新海誠監督の名作を朗読劇として初の舞台化! 主人公・貴樹を演じる海宝直人と黒羽麻璃央が作品の魅力を語る!!

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』や『逃げるは恥だが役に立つ』などの人気作品を、映像や音楽もリンクさせた朗読劇として上演してきた<恋を読む>シリーズ。第三弾となる今回は新海誠監督作品『秒速5センチメートル』を朗読劇として初めて舞台化する。演出を手がけるのは第一弾、第二弾に引き続き、劇団「ロロ」主宰の三浦直之。キャストには、新海作品にゆかりの深い入野自由、梶裕貴、佐倉綾音や、今シリーズに出演経験のある妃海風、山崎紘菜、福原遥、黒羽麻璃央、内田真礼、生駒里奈、さらに初参加となる海宝直人、桜井玲香、田村芽実、前山剛久、鬼頭明里、尾崎由香という、ジャンルを越えた人気俳優、人気声優らが勢揃いすることになった。この15人が3人ずつ、5組に分かれての競演となる。お好みの組み合わせを選ぶも良し、何組かを観比べ、聴き比べをするのも良しの注目のステージだ。
この日が初対面だという海宝と黒羽に、『秒速5センチメートル』という作品に感じた魅力や、共に演じることになった主人公・貴樹に思うことなどを語ってもらった。


――『秒速5センチメートル』を朗読劇にという、この企画に出演が決まった時、まずどんな気持ちになりましたか。

海宝「僕はこのお話をいただくまで『秒速5センチメートル』を観たことがなかったので、まずは早速観させていただいて。とてもモノローグが多い作品ですし、登場人物の内面を繊細に描いていて、これは言葉多く語っていくというより空気感で伝えていく作品なんだろうな、素敵だなと思いました。そして、この作品を朗読劇という形で、果たしてどういう風に伝えていくんだろうなということにすごく興味を持ちましたし、大変面白い試みだなと感じましたね。今も、どういう風にやっていくんだろうなというのが僕自身も楽しみです。」

黒羽「<恋を読む>シリーズへの出演は、これが三度目になります。『秒速5センチメートル』は、新海監督の映画の中でも特に、朗読劇ではありますが生身の人間が演じるのにとてもピッタリな作品だなと思いますし、この<恋を読む>シリーズにもとても合っていると思います。こうしてお話をいただけて、自分が貴樹を演じることができるのが今から非常に楽しみです。」


――お二人は今日が初めまして、なんですか。

黒羽「はい。初めまして!(笑)」

海宝「初めまして、よろしくお願いします!(笑)」


――今回朗読劇で別の組とはいえ、貴樹という同じ役を演じることについて、どう思われていますか。

黒羽「実は、とある先輩から僕、海宝さんに似ているねって言われることがすごくあって。」

海宝「へえ~、光栄です(笑)。」

黒羽「似てる似てると言われて、僕は一方的にうれしいなと思いながら今日まで生きてきたんです(笑)。とはいえ似ているからと言って、同じ役でも同じような演じ方はしないと思いますので。他にもチームがあって貴樹役もあと3人いますし、各チームでいろいろな色が出せたらいいなと思っています。」

海宝「そうですよね、そうやって複数チームで作っていくということも楽しみです。もちろん僕たちの役もそうですけれども、他の役のみなさんも含めて、それぞれすごく個性豊かなキャストの方たちが集まっていらっしゃいますし。それも、みなさん違った分野で活躍されている方、声優さんであったり、ミュージカルの俳優にしても違った演出家の方を経験していたりするので、そういう意味でもきっとチームごとに全く違うカラーの作品になりそうな予感があります。他のチームを観ることが出来るかどうかはまだわからないですけど、僕もできれば観たいなと思っています。」


――貴樹という役柄については、現時点ではどう思われていますか。

海宝「アニメーションを観た時に、非常に繊細なキャラクターだと思いましたね。特に朗読劇においては、言葉の多いキャラクターではないので難しい役だな、とも思いました。あまり他者と交流するシーンがたくさんあるわけでもないですし。だからこれから作っていくにあたって、そこをどういう風にふくらませていくかについては、麻璃央さんは既にこのシリーズを経験されていらっしゃるので、ぜひぜひ聞いてみたいなと。」

黒羽「ハハハ、いやいや。」

海宝「だって朗読劇と言ってもいろいろなスタイルがありますからね。ほぼセリフを覚えて演じるようなものもあれば、本を手に持って読む場合もある。そういう意味ではこのシリーズでは、演出も含めてどういう風にキャラクターをふくらませているんだろうと思うのですが。」

