博多座公演迫る!シンフォニー音楽劇「蜜蜂と遠雷」主演・中山優馬 来福取材会 完全レポ

2021.04.27

2017年に累計 発行部数100 万部を突破してベストセラーとなり、直木賞・本屋大賞を受賞した恩田陸の小説「蜜蜂と遠雷」。世界的コンクールに出場する若きピアニストたちや、彼らを取り巻く人々の心情を描いた本作が、シンフォニー音楽劇として舞台化。3月には神奈川で開幕し、4月17日までの大阪公演を経て、いよいよ5月1日から3日まで博多座にて上演される。

名だたる数々のクラシックのピアノ曲の名曲演奏と共に、コンクールファイナルに向けてのドラマが展開する本作で、16歳の天才ピアニスト・風間塵を演じる中山優馬。昨年、博多座で上演予定だった劇団☆新感線の舞台『偽義経冥界歌(にせよしつねめいかいにうたう)』で初めて博多座のステージに立つはずが中止となり、今作が博多座初舞台となる。そんな中山が、本作の大千穐楽の地となる福岡を訪れて取材会を行った。

 

―今作が博多座初舞台となりますね?

「はい。この作品の話を頂いた時から、‟博多座“という文字を目にして絶対に成功させなきゃいけないという気持ちに駆られましたね。博多座の舞台に立てることを目標にここまでこの作品を守り続けてきたと言っても過言ではないですね」

 

―神奈川・大阪の公演が終わり、いよいよ大千秋楽の地・博多座公演が迫るが、今の手ごたえは?

「50名以上のオーケストラの方たちと共演していますが、神奈川・大阪公演でも日々なおしを入れながら進化させていきました。コンサートマスター等は同じですが、それ以外のオーケストラの方々は各地で変わっていますので、作品自体の音質も各地で変わっていきました。九州は九州交響楽団の皆さまとご一緒するのですが、神奈川と大阪のオーケストラの方が『博多はスゴイですね!九響とやるんですね!』と、九響さんのことを一目置かれて話されているほど素晴らしい楽団だと聞いておりますので、今からとても楽しみです」

 

―実際にピアノの経験は?

「2015年に「ドリアン・グレイの肖像」という舞台で、キーボードを弾いた経験はあるんですが、ピアノを弾くのは今回が初めてです。どこが『ド?ミ?』なのかとか、正直今もわからないくらいです(笑)。2月末頃から練習をしていて、基礎から教わる時間はなかったので、今回弾くことになっている『サティ:ジュ・トゥ・ヴ』という曲と『バルトーク:ピアノ協奏曲第3番』の2曲に集中して取り組んできました。指の振付というんでしょうか、ココとココを同時に押さえる…といった感じで覚えていきました」

 

―1日の練習時間は?

「相当やっていたと思いますねぇ。午前中はピアノの先生のところに行って2時間ほど稽古させてもらって、自宅でも1日中キーボード触ってる感じでした。キーボードだと消音に出来るので、テレビを見ながら鍵盤を押して指の動かし方の練習をしてみたり…。1日少なく見積もっても5・6時間は練習していたと思います」

 

―ピアノ初心者だと‟弾き方”などで研究されたりも?

「そうですね。今回は川田さんという素晴らしいピアニストの方がいるので、その方の動画を撮らさせてもらったり、動画サイトでいろんなピアニストの方の‟形”というか雰囲気を研究させてもらいました」

 

―感覚で生きているイメージの‟風間塵”という主人公の役作りは?

「16歳の役なんですが、演出家からは年齢設定を上げて実年齢(27歳)でやってみましょうと言われて、実際にその設定で稽古が始まったんです。でも、何かしっくりこなかったので、16歳のアプローチをやらせてもらえないでしょうかというお話をさせて頂いて、原作に近い年齢設定で…となりました。27歳の僕では出来ないことが16歳だと出来るというか。16歳ならではの思考回路では出来るといいますか、多少失礼なことでも無邪気に大人に投げかけられてしまうような、いい意味での‟無垢”さと悪い意味での‟愚かさ”というのを同時に表現できる16歳は、とても魅力的だなと思って。彼は、ピアノを持っていないのにピアノが弾けるという現実にはあり得ないような天才というキャラクターなんです。なぜこんなキャラクターが生まれたんだろう?と考えてみたのですが、彼は誰よりも音楽を愛し、ただただピアノが好きなんですよね。好きなものへの思い、音楽を信じる力が人一番より長けているところが天才である所以なんですよね。ピアノをうまく弾きたい!というのではなく、ピアノに触れていたい!という気持ちがある少年なので、僕自身も演じる時やピアノを弾く時に好きなものに触れているという感覚だけを研ぎ澄まそうという稽古の時間になりました」

 

 

―主人公・風間塵との共通点は?

「僕は芝居が大好きなんです。だからお芝居をやっていない期間なんかは、楽しくない人生だな~とすら思うこともあるくらい(笑)。だから、公演がある時は何かを背負っていたり苦しんだ分だけの達成感もありますので、そういう時間が楽しく思えます。そういう好きなものに対する思いの部分は分かります」

 

―福岡のお客さんの印象はいかがですか?

