通し稽古レポート|劇団SET 第58回本公演 ミュージカル・アクション・コメディー「世界中がフォーリンラブ」

2020.10.07

 

三宅裕司が座長を務める劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)第58回本公演「世界中がフォーリンラブ」の開幕が近づいている。今年のテーマは劇団初の試みとなる”純愛”。昨年、創立40周年を迎え、新たな10年に向けての第一歩を踏み出す劇団の稽古場に潜入した。

座長・三宅裕司コメント

昨年末に作家の吉高氏と打ち合わせをして、第58回本公演は「SNSは将来日本の若者をどう変えるのか」というテーマに決定した。しかし今年の3月に白紙に戻した。緊急事態宣言が発令され、先行きの見えない中での自粛生活は人々に大きなストレスと不安をもたらした。「こんな事の後に重いテーマの芝居など誰も観たいと思わないだろう、よし、こうなったらまったく逆の、愛がテーマの軽い芝居を創ろう」という結論に達した。

今回の劇団SET第58回本公演は、純愛をテーマにした大爆笑ミュージカル・アクション・コメディー「世界中がフォーリンラブ」です。愛と笑いの2時間で「コロナの野郎」を吹っ飛ばし、元気で幸せな生活を取り戻しましょう。

完璧なコロナ対策の劇場でお待ちしています。

 

あらすじ

昨今、巷では有名人の不倫や浮気だけでなく、熱愛報道が頻繁に報じられている。日に日にその数は増えており、しかもこれは有名人に限ったことではない。一般人による熱愛や不倫などの色恋沙汰、さらに痴漢やセクハラなどのトラブルまでもが多発しているのだ。

この状況を疑問に思った厚生省の専門家チームが調査したところ、ある事実が明らかになる。痴漢して逮捕された男の体内から未知のウイルスが検出されたのだ。このウイルスに感染すると、最も活性の高い男性ホルモン・テストステロン(女性の場合はエストロゲン、オキシトシン)の産生量が増え、異性を惹きつける体臭フェロモンを大量に発散する現象が起こる。結果、積極性や性衝動を高め、興奮作用のある神経伝達物質(ドーパミン)を促して、人間をいわゆる”肉食系”へと変貌させてしまうのだ。「瞬く間に人を好きになってしまう」というウイルスだ。このウイルスは猛威を振るいあちらこちらで恋愛トラブルが多発し、世界中が偽りの愛だらけの異世界になってしまった。

この世界のピンチにワクチン開発のために立ち上がったのが老舗の「大日本武田製薬」とベンチャー企業の「テクノバイオ製薬」であった。

 

物語は、とあるウイルスが発見されたことを発表する厚生労働大臣の会見から始まる。この一幕は、この春幾度となくテレビで見た光景を彷彿させる。この未知のウイルスが引き起こすのは異性を惹きつける体臭フェロモンを大量に発散する現象であり、人間をいわゆる”肉食系”へと変貌させてしまうという。こんなウイルスなら悪くないかもしれないと思いきや、「瞬く間に人を好きになってしまう」ウイルスのせいで、恋愛トラブルが多発し、世界中が偽りの愛だらけになってしまった。

 

場面は変わり、思いつめた女性・武田有奈(たけだありな/演・山城屋理紗)が現れる。高台から飛び降りようとする彼女を大塚ポカリス(おおつかぽかりす/演・富山バラハス)が止めにかかる。「特別な出会いをすると恋に落ちやすいらしいよ」というポカリスの台詞のとおり、二人は恋に落ちてしまう。

“純愛”を望む二人の前にはいくつもの壁が立ちはだかる。有奈の父・勉三郎(べんざぶろう/演・三宅裕司)、偽りの愛をもたらすウイルス…純愛がテーマの作品に、恋を阻む壁はつきものだが、本作品も例外でない。誰もが思い浮かべる純愛映画を模した場面も見どころだ。有奈とポカリスの恋を手助けする霊媒師・宜保無道(ぎぼむどう/演・小倉久寛)がその場面を演じれば、ただの名場面にはおさまらず、思わず笑ってしまうこと間違いなしだ。

新型ウイルスの発見や恋に落ちる二人を描いた前半と打って変わり、有奈とポカリスの関係に危機が及ぶ後半は一気にシリアスな展開に入る。その中で三宅と小倉演じる、勉三郎と無道の掛け合いになると、台本かアドリブかわからない二人のやりとりになんともほっこりとした気持ちになる。もちろんほっこりするだけでなく、もれなく笑いもあるので心置きなく笑ってほしい。

“ミュージカル・アクション・コメディー”と銘うつ本作は歌やダンス、アクションも見逃せない。ネタバレになるため、詳しくは伏せるが、新型ウイルスに感染すると踊ってしまうという”求愛ダンス”はぜひとも生で楽しんで欲しい見どころの一つだ。

長引く自粛生活で大変なことも多かった1年ではあるが、こんな事態さえも笑いに変えられるのは芝居の魅力だろう、と改めて感じた。

まさに”現在の”日本を反映した場面が多い、ミュージカル・アクション・コメディー「世界中がフォーリンラブ」。劇場に足を運ばれる皆様には、今年話題になった出来事を少し思い出してから観劇されることをおすすめする。きっとリンクする出来事の多さに、楽しみが倍増すること間違いない。

 

本作は2020年10月9日(金)よりサンシャイン劇場にて開幕する(10月25日(日)まで)。感染予防対策のため、全員での集まることも難しい中、新たな作品を届けるべく稽古に励んできたカンパニー。彼らが千秋楽まで駆け抜ける姿を見届けたい。