黒羽「(初演、再演と出演した)「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」では、朗読劇のわりに動きが大きかったような印象ですね。後ろに映し出す映像に関しても、いろいろ移り変わっていっていましたし。相手役との距離感も演出に入っていて、最初は舞台の端と端とでしゃべっていたのが、恋人関係になっていくにしたがってだんだん近づいていくんです。今回はどうなるでしょうね。貴樹のキャラクターについては、やっぱり男のほうが未練たらたらなんだなって思いました(笑)。結局、彼の場合はいつまでも初恋を忘れられずにいそうだけど、女性のほうは意外とさっぱりしているというか。」

海宝「切り替えますよね(笑)。」

黒羽「その辺が、とてもリアルなんですよ。初恋が実らなかったというところも。普通の恋愛ものだと、好き同士が初恋を実らせるハッピーエンドのほうが感動をもたらすように思われがちだけど、この作品は違って。でも、我々が生きている時間の中ではそっちのほうが確実に多いと思うんです、だって初恋なんて実らないものじゃないですか。だからこそリアルを感じて、グサッと刺さるんだなと思いました。」

海宝「本当に、なんだか貴樹のズルさも含めて、生々しいというか(笑)。三部構成の、特に第二話の鹿児島でのお話の部分でも、すごく思わせぶりなところもあったりして。」

黒羽「アハハハ、そういうところ、ありますよね。」

海宝「「一緒に帰ろう」って誘っちゃうんだ!みたいな(笑)。ああいうところは、女性からするとちょっとイライラするところもあるのかなとも思うし。「ハッキリしろよ」って思っちゃいますよね。でもそういう部分が、生身の人間が実際に読むからこそ出せる、温度感みたいなものがありそうな気がして。そういう空気が今回出せたら面白いだろうな、ということはすごく感じました。」


――三浦さんによる脚本を読んでみて、感想はいかがでしたか。

海宝「今日の時点ではまだ準備稿なんですが、その段階で言うと、この物語を言葉で伝えていくための、新しい要素みたいなものも入ってはいましたね。そして比較的寡黙なキャラクターなので、内面世界の表現が多いので、きっと繊細な演技が必要になってくるんだろうなとも思いました。」

黒羽「まだ稽古も読み合わせもしていないので、ちょっと言いづらいですが。でも朗読劇オリジナルとして、アニメーションにプラスアルファされて出てくるセリフ、やりとりも多そうです。アニメではちょっと複雑なところが、よりわかりやすくなっているようにも思います。」


――原作のアニメーションで、最も記憶に残っている好きな場面は。

海宝「今、パッと浮かんだのは二カ所あって。最初の『桜花抄』のラスト、雪の中で桜の木をバックにキスをするシーン。それとやはり最後の、踏切で電車が通り過ぎた先に誰もいない、あの空気。どちらの場面もすごく美しくて、印象に残っています。」

黒羽「僕も、かぶっちゃいました(笑)。やっぱりあの桜の木の下でのキスシーンですね。だけど中学生なのに、あの順番はすごいですよ。普通は、告白をしてからチューをするじゃないですか。大人になったらわからないけど。」

海宝「アハハハ。確かに。」

黒羽「ハッキリと気持ちは伝えてはいないけれども、お互いの気持ちはちゃんとわかっている、というね。あと僕がすごいなと思ったのは、細かいところなんですけど、洗濯機。0.8秒とか、たぶん1秒に満たないくらい、洗濯機がカットインしているシーンがあるんですよ。」


――すごい観察力ですね(笑)。

黒羽「洗濯機の操作パネルの部分にまで、決して手を抜かずに描いているところに感動したんです。物語とは大きな関連性はないかもしれないですが、でもそこで洗濯機が出てくるところにリアルを感じたんです。」


――探してみたくなりそうです。

海宝「そういう楽しみ方もありそうだね。」

黒羽「ぜひ。まあ、僕の家にある洗濯機と似ていたから気になったんですけどね(笑)。」


――お二人は新海監督作品のどういうところに魅力を感じますか?

