6年ぶり!生瀬勝久×池田成志×古田新太“ねずみの三銃士”第4回企画公演「獣道一直線!!!」ゲネプロレポート

2020.10.06

生瀬勝久・池田成志・古田新太という演劇界をリードする面々が“今、一番やりたい芝居を、自分たちの企画で上演したい!”という思いで結成し、2004年の『鈍獣』を皮切りに『印獣』(2009年)、『万獣こわい』(2014年)と話題作を次々と世に送り出してきたユニット“ねずみの三銃士”。それぞれが舞台でメインを張れる3人が火花を散らすだけでなく、数々の人気作を手掛ける宮藤官九郎が脚本、河原雅彦が演出を担当することもあり「面白くならないはずがない!」と断言できる同ユニットの6年ぶりの第4回公演『獣道一直線!!!』が10月6日に幕を開ける。

今回は主演ドラマ『ランチ合コン探偵~恋とグルメと謎解きと~』などを経て6年ぶりに舞台に立つ山本美月、2020年もドラマ『妖怪シェアハウス』などさまざまな作品で引っ張りだこの池谷のぶえをゲストに迎えるが、この2人が1役を演じ(?)、さらに脚本の宮藤まで主要キャストとして引っ張り出されるということで内容がかなり気になるところ。本稿ではそのゲネプロ公演の模様をレポートする。

ベテランだが主演を張れない、いわゆる大部屋俳優ばかりが参加する不思議なオーディションのシーンから、同作は幕を開ける。気が小さくパニックになりやすい生汗勝々(生瀬)、度の超えた心配性の池手成芯(池田成志)、片時も酒を手から離さない古新田太(古田新太)という、さまざまな問題を抱えた役者たちの前に池谷演じる謎のプロデューサー・ぱわ原雅ぴ子が登場。

東北なまりで表現としてギリギリなワードを次々と繰り出し、役者たちに無茶ぶりを仕掛け、某有名演出家のパロディーでも会場を沸かせるこのプロデューサーが、しょっぱなからかなり強烈だ。同作に関するあるインタビューの中で、演出の河原が「‟池谷さんの舞台になっちゃう!“と思ったくらい」と発言していたのだが、特に同シーンでの暴れっぷりは完全に彼女の独壇場。実はぱわ原はオーディションではなく、ある目的のもとに3人を集めたというのだが……?

シーンは変わって、ドキュメンタリー作家の関(宮藤)は、コロナ禍で自宅から出られない妊娠中の妻・かなえ(山本)を気遣いつつ、3つの婚活サイトに絡んだ殺人事件の犯人と噂される‟魔性の女“苗田松子(池谷)を福島まで追い、取材を始める。

カメラが回り始めると時折ハイテンションになり、自己肯定感の塊のような言動を見せる苗田。ここから、婚活サイト殺人の被害者となった3人を先述の3人の役者が演じる不思議な劇中劇がスタートする。

最初に、妻に先立たれたという望月順三郎(生瀬)が苗田と交際を始めるが、苗田にED薬を飲まされた瞬間、彼女が別人(山本)のように美しい!と錯覚するように。

今回の客演にあたり池谷が「演劇魔人が集うねずみの三銃士」と同ユニットを評していたが、その演劇魔人たちを“苗田B”として迎え撃つ山本のややきわどいお色気シーンやコスプレの数々も見モノだ。

苗田への思いを募らせた望月は彼女に無心されるまま多額の援助をし、さらに彼女が実は藪中弘重(池田)という別の男性と結婚していたことを知って彼の保険金を目当てに藪中を殺害する。

そして殺害された藪中を今度は池手(池田)が演じ、その生い立ちを池手が得意とするミュージカル仕立てで見せるなど、さらに物語はキテレツな展開に。

新婚時代の藪中が母(生瀬)、苗田と食卓を囲んでいると、刑務所から脱走してきた苗田の昔の男・野呂秀次(古田)が拳銃を持って現れて……?

誰もが覚えているあの‟魔性の女“を巡る一連の事件をモチーフに、実際の演技とZoomや配信ライブのようにカメラを通したスクリーン映像を組み合わせながら楽しめる同作。自宅にこもり関のリサーチの手伝いをしていた妻がいつの間にかSNSなどの情報の波に飲み込まれ、それに取りつかれていく姿。

苗田が罪を犯した理由があるはずだと考えるかなえや関の言い分に対し「あなたの作品のために生きてるわけじゃない」と悪びれもせず言い放つ苗田の真意は? そしてもうすぐ母になるかなえが時折見せる、母性とは切り離された別の表情……。現在起きているさまざまな事件やそれに対する世の中の反応を思わせるやりとりがなんともリアルで、ザラザラとした印象を残す。

同シリーズでは初めて登場人物をあて書きにしたということだが、宮藤の目線でデフォルメされた生瀬・池田・古田が扮する3人のダメ役者が、劇中劇では魔性の女にとりつかれた男たちを軽妙に演じている。

池谷や山本を交えて抱腹絶倒のやり取りを繰り広げるのだが、ブラックな笑いの中に、まさに2020年のコロナ禍の今というスパイスがたっぷり含まれていることが感じられるであろう同作。
おそらく演劇でしか表現しえないであろうこの世界観を是非、劇場で体感して欲しい。

 

取材・文:古知屋ジュン