験して、演劇のこれからはどのように考えていらっしゃいますか?

内容に関しては、変わらないですね。もちろん、コロナ禍の影響を受けていない訳じゃなくて…でも、公演の形態として求められてくるものはあると思います。配信のような自宅で観られるようなものですね。地方の方とかは、生で観なくなってしまうのかな、という気はしちゃいますね…。劇場でやっていたことを配信でグレードが下がってみるのではなく、配信も前提のもとで演出や本も書いていかなきゃいけないのかな、ということは思っちゃったりもしました。でも、そういう影響は受けたくない、という思いはあります。


――加藤さんにとっても、実際にお客さんを前に上演できる作品として大きな意味をもつ作品になるのではないかと思いますがいかがでしょうか。

新型コロナウイルスのことを気にしないで観に来て、というのは絶対に無理な話。失われてしまった価値観というのは仕方ないんですけど、それでも、このコロナ禍の中で全席を使ってやる意味というか1席空けて観劇するのも、観やすいかもしれないですが、これからまた劇場で満席でやる事の新しい価値観を見つけたりしていければ。僕の中でも再確認できる機会だという気持ちがあります。ぜひ、みなさんに観に来ていただきたいと思います。

 

インタビュー・文/宮崎新之