海宝「僕は全作品を観ているというわけではないですが、やはり言葉で語るのではない部分が特に面白いと思いますね。まさにさっき言っていた洗濯機にも通じるんですけど端から端まで、特に風景とかキャラクターたちの背景の描き込みが、細かいディテールまでこだわって描いていらっしゃって。だからこそ、キャラクターたちが立ってくる。そこがまたすごく魅力的で、新海監督の魅力なのかなって思います。僕たちが生きている世界が、そのまま映像で感じられるんですよね。」

黒羽「使われている楽曲も、この映画のために作られたんじゃないかなって思えるような曲ばかりなのも素敵です。『秒速5センチメートル』の山崎まさよしさんの曲『One more time,One more chance』もそうですし、『言の葉の庭』の秦基博さんの『Rain』も本当にピッタリでした。『君の名は。』にしろ『天気の子』にしろ、曲が流れるタイミングもまた憎いんですよ。」

 

――お二人にとっての青春の一曲を挙げるとしたら。もしも新海監督がそれに合わせて絵を作ってくれるとしたら、どの曲でオファーしたいですか。

海宝「僕は青春の曲というと、ゆずなんですよ。」

黒羽「確かに、ゆずも合いそうですね。」

海宝「ドラマティックですしね。『からっぽ』もいいし、特に僕の場合は『ゆず一家』というアルバムの時代にハマったこともあって、『ゆず一家』の曲はどれもドラマにできそうだなって以前から思っていたので、それはちょっと見てみたい気がしますね。」

黒羽「青春の一曲か。あれがいいかな、アンジェラ・アキさんの『手紙』。」

海宝「ああ、名曲ですねえ。」

黒羽「あの曲って、NHKの合唱コンクールの課題曲だったんですよ。中学三年生の夏、野球部を引退したあとに音楽の先生に合唱部でその大会に出るから入ってって誘われて。合唱部のみなさんと一緒に、僕もそのNHKの大会に出させていただいたんです。そのために、夏の間ずっとあの曲を歌い続けていたわけなんですけど、ストーリー性もあって、まさしく青春真っ只中の15歳だったので心に残っていて。思い出の曲ですね。」


――貴樹を演じるにあたり、自分自身と重ねられる部分はあったりしますか。

海宝「まあ、うじうじしがちなところはありますよ。それは恋愛に限らず、ですけど。貴樹ほどではないにしても(笑)、あの気持ちはわからないことはないなと思います。」

黒羽「僕は、好きな子と転校で離れ離れになる経験をしたことがあるので。小1とか小2の頃の話ですけどね。好きになった相手が転校しがちだったんです、何かの呪いかなっていうくらいに(笑)。」


――では、貴樹に共感できそうですね。

黒羽「手紙をやりとりしていても、やがて他に好きな人ができたり、とかね。やっぱり男の子のほうが長く引きずったりするんだろうなって、僕も思います。」


――では最後に、お二人からお誘いの言葉をいただけますか。

海宝「きっと『秒速5センチメートル』という作品のファンの方もたくさんいらっしゃると思いますが、今回は朗読劇という形で、新たにお届けすることになります。新海監督ご自身が書かれた小説もあったり、いろいろな側面から見ていただける作品ではありますけれども、今回もその中のひとつとして朗読劇における『秒速5センチメートル』の新しい掘り下げ方を楽しんでいただけるかと思います。「このキャラクターって今までこう思ってたけど意外とこういう面もあるのかもな」とか、さらに新しい視点で読み解いていく面白さを味わっていただければ。特に新海監督の作品って、そういう意味で許容範囲がすごく広いようにも思うんですよ。」


――そうですね、行間がいくらでもありそうです。

海宝「ですから、今回はこのカンパニーが読み解く『秒速5センチメートル』となりますので、今まで好きだった方も、また新しい魅力に触れる機会になるんじゃないかなと思いますし、きっと新たな発見もありそうで、僕自身もとても楽しみです。」

黒羽「朗読劇オリジナルの脚本になっていますから、同じ作品ではあってもまた新しく生まれ変わるようなものですしね。生身の人間の動きと声で、またアニメーションとは違うところでもしかしたら新たな感動が生まれるかもしれません。ぜひとも、この<恋を読む>シリーズの『秒速5センチメートル』も、観ていただけたらなと思います。」

海宝「そしてなにしろ5組、いますからね。ぜひ5通りの『秒速5センチメートル』を楽しんでみてほしいです。」

 

取材・文 田中里津子

 

海宝さん
スタイリスト:橘 昌吾
ヘアメイク:三輪昌子

黒羽さん
スタイリスト:小渕竜哉
ヘアメイク:Ayane(Lomalia)