「福岡の方は、芸術性が高いというか、作品を見る目が肥えているというんですかね。出演者の方を見に来られる方はもちろんいると思いますけど、全体の作品像を見てくれている方が多いような気がします。審査能力が高いというんでしょうかね(笑)」

 

―共演者に濃いメンバーがそろっていたり、同じ事務所の後輩たちも出ていますが

「後輩に関しては、わが子を見ているような思いがありますね(笑)。他の方々に迷惑をかけてはいけないぞという思いと、もっとのびのびとやっていいぞという思いがあります。特に後輩の大東立樹君が16歳なんですが、彼を見た時に『あ!風間塵だ!』と思いました。ヒロインのヒグチさんは歌手ですし、パーマ大佐は芸人さんですし、元宝塚の方、男性ソプラノの方…ジャンルが異なる方たちが揃っているので、稽古の時は皆がバラバラの方向を向いているなという瞬間もありましたが(笑)、それを音楽というものが包み込んでくれたことで科学反応が起きているなという感じでした。だから、少しでも気を抜くと壊れてしまうような、風船のような感じなので気を付けていますが(笑)、そんな状況もスリリングで楽しいです(笑)」

 

―オーケストラとの共演はどんな感じですか?

「本当に楽しいです!こんなに楽しいものが舞台芸術の中にまだあったんだ!と思うほど。オーケストラの方々にお芝居の中で生演奏によって助けてもらうことも多々あるんですね。第2幕では、25分ほど演奏のみをお届けする場面もあります。そこはピアノコンクールさながらの、お芝居との境目がなくなる瞬間なのですが、これを見せるためにわれわれ役者が芝居でそこまで持って行く…という感覚でもいます。オーケストラの方に助けてもいただきつつ、役者側も何かお芝居で音楽を最高潮に聴ける状態までお客さんの感情を高めてあげるといった助け合いは病みつきになります。お芝居って虚構の部分がありますが、オーケストラは‟本物“なので、そこがスゴイいなと思いました。音楽と芝居が別物にならないように、キャストとオーケストラの一体感を出していきたいなと思います」

 

―恩田陸さん作詞のテーマ曲『ひかりを聴け』はいかがですか?

「『ひかりを聴け』は、オープニングからオーケストラとピアノニストの川田さんが弾いてくださって、最後には皆で合唱するんですが、言葉の持つ力はすごいなと思いましたね。恩田さんの作詞が、何気ないような言葉たちを素晴らしい言葉として紡いでくれているんです。それを音楽に乗せて届けることで、パワーアップしているなと感じました。この作品は、リーディングオーケストラのコンサートも上演されていますが、その時にも『ひかりを聴け』を歌われたメンバーもいますので、そういう経験をこの作品にも与えてくださっています。経験者がいるのといないのとでは全く作品のクオリティも違ってきますし、そういった意味でもいろんな方の力が加わった曲になっているなと思います」

 

―本作では、風間塵という存在がメンバーに刺激を与えていきますが、中山さんが今までに刺激を受けた人は?

「う~ん…僕が刺激を受けた人…誰だろう?やっぱり、ジャニーさん(故・ジャニー喜多川)じゃないですかねぇ。風間塵が(師である)ホフマン先生に語りかける場面が作中にありますが、僕にとってはジャニーさんの存在が(ホフマン先生のように)切っても切れないイメージですね。ジャニ―さんがよく言っていた『You、やっちゃいなよ!』精神というものをたたき込まれてきたんです。15歳の時に東京ドームで『KAT-TUNがライブをやるから観に来ちゃいなよ』とジャニーさんに呼ばれて行ったら、『出ちゃいなよ!』って言われて出され(笑)、自分のデビュー曲を1曲歌うことになったんです。それ以来、怖いものがなくなったといいますか、あれに比べたらまだいけるな…という思いが常にあるので、臆病な僕にすごくパワーを授けてくれた存在だなと思います」

 

―最後に本作の見どころを!

「コロナ禍の中でチケットを取ってくださっても来れなくなった方、断念された方も多くいると聞いています。その方たちの為にも…ということで、神奈川公演の千秋楽では(ローチケLIVE STREAMNGにて)配信も行ったんですが、音楽って全ての人に届くパワーがあると思っています。特にオーケストラの生演奏は言葉では伝わらないものが音楽では伝わるんだなというものが体現できると思っています。舞台作品によっては絶望の中の希望とかいろんなものがありますが、今作は大いなる“希望”を与えられる作品なので、気持ちよくなって帰って頂けると思います。コロナ禍の辛い時期に観る価値がどこかにあると思うし、そういった目には見えない音楽がもたらしてくれる“価値”をしっかりと届けたいなと思いますし、皆さんのお時間とお金を絶対に無駄にしないように、頑張ります」

 

「コロナという強大な敵がいる中ではありますが、皆さんのお力をお貸しください」という中山の挨拶でスタートした取材会。彼がどれほど芝居を愛し、常に芝居と真摯に向きあっているか、そして今作への熱い思いを垣間見れる時間となった。

原作者の恩田陸が、『本作の映画化は無理』と言いながら絶賛のうちに終わった2019年の映画化から、今度はシンフォニー音楽劇となって新たな進化を遂げる「蜜蜂と遠雷」。さらなる刺激と癒し・・・そして多大なる希望を私たちに届けてくれることだろう。

チケットはただいま発売中!詳細は下記よりご確認ください。

 

撮影:大工 昭

取材・文:ローチケ演劇部(シ)