高田文夫による企画舞台『よみがえる明治座東京喜劇-ニッポン放送「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」全力応援!!-』が2021年1月、東京・明治座にて上演されます。
【第一部】はドタバタコメディー『こちとら大奥様だぜぃ!』(原案:小野田勇『俺はお殿様』、企画:高田文夫、脚色・演出:宅間孝行)、【第二部】はサンドウィッチマンから清水ミチコ、立川志の輔まで多彩なゲストが日替わりで出演する『ラジオビバリー昼ズ寄席』が上演される、爆笑必至のこの企画。【第一部】の『こちとら大奥様だぜぃ!』について、脚色・演出・出演の宅間孝行さん、主演の田中美佐子さんにお話をうかがいました。
――『こちとら大奥様だぜぃ!』は、過去に明治座で上演した喜劇作品を宅間さんの脚色・演出で上演する、というものですが、企画者である高田文夫さんは会見で「東京喜劇ができるのは宅間しかいない」とおっしゃっていましたね。
宅間 「そもそもは(三木)のり平さんがずっと明治座で定期的にやっていらっしゃった喜劇のシリーズがあって。高田先生は、ご自身の笑いの祖というか神としてのり平さんを慕っていらっしゃるので、『もう一度、のり平さんがつくっていたような東京喜劇をつくれないか』ということで、この作品が決まりました。なので今回のベースには『のり平喜劇を復活させよう』というものがあり、そこに参加できるのは非常に光栄なことです」
――田中さんへは宅間さんからオファーをされたのですか? タクフェス第7弾『流れ星』(’19)でタッグを組んで以来ですが。
宅間 「打ち合わせをしているときに、『今の時代の“のり平劇団でやっていたような役者”っているかな?』という話になったので、僕が『(原案はお殿様が主役だけれど)女性を主役にして、美佐子さんとかどうですか?』と提案しました。高田先生もちょうど『流れ星』を観た後だったこともあり『どんぴしゃ!』ということになって。本当は本人同士で勝手にやり取りするのはダメなんですけど(笑)、その打ち合わせの最中に連絡したんですよ」
田中 「あれは打ち合わせの最中だったのか」
宅間 「そしたら美佐子さんが『やるやる! おもしろそう!』と返信をくれたので、そこから話がドドッと進んでいきました」
――ちなみに宅間さんが考える“のり平喜劇”はどんなものですか?
宅間 「今回、これをやるにあたってビデオを観たり、当時の台本を読んだりしたんですけど、実はもうずいぶん前にも、寺田農さんにビデオとかたくさんいただいたことがあるんですよ。うちが小劇場でやってる頃。農さんが観に来てくださって、『宅間くんにぜひ観てほしい!』『通ずるものがある』って。農さんはのり平劇団の方なので」
田中 「えー! 知らなかった!」
宅間 「実際に観てみると、(のり平劇団の公演は)当時にしてはぶっ飛んでいるんです。この作品も、幕末を舞台にしながら、大奥様が新興宗教にハマったりしてますから。シュール(笑)。ああ、けっこう自由にやってたんだなと思ったんですよね。ただそれをつくっているのり平さんはものすごく厳しくて、笑いに関してもこだわりがあったり、お芝居もすごく達者で、想いがすごくある方なので。根っこのところでは同じようなことがえできればな、なんてことを思っています」
――のり平さんの作品と宅間さんの作品の『通ずるもの』は、どんなところだと宅間さんご自身は感じていらっしゃいますか?
宅間 「なんでしょうね。ただお客さんを喜ばせたい、というところですかね。僕は演劇を文化芸術とは思っていなくて、まずお客さんが喜んでくれることがありきなので。どちらかというとそういうところなのかなという気がしますけどね」
――田中さんは『流れ星』で宅間さんの演出を受けて、どのような印象がありますか?
田中 「私は実際に演出を受けるまで、宅間さんを『どんどんやっちゃって!』って感じの人だと勝手に思っていたんですよ。普段は穏やかでのんびりした方ですしね。でも演出をするときはやっぱり“お客様に出すもの”という意識しかないから、ものすごく厳しいです。ただ、欽ちゃん(萩本欽一)も志村けんさんもそうでしたけど、お笑いの師匠ってすごく厳しい方が多くて。笑わせるのにこんな厳しくやるんだ……というようなね。のり平さんも一度しかお会いしたことないんですけど、もう会いたくないって思ってしまうような怖さがありました。でも、のり平さんとご一緒されている方は『お父さん、お父さん』と慕っていたんですよね。なんでだろう?って思うけど、考えてみたら私も欽ちゃんとご一緒しているときに『よく欽ちゃんとあんな普通に喋れるね』と言われてたから、そういうことだと思いました。で、宅間さんとやったら、やっぱり厳しかったから。ああ、みんな同じなんだって思いましたね。今回も大変なんだろうなとは思うんですけど」
宅間 「(笑)。大丈夫」
田中 「でも笑いって、本当に芝居ができているから面白いんですよね。欽ちゃんも“萩本欽一”で出ているように見えるけど、ちゃんと芝居をして、その設定の人に見えるから面白いわけで。宅間さんもそういうふうにおっしゃいます」
――「今回も大変なんだろうな」と思いつつも、田中さんが「やるやる!」とすぐに返したのはどうしてなのですか?
