小沢道成&田中穂先インタビュー|夢ぞろぞろ


「EPOCH MAN(エポックマン)」は俳優の小沢道成が出演のほか、作・演出・美術までも手掛ける演劇プロジェクト。小沢は2013年から精力的に、独創性豊かな一人芝居、二人芝居を生み出してきた。2019年初演の『夢ぞろぞろ』は駅のホームが舞台の二人芝居で、小沢が演じる“売店のおばちゃん”と、劇団「柿喰う客」の俳優・田中穂先が演じる会社員が、過去と現在を軽やかに行き来する。素早い演じ分けやダイナミックな時空の変化など、演劇ならではの面白さが満載で大いに笑わせてくれる娯楽作だ。2021年2月の再演に向けて、気合い充分の二人に話を聞いた。


――お二人が出会ったきっかけは?

小沢:穂先くん(田中)と初共演したのは2016年、「柿喰う客」の中屋敷法仁さんが作・演出したパルコ・プロデュース公演『露出狂』です。穂先くんは「柿喰う客」ならではのエンターテインメント性のあるお芝居も出来るのに、リアルな日常のお芝居もとても魅力的。エンタメとリアルのどちらの演技もできる俳優さんって、なかなかいないんです。

田中:僕、学生の時にみっちーさん(小沢)が出演する「虚構の劇団」の公演を拝見してて、普通にファンだったんですよ。みっちーさんの一人芝居も観てます。脚本に感情が練りこまれてて、人間の根本的なところに響く言葉が多い。アイデアが豊富で、エンターテインメントとしてもすごく面白い、素敵な舞台だなと思ってました。だから出演依頼は嬉しかったですね。


――小沢さんは俳優以外に脚本、演出、美術、制作なども担当し、舞台の様々な領域でクリエイティブな仕事をされています。そういえば田中さんも、ものづくりをされていますね。

田中:映画やミュージックビデオ、動画編集、宣伝美術とか…色々やってます。
小沢:穂先くんは…独特(笑)。たとえば家で一人でパソコン作業をするのが好きな人って、独特のセンスを持ってますよね。そういう空気感が、穂先くんの俳優としての魅力にもなってるんだと思う。

写真:moco


――田中さんは『夢ぞろぞろ』が初めての二人芝居だったそうですね。

田中:はい。二人芝居は二人とも常に相手を見ていて、同時にお客さんにも見られてる。めちゃめちゃしんどかったけど(笑)、楽しかったです。
小沢:膨大なせりふ量だし、情報量も多いし…穂先くんは着替えも大変でしたね。
田中:せりふもそうだけど動きや感情の流れもすごく精密で。みっちーさんの要求に辿り着かなきゃって、距離を埋めようとして、たぶんキャパ・オーバーしてました(笑)。


――『夢ぞろぞろ』は“売店のおばちゃん”と27歳の会社員が過去を回想する趣向で、長年、誰にも言えない思いを抱えてきた女性の孤独や、立ち止まったまま、どうしても前に踏み出せない若者の苦悶がにじみ出てきます。世知辛い世の中や個人の生きづらさを踏まえながらも、作品全体は明るい笑いに彩られていました。

小沢:押し入れから引っ張り出した古いアルバム写真を見ていると、泣けてくるような感覚ってありますよね。泣いちゃう要素が8割だとしても、残り2割からは元気がもらえる。大切な思い出があるから、今、がんばれそうな気がする。『夢ぞろぞろ』はそんな、少し元気になれる作品だと思ってます。

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――今年の6月には『夢ぞろぞろ』の続編として、小沢さんの一人芝居『夢のあと』が上演されました。本多劇場グループによる無観客での生配信企画「DISTANCE」のうちの一作品で、“売店のおばちゃん”役の小沢さんが本多劇場の舞台に一人っきり。誰もいない客席に向かって語りかけていましたね。

小沢:一人芝居の無観客上演なので、穂先くんも、お客さんも…誰もいなかった。その後、他の公演で50%に制限した客席も経験して、お客さんの大切さをひしひしと感じました。この体験はすごく大きかったですね。今の僕にとって必要なのは、穂先くんとやった『夢ぞろぞろ』なんだろうと思いました。