田中 「『流れ星』の経験です。宅間さんも出演されたので、すごく厳しい人が舞台の上でやさしくしてくれると……すごくやさしい人に見えない?」
宅間 「(笑)」
田中 「私は緊張症なので、いつも心臓がバクバクしていたんですよ。でも宅間さんが『楽しんで』と言ってくれて。『あ、この人はもしかするとやさしい人なのかもしれない!』って(笑)。舞台の上に立つと器を感じるんですよ。宅間さんは全部を見ているから、安心していられる。そうこうしているうちに宅間ワールドというものをわかってきて。『あ、いいものだな』って。“宅間ワールドにハマる”ってみんな言うけど、『こういうことなんだな』って魅力がわかったから、終わる時には寂しくなって。今回、『やるやる!』って」
――宅間さんからは田中さんはどんな風に見えていたのですか?
宅間 「『流れ星』以前は映像でしかご一緒したことがなかったんですけど、なぜか美佐子さんとは仲が良くて。プライベートの相談をしたり(笑)」
田中 「すごくされました(笑)」
宅間 「なので、現場でお会いした時にほっとする何人かのうちの一人だったんですけど。『流れ星』の稽古には、えらい構えて来ていて。でもやっぱり、稽古が始まるとすごいなというか……安心したんですよ。だから逆に、本番のときはなんでこんなに袖で緊張しているんだろうという感じでしたけど(笑)」
――「すごいな」とはどういうところでしたか?
宅間 「稽古場で、席にいる時はシュッとしてるんですけど、いざ演じると、あほなことをなんでもやってくれるんです。そうすると、下の人たちは言い訳がきかない。自分の中にあるようなプライドを見せてる暇がなくなっちゃうんですよね。だから美佐子さんみたいな人がいてくれると稽古場は助かります。そこまでやんなくていいですけど!というくらいやってくれますから」
田中 「でも本当に、本当に、恥ずかしいんですよ!」
宅間 「『その顔!?!?』みたいな顔しますからね。めっちゃおもろい(笑)」
田中 「(笑)。顔なんかどうでもいいくらいやっちゃってるから。でも実際は嫌よ? だって女優だもん! でも相当やらないと『うん』って言ってくれないから!」
宅間 「そこを美佐子さんは最初から軽くぴゅーっていっちゃいますよね」
田中 「とりあえず最初に一番すごいのをいかなきゃ、とはいつも思っていて。いけなくなっちゃうと恥ずかしくなるから。最初にいっぱい恥をかいとけって思ってる。じゃないといけないもん」
宅間 「そういう理にかなったものを持って稽古場にいらしているので、そこの信頼はすごくあります。それで今回はこういう話なので、美佐子さんがやってくれたら助かるなって」
田中 「(こちらに)宅間さんの台本は読めてないですよね?」
――そうなんです。
田中 「読んでいて普通に面白いんですよ。あれは1日くらいで書いた!?」
宅間 「(笑)。なに言ってるんですか。ちゃんと勉強しながら書いてますから」
田中 「そうだよね、江戸時代をすごく勉強してると思った」
宅間 「わかんなかったから。でも、なんで勉強してるって思いました?」
田中 「だって隅々に出てるもん、それが。相当勉強しないとこれは書けないなって。宅間さんらしいなと思った」
宅間 「ちょんまげコメディなんですけど、やりたい放題やってますよね」
田中 「本当にめちゃめちゃ面白いんです。ただね、すべてが面白いから、間違えて“笑わせよう”に走ると全部が面白くなくなってグダグダになりかねない、そういう究極の台本でした。『こういう本がどうなっていくのかな』って気持ちになる、初めての本だった」
――へえ!
田中 「あとね、東京喜劇なんだけど、全然古いカタチにしようとしていないんです。あの頃に戻るんじゃなくて、あの頃を見せつつ、全く新しいものを企んでいるんだろうなっていうふうに私は思いました」
――そこの部分は、どう考えて書かれたのですか?
宅間 「そこは、落語を単なる古典として見るのかどうか、ってところと同じで。古典の落語でも、面白い人がやると本当に面白いですよね。僕も落語に傾倒してるわけではないけれども、こんなに面白いんだ!と思うことがある。でもそれは古典としての笑いではないんですよね」
――ああ、なるほど。
宅間 「この10年くらい落語がブームになっているのは、ちゃんと見せられる人が、ちゃんと面白さとして伝えているからだと思っていて。なので、そういうふうに捉えてもらえたらいいなと思います。ちょんまげコメディを古めかしいと思うのか、ここにこんな光明があったのかと思うのか。今の人たちが観た時に、古さを感じず、古典の中にこんなオーソドックスな笑いがきちんとあって、むしろこんなにおもしろいんだ、みたいなことになったらいいなと思っています。だから昔やったやつをそのままやることがいいんじゃなくて。その当時やっていた人たちが攻めてお客さんたちに笑いを提供していたのと同じように、僕たちもいまの時代にこのエッセンスを見せられたらなと思っています」
――楽しみにしています!
インタビュー・文/中川實穂