田中:演劇って劇場でお客さんとつくるもので、僕はその一体感が欲しくて演劇をやっているところがあります。役者がつくった作品をパーッと広げるような、溢れ出すような連鎖を生んでくれるのはお客さん。つくる方がどんなに進化したと思っていても限界があって、お客さんがその限界を超えさせてくれるんです。


――『夢のあと』も『夢ぞろぞろ』と同様、笑いの要素がふんだんでしたね。小沢さんはEPOCH MANの2018年公演『Brand new OZAWA mermaid!』のパンフレットに「すべてのマイナスの感情も、コンプレックスも全部、全部明るいものに変えていきたい」と書かれています。

小沢:僕が常に思っていることですね。劇団☆新感線のいのうえひでのりさんや野田秀樹さんがつくるエンターテインメント作品がものすごく好きで、誰もが気軽に観られるものを作ろうと、いつもがんばってるんです。みんなが笑顔になる方を選び続けたいです。

田中:みっちーさんの「明るいものに変えていきたい」というマインドは、『夢ぞろぞろ』の根底にあるんだと思います。僕自身は常にそうだというわけではないけれど、その姿勢に強く共感してますね。

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――そういえば2016年公演(EPOCH MAN製作の一色洋平×小沢道成による2人芝居)『巣穴で祈る遭難者』は劇場の入口から通路にかけて装飾が施されていて、作品そのものだけでなく観劇全体を“ハレ”のイベントのように楽しめました。

小沢:僕は楽しみを提供する人でありたいと常に思っていて、お芝居を観るまでの過程も楽しめるようにしたいんです。演劇はチケットを手に入れる時点から楽しみが始まってますよね。ローソンに行って、Loppiを「ピッ!」と操作してチケットを買うのも楽しいし、そのチケットは来年2月の『夢ぞろぞろ』へとつながっている。


――先述の『Brand new OZAWA mermaid!』のパンフレットでもう一点、印象深かったのは、「せりふじゃないところで色々試せるような段階まで、なるべく早く行きたい」という小沢さんの言葉です。

田中:それ、『夢ぞろぞろ』初演の時に、みっちーさんに実感を込めて言われた記憶あります…。
小沢:穂先くんも僕も、せりふは最初からおぼえなおしだからね…。でもこないだ二人で久しぶりに台本を読んでみたら、感覚は全部おぼえてたよね?
田中:おぼえてましたね~。
小沢:うん、お客さんの空気感すらおぼえてた。だから…再演は次の段階に、行ける…?
田中:行けるんじゃないですかね!

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――大いに期待できそうですね。他に初演からの変化や再演の強みはありますか?

田中:僕、再演も初めてなんですよ。一年と少し経っただけで、同じ台本を読んでも実感がまるで違う。別人になった状態で挑むことが僕にとってのチャレンジですね。ひたすら向き合うことになると思います。

小沢:来年の1月に舞台『「パタリロ!」~霧のロンドンエアポート~』に出演するので、2月は穂先君との稽古だけに集中できるようにしたい。だから早めに美術をつくり直して、もう倉庫に保管してあります。時間をたっぷりかけられたので、盛りだくさんの美術になりました。


――大変残念なことですが、新型コロナウイルスのことを無視できない状況だと思います。

小沢:そうですね…でもこの時期に気づかせてもらえたことも多いんです。今しかつくれないものは、たくさんある。それにコロナの状況は目に見えない、先が見えないと言われたりしますけど、先が目に見えないのはいつものことなので(笑)。いつも通りに淡々と上演をして、今、この状況で演劇をやるメリットを大切にしたいです。

田中:演劇をやる動機自体は普段と変わらないと思うんですよ。僕は演劇が好きで、楽しくて、観に行きたくて。自分もつくりたいし、観て欲しいから、やる。それにプラスして今の状況があるから、対策はちゃんとして、観てくれるお客さんに感謝する。僕自身はすごくシンプルです。

小沢:感染対策はしっかりやってくださる制作チームがいるので、信頼しています。僕にできることがあるとすれば、観に来てくれた人の心の状態を少し明るくすること。そして劇場でしか感じられないものをお客さんに受け取ってもらうために、さらなる試行錯誤をしていきたいですね。

取材・文:高野しのぶ

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